末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

文字の大きさ
126 / 180
五章 十六歳の性教育

6.ヘンリッキの十七歳のお誕生日

しおりを挟む
 ヘンリッキの十七歳のお誕生日。
 僕はちょっとだけヘンリッキが羨ましかった。
 ヘンリッキはアルマスとキスをしているし、早く十七歳になる。
 僕は夏休みの終わりに十六歳になったばかりで、高等学校を卒業してもロヴィーサ嬢とすぐには結婚できず、お誕生日を待つことになる。
 ヘンリッキはお誕生日が早いし、アルマスは僕とヘンリッキよりも一歳年上だ。アルマスとヘンリッキは高等学校を卒業したらすぐに結婚できるのが羨ましいのだ。

 そんな気持ちでヘンリッキのお誕生日会に行くと、僕は素直に感情が顔に現れてしまうらしい。ヘンリッキに問いかけられてしまった。

「エドヴァルド殿下のお好きな腸詰にしていないソーセージはありますよ。何か足りませんでしたか?」

 ここで食べ物が足りていないと思われてしまうのはちょっと不本意だったが、それでも僕はヘンリッキに言ってみた。

「ヘンリッキとアルマスは、高等学校を卒業したらすぐに結婚するんだろう。僕はお誕生日まで待たないといけない」

 むくれる僕にヘンリッキが笑い出す。

「エドヴァルド殿下の臣籍降下は国でも大きな行事になります。私やアルマスがその前に結婚することはできません」
「そうなの?」
「身分の高いものの結婚を差し置いて結婚することはできないのですよ」

 僕がミエト家に臣籍降下することは、この国にとって大きな行事になる。そのため公爵家の嫡男であろうともヘンリッキが僕より先に結婚することは許されない。
 貴族社会ではそういう細かなこともきっちりと決まっているようなのだ。

「そうなんだ。羨ましがってごめんね、ヘンリッキ」
「気にしていません」
「十七歳のお誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」

 ヘンリッキから話を聞けば僕も心からヘンリッキをお祝いすることができるようになっていた。
 隣りに立つロヴィーサ嬢もヘンリッキにお祝いを言っている。

「ヘンリッキ様の一年が素晴らしいものになりますように」
「ありがとうございます、ロヴィーサ様。エドヴァルド殿下はロヴィーサ様に夢中ですね」
「そんな、お恥ずかしい……」

 結婚の件で拗ねていた僕を馬鹿にするのではなく、ロヴィーサ嬢に夢中すぎるからと言ってくれるヘンリッキ。話を聞いていたアルマスが苦笑している。

「俺も……じゃない、私も高等学校を卒業してすぐに結婚できないのは知りませんでした。貴族には序列があるのですね」
「ロヴィーサ様は公爵家の当主、エドヴァルド殿下は王家から臣籍降下する。私は公爵家の嫡男だし、アルマスは伯爵家の子息です。そうなると、どちらの結婚が優先されるか、分かるでしょう」
「エドヴァルド殿下とロヴィーサ様のお子は、王太子殿下になるかもしれないのですよね。それは結婚が私たちよりも重視されても仕方がない」

 ヘンリッキの説明にアルマスも納得していた。
 僕はロヴィーサ嬢との間に生まれた子どもが王太子になる可能性があることを改めて実感する。

「ロヴィーサ嬢、僕とロヴィーサ嬢の子どもは王太子になるかもしれないのですね」
「ミエト家は代々女性が継いでいます。女性が生まれなかった場合には、親戚から女性の子どもを養子にとって、男性の子どもと将来結婚させる約束で次期当主に据えます。わたくしの子どもが男の子だったら王太子殿下に、女の子だったらミエト家の次期当主になるのではないでしょうか」

 そうだった。
 ミエト家にも当主は女性だという因習があったのだ。
 それを守り続けることがこの先正しいのかどうかは別として、ロヴィーサ嬢と僕との間の子どもが男の子だったらエリアス兄上とユリウス義兄上の養子になって、女の子だったらミエト家の次期当主となるのはロヴィーサ嬢の中では決定のようだった。

「エルランド兄上のお子が王太子になるかもしれません」
「それでも構わないと思いますよ。エルランド殿下のお子とわたくしとエドヴァルド殿下の子どもは、従兄弟同士になりますし」

