双子のカルテット

秋月真鳥

文字の大きさ
17 / 29
二重奏 (デュオ)

青色の二重奏 (デュエット) 2

しおりを挟む
 きっと響は気付いていない。
 小さな頃から無意識にフェロモンで青藍を守ってくれていたように、響の気持ちも青藍に向いているに違いないことに。その証拠のように、体格差があるので無理やりは脱がせられないスラックスと下着を脚から引き抜くときに、腰を上げて協力してくれるのだから言い訳などできないだろう。例え、オメガが快楽に弱くて、発情期にアルファに迫られたら抵抗できないことを差し引いても、明らかに響は口では拒むのに、体は協力的だった。
 胸が露わになるくらいまでまくり上げられたカットソー一枚で、青藍に押し倒されている響は、その濃厚なフェロモンもだが、色っぽい姿でも青藍を誘ってくる。

「やぁっ……せいらん、くん……だめぇ」
「ここ、濡れて苦しそうやで。響さん、こっちも濡れてはる」
「ひっ!?」

 勃ち上がって雫を零す中心に触れると、シーツの上で響が体を跳ねさせる。その褐色の形のいい双丘の狭間で、誘うように後孔が濡れているのが、青藍には見えた。幹を伝って、その場所まで指を滑らせると、響の太ももの内側が引き攣る。
 気が遠くなるような甘いフェロモンも、他の相手ならば吐き気すら催すものなのに、響のものならば青藍のパンツの前が苦しくなってくるだけだった。パンツを脱ぎ棄てて、下着も脱いでしまった青藍の股間に響の視線が行って、その喉が期待するように上下したのを、青藍は見てしまった。
 濡れた音を立てながら、ぐちゅぐちゅと後孔に指を差し込んで、掻き回すとひんひんと響が泣き声を上げる。

「せいらんくん、そんなところ……ひんっ! だめっ! あぁっ!」

 指では足りないとばかりに締め付けてくるそこに、指を抜き取った青藍は猛った自身を宛がった。

「ご、ゴム……」
「それは、挿れても構へんってこと?」
「あっ! だめっ! だめぇ! ひっ!?」
「挿れたら、あかんの?」

 焦らすように双丘の狭間をずりずりと中心で擦り、入口に引っ掛けるように切っ先を突き立てると、響の泣き声が大きくなる。それにも構わず、先の部分だけをくぷくぷと後孔に押し付けては離す動作を繰り返す青藍に、響の脚ががくがくと揺れる。そそり立った中心はとろとろと白濁を零して、達する寸前なのに、核心を得られない苦しみに、響が耐えられたのは数分だけだった。

「むりぃ……おねがい、ちょーだい?」
 発情期の身体で焦らされて、快楽にドロドロになった顔でねだられて、青藍は身体を倒して響の唇を舐めた。
「ゴム、つけんでもええやろ? だって、ないもん、しゃーないやん?」
「いいから、おねがいぃ!」

 もう欲しいと焦れて泣く響に、体を返させて、後ろから青藍は伸し掛かる。

「うなじ、噛んでええ?」
「だ、め……それだけは……」

 直に精液を流し込んだ挙句にうなじを噛むというのは、アルファとして青藍がオメガの響を番にするということに他ならない。精一杯の理性で、泣きながら振り返って頭を振る響に、青藍は腰の動きを再開した。
 決して中には挿入せずに、双丘の狭間を行き来させて、入口を切っ先で掠めるだけの行為に、響が屈服するのは時間の問題だった。

「いじわる、しないでぇ! やぁっ! もう、おねがいぃ!」

 フェロモンも漏れないし、オメガとしては出来損ないだと言っていた響だが、快楽に弱い点に関しては、やはりオメガでしかない。くぷりと切っ先を僅かに含ませて、もう一度青藍は問いかけた。

「うなじ、噛ませて?」
「ん、んん!」

 欲しくてたまらない身体は、もう訳が分かっていないのだろう。泣きながら頷いた響のうなじに歯を立てて、青藍は一気に中心を突き立てた。最奥まで貫く衝撃に、響の中が引き絞るように蠢いて、中心からはぱたぱたと白濁がシーツの上に溢れて散る。

