かーくんとゆーちゃん

秋月真鳥

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12.ゆーちゃんの本音

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 尻尾が二股に分かれた猫……猫又と呼ぶことにする……が来てから、僕は寛にそんなに迷惑をかけなくなった。
 夜の間に現れて僕の上にのしかかって僕の命を奪おうとするひとではないものに、猫又は飛びかかって巨大になって、美味しそうにぺろりと食べてしまうのだ。
 満足そうな顔で身体を舐めて毛繕いをしている猫又に、僕は聞きたいことがあった。

 守護獣と話すときには叔母はタロットカードを使っていると言っていた。
 真夜中に起き出して、僕はタロットクロスを机の上に広げて、タロットカードを混ぜ始めた。

 深く占うつもりなので、今日はケルト十字というスプレッドを使ってみる。

 スプレッドは何枚もタロットカードを出して占うのだが、その全部を必ずしも見る必要はない。
 必要なところだけ読んでいけばいいのだ。

 一枚目が質問者の状況、二枚目が障害となっていること、三枚目が質問者の考えていること、四枚目が質問者の感じていること、五枚目が過去、六枚目が近未来となっている。
 更に横に並べて、七枚目が質問者が置かれている立場、八枚目が周囲もしくは相手の状況、九枚目が質問者の願望、十枚目が最終予想となっている。

 十枚も使うのは大変なので、僕は見たいところだけ捲っていく。

 一枚目の質問者の状況は、ワンドの四の正位置だった。
 意味は、歓喜。
 しがらみから解き放たれて、本来の自分はこうだったと気付く暗示である。

 『私が来たことによって、あなたはこれまでの恐ろしい状況から抜け出せるわ。ずっと対等ではなかったかもしれないと、気にしていたのでしょう?』と猫又の声が聞こえた気がした。

 その通りなのだ。
 僕はずっと寛に助けられて、寛だけが僕のために色んなことをしてくれていて、僕は何も返せていないと思っていた。

 二枚目の障害となっていることを捲ると、ペンタクルの十の逆位置が出て来る。
 意味は、継承なのだが、オーソドックスなカードには家族が描かれているので、これは家族を意味するのかもしれない。

 『ずっと彼は家族との縁が薄かった。そのことで悩んでいたのよ。あなたは絶対に恋愛関係にもならないし、心を許して付き合える、家族のような存在だったのよ』と猫又の声が聞こえる。
 寛にとって僕がそういう存在ならばいいと思う。

 三枚目と四枚目は飛ばして、五枚目を捲る。
 過去のカードは、ソードの九の正位置だった。
 意味は、苦悶。
 このカードが出ると、僕はひとではないものに出会うことが多かった。

 『ひとではないものが見えること、襲われることはとても怖かったのね。早くあなたの元に来ればよかった』と猫又が言っている。

 六枚目のカードは、近未来。
 運命の輪の正位置が出ている。
 意味は、宿命。
 とても運気が上がっていて、これからラッキーなことが起こるという意味がある。

 『私が来たからには、もう大丈夫。彼の不動明王様もいるものね』と猫又は笑ったようだった。

 一番見たかったのは、八枚目のカードだ。
 これは相手を猫又だと思って置いているので、猫又の状況が分かるはずだ。

 捲ると、ワンドのエースが出た。
 意味は、生命力。
 新しいことに挑戦するという意味もある。

 『ここに来て、幽霊やお化け退治をしてみてるけど、すごく美味しいし、生命力も満ちて来るわ。不動明王様のご加護もあるんだろうけど、自分の力を存分に発揮できている感じがする』と猫又は言っている。

 お化けや幽霊が美味しいというのを聞いて、僕はぞっとしたが、猫又は幸せそうに手を舐めて顔を洗っている。さっきもひとではないものが襲って来たときに、猫又は嬉しそうに食べていた。

 寛の不動明王の加護があるとはいえ、猫又がお化けや幽霊を食べられるものなのだろうか。

 疑問を感じつつ捲った最終予想のカード。
 カップの八の逆位置だった。
 意味は、転変。
 正位置ならば諦めて新しい道を探すという意味があるが、逆位置だと新たなゴールを目指し、新しく挑戦するという意味がある。

