末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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最終章 王子と令嬢の結婚

15.先代宰相の正体と年越し

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 警備兵の取り調べで、先代宰相は人間絶対主義者の団体に傾倒していたことが分かった。先代宰相の推薦した家庭教師も同じく人間絶対主義者の団体に傾倒していて、同じ宗教の女性を使って、高等学校に忍び込ませて偽の講師をやらせたのだ。
 先代宰相が関わっていたことを告げると父上は沈痛な面持ちで額に手をやった。

「先代の宰相は私の両親の代から宰相をしてくれていた。私とはそりが合わなかったが、貴族を纏めるためにどうしても必要だった。魔族を拒絶し、人間絶対主義者の団体に入っていたと知っていたら、辞めさせていた」
「お祖父様とお祖母様の代から宰相で、貴族たちを纏めていたのならば、仕方がないですよ」
「私は王位についたばかりで貴族たちからの信頼がなく、宰相に頼らねばならない時期があった。王位について国を治めることができるようになった頃には、宰相を辞めさせようと考えたことも何度もあったが、シーラの死もあって、私は悲しみに暮れて冷静に物が見えなくなっていた」

 先代宰相を辞めさせようと思った時期に母上が亡くなったのだとすれば、父上はそれどころではなくなっただろう。国は治めていかなければいけないし、僕は生まれたばかりで死にかけていて、子どもは他にも三人いる。
 父親としても、国王としても父上は忙しく、先代宰相の力を借りるしかなかった。

「エリアス兄上に王位を譲られるときに宰相を変えたのは英断でしたよ」
「父上は母上を失って悲しみの中にあったのです」
「誰も父上を責めてはいません」

 僕とエリアス兄上とエルランド兄上で慰めても、父上はとても後悔しているようだった。
 先代宰相が母上に魔力のこもった食材を断つことを誓わせなければ、母上は生きていたかもしれない。しかし、母上の口にする魔力のこもった食材が常人には毒であることは間違いなかった。

「母上は自分で選ばれたのだと思いますよ。先代宰相は関係なく、父上のために。父上の食卓に毒となるものを乗せないために」

 僕が聞いた限りでは母上はとても強いひとだった。母上は自分で選んで決めたのだ。誰も母上を止めることなどできなかっただろう。

「ありがとう、エド。それはそれとして、この国の人間絶対主義者の団体はなくしていかねばならない」
「それは私にお任せください。今の国王は私。父上、私が必ずや成し遂げます」
「エリアス、私も力を貸そう」
「はい。父上、共に頑張りましょう」

 人間絶対主義者の団体に関しては、先代宰相に関わりがあったものを中心に調べを進めていくということで父上とエリアス兄上で意見が固まった。
 こうして、とりあえずは事件は収束したのだった。

 年越しは毎年王城に泊って父上とエリアス兄上とエルランド兄上と過ごす。
 それももう今年限りかもしれない。
 僕は来年のお誕生日にはロヴィーサ嬢と結婚して、王家から抜けてミエト家に降下するのだ。

「最後の年越しになるかもしれません」
「エドは結婚したら年越しには来てくれないのか?」
「ロヴィーサ嬢の料理も食べられないのですか?」
「エドとロヴィーサ嬢が来なくなると寂しくなりますね」

 父上とエリアス兄上とエルランド兄上は、僕が結婚しても年越しには当然王城に泊りに来ると思っていたようだ。
 僕も父上とエリアス兄上とエルランド兄上がいいのならば泊りに来たいが、結婚して降下した後に王家に里帰りするのはどうなのだろう。

「僕はミエト家に臣籍降下するのですよ。王族ではなくなります」
「王族ではないが、私たちが家族なのは変わりないだろう」
「エドは私の大事な弟だよ」
「それに、王族ではないがロヴィーサ嬢も来ているし、ロヴィーサ嬢が来なければセシーリア嬢が寂しがるだろう」

 エルランド兄上もセシーリア嬢と結婚したら王城でセシーリア嬢と一緒に暮らすことになる。年越しもセシーリア嬢と一緒に過ごすだろうから、セシーリア嬢と仲のいいロヴィーサ嬢が来なければセシーリア嬢は確かに寂しがるだろう。