 僕が王家から外れて臣籍降下したとしても、エリアス兄上ともエルランド兄上ともヒルダ姉上とも血が繋がっている事実は消えない。王家のものとしては除籍されるが、公爵家の当主の配偶者として生きていけるのだから、エリアス兄上と父上には感謝しなければいけなかった。

 ヘンリッキがロヴィーサ嬢の指輪を盗んだとき、エリアス兄上と父上はミエト家を公爵家にする算段を整えてくれた。
 侯爵家だったミエト家は、ヘンリッキの兄のハンヌの反逆罪での修道院行きと引き換えに公爵家になった。

 あれももう四年も前のことになるのかと考えると、僕も育ったものである。
 十二歳で高等学校に行きたいとそれだけを願っていた幼かった僕が、もう十六歳になっている。

「それにしてもヘンリッキはいいなぁ。早く十七歳になれて」
「誰でもお誕生日が来ないと年は取らないのですよ」
「僕も早く十七歳になりたい! ロヴィーサ嬢と並んでも子どもだと思われない年になりたい」

 拗ねたように言う僕に、ヘンリッキとアルマスが笑っている。
 二人は僕を間に挟むようにして立った。

「気付いてますか、エドヴァルド殿下。エドヴァルド殿下は私たち三人の中で一番背が高いのですよ」
「十六歳と思えないくらい立派な大人の顔をしていますよ」

 言われて見て比べると、確かに僕はヘンリッキよりもアルマスよりも背が高かった。魔族のダミアーン伯父上も背が高いし、母上も背が高かったという。ヒルダ姉上もエリアス兄上もエルランド兄上も背が高いし、魔族は背が高いものが多いので、僕は身体だけは大きく育っているようだ。

「まだダミアーン伯父上に届かないから、僕は大きくないのだと思っていた」
「エドヴァルド殿下は身長が伸びていますよ」
「きっとダミアーン王太子殿下くらいに大きくなりますよ」

 僕は大きくなりたいのだが、そうなったらロヴィーサ嬢との身長の差が広がってしまう。

「ロヴィーサ嬢、大きい男は嫌いですか?」
「エドヴァルド殿下が好きです」
「僕が好き?」
「はい。大きくても小さくても、エドヴァルド殿下が好きです。わたくし、初めてエドヴァルド殿下に出会ったとき、なんて可愛らしい方だと思ったのですよ。それが立派に成長なさって、これから先も楽しみです」

 僕が僕である限りロヴィーサ嬢は好きでいてくれる。
 その言葉は心強いものだった。

 安心して料理を取りに行った僕に、ロヴィーサ嬢もついて来てくれる。
 僕は真っすぐに腸詰にしていないソーセージの置いてあるテーブルに行った。腸詰にしていないソーセージをパンに挟んでザワークラウトも挟んで、ケチャップと粒マスタードで味を調える。
 一口齧ると、腸詰にしていないソーセージのスパイスの味と、肉の食感が口の中に広がる。

「ロヴィーサ嬢、美味しいですよ」
「エドヴァルド殿下はこのソーセージがお好きですね」
「ハーヤネン家のパーティーとなると、このソーセージのイメージがあります」

 もぐもぐと食べる僕の隣りで、ロヴィーサ嬢も腸詰にしていないソーセージをパンに挟んでいる。
 お上品に食べようとしても、パンに挟んでいるのでどうしてもかぶり付かなければいけない。僕は豪快にかぶり付いて口いっぱいに頬張っているが、ロヴィーサ嬢はちまちまと齧って食べている。

「美味しいですね。わたくしもミエト家で作りましょうか?」
「いいえ、これはハーヤネン家で食べる特別なものにしたいのです」
「ハーヤネン家でしか食べられないもの。それも素敵ですね」

 腸詰にしていないソーセージを食べたいから、僕がずっとヘンリッキと友情を保つなんて言ったら、ヘンリッキに笑われそうだけれど、そう言いたいくらいに腸詰にしていないソーセージは美味しかった。

「来年はヘンリッキ様は十八歳ですね」
「特別な成人の年です」
「来年もヘンリッキ様をお祝いしましょうね」
「腸詰にしていないソーセージも食べに来ないと」

 僕が言えばロヴィーサ嬢がころころと笑う。

「ソーセージが目当てではなくて、お祝いがメインでしょう?」
「そうだといいですね」
「もう、エドヴァルド殿下は」

 笑うロヴィーサ嬢に僕は冗談めかして言ったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...