末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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三章 王子と母の思い出

17.ミエト領の魔窟に管理人を

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 冬休みの間に、ロヴィーサ嬢は決めたことがあったようだ。
 お茶の時間に僕に相談してくれた。

「ミエト領の魔窟に管理人を置きたいと思うのですが、どうでしょう?」
「魔族の国ではマーマンやリザードマンを管理人にしているとダミアーン伯父上が話していましたね」
「魔族の国の魔窟は完璧に管理されていました。ミエト領の魔窟も管理できれば、いつ頃に狩りに行けばいいか分かるし、魔窟から魔物が出て来ることもないと思うのです」

 ロヴィーサ嬢の考えに僕は大賛成だった。
 以前に魔窟からウナギのようなドラゴンが出てきてしまって、近隣を荒らしたことがあった。家畜を失った住民もいたようだし、魔窟の管理はミエト領にとって重大な課題だった。

 魔族の国でマーマンやリザードマンを雇って魔窟の管理人にしているというのを見学してから、ロヴィーサ嬢はずっと考えていたのだろう。

「いいと思います。僕にできることがありますか?」
「エド殿下のお力をお借りしたいのです。ダミアーン王太子殿下に連絡を取って、マーマンやリザードマンの管理人を雇う仲介人を紹介してほしいとお願いしてほしいのです」

 ロヴィーサ嬢の頼みとあれば僕は断ることはない。
 すぐさまダミアーン伯父上に手紙を書いた。
 爺やが魔法でダミアーン伯父上に手紙を届けてくれて、ダミアーン伯父上からの返事はすぐに届いた。

「管理人の候補となるものをミエト家に送るそうです。魔法で送るので待っているようにと書かれています」
「ダミアーン王太子殿下にお礼を申し上げておいてください」
「分かりました」

 僕とロヴィーサ嬢が話していると、玄関の方から使用人がやってくる。酷く怯えた顔をしていた。

「ひとではないものが、このお屋敷に来ています。魔族の国の王太子殿下からの招待状を持っております」

 普通のひとにしてみれば、マーマンやリザードマンは恐ろしいのかもしれない。僕には体が魚で足が人間のマーマンは、美味しそうに見えて仕方がないのだが。

「その方はわたくしのお客人です。すぐに参ります」
「僕も行きます」

 ソファから立ち上がって、コートを手に取って、僕とロヴィーサ嬢は玄関に向かった。
 来ていたのは魔族の国の魔窟で見たマーマンと同じ、体が魚で足が人間の生き物だった。

『初めまして。ダミアーン王太子殿下より命を受けて参りました』
「初めまして、わたくしがミエト公爵家の当主のロヴィーサ・ミエトです」
「僕はロヴィーサ嬢の婚約者のエドヴァルド・ナーラライネンです」

 挨拶を交わすと、さっそく僕はマーマンを連れてミエト領の魔窟に向かった。
 魔窟の入口のホールのようになっている場所に入ると、マーマンがそこを見渡して色々と確かめている。

『十分に生活できそうな場所ですね。生活用品を何点かご用意いただくことになります。その他、管理する代わりに、魔窟で採れるモンスターの一部をいただくことになりますがよろしいですか?』
「お給料などはどうすればよろしいでしょう?」
『人間の通貨は私には意味がありません。魔窟の管理をするついでに、魔窟でモンスターを食べさせていただいて、生活用品を定期的に届けていただくだけで構いませんよ』

 言われてみれば、マーマンには人間の通貨は必要ないだろう。
 基本的に管理人となったら、魔窟から出ないで過ごすようだ。

「年休はどうしましょう? 休暇は?」
『休暇は自由に取らせていただきます。ただ、私が魔窟から出ると周辺の住民を怖がらせてしまう可能性があるので、私が魔窟の管理人になるということは周辺の住民にはしっかりと知らせてください』
「分かりました」

 ロヴィーサ嬢とマーマンの間で契約が結ばれる。
 マーマンが喋っている間、僕はその体に釘付けだった。綺麗な鱗に覆われた皮膚の下には、どれだけ美味しい身があるのだろう。
 白身だろうか、青魚だろうか。

 僕の視線に気付いたマーマンが苦笑する。

『私は食べないでくださいね』
「あ、はい」

 ついついマーマンも魚と思ってしまう僕は、必死に思考を切り替えた。

 魔窟に管理人ができたことは、周辺住民に知らされた。冒険者ギルドにもロヴィーサ嬢と僕で伝えに行った。

「魔窟に管理人ですか。そんなことができるのですね」
「魔族の国の魔窟には管理人が必ずいるそうです。魔族の国の王太子殿下にお願いして、雇ってもらいました」
「間違えて狩らないように、冒険者ギルドでも周知します」