 『これからはもっと売れていくだろうし、私に守られて安全に過ごせるだろうから、安心していいのよ。これからもよろしくね』と猫又が言った気がした。

 どういうことなのか考えてみると、最近の出来事を暗示している気がする。
 タロットカードを順番に並べて浄化して、僕は再びベッドに入った。

「最近、顔色がいい気がする」

 翌朝寛に言われて、僕はにへっと笑う。

「寛のご飯は美味しいし、猫さんが来てから眠れない夜がなくなったからかな」

 答えると、寛が微妙な顔になっていた。

「猫さんとやらが来たら、俺のシャドーボクシングも終わりか」
「へ?」
「シェアハウスも終わりにするのか?」

 真剣に問いかけられて、僕は「まさか!」と身を乗り出した。

「そんなことはないよ。寛は僕にとって親友じゃないか。それに、寛の不動明王様の加護がないと猫さんも力が弱まるみたいなんだ」
「そうか……もういらないのかと思った」

 寛がそんなことを考えていたなんて思いもしなかった。
 これは一度寛としっかりと話さなければいけないのかもしれない。

「僕は冗談じゃなく、ゆーちゃんと一緒の老人ホームに入りたいって思ってるよ」
「俺もそうだよ」

 言ってから寛は俯く。

「俺は両親が離婚して、どっちも再婚してるから、帰れる場所がない。帰りたいとも思わない。小さい頃からどっちも不倫してて、夫婦仲は冷めてて、授業参観にも来てくれなかったし、三者面談も無視だった」

 寛の家庭が複雑なことは僕も聞いて知っていた。
 子どもというものは残酷なもので、よく分からない聞いた噂をすぐに流してしまう。

 寛の父親が不倫をしていたことも、寛の母親も不倫をしていたことも、保育園時代からものすごい噂になっていた。
 寛の両親はそういうことを隠さないひとたちだったのだ。

「離婚するために、子どもは邪魔だ、生まなければよかったとずっと言われてた。俺はずっと一人で生きていかなければいけないんだと物心ついたときには思ってたんだ」
「そんなことないよ、ゆーちゃん。僕がいる」
「そうなんだよ。かーくんが俺にはいてくれた。店の女将さんも賄いを食べさせてくれて、俺は一人じゃなくなった」

 だからこそ、と寛は言う。

「俺がアセクシャルだってことが分かって、かーくんもそうだって言ったとき、すごく安心した。かーくんは他の誰かと出て行ったりしないんだって思った」
「出て行ったりしないよ。僕とゆーちゃんは家族みたいな……ううん、家族だよ」

 一緒に暮らして、家事も分担して、お互いのことを思い合う。
 恋愛感情はないけれど、僕と寛は家族に違いなかった。

「同性婚が許されてたら、俺たち、偽装結婚してたかもな」
「何言ってるの、ゆーちゃん。アセクシャルの何が悪いんだか。僕は恋愛をするひとを書いているけれど、恋愛をしないひとも尊重されるべきだと思ってる」

 はっきりとものを言う僕は、いつもと逆な気がした。
 寛の方が不安になっていて、それを僕が慰める日が来るなんて思ってもいなかった。

 寛は僕にとってはずっとヒーローで、僕を助けてくれる存在だった。
 そうやって、僕はずっと寛の本当の姿を見ずに、美化していたのかもしれない。

 今やっと、僕は地に足を付けた寛の姿に向き合っている。

「今日はスペアリブ酢豚なんだ」
「酢豚!? しかも、スペアリブ!?」

 ちょっと恥ずかしかったのか話題を変えた寛に、僕は驚いた。
 小料理屋は和食が中心で、最近は若いひと向けにランチのメニューを変えていたけれど、スペアリブ酢豚を出すなんて驚きだ。

「圧力鍋で処理してあって、骨まで食べられるようにしてみたんだ」
「骨を、食べるぅ!?」

 変な声が出てしまった。
 バリバリとスペアリブの骨を食べるだなんて、まるで鬼のようではないか。

「ゆーちゃん、新しいお客さんに合わせてスペアリブ酢豚を考えた?」
「分かるか? プロレスラーさんは肉、好きそうだもんな」
「あーやっぱり」

 しっかりと寛は環境の変化に馴染んでいた。
 スペアリブ酢豚は食べたいけれど、店に行くとひとではないものがたくさん来ている可能性がある。

「かーくん、食べに来るだろ?」

 ひとではないものはとても怖い。
 僕にとっては恐怖の対象だ。

 それでも、寛に言われると僕は弱いのだ。

「スペアリブ酢豚、食べてみたいけど、僕、骨まで食べられるか分からないよ?」
「骨まで食べられるくらい柔らかいってことだよ。骨は嫌なら残してもいい」
「それなら、行こうかな」

 僕は今日も寛のお店で仕事をすることになりそうだった。
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