末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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最終章 王子と令嬢の結婚

24.ロヴィーサ嬢の二十四歳のお誕生日

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 ロヴィーサ嬢の二十四歳のお誕生日。
 僕は朝から忙しく厨房で料理をしていた。
 唐揚げを揚げて、トンカツを揚げて、サーモンとアボカドの海鮮丼とローストビーフとアボカドの丼の仕上げをして、唐揚げはタルタルソースをかけてパンで挟んで、トンカツは切ってソースをかけておむすびにして。
 クラース殿は僕を主体として、ご飯を炊いてくれたり、器を準備してくれたりして、手伝いをしてくれた。
 おかげでロヴィーサ嬢のお誕生会の前には準備は出来上がっていたのだが、お誕生会はお昼で、僕は朝ご飯も食べていなかったので床に座り込みそうになっていた。

「エド殿下、お疲れ様です。もう厨房に入ってもいいですか?」
「まだダメですー! サプライズをしたいので」

 顔を出すロヴィーサ嬢を拒んでしまったが、朝から僕が厨房を占領しているので、よく考えればロヴィーサ嬢も何も食べていないはずだった。

「ロヴィーサ嬢、僕は張り切りすぎて、ロヴィーサ嬢が何も食べられないことに気付いていませんでした」
「大丈夫ですよ。離れの厨房で作って、父上とおにぎりとお味噌汁を食べました」
「ロヴィーサ嬢は食べていたのですね! よかったです」

 賢いロヴィーサ嬢はこうなることを見越して、お父上と離れの厨房で作ったおにぎりとお味噌汁を食べていた。
 きゅるきゅると鳴く僕のお腹には構っていられない。
 僕はロヴィーサ嬢のお誕生会のために着替えなければいけないのだ。

 スーツに着替えた僕が大広間に行くと、料理は運ばれていて、クラース殿も大広間に来ていた。着替えたロヴィーサ嬢が大広間に入って来ると、貴族たちに囲まれる。

「お誕生日おめでとうございます。ロヴィーサ様にとって最高の一年になりますように」
「エドヴァルド殿下のお誕生日には結婚式もあります。最高の一年は約束されたようなものです。ありがとうございます、アルマス様」
「本当にお幸せそうで。ロヴィーサ様は以前からお美しかったが、結婚が近付いてますますお美しくなられました」
「そんなに褒められても何もできませんよ、ヘンリッキ様。褒めていただくのは嬉しいのですが」
「本当のことを言ったまでです」

 アルマスとヘンリッキに祝われているロヴィーサ嬢は頬を染めていてとても美しい。普段は緩く波打つ髪も、しっかりと巻いていて、豪奢になっている。

「今年もマグロの解体ショーはあるのですか?」
「楽しみにして来たのですよ」

 エルランド兄上とセシーリア嬢もロヴィーサ嬢のお誕生日に来ていた。

「マグロの解体ショーはするつもりですよ。皆様に望まれているようですから」
「とても楽しみです」
「わたくし、どの部位をいただこうかしら」

 マグロの解体ショーを楽しみにしている辺り、エルランド兄上も僕の血縁だと思えてしまう。セシーリア嬢もどの部位をもらうか考えている。

 お腹が空き過ぎていた僕は、ロヴィーサ嬢から離れて料理の乗っているテーブルに移動していた。ロヴィーサ嬢に一番に食べて欲しかったけれど、パーティーの主催はなかなかそういうわけにはいかない。
 かつむすと、唐揚げにタルタルソースをかけてパンに挟んだものを食べて、やっと僕は落ち着いた。

「皆様、本日はわたくしの誕生日にお越しくださりありがとうございます。これからマグロの解体ショーを行いたいと思います」

 エプロンをつけて巨大なマグロを担いできたロヴィーサ嬢に、会場の真ん中にシートが敷かれて、マグロの解体ショーが始まる。
 頭と尻尾を落として、マグロの身を切り分けていくロヴィーサ嬢に歓声が上がった。
 ロヴィーサ嬢の前には長蛇の列ができている。

