末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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二章 高等学校二年生の王子

4.ダミアーン伯父上がミエト家を訪問する

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 ダミアーン伯父上がこの国を訪問するのは、年に何度かある。
 それはエリアス兄上のお誕生日だったり、エルランド兄上のお誕生日だったり、僕のお誕生日だったり、お誕生日でなくてもダミアーン伯父上は僕たちのことを気にかけて会いに来てくれる。

 魔族の国の王太子のダミアーン伯父上だが、まだ結婚はしていない。
 魔族が年を取るのが遅いのと、ダミアーン伯父上に結婚の意志があまりないのが原因だった。

 父上曰く、ダミアーン伯父上は結婚するよりも甥や姪を可愛がる方が楽しいと思っているのだ。

「ダミアーン殿は妹であるそなたたちの母上をとても愛して可愛がっていた。その忘れ形見であるそなたたちを可愛がるのが嬉しくて堪らないのだろう」

 それは分かるのだが、ダミアーン伯父上も王太子である。いずれは魔族の国の国王陛下になる。結婚しないというのを貫いて、養子をもらうという手もないわけではないが、周囲はそれを許すのだろうか。

 父上の言葉を思い出しながら、僕とロヴィーサ嬢はクレープを焼いていた。
 クレープにはホイップした生クリームと、シナモンと少しの砂糖をかけてカラメル煮にした林檎を包んで食べるのだ。
 普段は僕とロヴィーサ嬢の分と、爺やの分を作れば終わるのだが、今日は少し違う。

 今日はダミアーン伯父上がミエト公爵家にやってくるのだ。

 ダミアーン伯父上は、僕がミエト公爵家に移ったと知ってから、ずっとミエト公爵家に来たがっていた。
 魔族の国の王太子をお迎えするのだから、それなりの盛大なパーティーを平な兼ねればいけないと僕もロヴィーサ嬢も考えていたのだが、ダミアーン伯父上の考えは全く違った。

「エドヴァルドの普段の様子を見せて欲しいのだ。ミエト公爵家でどんな風に暮らしているかを見たい」

 本当にダミアーン伯父上は僕のことを心配してくれていて、ミエト公爵家で僕が普段どんな風に過ごしているかが知りたいとのご要望だった。
 多少はいい服を着てはいるものの、僕もロヴィーサ嬢も普通に高等学校と研究課程に行って、厨房で一緒におやつを作って、ダミアーン伯父上をお迎えすることにした。

 せっかくだからダミアーン伯父上からもらった林檎を使ったおやつを作ろうと、クレープになったのだ。
 生地を薄く伸ばして焼いて行って、何枚も重ねてお皿に乗せる。
 取り皿を用意して、居間に持って行くと、ダミアーン伯父上の来訪が告げられた。

 玄関まで出て行ってダミアーン伯父上をお迎えする。
 長身で銀色の髪を長く伸ばして括っているダミアーン伯父上は、魔族の国の衣装を着て馬車から降りてきた。

「エドヴァルド、お誕生日以来だ。元気にしていたか?」
「ダミアーン伯父上、僕はとても元気です。毎日ロヴィーサ嬢が美味しいご飯を食べさせてくれます」
「それはよかった」

 大きく両腕を広げたダミアーン伯父上に抱き締められてしまう。
 僕はもう十三歳なのだからなどといっても、ダミアーン伯父上が止まってくれないのは分かっている。
 ダミアーン伯父上にとっては、僕はいつまでも小さな印象のままなのだ。

「いらっしゃいませ、ダミアーン王太子殿下。ミエト家に来ていただき誠に光栄です」
「堅苦しくならなくていい。ロヴィーサ嬢はエドヴァルドの運命なのだ。普段通りでいてくれ」

 僕は運命を信じているし、ダミアーン伯父上も多分運命を信じている。
 僕にとってはロヴィーサ嬢と出会えたことが運命で、ロヴィーサ嬢は僕の運命の相手なのだと思っていた。

「エンシオ殿と会ったときに、妹が言っていた。運命に出会ったかもしれないと。エドヴァルドもそうだったのだな」
「ロヴィーサ嬢に出会ったときに運命を感じました」

 これは魔族の特有のものなのかもしれないが、運命の相手というものがいると信じられている。
 世界にたった一人だけいる、僕の愛するひと。
 出会ったのは少しばかり早かったけれど、僕はロヴィーサ嬢という運命の相手と出会えて幸福だと思っていた。

「ダミアーン伯父上が結婚しないのは、運命に出会えていないからですか?」
「そうだな。運命の相手に出会えれば、結婚するかもしれないな」

 笑っているダミアーン伯父上に僕はそういうものなのかと納得していた。
 ダミアーン伯父上を居間に招いて、一緒におやつを食べる。
 クレープの乗ったお皿と、林檎のカラメル煮の乗ったお皿に、ダミアーン伯父上が嬉しそうに微笑む。

「この林檎は私が送ったものか?」
「そうなのです。アップルパイに、ジャムに、カラメル煮に、楽しませていただいております」
「ロヴィーサ嬢と一緒に僕も手伝って作ったのですよ。ダミアーン伯父上のお口に合うといいのですが」
「ロヴィーサ嬢が料理が得意とは聞いていたが、エドヴァルドも料理をするのか。これは大事にいただかねばならないな」

