末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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三章 王子と母の思い出

12.魔族の国の魔窟

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 冬休みに入る前の試験で、アルマスが学年一位、僕とヘンリッキが同点で二位だった。
 間違いがないように何度も見直したはずなのに、僕は一問だけ間違ってしまっていた。それはヘンリッキも同じだった。

「アルマスが満点なのに、追い付けなかった!」
「一問だけなのに!」

 悔しがる僕とヘンリッキに、アルマスが言う。

「一問しかミスしてないなら、それは成長だと思うよ。二人とも頑張ったじゃないか」
「上から目線がむかつく!」
「アルマス、次は追い付くからな!」

 じゃれ合うアルマスと僕とヘンリッキ。
 特に険悪な空気にならなかったのは、アルマスとヘンリッキが一度喧嘩して仲直りをして関係を深め合ったからかもしれない。

 ミエト家に帰ってロヴィーサ嬢に報告すると、ものすごく褒められた。

「後一問で満点だったなんてすごいですよ。エド殿下、とても頑張りましたね。一教科の一問だけで、他の教科は満点だったのでしょう?」
「はい、一教科で一問だけなので、余計に悔しいのです」
「その悔しさをばねに勉強すれば、夏休み前の試験はきっと満点が取れますよ。取れなかったとしても、エド殿下の努力は実っています」

 全幅の信頼で僕のことを受け止めてくれるロヴィーサ嬢に、僕は悔しい気持ちも薄れてしまった。
 ロヴィーサ嬢は僕を絶対に馬鹿にしないし、僕が年下で子どもっぽくても受容してくれる。
 こんなロヴィーサ嬢だからこそ僕は好きになったのだ。

「頑張ったお祝いに、おやつはエド殿下の好きなものを作ります。何がいいですか?」

 問いかけられて僕は考えた。
 僕の好きなおやつはたくさんある。ロヴィーサ嬢の作るおやつは何でも美味しすぎるのだ。

「コーヒー味のケーキがあったじゃないですか。名前を忘れてしまったんですけど」
「ティラミスですね。作りましょう」

 僕のリクエストに応えてロヴィーサ嬢はすぐにティラミスを作ってくれた。
 コーヒーの沁み込んだ生地とクリームチーズがよく合って美味しい。ほろ苦いところは大人の味で、僕は年上になったような気分になっていた。

「冬休みは魔族の国を訪ねますか?」
「お祖父様とお祖母様に会いたいですね。行きましょう」

 食べながら僕とロヴィーサ嬢は冬休みの計画を練っていた。

 冬休みの初日に、僕とロヴィーサ嬢は爺やと一緒に魔族の国に行った。
 お祖父様とお祖母様とダミアーン伯父上が迎えてくれる。

「エドヴァルド、よく来たな。今回は、エドヴァルドとロヴィーサ嬢を連れて行きたいところがある」
「お祖父様、お久しぶりです。連れて行きたいところとはどこですか?」
「ダミアーンが案内してくれる」

 急なことで僕が戸惑っていると、ダミアーン伯父上が説明してくれた。

「ロヴィーサ嬢は見事な狩りの腕をしているとこの前の滞在でも分かった。エドヴァルドをこの国の魔窟に連れて行っていいのではないかと父上と母上と話していたのだ」
「魔窟を見てみたくはありませんか?」

 ダミアーン伯父上とお祖母様に言われて、僕はロヴィーサ嬢の方を見る。ロヴィーサ嬢は小さく頷いてくれた。

「僕はミエト家の領地にある魔窟しか知りません。魔族の国の魔窟がどうなっているのか知りたいです」
「それならば、着替えて来なさい。ロヴィーサ嬢も冒険者の格好で」
「はい、分かりました」
「着替えてまいります」

 お祖父様は魔族の国の国王で魔王なので、会うには正装をしていなければいけなかった。その格好で魔窟に行くわけにはいかない。
 ダミアーン伯父上に促されて、僕は王族用の客間で、ロヴィーサ嬢も王族用の隣りの客間で着替えてダミアーン伯父上の元に戻って来た。
 ダミアーン伯父上もシャツとコートとパンツとブーツという格好に着替えている。背が高いのでダミアーン伯父上のロングコート姿はとても格好がいい。
 見惚れていると、ロヴィーサ嬢がそっと僕に手を差し出した。僕はその手を握る。

 手を繋いで歩いて行く僕とロヴィーサ嬢をお祖父様とお祖母様は目を細めて送り出してくれた。

 魔窟まではダミアーン伯父上の魔法で移転して行った。
 魔窟の入口は街から少し離れた林の中にあって、洞窟のようになっている。
 洞窟から入って降りていくと、ひとの気配があった。
 警戒していると、上半身が魚でひとの脚をつけたような不思議な生き物が立っている。

『いらっしゃいましたね、ダミアーン王太子殿下』

 魚の口から出る声は不思議な響きを持っていた。

「こちらは魔窟の管理人のマーマンだ。名前はあるのだが私たちの喉では発音できないので、マーマンと種族名で呼ばせてもらっている」
『初めまして。こちらがダミアーン王太子殿下の大事な甥の君と、その婚約者さまですか?』
「そうだな。今日はよろしく頼む」