「今年は赤身の部分を鉄火巻きにしたいな」
「短冊の山芋も入れたら美味しいんじゃないか?」
「それは美味しそうだ」

 アルマスとヘンリッキは赤身の部分を欲しがっている。

「わたくし、カマを焼いたものが食べてみたいのです。エルランド殿下が美味しいと仰っていたので」
「私はマグロのカマの塩焼きが大好きなのですよ」

 セシーリア嬢とエルランド兄上はカマの塩焼きを望んでいる。

「エドヴァルド、また背が伸びたな」
「ダミアーン伯父上、ようこそいらっしゃいました」
「このマグロと大葉の組み合わせは絶品だな」

 ダミアーン伯父上は早々とマグロの切り身をもらっていて、大葉と一緒にお醤油で食べていた。

 ロヴィーサ嬢は笑顔で会場の貴族が欲しがるだけマグロを切っていく。厨房に持って行ってカマを塩焼きにしているのはクラース殿だ。
 マグロのトッピングの山芋やとろろやたくあんや大葉も、クラース殿が準備していた。

 やっとマグロの列が途切れたところで、ロヴィーサ嬢はその場をクラース殿に任せて僕のところに戻って来てくれた。

「ロヴィーサ嬢、お疲れさまでした」
「皆様が喜んでくださって、とても嬉しいです」
「僕もロヴィーサ嬢に喜んで欲しいのです」

 ロヴィーサ嬢を料理のテーブルに招いて、僕は作った料理を見せて行った。

「唐揚げにタルタルソースをかけてパンに挟んだものです。こっちはかつむす。こっちはサーモンとアボカドの海鮮丼と、ローストビーフとアボカドの海鮮丼。そして、これがロヴィーサ嬢のために作ったケーキです」
「これはピンクグレープフルーツ!? こんなにたくさん、綺麗に剥いてくださったのですか?」
「失敗したのも多くありましたが、綺麗なものだけを選んで乗せました」

 ピンクグレープフルーツのタルトにロヴィーサ嬢は感激してくれた。

「ありがとうございます、エドヴァルド殿下。わたくし、本当に幸せ者です」
「ロヴィーサ嬢が普段どれだけ器用で、料理上手かを思い知りました」
「エドヴァルド殿下のおかげで、最高の誕生日になりました」

 飛び付いて抱き付かれて、僕はロヴィーサ嬢の華奢な体を受け止める。ロヴィーサ嬢は細くて華奢で優雅なのに、モンスターを狩れるものすごい女性だった。
 抱き締めているとその細さと柔らかさにうっとりしてしまう。

「も、申し訳ありません。あまり嬉しくて、つい」

 急いで離れていくロヴィーサ嬢の体温に僕は一抹の寂しさを覚える。ここはミエト家の大広間で、今はロヴィーサ嬢のお誕生会の最中で、周囲には大量に貴族がいるのだから、いつまでも抱き合っていることはできないが、それでも僕はもう少しだけロヴィーサ嬢を抱き締めておきたかった。

「ロヴィーサ嬢、愛しています」
「わたくしも、エドヴァルド殿下をお慕いしております」

 手を取り合うと、キスがしたくなる。
 僕は十七歳の誕生日にキスをすることに成功したが、それ以降ロヴィーサ嬢とそんな雰囲気になっていなかった。
 僕が食べ物につられるし、他のことを考えてしまう子どもすぎるからかもしれない。

 もっとロヴィーサ嬢と触れ合いたい。

 欲望はないわけではないのだが、どうすればそれが実現するかよく分かっていないのだ。

 このまま結婚しても僕は大丈夫なのだろうか。
 結婚した後で夫婦がすることに関しては父上から教えてもらっていたが、実際にその場になってみないと分からないこともたくさんある。
 その場になってみても分からないこともたくさんありそうで僕は不安なのだ。

「ロヴィーサ嬢、もっと抱き締めたい、キスしたい……」
「エドヴァルド殿下、口から漏れています!」

 考えが口から出ていたようで、顔を真っ赤にしたロヴィーサ嬢に窘められてしまう。
 ロヴィーサ嬢と結婚するまで残り三か月もない。
 僕はまだまだ知らないことがたくさんで、学ばなければいけないような気がする。
 けれど、誰に聞けばいいのだろう。

 父上に聞けば母上との話になるので気まずいし、エリアス兄上はユリウス義兄上と結婚しているので男女のことは分からない。エルランド兄上はセシーリア嬢と結婚するので、僕と同じで未経験のはずだ。

「僕は誰に聞けばいいのだろう」

 真顔になった僕に、答えてくれる相手は誰もいなかった。
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