末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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最終章 王子と令嬢の結婚

12.ことの顛末

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 家庭教師は、取り調べで供述していたらしい。

「魔族は信用ならないものだとずっと思っていた。先帝陛下が魔族の妻を持ったことも信じられなかった。生まれて来た子どもが人間であったときにはどれだけ安心したことだろう。それなのに、末の王子は魔族だった」

 この国に魔族に対してよくない感情を持つ集団があるとは聞いたことがあったけれど、僕はあまりにも魔族に対する敵対心に無防備だった。

「家庭教師は僕が劣っていたからではなく、魔族だから酷い扱いをしたのですね」
「そのようだ。決して許されないことだ」
「エドが魔族として生まれて、この国でどれだけ苦労して生きてきたかを知っているはずなのに、なんて酷いんだ!」

 父上もエリアス兄上も家庭教師の僕に対する仕打ちに関して怒ってくれている。
 僕に知らせずに密かに家庭教師を王城から追放していたのも、僕が気にすると思ったからなのだろう。
 父上とエリアス兄上の優しさに僕は泣けて来そうだった。

「エクロース家も令嬢が死にかけていて、冷静さを失っていたと、謝罪したいと言ってきている」
「エドとロヴィーサ嬢は謝罪を受ける気はありますか?」

 自分の娘が死にかけていて、こじ開けた形跡のある窓には鬼の力の指輪と似た跡がついていて、貴族の中では魔族は呪いを使ってひとを暗殺するという噂が流れている。全て家庭教師の仕組んだことだが、エクロース家の夫妻はそれを信じてしまった。

「わたくしは謝罪を受けても構いません。エド殿下はどうなさいますか?」
「僕が許せないのは家庭教師です。エクロース家の夫妻の訴えは正直不快でしたが、あれだけ巧妙に策を張り巡らせていたのならば仕方がないこと。謝罪を受けましょう」

 先に貴族の子息、令嬢に魔族と呪いの関係を話して、不信感を募らせておいて、その後で事件を起こして、鬼の力の指輪とそっくりの跡をこじ開けた窓につけておく。これだけ巧妙に準備されていたことならば、エクロース家の夫妻が騙されて、ミエト家を訴えても仕方のないことだった。

「寛大な対処をありがとう」
「この国の公爵家同士が争い合うのは、好ましくありませんからね」

 最終的に家庭教師はエクロース家の令嬢のハンナマリ嬢を死なせて、エクロース家とミエト家が憎しみ合うように持って行きたかったのだろう。
 自分の自業自得で王城を追われたのに、逆恨みして、エクロース家とミエト家の間に確執を作るためにハンナマリ嬢を簡単に死なせてしまうという考えも安直だし、魔族を認めない姿勢もおかしい。
 どうしてあんな奴が家庭教師になれたのか、僕は不思議でならなかった。

「あの家庭教師は父上が選んだのですか?」
「いや、私の代の宰相の縁者ということで、推薦された」
「魔族を憎んでいることに気付いてはいなかったのですか?」
「すまない、エド。私はあの家庭教師とはほとんど接触がなかったのだよ」

 どれだけでもひとはいい顔をしようとすればできる。
 ヒルダ姉上やエリアス兄上やエルランド兄上にはいい顔をしておいて、魔族の僕には酷く当たっていた家庭教師。
 今になって家庭教師の意図が分かって、断罪する日が来るとは思わなかった。

 エクロース家からの謝罪は、王城でエリアス兄上と父上の見届ける中、行われた。
 エクロース家の夫妻とハンナマリ嬢が深々と頭を下げている。

「この度は家庭教師の言葉に惑わされて、エドヴァルド殿下とロヴィーサ様を疑うようなことをして本当に申し訳ありませんでした」
「エドヴァルド殿下とロヴィーサ様を疑って訴えたにも関わらず、娘のハンナマリの命を助けてくださって本当にありがとうございます」
「許されることではないと思っておりますが、どうか、私たちが反省していることだけでも分かってください」
「エクロース家の公爵位を返上する覚悟で参りました」

