双子のカルテット

秋月真鳥

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番外編 (響と薫の両親編)

クアドラプル・ベイビーズ

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 双子や三つ子など、多胎児が生まれやすい体質や家系というのは、確かに存在する。
 4歳まで過ごした叔母での家のことは思い出したくもなかったし、記憶も薄れていたが、調べてみれば、真朱と青藍の父と叔母も双子だったという。そして、響と薫も双子である。
 それでも、まさか、同時期に妊娠した響と薫が、急いで来日したヘサームに検診を受けて告げられるとは予想もしていなかった。
「どっちも双子ですね」
 まだ性別が分かる段階ではなかったが、受精したまだ豆粒のような小さな胎児は、二人ずつ響と薫のお腹の中に入っていた。音楽大学に進学の決まっている真朱と青藍は18歳で、高校卒業と共に学生をしつつ、双子の連弾の三味線奏者としてデビューする直前だった。

「双子やて、どないしよ」
「産むの大変やないですか?」

 慌てる真朱と、冷静に説明を聞く青藍。二人お腹の中に入っているというだけで大変なのに、響と薫は男性で、出産も自然分娩ができるかどうか分からない状態だった。
 男性オメガにも『上位オメガ』などという希少なタイプがいるように、色々な種類があって、妊娠すると女性器に近い場所ができて自然分娩が可能なタイプや、骨盤が男性のもので開かなくて自然分娩が難しいタイプ、そもそも女性器に相当するような場所ができないタイプなど、様々だ。自然分娩が不可能なタイプであれば、帝王切開になるのだが、ヘサームはそういうタイプの出産も何度も手掛けてきていた。

「なんとなく、ですけど、私に似てるから、自然分娩ができそうな気はするんですよね」

 骨格的にも体格的にも、響も薫もヘサームとよく似ている。未熟児だったこともあるが、一人ずつ順番に出てきた響と薫を、ヘサームは自然分娩でなんとか産むことができた。

「自然分娩でってことは……その、そういう場所が、できるってこと?」
「女性アルファが、オメガの発情期に合わせて、男性器に似たものができるのと同じ原理です」

 それも体質なので、男性器に近いものができるのか、もっとささやかなものなのか、色々とあるのだが、その辺はヘサームも詳しくはない。ただ、『上位オメガ』はオメガの中のオメガと言えるから、出産に関しても適応して体が変化する体質の可能性は高かった。

「薫さんのお腹、切らへんでも、ええってことか」
「健康な女性でも、お産は何があるか分かりませんから、楽観的に考えてはいけないと思いますが、切っても切らなくても、この子たちは無事に産んであげたいですね」

 せっかく自分のお腹に来てくれたのだからと、腹筋の割れた腹を撫でる薫を、「聖母みたいや」と真朱が拝んでいる。

「帝王切開も技術が進んでて、ひとによっては自然分娩よりも合う場合もありますからね」
「どっちにせよ、俺は響さんにできるだけのことはするで。絶対に無理はせんといてな?」

 主治医のヘサームの説明を聞いて、三味線奏者としてデビューして稼げるようになるのだから、店の方も無理をしないように言う青藍に、響は照れながらも頷いていた。
 高校を卒業してから籍を入れて、結婚式も挙げるつもりだったが、それより先の妊娠の発覚で順番が入れ替わることになる。避妊はするように気を付けていても、発情期のオメガのフェロモンは激しく、避妊具を取り換えるのも惜しいくらいに抱き合っていたい瞬間がある。
 薫は完全に発情期をコントロールできるが、響が発情期になると引きずられることがあるので、同時期に妊娠した二人には、いつ頃に赤ん坊ができたのか、思い当たることがあって、特に響は頭を抱えていた。

「籍も入れてないし、結婚式よりも先に妊娠しちゃうなんて……僕の発情期のせいで……」
「籍はすぐにでも入れよ? 結婚式は赤さんたちが生まれてからしてもええやないか」

 赤ん坊と一緒の結婚式という青藍の言葉に、真朱がぽぅっと頬を赤らめる。

「薫さんと赤さんたちと結婚式挙げられるなんて、俺はなんて幸せ者なんや!」
「そう言っていただけると、私も幸せですよ。響も、真朱さんみたいに、素直になればいいのに」
「薫ちゃんはそういうの、緩すぎるんだよ!」

