末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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五章 十六歳の性教育

27.ロヴィーサ嬢のお誕生日会とその後

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 着替えをしてエプロンを付けたロヴィーサ嬢が巨大な包丁で新鮮なマグロを解体していく。
 分厚い肉を剥がされて、骨だけになっていくマグロを、誰もが唾を飲んで見守っている。

「去年はロヴィーサ嬢のお誕生日に来れなかったのですよ。こんな素晴らしいことがあるのならば、是が非でも来るんだった」
「エルランドは食いしん坊だね」
「ダミアーン伯父上は去年の解体ショーにも立ち会ったのでしょう? 美味しかったですか?」
「私はネギトロ鉄火をもらったよ。とても美味しかった」
「羨ましい!」

 エルランド兄上とダミアーン伯父上が、伯父と甥の気安さで話をしている。

「ああやって解体するのですね」
「頭を落とすのが大変そうでした」
「私が解体させてもらったときには、ロヴィーサ嬢に頭と尻尾を落としてもらっていましたからね。それでも大変でした」
「王配殿下は立派にやり遂げられましたよ」
「もっと精進したいと思って、今日はやって来たのです」

 ユリウス義兄上とセシーリア嬢はすっかりと仲良くなっている。二人で手に汗を握る解体ショーを見ている。

「すげぇ……あ、いや、すごいですね。あのマグロの冊の分厚いこと」
「アルマス、どこが食べたい?」
「大トロまで行かなくてもいいんだよな。俺は結構赤身が好きで」
「私がロヴィーサ様からもらってきてやるよ」

 アルマスとヘンリッキは解体ショーを見ながら食べたい部位を言っていた。ヘンリッキはアルマスにいいところが見せたいのだろう。

 僕は身だけになったマグロをロヴィーサ嬢がマンドラゴラの葉っぱと一緒に袋に入れて、エーメルに歌わせて毒素を抜いているのに近付いていく。額に汗をかいていたがロヴィーサ嬢は僕を見ると笑顔になった。

「エドヴァルド殿下はどの部分を食べますか?」
「骨についた肉を焼いたらとても美味しいのだと聞きました」
「それでは、すぐに厨房で焼いてもらいますね」

 ロヴィーサ嬢はパーティーの主催でもある。マグロだけに構っていられない。厨房ではミエト家の料理人さんが待機していた。
 マグロの刺身の前には長蛇の列ができている。誰もがこの瞬間を楽しみにしてこのパーティーにやってきたのだ。

 会場の端のテーブルの上には、ネギや大葉やたくあんやとろろなど、トッピングも大量に用意されている。ご飯も炊かれていて、会場中にいい香りが満ちていた。

「ミエト家のパーティーに招待されてよかったです」
「本当に素晴らしいマグロですね」
「トッピングまで揃えてあって完璧です」

 ロヴィーサ嬢のお誕生日は大成功だった。
 僕は塩焼きのカマをご飯と一緒に食べた。脂がしっかりとのっていて、しっとりとしていてとても美味しい。
 ロヴィーサ嬢はクラース殿と話していた。

「わたくしの捌き方、どうだったでしょう?」
「とても上手だったよ。鬼の力の指輪は役に立っているようだね」
「はい。クラース様が曾お祖母様に渡して、それをお祖母様が受け継いで、それを母上が受け継いで、今はわたくしがずっとつけています」
「この家を守るものとして特別に作らせたものだから、ずっと受け継いでくれていて嬉しいよ。これからも活用してくれ」
「はい、クラース様」

 とても背が高いクラース殿を見上げるロヴィーサ嬢の目は、信頼に満ちていた。曾祖父であるクラース殿がいてくれてロヴィーサ嬢も心強いのだろう。

「クラース殿よろしいかな?」
「はい、王太子殿下、なんでしょう?」

 ダミアーン伯父上に呼ばれてクラース殿がロヴィーサ嬢のそばを離れる。ダミアーン伯父上はクラース殿と話したいようだ。

「エドヴァルドは自分が魔族だということを悩んでいた。どうしてもエドヴァルドはロヴィーサ嬢よりも寿命が長い。ロヴィーサ嬢に遺されることをとても怖がっていた」
「私も妻と結婚するときには覚悟が必要でした。覚悟をしたはずなのに、妻が亡くなったときには心が引き千切られるように悲しかった。娘が亡くなったときには、耐えられなくなって、魔族の国へ戻りました」
「クラース殿のその経験があるからこそ、エドヴァルドのそばにクラース殿がいてくれるのは心強い。エドヴァルドを支えてくれるか?」
「私にできることでしたら」

