末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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二章 高等学校二年生の王子

26.僕の熱中症

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 その日は特に暑かった。
 僕は毎朝の家庭菜園のお世話のときから調子が少しおかしかった。
 頭がくらくらするような気がするのだ。
 早朝なのにお日様はもう出ていて、それがいけなかったのかもしれない。

 朝ご飯を食べて高等学校に行くときにも、僕は体が火照ったようになっていた。家庭菜園のお世話の後にシャワーを浴びたのに、それでも体が熱を帯びているようだ。

 しかも、体育の授業があった。
 体操服に着替えて、僕は体育館で球技をやった。
 喉が渇いて、頭がくらくらして、体育館に生徒が入っている熱気に僕は負けそうだった。

 授業が終わるとミエト家に帰って来たのだが、僕はおやつを食べる気力もなくソファに倒れ込んだ。遅れて帰って来たロヴィーサ嬢が僕を見て声を上げる。

「エド殿下、どうなさいましたか?」
「頭がくらくらします。ずっと体が火照ったように熱いのです」

 正直に答えると、ロヴィーサ嬢は爺やの方を見た。
 爺やも僕を心配しているが、声をかけられずに困っていたのだ。

「爺やさん、エド殿下を冷たい水を張ったバスタブに入れてください。わたくしは飲み物を作って来ます」
「心得ました。エドヴァルド殿下、失礼いたします」

 爺やに軽々と抱きかかえられて、僕はバスルームに運ばれた。バスルームで服を脱がされて、下半身にタオルを巻かれて、冷たい水を張ったバスタブに入ると、少しだけ熱が冷めてくる気がする。
 目を閉じていると、ロヴィーサ嬢がバスルームをノックして入って来たのが分かった。

 下半身はタオルで隠しているけれど、上半身は裸で、僕は慌ててしまうがロヴィーサ嬢は落ち着いていた。

「動かれないでください。これは医療的な処置です。これを飲めますか」

 唇にグラスを当てられて、僕はその中に入っているものを飲み込む。冷たくて、甘くて、少ししょっぱいそれは、スイカの味がした。

「庭のスイカ猫を収穫しました。スイカ猫の実に塩を混ぜて潰したジュースです」
「とても美味しいです……体が冷えます」
「エド殿下は熱中症になってしまったようですね」
「え?」

 十分に気を付けていたつもりだし、長袖に長ズボンで帽子も被っていた。それでも今日は暑すぎて熱中症に僕はなってしまったようだ。

「ロヴィーサ嬢は平気なのに情けないです」
「わたくしは大人の女性で身体に水分を溜めやすいのです。エド殿下は体が細いから、仕方がありません」

 ロヴィーサ嬢に言われても、僕は自分が情けなかった。
 しばらく水風呂に浸かっていると、僕は熱中症から回復した。軽度の熱中症で、酷いものではなかったようだ。

 安心するとお腹が空く。
 僕が服を着て、爺やに髪を乾かしてもらってソファに座っていると、ロヴィーサ嬢が氷の入った下が茶色っぽくて上が透明な飲み物を持ってきて、それに丸く膨らんだジャガイモを揚げたものを添えていた。

「これはなんですか?」
「ジンジャーエールといいます。ショウガと砂糖とシナモンスティックで作ったジンジャーシロップを炭酸水で割っています。混ぜてお飲みください」
「こちらはなんですか?」
「ポムスフレというジャガイモの揚げ菓子です。厚めに切ったジャガイモを二度揚げすることで中に空気が入って、丸く膨らむのです」

 ジンジャーエールもポムスフレも僕は口にしたことがない。
 ロヴィーサ嬢の作るものは何でも美味しいので期待してジンジャーエールを飲むと、しょうがの辛みがぴりっとするが、それが炭酸水の爽やかさを引き立てて、喉越しがとてもいい。
 ポムスフレはパリパリとして塩味が美味しくてどれだけでも食べられそうだった。

「ロヴィーサ嬢、美味しいです。ロヴィーサ嬢も食べていますか? 僕、全部食べてしまいそうですよ」
「わたくしもいただいています。エド殿下、ジンジャーエールのお代わりはいかがですか?」
「いただきます」

 グラスを差し出すとロヴィーサ嬢がジンジャーエールのお代わりを作ってくれる。氷の入ったグラスにジンジャーシロップを入れて、上からそっと炭酸水を注げば、二層の色の違うジンジャーエールができる。
 それをよくかき混ぜて飲むととても美味しい。

「エド殿下は水分の摂取量が少ないのかもしれません」
「そうですか?」
「家庭菜園のお世話をしているときに、あまり水分補給をなさらないでしょう」

 指摘されて、確かに僕は水分補給をしていないことに気付いた。家庭菜園のお世話をしているとそれに夢中になってしまって、他のことが頭から抜けてしまうのだ。

「緑の指をお持ちのエドヴァルド殿下は、魔法を使いながら家庭菜園を世話しております。魔法には体力を使うものです」
「魔法も熱中症の要因だったの!?」
「魔法で体力が削られて、熱中症になった可能性は十分あり得ます」

 爺やからも言われてしまって、僕は深く反省した。
 ロヴィーサ嬢には恥ずかしいところを見せてしまったし、爺やには迷惑をかけた。

「今後は小まめに水分補給をします」
「わたくしも、エド殿下が水分補給をしているか目を配りますね」
「ありがとうございます、ロヴィーサ嬢」

 本当にロヴィーサ嬢には頭が上がらない。
 熱中症になったことはすぐに父上とエリアス兄上とエルランド兄上に伝わってしまったようだ。
 エリアス兄上とエルランド兄上が僕を見舞いに来た。
 もう治っていたので恥ずかしかったけれど、ロヴィーサ嬢がエリアス兄上とエルランド兄上を迎えてソファに招いた。

