末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

文字の大きさ
58 / 180
二章 高等学校二年生の王子

28.アルマスからの手紙

しおりを挟む
 厨房で作られた料理は、何か味気ない。
 ロヴィーサ嬢が作った料理のように口いっぱい頬張ったり、お代わりをしたりする気が全く起きない。
 材料は同じなのだが味付けや調理法が全く違うのだ。

 ロヴィーサ嬢は僕の知らない色んな調理方法を知っている。食材の活用方法も知っている。
 隣国の料理は美味しいのだが新鮮味がなくて、なんだかつまらない。
 残すなどというもったいないことは、ロヴィーサ嬢が採って来てくれた食材なので絶対に許されないが、僕はお代わりはせずに出された分を食べ終わったら、ご馳走様をした。

 それがヒルダ姉上にはバレバレだったようだ。
 食後のお茶のときに声をかけられた。

「エドは晩餐が気に入りませんでしたか?」
「とんでもないです。美味しかったですよ」
「浮かない顔をしていましたよ」
「それは……」

 ロヴィーサ嬢の料理が食べたかったなんて、駄々を捏ねてはいけない場面だと僕にも分かっている。僕が我が儘を言えばロヴィーサ嬢も困ることになるのは分かっていた。

「いつもと勝手が違ったのと、疲れていたのかもしれません」
「この国に来たのは初めてですものね。ミルカに会うためにエドとロヴィーサ嬢が来てくれてとても嬉しいのですよ」
「私たちの息子のミルカのためにありがとうございます」

 ヒルダ姉上が微笑むと、ティーカップのお茶を飲みながらカスパル王太子殿下も微笑む。
 褐色の肌に黒い髪に黒い目で、白い歯がよく目立つカスパル王太子殿下。隣国なのにこれだけ外見が違うのだと驚いてしまう。

 僕の国は色素の薄いものも若干色素の濃いものも入り混じっているが、隣国は褐色の肌のひとたちで構成されている。逆に魔族の国は色素が非常に薄いひとたちで構成されている。

 起きてきたのでカスパル王太子殿下に抱っこされているミルカは、ヒルダ姉上の血が混じっているので、若干肌の色もカスパル王太子殿下よりは薄いような気がしていた。

 じっと見ていると、ミルカがふにゃっと笑う。笑いかけられて僕は身を乗り出した。

「ロヴィーサ嬢見ましたか? 僕に笑いかけましたよ」
「とても可愛かったです」
「ミルカは僕のことが好きかもしれない」

 喜んでいると、カスパル王太子殿下が目を細める。

「そんな風に言ってくださるということは、エドヴァルド殿下はミルカがお好きなのですね」
「可愛くて大好きです。私の伯父のダミアーン伯父上は私のことを可愛がってくれています。私もダミアーン伯父上のようにミルカを可愛がりたいのです」
「ダミアーン王太子殿下がそちらの国にエドヴァルド殿下たち甥や姪に会いに行っている話は聞いています。そんなにミルカを思ってくださるなんて、父親としてとても嬉しいです」

 カスパル王太子殿下に言われて、僕は堂々とミルカを可愛がっていいのだと理解する。国が違うから、まだ僕が大人でないからと遠慮することはないようだ。

「私は子どもは周囲の大人に愛されて育つのがよいと思っているのです。愛してくれる相手はできるだけ多い方がいい。エドヴァルド殿下とロヴィーサ嬢もその一人になって下さることを望んでいます」
「喜んでミルカを愛して可愛がります」

 許可を得て僕はミルカを抱っこさせてもらった。始めて抱っこしたときよりも安定した抱っこができたと思う。
 ロヴィーサ嬢もミルカを抱っこさせてもらっていた。

 シャワーを浴びて客間に入ると、僕のお腹がきゅるきゅると鳴る。晩ご飯をあまり食べなかったからお腹が空いているのだ。
 このままでは眠れない。
 僕は隣りの部屋のロヴィーサ嬢に声をかけた。

