末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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二章 高等学校二年生の王子

11.ロヴィーサ嬢の天ぷら

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 僕とロヴィーサ嬢とエリアス兄上とお祖父様とお祖母様とダミアーン伯父上との夕食会。
 テーブルの上には油の入った鍋が置かれていて、使用人が目の前で揚げてくれる形式のようだった。

「あの……差し出がましいことを致しますが、わたくしが揚げてもよろしいですか?」

 魔族と人間の王家のひとたちの中にあって、一人、公爵家令嬢という身分の低いロヴィーサ嬢がそれを口にするのは非常に勇気が必要だっただろう。
 僕は慌ててロヴィーサ嬢のフォローに回る。

「ロヴィーサ嬢は僕のために毎日料理を作ってくれているのです。お弁当も作ってくれていて、とても料理上手なのです」
「ロヴィーサ嬢の天むすをあちらの国の王城でいただいたがとても美味しかったですよ」

 ダミアーン伯父上も僕に加勢してくれる。
 お祖父様とお祖母様は驚いているようだった。

「食材を狩って来るだけでなく、料理までできるのだな」
「ダミアーンが美味しいと言っている料理の腕、ぜひわたくしも味わいたいですわ」

 快く了承されて、ロヴィーサ嬢は胸を撫で下ろしていた。
 氷の入った水で溶いた天ぷら粉と卵に、手の平と同じくらいの鱚の身を潜らせて、ロヴィーサ嬢が揚げていく。
 大きな鱚の身が揚がると、ロヴィーサ嬢はそれぞれのお皿にサーブしていく。

 鱚の天ぷらは大きくて食べ応えがあって、身が蕩けるように柔らかくて美味しかった。
 つゆに大根おろしを入れたものと、塩の二種類で食べるのだが、塩が暗い緑色なのに僕は驚いていた。

「この塩は?」
「食べてみると分かりますよ」

 悪戯っぽく笑うお祖母様に、僕は鱚の身を塩につけて食べてみる。暗い緑色は昆布だということが分かった。昆布の味と香りが塩に深みを与えている。

 昆布塩と大根おろしのつゆで鱚を食べ終わる頃には、ロヴィーサ嬢は次の天ぷらに移っていた。
 芋は火が通るまで長く時間がかかるので、脇の方に寄せておいて、大きな海老を次々と揚げていく。
 ロブスターのような巨大な海老に僕は我慢ができなくて、かぶり付いた。
 本当ならば上品にナイフとフォークで切って食べなければいけないのだろうが、こんなに美味しそうなものを前にされるとその手間が待てない。

 口いっぱいに頬張ってしまってから、僕はお祖父様とお祖母様に見られているのに気付いて顔を赤くした。

「エドヴァルドがあんなに美味しそうに食べておる」
「極上の海老を用意してよかったですね」

 お祖父様もお祖母様も、僕のお行儀の悪さについては何も咎めることがなかった。エリアス兄上はフォークとナイフで海老を切って、一口ずつ上品に口に運んでいる。

 芋天が揚がったのでそれを食べていると、ロヴィーサ嬢は小柱と三つ葉のかき揚げを作り始めていた。
 衣をつけた小柱と三つ葉がバラバラにならないようにそっと油の上に浮かせている。
 揚げたての天ぷらは美味しすぎて、僕は芋天も、小柱と三つ葉のかき揚げも、他の野菜の天ぷらも、お腹いっぱいになるまで食べてしまった。

「どの天ぷらもとても美味しかった。ロヴィーサ嬢は本当に料理上手なのだな」
「ロヴィーサ嬢にならエドヴァルドのことを任せられますね」
「エドヴァルドが素晴らしい婚約者と出会えて本当によかった」

 魔族の国の国王陛下なので、魔王とも呼ばれているお祖父様が涙ぐんでロヴィーサ嬢を讃えている。ロヴィーサ嬢も天ぷらを揚げ切って、やり遂げた顔で僕を見ていた。
 天ぷらを揚げていたので食べる暇がなかったロヴィーサ嬢が食べている間に、僕はお祖父様とお祖母様とエリアス兄上と話をした。

「お祖父様は、お身体は本当に平気なのですね?」
「エドだけに知らせが行って、私のところには届きませんでしたが?」
「そ、それは……エリアス、その……」
「仮病だと認めてしまいなさい」
「エドヴァルドに会いたかったのだ。ダミアーンは行事ごとにエドヴァルドに会いに行っているのに、私は会えない。ダミアーンが羨ましかった」