「ひっ! ひぁっ! あぁっ!」
「響さんの中、熱くて、狭くて、めっちゃ悦い……もう、我慢できん」

 がつがつと腰を動かして追い上げる青藍も相当焦れていて、達し続けている響を気遣うこともできずに、自分の快楽を追い駆けて中に放っていた。やっと遂げられた思いが一度や二度で済むはずもなく、若さと情熱のままに響を抱いてしまってから、力尽きて響の胸に倒れ込んだ青藍を、ほとんど意識を失いながらも響はしっかりと抱き締めてくれた。
 まどろんだのは一時間くらいで、服を着た青藍がリビングを覗いて薫も真朱ももう部屋に戻っていることを確かめて、シーツを引き剥がして一階のバスルームに移動した。シャワーを浴びている間は、気まずいのか響は何も言わなかったが、バスタブに二人で入ると、向かい合わせの膝がぶつかって、顔を見合わせて笑ってしまう。

「青藍くん、大きくなったんだね。狭いよ」
「まだまだ、大きぃなるで」

 笑い合ってから、ようやく緊張が解れたのか、響が頭を下げた。ポタポタと水滴が湯船に落ちる。

「僕の発情期のせいで、ごめん」
「響さん、聞いてなかったんか? ずっと好きやったって」
「それでも、僕は拒まないといけなかった。まだ青藍くんは中学生だもの」

 大人として、保護者としての自分を貫こうとする響に、青藍はまっすぐにその金色の瞳を見つめた。

「俺の保護者は薫さんや。響さんは、最初から俺の恋愛対象で、恋人にしたいひとやった。恋人になって? 俺が結婚できる年になったら、結婚して?」
「それ、もう選択権なくない?」

 少し拗ねたように呟く響に、青藍はにっと悪い笑顔になる。
 遠野の親戚連中と縁を切るという理由で養子になるために青藍は薫、真朱は響と選んだ日から、じりじりと青藍は響を追い詰めていたのだ。

「薫さんが言うてた」
「フランスでは15歳から合法だって? 薫ちゃんったら、そういうことばかり言って。ここは日本で、青藍くんは日本人なのに」
「それもそうやけど、俺は薫さんの養子やから多分、フランス人でもあるやろうし、それだけやなくて、響さん、俺にフェロモン付けて、無意識に守ってたって」
「ふぁ!? 俺が、青藍くんに!?」

 それは全く気付いていなかったと驚く響は、湯あたりではない様子で、湯船の中で煮立ったように真っ赤になっていた。

「無意識に俺にフェロモン付けるくらい、響さんは俺のことが好きなんやって、可愛いんやって、めっちゃ嬉しかったで」

 これからも遠慮なくつけて。
 口付けると響は両手で顔を覆ってしまった。

「可愛くて……」

 のぼせてしまうからと場所を響の部屋に移して、事後のけだるい身体をシーツを取り換えたベッドの上に横たえると、背中を向けたままで、響がぽつぽつと語る。うなじに顔を埋めるようにして、抱かれたことで治まった発情期の名残のフェロモンを嗅ぎながら、青藍は響の言葉に耳を傾ける。

「真朱くんは真っすぐ薫ちゃんに甘えて行って、僕には来なかったけど、青藍くんは僕に甘えてくれるから、二人とも大好きだったけど、いけないことだって分かっていながら、僕は青藍くんがずっと特別に可愛くて……」

 兄弟だから、双子だからと、平等に愛されるわけではないことは、響も薫と人種も性格も全く違うが双子として生きてきたので、よく分かっていた。その上で、林檎が好きな子には林檎を、葡萄が好きな子には葡萄をあげるように、「差別」ではなく「区別」して可愛がることや、愛することが、平等ではないというわけではないというのも分かっていた。

「薫ちゃんには真朱くんが特別だから、僕には青藍くんが特別でもいいのかなって思ってたら、養子になりたいのは逆の方だって言われて、ちょっとだけ嫉妬したし、混乱した」
「それは、養子と養父が結婚でできへんからや」
「うん、今になれば分かるけど、そのときは分からなくて、二人は甘えたい対象を『母親』、支えて守ってほしい対象を『父親』と認識して、養父を選んだのかと自分を納得させてた」

 どこかで寂しい気持ちがあったのは確かだったと、響は白状した。
 昔から、モテるのは奔放な薫の方で、お堅い響はフェロモンが出ないのもあって、オメガとしての魅力は見出してもらえなかった。それが恐らく、響が無意識に自己防衛をしようとしていたのと、薫が響を守ろうとしていた結果なのだろうと青藍には予測できたが、憶測でものは言えないと口には出さない。

