末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

文字の大きさ
37 / 180
二章 高等学校二年生の王子

7.マンドラゴラ舞踊団と競りのために

しおりを挟む
 高等学校の昼休みにアルマスとヘンリッキと話し合うのは、マンドラゴラの舞踊発表会と競りについてだった。

「私の領地のマンドラゴラも育って収穫のときにきています。ぜひアルマスと一緒に競りに出したいと思っています」
「会場はハーヤネン公爵家が準備してくれるっていうことでいいんだよね?」
「はい。花や植物の品評会を行う会場が王都にあります。そこにマンドラゴラ舞踊団用の舞台を設置しましょう」

 花や植物の品評会を行う会場ならば、植物に詳しい関係者が集まるだろう。マンドラゴラも自分の意志で動く不思議な魔法植物だが、植物は植物なので、会場としては最適かもしれない。

 会場の手配はハーヤネン公爵家に任せるとして、マンドラゴラ舞踏団についてアルマスに聞かなければいけない。

「マンドラゴラ舞踊団の準備は万端なの?」
「毎日厳しい練習をしている。大根一号と人参二号のデュエットダンス、蕪三号のフラダンス、選ばれたマンドラゴラたちのラインダンスをお目見えするよ」
「演目の順番は?」
「ラインダンスが最初で、フラダンスが二番目で、最後がしっとりとデュエットダンスだな」

 そこまで決まっているのならば安心だ。
 大根マンドラゴラと人参マンドラゴラでしっとりとデュエットダンスができるかどうかは疑問なのだが、そこには深く突っ込まないことにする。
 今週末にでもマンドラゴラの舞踊発表会と競りは行えそうだ。

「宣伝をしなければいけないね。この国で育てられたマンドラゴラが手に入るとなると、貴族や冒険者、希望者はたくさんいるんじゃないかな」
「私は貴族を中心に宣伝しましょう」
「僕はロヴィーサ嬢を通じて冒険者ギルドに宣伝をするよ」
「俺は何をすればいい?」
「マンドラゴラのダンスをしっかり仕上げてて」

 分担も決まって、マンドラゴラの舞踊団の発表会と競りは今週末に迫っていた。
 ミエト家に帰ると、ロヴィーサ嬢も帰って来たところだった。
 ロヴィーサ嬢はおやつを作るつもりで着替えて厨房に向かっている。

「ロヴィーサ嬢、冒険者ギルドに行きませんか?」
「冒険者ギルドにですか?」
「アルマスとヘンリッキのマンドラゴラを競りにかける日と場所が決まったのです。冒険者ギルドで宣伝をしてもらいたいのですが」

 理由を話せば、ロヴィーサ嬢はパンを切って、そこに林檎のジャムとクリームチーズを挟んだものをお弁当箱に詰め、水筒にミルクティーを入れて、出かける準備をしてくれた。

「ちょっとお行儀が悪いですけど、馬車の中で摘まみましょう」
「お腹が空いていたんです」

 僕はどれだけ食べてもすぐにお腹が空いてしまう時期に入っていた。高等学校の二年生になってから一か月以上経つが、僕の身長は少し伸びたようだ。
 これまでが栄養不良で成長不良だったのを取り戻すように、僕はめきめきと背が伸びて、肌艶もよくなっていた。

「ロヴィーサ嬢、僕はまた背が伸びました」
「エリアス殿下とエルランド殿下のお誕生日には、新しいスーツを誂えなければいけませんね」
「ロヴィーサ嬢も新しいドレスを誂えましょうね」
「今度も薄紫にします」

 サンドイッチを摘まみながら、ミルクティーを飲んで、僕とロヴィーサ嬢は王都の冒険者ギルドに向かった。王都の冒険者ギルドに馬車が着くと、ギルドの長が出てきて迎えてくれる。

「報奨金が相当貯まっていますよ。受け取りに来られましたか?」
「忘れていました」

 ロヴィーサ嬢が狩るモンスターの中には報奨金がかけられているものも多くいる。夏に海で狩ったクラーケンもそうだし、大型のモンスターには大抵冒険者ギルドを通して領地の貴族から報奨金が支払われる。
 ミエト家の所領が奪われて生活に困っていた時期は、ロヴィーサ嬢はそれを小まめに取りに来ていたが、今はほとんど取りに行っていない。モンスターを狩るのも僕の食事と所領の平和のためで、報奨金のためではなくなってしまったからだ。

「受け取ってもらわないと、王都の冒険者ギルドが報奨金をかすめ取っていると噂になります。受け取りのサインを」

 報奨金の入った袋をロヴィーサ嬢に手渡して、冒険者ギルドの長がサインをさせる。
 思わぬ臨時収入に、ロヴィーサ嬢は微妙な顔で報奨金をマジックポーチに仕舞っていた。

「この度はどのようなご用件でしょう?」
「エドヴァルド殿下のご学友が、魔法植物であるマンドラゴラを売る競りを行います。その宣伝をお願いしたいのです」

 冒険者の中には、特殊な力を求めていたり、モンスター狩りで負った傷の治癒のために特殊な薬を求めていたりするものがいる。そういう冒険者にとって、魔法植物であるマンドラゴラはとても有効なのだ。

「国内で栽培されたマンドラゴラですか?」
「そうです。エドヴァルド殿下のご学友が育てたマンドラゴラです」
「それは珍しい。冒険者ギルドの掲示板にお知らせを貼っておきましょう」