「エドが倒れたと聞いて心配で来てしまいました」
「父上からも様子を見て来いと言われております。ロヴィーサ嬢、エドは大丈夫でしょうか?」

 エリアス兄上とエルランド兄上に問いかけられて、ロヴィーサ嬢が答える。

「我が家には家庭菜園があります。毎朝、わたくしとエドヴァルド殿下と爺やさんは家庭菜園のお世話をしております。エドヴァルド殿下は家庭菜園のお世話をするときに魔法を使うので、それで体力を削られたようです」
「もう大丈夫なのですか?」
「エドはどんな状況になったのですか?」
「軽い熱中症になっておりました。冷たい水を張ったバスタブで水分を補給していたら治りました。今後はこのようなことがないように、エドヴァルド殿下が水分補給をしているか、わたくしがしっかりと目を配ります。わたくしがついていながらエドヴァルド殿下を倒れさせてしまうようなことになって、申し訳ありませんでした」

 ロヴィーサ嬢の説明は分かりやすく、今後の対処も入っていて、エリアス兄上もエルランド兄上も納得できたようだった。

「ロヴィーサ嬢のせいではありません」
「魔法の結果どうなるかはロヴィーサ嬢には想像の付かなかったことでしょう」
「これからもエドをよろしくお願いします」
「エドがすぐに回復できたのもロヴィーサ嬢の判断のおかげです」

 エリアス兄上もエルランド兄上も、ロヴィーサ嬢を責めることは一切なく、これからも僕を任せると言ってくれている。ロヴィーサ嬢の監督不行き届きだと判断されれば、僕は王城に連れ戻される可能性もあったので、本当にほっとしていた。

「王城に帰れと言われなくてよかったです」
「エドにとってそれは一番嫌なことだろう?」
「愛するひとのそばにいたいエドの気持ちは分かるよ」

 エリアス兄上もエルランド兄上も、僕に理解を示してくれた。
 王城が嫌いなわけではないのだが、僕はミエト家での生活を満喫している。

「ロヴィーサ嬢がジンジャーエールという飲み物と、ポムスフレというお菓子を作ってくれたのです」
「それは興味があるな」
「よろしければ、私たちにもご馳走してくれませんか?」

 エリアス兄上とエルランド兄上に頼まれて、ロヴィーサ嬢がジンジャーエールとポムスフレを用意してくる。
 ぴりりと辛いジンジャーエールを飲んで、ぱりぱりと食感の楽しいポムスフレを食べると止まらなくなるのはエリアス兄上とエルランド兄上も同じだったようだ。

「これは美味しいですね」
「こんな美味しいものは初めてです」
「僕も止まらなくなりました」

 目を輝かせて食べているエリアス兄上とエルランド兄上は、まだ二十歳と十八歳なのだと実感する。
 エリアス兄上とエルランド兄上が帰ってから、ロヴィーサ嬢がぽつりと呟いた。

「エド殿下もあのように大きくなるのでしょうか」
「エリアス兄上とエルランド兄上は父上に似ていて、僕は母上に似ています。僕はダミアーン伯父上にようになるのではないでしょうか」

 そうだったらいいと僕は思っている。

「外見はそうでしょうね。それだけではなくて、あんな風にわたくしの料理をいつまでも目を輝かせて食べてくださるのでしょうか」

 ロヴィーサ嬢の言葉に、僕は身を乗り出す。

「それは当然です! ロヴィーサ嬢の料理に僕が喜ばないことはないです」
「そうですか? 苦手な食材もあるでしょう」
「青魚は好きではありませんが、ロヴィーサ嬢が作ってくれるなら、きっと食べられます」

 僕が言えば、ロヴィーサ嬢は何か閃いたようだ。

「今日はイワシのフライにしましょうか?」
「イワシ……大丈夫です、食べられます」
「刻んだ大葉を乗せて、柑橘類の汁とお醤油をかけて食べるのです」
「タルタルソースじゃないのですか?」

 タルタルソースならば平気だと思っていたけれど、ロヴィーサ嬢は別の調理方法をするようだ。
 厨房に行って新鮮なイワシを捌いて、開きにして、軽くパン粉を叩いて少ない油で揚げ焼きにする。それに刻んだ大葉と柑橘の汁とお醤油のタレをかけてロヴィーサ嬢は作り上げた。
 レタスを敷いてその上にイワシのフライを置いて、それ以外にもご飯と具沢山のお味噌汁を作って、晩ご飯にする。

 イワシのフライに僕は少し躊躇ったが、思い切って食べてみると、大葉の香りと柑橘の酸っぱさが臭みを完全に消している。一口食べるとご飯の進む味だ。
 もりもりと食べ始めた僕にロヴィーサ嬢が微笑んでいる。

「食べてみたら意外と平気でしょう?」
「とても美味しいです! ご飯のお代わりが欲しいです」
「お代わりを盛りましょうね」

 ご飯茶碗を差し出すとロヴィーサ嬢がご飯のお代わりを盛ってくれる。
 苦手な食材でも僕が食べられるようにしてくれるロヴィーサ嬢は、女神のような存在だった。
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