「ロヴィーサ嬢、少しよろしいですか?」
「どうぞ、お入りください」

 ロヴィーサ嬢は手前の部屋で椅子に座って書き物をしていた。ノートを閉じると、すぐに僕をソファに座らせてくれて、自分もソファに座る。

「お腹が空いたのです」

 僕は正直に白状した。
 晩ご飯は食べたのだが、普段食べている量よりもずっと少なかった。

「隣国ですものね、お代わりを遠慮なさっていたのですね」
「遠慮したのではなく、そんなに食べたくなかったのです」

 正直に言うとロヴィーサ嬢が首を傾げている。ロヴィーサ嬢はあの料理がおいしく感じられたのだろうか。

「ロヴィーサ嬢はあの料理が美味しかったですか?」
「美味しかったですよ」
「僕は……不味くはなかったのです。美味しかったと思うのです。でも、ロヴィーサ嬢の料理を食べるときのように、心躍るような高揚感がなかったというか、喜びがなかったというか……それで、お代りはしたくなかったのです」

 僕の言葉にロヴィーサ嬢は驚いているようだった。

「エド殿下はわたくしの料理が食べたかったのですね」
「そうなのです。ロヴィーサ嬢の料理でないと僕は満足できなくなっているのです」
「まぁ……嬉しいことを仰る」

 頬を染めて喜ぶロヴィーサ嬢だが、僕は切実だった。お腹は鳴っているし、何か食べたくて仕方がない。
 切ないお腹を押さえていると、ロヴィーサ嬢が爺やにお茶を淹れて来てくれるように頼む。
 その間にロヴィーサ嬢はマジックポーチからパンとジャムを出して、クリームチーズも出して、クリームチーズとジャムのサンドイッチを作ってくれた。
 爺やが持って来たお茶と一緒にクリームチーズをジャムのサンドイッチを食べる。ロヴィーサ嬢の作ったサンドイッチはそれだけで全く味が違って、もりもりと食べられてしまう。

 サンドイッチを食べ終わって、僕はティーカップからお茶を飲む。スーッと爽やかさが鼻に抜ける冷たいミントティーだ。
 ミントティーは身体を芯から冷やすようだった。

「そのミントティーはこの国の特産品のようですよ」
「え!? 魔力のこもったお茶ではないのですか!?」

 完全にロヴィーサ嬢と爺やを信じていたので、僕は飲んだミントティーが魔力のこもったものだと思い込んでいた。
 そうではなかったようだが、普通のものを口にしたときのような不快感は全くなかった。

「アルマス様からお手紙をいただいていたのです。わたくしがエドヴァルド殿下の食事を作っているので、わたくしに送ったのでしょうね。爺やさんから受け取りました」
「アルマスが手紙を!?」

 僕に内緒でロヴィーサ嬢に手紙を送るなんて、アルマスも酷いと思ってしまうのは僕が嫉妬深いからだ。ロヴィーサ嬢は手紙の返事を書いていたのだろう。

「爺やさんはミエト家のお屋敷に手紙が届いたことに気付いて、こちらに持ってきてくれたのです」

 爺やには手紙の到着を感知する魔法も使えたようだ。
 どこまでも王族に仕えることに向いている能力の持ち主だと思う。

 ロヴィーサ嬢は隠すことなく僕にアルマスからの手紙を見せてくれた。
 手紙の中身には、常人が食べるものを魔族が食べられるようにする方法が書いてあった。

「逆もあったんですね!?」
「そのようです。魔族が食べる場合には魔力の補給にはならないけれど、害にならなくなるようになっているようですよ」

 アルマスはモンスターの肉や魔力のこもった食材から毒素を抜く研究をしたが、今度は魔族が普通のものを食べても問題ないような方法を見出した。
 どのような方法かも書いてある。
 マンドラゴラの葉っぱを一枚一緒に入れて、マンドラゴラに歌わせるというモンスターの肉や魔力のこもった食材から毒素を抜く方法と同じだった。

「僕は普通の食べ物も食べられるようになるんですね」
「そのようですよ、エド殿下」
「アルマスとヘンリッキにお願いしておけば、お弁当のおかずを取り換えることもできるようになる」

 アルマスとヘンリッキがお弁当のおかずを取り換えていても、僕はそれに加わることができなかった。常人の食べるものは僕にとって害になりかねないものだったからだ。それが同じものを食べられるようになる。

「アルマスは新しい方法を開発しましたね」
「ミントティー、美味しかったでしょう?」
「美味しかったです」

 アルマスからの手紙のおかげで、僕はこの国でミントティーを飲むことができた。爽やかなミントティーは身体を芯から冷やすようで心地よかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

処理中です...