 溶けないように冷やしていたホイップした生クリームも持ってきて、僕とロヴィーサ嬢とダミアーン伯父上はクレープを食べ始めた。
 僕は欲張りすぎて、林檎のカラメル煮と生クリームを入れ過ぎて、後ろから垂れそうになってしまう。
 カラメル煮は林檎の歯ごたえが残っていて、生クリームは甘すぎず、とても美味しい。

 ダミアーン伯父上も巻いて食べていた。

「ダミアーン伯父上はこの国に来たときに、食べるものがないのではないですか?」
「携帯食を持ってきているが、エドヴァルドのように新鮮で豊富な食料はないな」
「この国に滞在するときには、ミエト公爵家で食事をするのはどうですか?」

 僕の申し出にダミアーン伯父上が食べていたクレープを飲み込んで答える。

「そうさせてもらえるとあり難い」

 乗り気のダミアーン伯父上に、ロヴィーサ嬢がそっと僕に聞いてくる。

「よろしいのですか?」
「何がですか?」
「わたくしが、ダミアーン王太子殿下の料理を作っても」

 ロヴィーサ嬢の言葉はもっともなものだった。
 僕はアルマスにすらロヴィーサ嬢が料理を作ることに嫉妬してしまった過去がある。
 それでも、ダミアーン伯父上にはいいと思えたのは、僕に変化があったからだ。

「ロヴィーサ嬢だけではなくて、僕も一緒に作るようになったでしょう? それだったら、ダミアーン伯父上の分の料理を二人で作って出してもいいかと思ったのです」
「そうなのですね。それならば、腕を振るいます」

 納得してロヴィーサ嬢はやる気になっていた。

「エドヴァルドは食べ物が合わなくて、小さい頃には何度も死にかけた。そのたびに私は魔族の国にエドヴァルドを預かりたいと申し出たが、それは叶わなかった。エドヴァルドはこのまま衰弱して死んでしまうのではないかと思っていたところに、ロヴィーサ嬢との出会いがあった」
「わたくしの力でエドヴァルド殿下が健康になったのならば、光栄なことです」
「ロヴィーサ嬢のおかげでエドヴァルドはこんなにも幸せそうにしている。ロヴィーサ嬢、エドヴァルドは私の可愛い甥だ。大切にしてやってくれ」
「わたくしのできることは全て致します」

 ダミアーン伯父上に言われて、凛と顔を上げて答えるロヴィーサ嬢に、僕は凛々しさと美しさを見出していた。

 ダミアーン伯父上が帰るので玄関まで送って行っていると、アルマスが庭に来ていた。弟のアクセリと妹のアンニーナも連れている。

「あ! エドヴァルド殿下、ロヴィーサ様、マンドラゴラの収穫が終わったから、相談に来たんだ」
「お兄ちゃんだけミエト家に行くのはずるいよ! 僕も行きたかったんだ!」
「私もミエト家に行きたかったの!」

 近寄ってくるアルマスとアクセリとアンニーナは、ダミアーン伯父上の姿を見て一瞬動きを止めた。
 ダミアーン伯父上は膝を曲げてアクセリとアンニーナに視線を合わせている。

「私はエドヴァルドの伯父のダミアーンだ。エドヴァルドがお世話になっているようだな」
「ダミアーン王太子殿下ですか!? 魔族の国の!?」

 さすがにアルマスは知っていたようだ。驚いて、アクセリとアンニーナに頭を下げるように指示しているが、アクセリもアンニーナも気付いていない。

「エドヴァルド殿下の伯父様なんだな!」
「すごく格好いい! 素敵!」

 緑色の目を輝かせたアンニーナがダミアーン伯父上の手を取る。小さな手に手を握られて、ダミアーン伯父上は驚いている。

 ダミアーン伯父上は僕と同じで色素が非常に薄い。髪も銀色だし、目も菫色だ。
 日に焼けたアンニーナの手とダミアーン伯父上の血管が透けるような青白い手とは全く色が違った。

「私、アンニーナ。大きくなったら、お嫁さんにして!」
「アンニーナ、何を言っているんだ!?」
「だって、こんなに格好いいひと、見たことないんだもん」

 八歳のアンニーナにプロポーズされて、ダミアーン伯父上は豪快に笑っていた。

「面白い子たちだ。そうだな、お嬢さんが大きくなって、素敵なレディになったら、結婚を考えよう」
「本当に?」
「そのためには勉強をしなければいけない。お兄さんのように、高等学校に行けるように頑張りなさい」
「はい! 私、頑張る!」

 まさか本気にしていないだろうが、アンニーナとダミアーン伯父上の間で約束が結ばれてしまった。

「アンニーナを連れて来るんじゃなかった……すまない、エドヴァルド殿下」
「ダミアーン伯父上も話に乗るとは思わなかった」

 意外なことだらけで、僕もアルマスもすぐには対処できなかった。

「エドヴァルド殿下の学友のアルマスです。弟のアクセリと妹のアンニーナ……アンニーナはもう自己紹介したか」
「エドヴァルドと仲良くしてやってくれ。やっと行けた念願の高等学校だからな」

 ダミアーン伯父上は僕が行きたくても高等学校に行けていなかった時期を知っている。それだけに僕が高等学校に行けているのを何よりも喜んでくれていた。

 馬車で走り去るダミアーン伯父上をアンニーナが見えなくなるまで手を振って見送っていた。
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