 悲鳴を上げた響を、青藍が切なく潤んだ黒い瞳で見つめる。

「響さんは……嫌やった? 俺、響さんとの間に赤さんできて、むっちゃ嬉しいし浮かれてるのに、響さんは、嫌やったん?」
「そ、そんなはずないよ! 嬉しいよ。ちょっと早すぎて驚いただけで、凄く嬉しい。僕も36歳だし、早く欲しいとは思ってたし」
「ほんま? 良かったわぁ」

 ぱっと笑顔になった青藍の顔に安堵する響を見て、「うまく操られてる」とヘサームと薫が思ったとか。
 とにかく、双子が二組生まれるということで、敷島家は大騒ぎになっていた。
 当面の仕事を切り上げてヘサームから遅れて来日したジュールが、ヘサームと一緒に敷島家に住み込むことになった。お店の方も手伝ってくれて、できるだけ響と薫の負担を少なくしてくれようとするのだが、世界的に有名なデザイナー、純・ジュール・敷島がデザインと縫製をすると聞いて、逆に客が増えそうで、早々に店からは撤退して家事に専念してもらった。
 『上位オメガ』だからなのか、悪阻もなかったわけではないが酷くはなく、体調も大きく崩すことなく響と薫は臨月を迎えた。

「発情期が被って同時期に妊娠したのは良いですけど、産気づくのは、別々にしてくださいね」
「そんなのコントロールできるわけないでしょ」
「コントロール、できないものですかね」
「薫ちゃん!?」
「冗談ですよ」

 二人同時に取り上げることはできないと告げるヘサームに、響がお産は自分の意志で制御できるものではないと主張するが、もしかすると『上位オメガ』ならばなどと考える薫がいたりもした。
 結局、先に産気づいたのは、薫の方だった。
 自然分娩で問題がなさそうだったので、自宅での出産でヘサームがサポートして、薫は女の子の双子を無事に産んだ。ものすごく安産で、出産の痛みも会陰切開もあったが、出産自体は短時間で済んだ。

「女の子や……可愛い、けど、どないしよ。俺、女の子とほとんど触れ合ったことがないわ」

 産湯を浸からせて、産着を着せられた双子はどちらも白い肌に真朱似の赤茶色の髪で、お目目は薫似の青い目だった。

「徐々に慣れていけばいいんですよ。おめでとうございます、真朱さん」

 ヘサームから赤ん坊を渡されて、薫と一人ずつ抱っこした真朱は、号泣していた。2500グラム近くはあった双子は、問題なくそのまま家で過ごすことになった。
 響が産気づいたのはその二日後の夜で、薫よりも時間はかかったが、こちらも無事に2500グラム近い男の子の双子が生まれた。片方が褐色の肌に金髪に金の目で、片方が白い肌に黒髪に青い目という人種違いの双子にも、響と薫がそうだったのでヘサームは驚きもしなかった。

「男の子やったんか。どっちも可愛いなぁ」

 名前は顔を見て決めるつもりだった青藍は、二人を見てかなり悩んでいた。

しずあきっていうのは、どないやろ」

 褐色の肌に金髪に金の目の方が玄、白い肌に黒髪に青い目の方が空、という名付けに響は異存はなかったようだ。

「薫さん、可愛すぎてなんも浮かばへん。薫さん決めてぇ」

 生まれてから二日目になるのに、全く名前の候補が浮かばず、ただただ抱っこしては可愛さにメロメロになっている真朱に、薫は考えていた名前があったようだった。

真琴まことと、朱音あかねというのを考えていたんですが、どちらがどちらかは、真朱さんが決めてくれますか?」

 響の産んだ双子の男の子は二卵性双生児で人種も顔立ちも雰囲気も全く違うが、薫の産んだ双子の女の子はどうやら一卵性双生児のようで顔立ちも雰囲気もそっくりだった。

「そうやな……どっちでも良いと思うんやけど、先に生まれた方を真琴ちゃんにしよ。次に生まれた方が、朱音ちゃんや」

 一気に四人も増えた家族に、敷島家は大忙しになるのだが、それも丸一年住み込みで手伝ってくれるというジュールとヘサームのおかげで、なんとかなりそうだった。
 生まれてきた二組の双子のバース性が分かるのは、まだまだ先のことになる。
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