「わたくしは構いません。エド殿下がずっと家族団らんの時間を持てるのはいいことだと思っています」
「ロヴィーサ嬢がそういうのならば、来年も、再来年も、ずっと王城で年越しをしましょう」

 僕が答えを出すと、父上とエリアス兄上とエルランド兄上の笑みが深くなる。

「これでロヴィーサ嬢の美味しい料理を食べられるな」
「今年は何でしょうね。楽しみです」
「来年にはセシーリア嬢も料理作りに加わるのでしょうね」

 僕が一緒に過ごすだけでなく、父上もエリアス兄上もエルランド兄上も、ロヴィーサ嬢の料理を期待していた。

 ロヴィーサ嬢は年越しのためにうどんを捏ねて、餅もついて、天ぷらも揚げていた。年越しの料理としてロヴィーサ嬢が作ったのはなべ焼きうどんだった。
 鍋の中でぐつぐつと煮られたうどんに、焼いた餅と卵と天ぷらが乗っている。
 焼いた餅は外側がお出汁を吸って蕩けるようで、卵は黄身をレンゲに入れてうどんをつけて、天ぷらは衣が溶けないうちに食べた。
 どれも美味しいお出汁を吸っていて最高に温まる。

「ロヴィーサ嬢、汗が出てきました」
「寒い日には温かな鍋焼きうどんが一番ですね」
「とても美味しいです」

 食べながら僕はロヴィーサ嬢にハンカチで汗を拭いてもらった。
 食べ終わると父上とエリアス兄上から僕とエルランド兄上は呼び出された。
 王家のものだけが使える私室のテーブルに、エリアス兄上と父上が布を置いている。
 白い布の他に水色と青の布がある。水色と青の光沢のある布は高級感があった。

「我が国の最高級の絹を染めさせた」
「エドには白を基調として差し色に青を、エルランドには白を基調として差し色に水色を使って、結婚衣装を作らせようと思う」
「父上、エリアス兄上、とても綺麗な布ですね」
「それにとても涼しそうです」

 僕とエルランド兄上の合同結婚式は、僕のお誕生日が夏だということもあって、どうしても暑くなってしまう。それを考えてエリアス兄上とエルランド兄上は薄くて軽い絹の布を用意してくれたのだろう。

 僕もエルランド兄上もその布が一目で気に入った。

「ロヴィーサ嬢にも見てもらいたいです」
「こういうものは、ギリギリまで内緒にしていて、出来上がったときに驚かせるのがいいのですよ」
「あ、そうですね、ユリウス義兄上」

 サプライズで僕の格好いいところをロヴィーサ嬢に見せる。それは確かに楽しそうだった。
 悪戯っぽく笑うユリウス義兄上の案に僕は乗ることにした。

「花嫁の衣装もデザインが出来上がっていますが、結婚式までは見せないことになっています」
「そうなのですか!? 見たいです」
「花嫁もサプライズがしたいでしょうからね」

 ユリウス義兄上に言われて、僕はロヴィーサ嬢の衣装が見たい気持ちでいっぱいだったけれど、我慢するしかなかった。

 ロヴィーサ嬢も別室に案内されて、ウエディングドレスのデザインを見せられたようだった。嬉しそうに頬を染めているロヴィーサ嬢が可愛くて、デザインを聞きたいけれど聞いてはいけない状況にもどかしさが募る。

「ロヴィーサ嬢」
「はい、なんでしょう?」
「えーと……明日のパーティーのご飯はなんでしょう?」

 デザインを聞きたい気持ちをぐっと堪えて、明日の新年のパーティーのご飯に意識を切り替える。ロヴィーサ嬢は微笑んで答えてくれた。

「かつむすにしようと思っています」
「かつむす?」
「天むすと同じで、トンカツをおむすびにするのです」

 甘辛いソースのかかったトンカツをおむすびにしてしまう。それは絶対に美味しいに決まっている。

「天むすも作ろうと思っていますよ。エド殿下は他に食べたいものがありますか?」
「僕は、そのかつむすが早く食べたいです」

 正直に言えばロヴィーサ嬢がくすくすと笑う。

「明日作ったら、一つだけ味見させて差し上げましょうね」
「やった!」

 ロヴィーサ嬢の優しさに僕はガッツポーズをしていた。
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