 白状したお祖父様に、ダミアーン伯父上が苦笑している。

「これだから、国王にはなりたくないのですよ」
「私は早くダミアーンに譲って隠居したいのに、全然結婚しないんだからな」
「私はまだ運命と出会っておりません。運命と出会うまでは結婚は致しません」

 魔族の国の法律で、国王は結婚をしていないといけないというものがあるのだそうだ。僕の国にはそんなものはないが、魔族の国は僕の国とは少し違う。

「父上はまだまだお元気ではないですか。私が継ぐのはもっと先でいい」
「ダミアーン、私も高齢になった。いつ倒れてもおかしくはないのだぞ?」
「仮病でですか?」
「それを言うな!」

 お祖父様の言葉をダミアーン伯父上はのらりくらりと避けていた。
 僕はアンニーナのことを思い出す。
 アンニーナに関して、お祖父様はどう思うのだろうか。

「僕の学友の九歳の妹が、ダミアーン伯父上と結婚の約束をしたと言っております」
「あの子は可愛かったな」
「ダミアーン、本当か? その子はどこの令嬢だ?」
「平民の子どもです」
「そうか……それならば、どこかの貴族の養子にして……」
「父上!? 本気ですか!?」
「これだけ結婚したくないと言っておるダミアーンが興味を持ったのだ! 私は何でもするぞ!」

 意外なことにアンニーナが平民の九歳の子どもだと聞いても、お祖父様は動揺しないどころか乗り気だった。
 これはアンニーナが本当にダミアーン伯父上と結婚する未来もあり得るのではないだろうか。

 お祖父様が高齢とはいえ、魔族なので寿命は非常に長い。アンニーナが成人するまでの九年間くらいは、お祖父様にとっては一瞬なのかもしれない。

「エド、ダミアーン伯父上にエドの学友の妹が結婚の約束をしたのか?」
「大きくなったら考えるとダミアーン伯父上は答えていました」
「それは、遠回しのお断りではないのか?」

 エリアス兄上に言われて僕はダミアーン伯父上をじっと見つめる。ダミアーン伯父上はアンニーナとアクセリが来たときに、屈んで視線が合うようにしていた。
 僕が知っているダミアーン伯父上は、ヘタな誤魔化しで子どもを傷付けるひとではない。

「ダミアーン伯父上、どうなのですか?」
「あの年齢の子どもならば、成長するにつれて考えも変わるだろう」
「変わらなかったらどうするおつもりですか?」
「そのときは、考えるよ」

 掴めないひとだけれど、ダミアーン伯父上は子どもを傷付けるひとではない。それだけは僕は絶対の信頼感があった。

「ロヴィーサ嬢、アンニーナには高等学校に入る前に淑女のマナーを教えておかなければいけないかもしれません」
「ミエト家に来てもらえばいいでしょうか?」
「アルマスと話し合って、ミエト家に住み込んで淑女教育を行いましょう」

 僕はダミアーン伯父上は本気だと思っていた。それならば、平民生まれのアンニーナが魔族の王家に入っても苦労しないように教育を施さなければいけない。
 ロヴィーサ嬢は元々侯爵家の令嬢として、教育を施されている。今では公爵家の当主となり、王子の僕の婚約者として、魔族の国でも立派に王家のお祖父様やお祖母様に失礼のないようにできている。
 そのロヴィーサ嬢に教育されればアンニーナもダミアーン伯父上に嫁いでも平気だと思ったのだ。

 この件に関してはアルマスとも話をしなければいけないと僕は思っていた。

 晩ご飯の後には、僕は魔族の国の王城に泊まっていくことになったのだけれど、一つだけ心配事があった。
 ロヴィーサ嬢のことだ。
 僕は王子なので豪華な客間を与えられたのだが、ロヴィーサ嬢はどうなのだろう。僕の婚約者とはいえ、ロヴィーサ嬢は他国の公爵で、王族ではない。
 この国の国王陛下の孫である僕との対応は差が出て来るだろう。

「お、お祖父様、お祖母様、ロヴィーサ嬢と僕を同じ部屋にしてくださいませんか?」

 客間は広く、家族で泊まることもあるので、部屋が分かれている。
 使用人の一人も連れて来ていないロヴィーサ嬢は一人では心細いのではないだろうか。

「そうですね、婚約者ですし、同じ部屋でもいいかもしれませんね」
「エドヴァルドはまだ、大人ではないからな」

 お祖母様とお祖父様が言っていることの意味はよく分からないが、僕はロヴィーサ嬢の方を見る。ロヴィーサ嬢はどうすればいいのか分からないとばかりに狼狽えていた。
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