「俺が響さんの特別で嬉しい。響さんも、ずっと俺の特別やった」

 真朱の方が泣き虫で分かりやすく甘えるから、兄の青藍の気持ちを受け止めてくれる存在などいないと思っていたのに、泣いている真朱を抱き締めた薫の横を通り過ぎて、響は真っすぐに青藍のもとに来てくれた。
 このひとを自分のものにしたい。
 あのときから、青藍の気持ちは変わっていない。

「愛してる。俺が大人になったら、結婚してください」

 顔が見えないのでうなじに顔をうずめたままの少しくぐもったプロポーズの答えは、蚊の鳴くような小さな声での「はい」というシンプルなものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】おじさんはΩである

藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ 門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。 何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。 今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。 治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。

両片思いのI LOVE YOU

大波小波
BL
 相沢 瑠衣(あいざわ るい)は、18歳のオメガ少年だ。  両親に家を追い出され、バイトを掛け持ちしながら毎日を何とか暮らしている。  そんなある日、大学生のアルファ青年・楠 寿士(くすのき ひさし)と出会う。  洋菓子店でミニスカサンタのコスプレで頑張っていた瑠衣から、売れ残りのクリスマスケーキを全部買ってくれた寿士。  お礼に彼のマンションまでケーキを運ぶ瑠衣だが、そのまま寿士と関係を持ってしまった。  富豪の御曹司である寿士は、一ヶ月100万円で愛人にならないか、と瑠衣に持ち掛ける。  少々性格に難ありの寿士なのだが、金銭に苦労している瑠衣は、ついつい応じてしまった……。

【完結済】キズモノオメガの幸せの見つけ方~番のいる俺がアイツを愛することなんて許されない~

つきよの
BL
●ハッピーエンド● 「勇利先輩……?」  俺、勇利渉は、真冬に照明と暖房も消されたオフィスで、コートを着たままノートパソコンに向かっていた。  だが、突然背後から名前を呼ばれて後ろを振り向くと、声の主である人物の存在に思わず驚き、心臓が跳ね上がった。 (どうして……)  声が出ないほど驚いたのは、今日はまだ、そこにいるはずのない人物が立っていたからだった。 「東谷……」  俺の目に映し出されたのは、俺が初めて新人研修を担当した後輩、東谷晧だった。  背が高く、ネイビーより少し明るい色の細身スーツ。  落ち着いたブラウンカラーの髪色は、目鼻立ちの整った顔を引き立たせる。  誰もが目を惹くルックスは、最後に会った三年前となんら変わっていなかった。  そう、最後に過ごしたあの夜から、空白の三年間なんてなかったかのように。 番になればラット化を抑えられる そんな一方的な理由で番にさせられたオメガ しかし、アルファだと偽って生きていくには 関係を続けることが必要で…… そんな中、心から愛する人と出会うも 自分には噛み痕が…… 愛したいのに愛することは許されない 社会人オメガバース あの日から三年ぶりに会うアイツは… 敬語後輩α × 首元に噛み痕が残るΩ

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

今からレンタルアルファシステムを利用します

夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。 ◆完結済みです。ありがとうございました。 ◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!

箱入りオメガの受難

おもちDX
BL
社会人の瑠璃は突然の発情期を知らないアルファの男と過ごしてしまう。記憶にないが瑠璃は大学生の地味系男子、琥珀と致してしまったらしい。 元の生活に戻ろうとするも、琥珀はストーカーのように付きまといだし、なぜか瑠璃はだんだん絆されていってしまう。 ある日瑠璃は、発情期を見知らぬイケメンと過ごす夢を見て混乱に陥る。これはあの日の記憶?知らない相手は誰? 不器用なアルファとオメガのドタバタ勘違いラブストーリー。 現代オメガバース ※R要素は限りなく薄いです。 この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。ありがたいことに、グローバルコミック賞をいただきました。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

フラン

大波小波
BL
 大学を中退したオメガ青年・水流 秀実(つる ひでみ)は、親からの仕送りも途絶え苦しい生活を強いられていた。  ある日、秀実はカフェで無銭飲食をするところを、近藤 士郎(こんどう しろう)と名乗るアルファの男に止められる。  カフェのオーナーであるこの男、聞けばヤクザの組長と言うではないか。  窮地の秀実に、士郎はある話を持ち掛ける。  それは、AV俳優として働いてみないか、という内容だった……!

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

処理中です...