 冒険者ギルドの長とロヴィーサ嬢が二人でお知らせの紙を作るのを、僕は少し離れて見ていた。
 僕が立っていると、冒険者ギルドのドアが開く。
 入って来たのは綺麗な身なりの女性だった。

「まぁ、エドヴァルド殿下ではございませんか? わたくし、エドヴァルド殿下にモンスターを食べていただくために、冒険者に志願しようとして参りましたの」

 近寄るとお化粧と香水の匂いが強烈で、僕は後退って逃げる。ロヴィーサ嬢のところに行くと、ロヴィーサ嬢はお知らせの紙を作り終えて、掲示板に貼っていた。

「エドヴァルド殿下、いかがなさいましたか?」
「知らない女性が声をかけて来たのです」
「どういうことでしょう?」

 ロヴィーサ嬢が僕に声をかけてきた女性に近寄ると、扇で口元を押さえて彼女が笑ったのが分かった。

「わたくし、エドヴァルド殿下の同級生です。エドヴァルド殿下にはモンスターの血肉が必要と聞いて、わたくしもエドヴァルド殿下のために冒険者になろうかとこちらに参りました」
「その服で、ですか?」

 思わずロヴィーサ嬢が問い返してしまうのも仕方がない。その御令嬢は豪奢なドレスを身に纏っていた。ロヴィーサ嬢はブーツにパンツにシャツにベスト姿で、腰に太いベルトを巻いて、大振りのナイフを下げている。

「わたくしが粗末な格好などできるわけないではないですか。平気です。モンスターはお供の者たちが倒しますので!」
「それならば、あなたを冒険者登録することはできません。冒険者登録できるのは、戦えるものだけです」
「何を言っているのですか! 冒険者ギルドの長風情が! わたくしがなると言ったらなるのです!」

 押し切ろうとする御令嬢にロヴィーサ嬢が提案する。

「それでは、魔窟に行きませんか? 魔窟で戦えると見せれば、冒険者ギルドの長も納得しましょう」

 これは、もしかしてロヴィーサ嬢はかなり怒っているのではないだろうか。
 穏やかに提案しているが、行く場所が魔窟という時点でかなりレベルが高い。
 僕が冒険者ギルドの試験で水辺のオオトカゲを倒したのとは全く違う。

「ま、魔窟……い、行けますわ。行きましょう」

 御令嬢は明らかに怯んでいるが、それ以上に魔窟と聞いた護衛の兵士二人が震え上がっている。御令嬢のお遊びに付き合うように言われただけではなかったのだろうか。それが魔窟に連れて行かれるなんて思ってもいなかったに違いない。

 震え上がる兵士二人を連れて、御令嬢が魔窟に向かう。
 ロヴィーサ嬢と僕と冒険者ギルドの長も同行した。
 魔窟の入口の天井が高くなっている場所から、ぽちゃんと水滴が落ちて来る。それが首筋に当たったのか、御令嬢が飛び上がる。

「きゃああああ!」
「お静かに! モンスターが寄ってきます!」
「落ち着いてください」

 兵士二人が宥めるが御令嬢は悲鳴を上げたのが悔しかったのか、先に立って歩き始めた。
 魔窟の内部は季節によって少し変わる。
 右手の道に行った御令嬢はそこに水が溜まっているのに足を止めた。

「こんな水の中に入れません。お前たち、行ってきなさい」
「えぇ!? この装備で水の中には入れません」
「溺れてしまいます」

 兵士たちは鎧を身につけている。まさか魔窟の最初の部屋が水が溜まっているなど思わなかったのだろう。何度も魔窟に来ているロヴィーサ嬢と僕は、魔窟の右手の道は海産物の養殖場だと分かっていたが、わざと何も言わなかった。

 水の中から足が伸びてきて、御令嬢の脚を絡めとる。

「いやぁぁ!?」

 水に引きずり込まれそうになった御令嬢を、兵士二人が何とか抱き留めて助ける。
 次は兵士に水から出てきた脚が絡み付いて、兵士の一人が水に引きずり込まれた。
 装備の重さで浮かび上がれずにそのまま水の中に飲み込まれようとする兵士に、ロヴィーサ嬢が動いた。
 廊下を駆けて勢いをつけて水の中に飛び込む。大振りのナイフを引き抜いたロヴィーサ嬢は水の中から獲物を狙うモンスターに飛びかかっていた。

 水面が黒くなる。
 ロヴィーサ嬢は片方の肩に兵士を、もう片方の肩に蛸のモンスターを乗せて戻って来た。

「エドヴァルド殿下、たこ焼きができますよ!」
「たこ焼き?」
「帰ったら作って差し上げますからね」

 笑顔で水から出てきたロヴィーサ嬢に、御令嬢は明らかに引いている。

「水の中に飛び込むだなんて、どんな神経をなさっているの……?」
「飛び込まねば、あなたの護衛の兵士は死んでいましたよ。世間知らずのお嬢様、自分にはできないことは諦めてお帰りなさい」

 冷たいロヴィーサ嬢の言葉に、御令嬢はびしょ濡れの兵士ともう一人の兵士を連れて魔窟から出て行った。

 ミエト家に帰って食べるたこ焼きのことを、僕は考えていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

処理中です...