 ロヴィーサ嬢との寿命の違いに悩んで、魔族の国のお祖父様とお祖母様とダミアーン伯父上に相談したこと。それをダミアーン伯父上は忘れていなかった。
 ロヴィーサ嬢と結婚すれば、クラース殿は義理の曾祖父になる。身内に魔族がいてくれて、大事なひとを亡くすという経験をしているならば、共に支え合えるのかもしれない。
 僕にとってクラース殿が家族になるのはとても重要なことだった。

 それを考えてロヴィーサ嬢は今日の日にクラース殿を貴族たちに紹介したのだろうか。
 ロヴィーサ嬢にそのことを聞いてみたい気がしていた。

 ロヴィーサ嬢のお誕生日会が終わって、使用人さんたちが大広間を片付けている間、僕とロヴィーサ嬢は着替えて居間で寛いでいた。クラース殿は離れの棟に戻っていて、爺やはいるが実質僕とロヴィーサ嬢二人きりだった。

「ロヴィーサ嬢は結婚式でもマグロの解体ショーをやるのですか?」
「エド殿下、聞いていたのですね。セシーリア様はして欲しいようですが、王家のエルランド殿下との合同結婚式で、わたくしがマグロの解体ショーをやるのは、おかしくはありませんか?」
「僕はロヴィーサ嬢らしくていいと思います」

 披露宴で振舞われる切り立てのマグロ。
 それは歴史に残る合同結婚式になるだろう。

「王家のしきたりもありますし、よく相談してみないと決められません」

 ロヴィーサ嬢と僕だけで決められることではない。それは僕にも分かっていた。父上とエリアス兄上はマグロの解体ショーを僕とエルランド兄上の合同結婚式で行うことを許してくれるのだろうか。

「ロヴィーサ嬢は、僕のことを思って、クラース殿を今日、皆様に紹介したのですか?」
「それはあります。エド殿下もクラース様も魔族。魔族同士で家族としてミエト家で生きていけたらよいと思ったのです」

 僕が自分の寿命とロヴィーサ嬢の寿命が違うことに関して悩んでいたことは、ロヴィーサ嬢も知っている。どこまでも僕のことを考えてくれるロヴィーサ嬢に、僕は涙が出てきそうになる。

「ロヴィーサ嬢の優しさに泣けて来そうです。なんで僕はこの年になって泣き虫なのでしょう」

 自分が泣き虫なことが恥ずかしい僕に、ロヴィーサ嬢がハンカチを差し出してくれる。

「エド殿下は感情が豊かなのですよ」
「男らしくないし、情けないし、女々しいと思いませんか?」
「全然思いません。エド殿下らしくて、とても可愛らしいです」

 可愛いと言われて僕は涙を拭って唇を尖らせた。

「可愛いではなくて、格好いいと言われたいのです」
「どんな問題にも真正面から向かっていくエド殿下はとても格好いいですよ。でも、可愛いというのはやめられませんね」
「格好いいだけではダメなのですか?」
「どうしても、わたくしにとってはエド殿下は可愛いのです」

 初めて出会ったときからロヴィーサ嬢は僕のことを「なんて可愛い」と思ってくれていたと言った。そのときの印象のままで僕はロヴィーサ嬢の胸にいるのだろう。

「僕だって男なのですよ」

 ロヴィーサ嬢の華奢な手を引き寄せて胸に抱き寄せてしまうと、ロヴィーサ嬢が目を伏せる。長い黒い睫毛が頬に影を落としてとても色っぽい。
 そのまま唇を寄せようとすると、ロヴィーサ嬢に胸を押された。

「エド殿下……爺やさんが……」
「そうだったー!」

 僕はまたしてもキスができないのだった。
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