 冒険者ギルドの長はロヴィーサ嬢の説明を聞いて納得して請け負ってくれた。

 そうなると、マーマンの呼び名なのだが、マーマンの言語は特殊で、人間には発音できない名前をしていると聞いていた。
 分かりやすい呼び名があった方がいいだろう。
 考えていると、アルマスとアクセリとアンニーナ嬢がミエト家にやってきた。アンニーナ嬢の淑女教育の日だったのだ。

 最近はアンニーナ嬢は美しく脚を揃えて座れるようになって、背筋も伸びている。料理を食べるときに前屈みにならないし、ナイフやフォークやお箸の使い方も上達した。

「アンニーナ様は免許皆伝ですね」
「本当ですか?」
「はい。しっかりと淑女になっておられますよ」
「嬉しいです……けど、ミエト家にもう来られなくなるのは嫌です」
「来てくださって構いませんよ」
「嬉しいです! ミエト家のご飯やおやつはいつも美味しいから!」

 美味しいものを食べたいという気持ちを出すアンニーナ嬢は年相応に見えた。今年でやっと十歳なのだから当然だろう。

「アルマス、アクセリとアンニーナ嬢のお誕生日はいつ?」
「俺の誕生日の一か月くらい後だよ。二人とも同じ月に生まれてるんだ」

 そうなると、アンニーナ嬢は今年で十一歳になるということだ。アクセリは十二歳になる。

「アクセリはもしかして、幼年学校を卒業する年?」
「そうだよ。来年度から高等学校に入学するよ」

 アンニーナ嬢がマナーを学んでいるときに、アクセリもそれを聞いてマナーを学んでいたから、高等学校で貴族たちに混ざっても問題はないだろう。それを考えると、アクセリもアンニーナ嬢も早い時期からミエト家に学びに来ていてよかったと思える。

 ロヴィーサ嬢がおやつを持ってくる。今日はミルクレープだった。
 何層にも重なるクレープの間にクリームが挟まっている。上からさっくりとフォークで切ると、断層が見えて楽しい。

「ケーキだ! 兄上、ケーキだよ!」
「アクセリ、落ち着け」
「あ、つい」

 ミルクレープに喜ぶアクセリも年相応だった。

 ミルクレープを食べて、紅茶を飲んでいると、アルマスから疑問が飛び出る。

「ミエト領の魔窟に管理人が雇われたって話を聞いたよ。人間じゃないんだって?」
「そうなんだよ。マーマンって言って、体が魚で足が人間の生き物なんだ」
「名前はなんて言うんだ?」

 アルマスの問いかけに僕は答えられない。
 マーマンの名前を知らないからだ。

「マーマンの言語は特殊で、人間には発音できないそうです」

 ロヴィーサ嬢が代わりに返事をしてくれた。

「それじゃ、名前を付けないといけないな」
「それは僕も思ってた。呼びやすい名前があった方がいいよね」
「お魚四号だな」
「え?」
「だから、お魚四号だよ」

 何故か分からないが、アルマスの中ではそれでマーマンの名前が決定してしまっているようだった。
 大根マンドラゴラが大根一号、人参マンドラゴラが人参二号、蕪マンドラゴラが蕪三号で、マーマンはお魚四号。アルマスの中ではそれで納得できているのだろう。

「お魚四号……アルマスに言われると、それしかないような気分になってくる」
「わたくしも、お魚四号しか浮かばなくなってきました」

 僕もロヴィーサ嬢もマーマンの呼び方がお魚四号で決まってしまいそうだった。
 アルマスのマンドラゴラの名前を知らなければ、何故四号かが誰も理解できないだろう。

「もっと違う名前……ダメだ、お魚四号のインパクトが強すぎて浮かばない」
「わたくしもです」

 違う名前を考えようとしても、お魚四号のインパクトが強すぎて全く浮かばない。
 僕とロヴィーサ嬢は顔を見合わせた。

「お魚四号にしましょうか」
「仕方がありませんよね」

 マーマンの呼び名は本人の意志も全く聞かずに、お魚四号に決まってしまった。

 魔窟に行ったときにマーマンにそれを告げたらどんな顔をされるだろうか。
 もうそれ以外浮かばなくなってしまったので、僕は仕方がないと思っていた。
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