 深く頭を下げているエクロース家の夫妻に、ロヴィーサ嬢が答える。

「公爵位を返上することはありません。今回の件は家庭教師の仕組んだこと。エクロース家とミエト家はこれからも共に王家を支えていきましょう」
「私とロヴィーサ嬢を疑ったことに関しては反省していただくとして、エクロース家も騙された被害者であります。今回のことは水に流して、エクロース家とミエト家が交友を持てたらよいと思います」

 ロヴィーサ嬢と僕の言葉にもう一度エクロース家の夫妻は頭を下げていた。
 ハンナマリ嬢が前に出て膝をついてお辞儀をする。

「命を助けていただいたこと、一生忘れません。本当にありがとうございました」

 ハンナマリ嬢もすっかりとよくなったようで、体に発疹も見られなかった。
 それにしても、あれを一目で毒と見抜いたアルマスもすごい。
 謝罪の席が終わってから、アルマスが別にエリアス兄上と父上に呼び出されていた。

「アルマス・バックリーン殿、今回はハンナマリ嬢の命を助けた働き、見事だった」
「どうして毒だとすぐに分かったのかな?」

 僕から話を聞いていた父上とエリアス兄上は、アルマスを褒め、毒と分かった理由を聞いている。

「あれは水辺の近くに生えている綺麗な花の毒なのです。手折ると黄色い汁が出て、それに触れると発疹が出ます。発疹の出方が同じだったので、あの花ではないかと検討をつけました」
「毒のある花だったのか」
「アルマス殿はそれを見ていたから分かったのだな」
「はい。間違えて食べてしまった家畜が、呼吸困難で死んでいくのも見ました。ハンナマリ様の症状はそれにそっくりでした」

 アルマスの知識があったからハンナマリ嬢を救うことができた。

「アルマス、本当にありがとう」
「役に立ててよかったです」

 僕もお礼を言えば、アルマスは安堵したように笑っていた。

 慌ただしく事件が終わって、父上のお誕生日が近くなってくる。
 僕とロヴィーサ嬢は父上のお誕生日のメニューを考えていた。

 エリアス兄上のお誕生日は子豚の丸焼き、エルランド兄上のお誕生日は若鶏の丸焼きだった。どちらも美味しくて大盛況だったので、父上のお誕生日にも何か美味しいものを作りたい。

「今回の事件で父上とエリアス兄上には迷惑をかけました。何か美味しいものでお礼をしたいのですが」
「季節も冬になりましたし、温かい料理がいいかもしれませんね」

 クラース殿に相談しようかとも思ったが、ロヴィーサ嬢は書庫からレシピを出して来た。

参鶏湯サムゲタンはどうでしょう?」
「さむげたん? どのような料理ですか?」
「若鶏をスープで煮て、もち米やネギやショウガやニンニクを入れて、味付けした料理ですよ」

 若鶏をスープで煮て、もち米やネギやショウガやニンニクを入れる。それはとても温まりそうな料理だ。

「ロヴィーサ嬢、それは美味しそうですね!」
「先帝陛下に喜んでもらえるでしょうか?」
「父上も、エリアス兄上も、エルランド兄上も喜ぶと思います」
「セシーリア様もいらっしゃるでしょうか?」
「セシーリア嬢と一緒に作ったらいいですね」

 セシーリア嬢とならば、ロヴィーサ嬢は魔窟に狩りに一緒に行くこともできる。セシーリア嬢も父上のお誕生日には来たがるのではないだろうか。

 父上に聞いてみて、セシーリア嬢も来てもいいか確認しなければいけないが、ロヴィーサ嬢が僕の婚約者として参加できているのだから、セシーリア嬢が拒まれることはないと思う。

「先帝陛下と国王陛下の許可が下りるといいですね」
「きっと、父上もエリアス兄上も許してくれると思います」

 家庭教師の件があって、僕もロヴィーサ嬢も家族と一緒に暖かい時間を持ちたかった。家庭教師のことはもう忘れてしまいたい。
 魔族を好ましく思わないひとたちがこの国にもいるということは理解できたが、それでも、僕は家庭教師のようなひとが少数であることを願わずにいられなかった。
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