 魔窟にいるマーマンは美しい鱗に覆われていて、上半身がどう見ても魚なのだが、下半身は鱗が覆っているが人間のような脚をしている。

「マーマンというと、モンスターですか?」
「ひとに近い種族ではある。魔族の国では魔窟の管理人にマーマンやリザードマンなどを採用しているのだ」

 魔族の国の魔窟には管理人がいるようだ。
 ミエト領の魔窟との違いに僕は驚いてしまう。

『三層のコカトリスの卵が生みたてですね。五層のホタテも収穫時期ですね。六層では豚のモンスターがよく太っていますよ』

 さすが魔窟の管理人というだけはある。魔窟の中のモンスターは全部把握済みのようだった。
 それにしても、綺麗な脚だが、その上に乗っている魚の身体がどうしても僕の目を引いてしまう。僕は魚料理が大好きなのだ。
 食材に見えてしまう僕に、ダミアーン伯父上は気付いているのか苦笑している。

「エドヴァルド、マーマンは大事な管理人だ。食べてくれるなよ」
「は、はい、もちろんです」

 僕が答えるとマーマンが大らかに笑う。

『私を食べようとは、なかなか肝の据わった甥の君ですね。私は食べても美味しくないですよ』

 笑って済まされたのでよかったが、僕は自分の食いしん坊ぶりを少し恥じていた。

 大振りのナイフを構えたロヴィーサ嬢を先頭に、魔窟を下層へ向かっていく。
 三層はコカトリスの養殖場だった。大量にいるコカトリスが巣を守っている。ロヴィーサ嬢は大振りのナイフを鞘に納めて、コカトリスを追い払って卵を手に入れた。
 興奮したコカトリスが、石化のブレスを吐いてくるが、それは僕の風の魔法でロヴィーサ嬢を守る。

「新鮮な卵が手に入りましたね」
「何を作りますか?」
「茶わん蒸しでも作りましょうか」

 茶わん蒸し。
 聞いたことがないが、きっと美味しい卵料理なのだろう。

 五層には水が溜まっていた。ロヴィーサ嬢は躊躇いなくその中に飛び込んでいく。ひとの顔程もある大きなホタテ貝を幾つも持って戻ってくるロヴィーサ嬢に、僕はお腹が空き始めていた。

 六層には豚のモンスターがいた。
 よく太っていて、牙が生えていて、いかにも狂暴そうだ。
 僕たちを見て突進してくる豚のモンスターを、ロヴィーサ嬢ががっしりと受け止める。そのまま豚のモンスターは投げられて、壁に頭をぶつけて昏倒した。
 ロヴィーサ嬢は大振りのナイフで豚のモンスターに止めを刺す。

「卵に豚肉……かつ丼にしましょうか」
「かつ丼?」
「どのような料理なのだ?」

 メニューを考えるロヴィーサ嬢に、僕とダミアーン伯父上が問いかける。ロヴィーサ嬢は控えめに目を伏せて説明した。

「豚肉でトンカツを作ります。それをお出汁と玉ねぎと一緒に煮て、卵とじにした料理です」
「それは美味しそうだな」
「食べたいです」
「ご飯の上に乗せるととても美味しいのですよ」

 ロヴィーサ嬢の説明に、僕はもう我慢ができなかった。

「ロヴィーサ嬢、お腹が空きました」
「そうですね、そろそろお昼です。ダミアーン王太子殿下、帰りましょう」
「私や父上や母上にもかつ丼とやらを振舞ってくれるか?」
「もちろんでございます。作らせていただきます」

 控えめにだが、しっかりと答えたロヴィーサ嬢に、僕は期待しながら魔窟の入口まで戻った。ロヴィーサ嬢はしっかりと巨大な豚のモンスターを肩に担いでいる。

『卵とホタテと豚のモンスターを収穫しましたね。記録しておきます』

 魔窟の入口のホールになっているような場所ではマーマンが僕とロヴィーサ嬢とダミアーン伯父上の持って帰るものを確認して、記録していた。
 この魔窟のモンスターの数も、卵の数もこうやって管理されているのだろう。魔族の国は魔窟も全く違うシステムだった。

 王城に帰ったロヴィーサ嬢はお祖父様とお祖母様に許可を取って、かつ丼を作ってくれた。揚げたトンカツを切って、玉ねぎとお出汁と煮て、卵とじにしたものをご飯の上に乗せる。
 お行儀が悪いが僕はかつ丼を掻き込んでしまう。
 お腹が空いていて、美味しくて食べる手が止まらなかったのだ。

「これがかつ丼か、とても美味しいな」
「美味しいですわね。ロヴィーサ嬢はお料理が本当にお上手」
「お代わりが欲しくなるな」

 お祖父様もお祖母様もダミアーン伯父上までロヴィーサ嬢の料理に夢中になっていた。
 将来の僕のお嫁さんがお料理上手で、お祖父様とお祖母様とダミアーン伯父上の舌も満足させられることに、僕は誇らしい気持ちになっていた。
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