運命に憧れても、運命を信じられない男

秋月真鳥

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後日談

時吉志信と月島由貴の生活 2

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 初めて会った日に身体を交わして、次の週からは同棲を始めた。
 全く知らない他人同士で年齢差もあるからぶつかり合うことも多いのではないかと志信は不安だったが、由貴は志信のことを優しく受け止めてくれた。
 仕事に夢中になると食事も風呂も忘れて、寝る間も惜しんで工房に籠ってしまう志信に、由貴はご飯を用意して呼びに来てくれる。

「志信さん、僕、お腹がぺこぺこなんだけど、一緒に食べようよ?」
「あ、こんな時間ですね。すみません」

 手を洗って仕事の片付けをする間に、由貴はご飯を温めておいてくれた。休みの日は由貴が食事を作ってくれるし、朝食は交代制にしているが志信が抱かれて怠くて起きられないことが多いので由貴が作ってくれる。

「お昼も僕と同じメニューだよ。僕のこと思い出して食べてね」

 前日の夕飯のおかずの残りや朝食のついでに作ったおかずを入れたお弁当を渡されたら、食べないわけにはいかない。食事を忘れて仕事に熱中する志信の不健康な生活が良い方に変わった。
 夜は仕事が終わると晩御飯を作って志信は由貴を待つ。車が駐車場に入る音で志信はそわそわとして席を立って、玄関まで由貴を迎えに行ってしまう。

「ただいま、志信さん。疲れたけど、志信さんの顔見たら元気になった」
「俺も、ユキさんに会いたかった」

 玄関先で抱き締め合って愛を確認する。
 これが三か月、何の問題もなく続いたのだから、志信は由貴のプロポーズを断る理由がなかった。由貴と暮らし始めて志信は生活にメリハリができて、毎日健康に過ごせている。
 来客がないのをいいことに何日も風呂に入らなかったり、髭も伸び放題だったり、食事も疎かにしたりすることがなくなった。

「志信さん、結婚しよう?」

 由貴の選んでくれた結婚指輪を左手の薬指にはめてもらって、志信は同棲三か月目にして由貴のプロポーズに頷いた。
 その直後に由貴がつけられて、ストーカーじみた男に襲われたときには、志信はついカッとなってしまった。15歳まで育った父親の祖国で、男ならば強くあれとボクシングをやらされていた。その力を込めてストーカー男を殴り付けてしまったのだ。
 呆気なくストーカー男はノックダウン。
 こんな乱暴な男だとは思わなかったと由貴にドン引きされても仕方がなかったのに、由貴は志信を怖がらないでくれた。
 それどころか、「志信さん、抱きたい」と甘く囁いた。
 晩ご飯は豆乳鍋を準備していたが、具材が煮えるのがもどかしいほどで、頑張って作った特製のゴマダレの味も分からないままに食べ終えてしまった。
 シャワーは、志信が窯のある工房で仕事していて季節を問わず汗だくになるので、先に志信が浴びているが、由貴が出てくるのを寝室で胸を高鳴らせながら待つ。
 工房も家も父親が援助すると言ったので、使いやすい工房と広い家を建ててしまって、家具も豪華にしていて、志信の身体が大きいのでキングサイズのベッドを買っていたのは本当に正解だった。一人で寝るのには広くて伸び伸びとできたが、由貴と二人で寝ても由貴を蹴り落とすようなことがない。

「志信さん、お待たせ」
「ユキさん……キスして?」

 ベッドに腰かけたまま強請れば由貴が志信の膝の上に乗り上がるようにしてキスをしてくれる。自ら口を開けて舌を呼び込むと、由貴の舌が食らい尽くすように志信の口腔を蹂躙していく。
 ちょっと乱暴にベッドに押し倒されるのも、期待を煽るスパイスでしかない。ほぼ毎日抱き合って三か月、志信は由貴がどれだけ丁寧に自分を扱ってくれるか知っていた。
 ベッドの上で部屋着を脱がされて、下着も引き抜かれて裸にされる。由貴もパジャマと下着を脱いで裸になっていた。
 念入りに胸を弄られて志信は腰を揺らす。ずっと弄られてきたそこは、志信の性感帯になっていた。手の平で胸全体を揉まれて、乳首を手の平で捏ねるようにされて声が出る。

「あぁっんっ! そこばっかり……」
「志信さん、ここ、好きでしょ?」
「ひぃっ!?」

 乳首を摘まんで強く引っ張られてびくびくと志信の身体が跳ねた。くりくりと指先で捏ねられると後ろが濡れて来るのが分かる。
 男性同士の場合だと、慣れるまでは濡れないらしいのだが、志信は由貴の中心を何度も受け入れてローションがいらないくらいまでそこが濡れるようになっていた。

「今日は避妊具ゴムって、言わないの?」
「結婚、するから……」

 生でしたのは最初の数回だけで、それ以降は志信は由貴に避妊具を使ってくれるようにお願いしていた。仕事も忙しかったし、由貴とは暮らし始めたばかりだったし、妊娠するのが怖かったのだ。
 今ならば由貴を避妊具なしで受け入れて良いと志信は覚悟を決めていた。
 くちゅりと聞こえるように由貴の指が志信の後孔を撫でて、いやらしい水音を立てさせる。

「ここ、僕を欲しがってびしょ濡れだ」
「ユキさんが、欲しいです……」
「素直なんだから。可愛くて歯止めが効かなくなる」

 指を差し込まれても、毎日由貴を受け入れているそこはそれくらいの刺激では満足しない。毎日のように抱かれているからすっかり由貴の形になっている中が、容易に由貴を受け入れられると分かっていても、由貴は決して慣らす手を止めようとしない。それが志信には焦らされているように感じているとも知らず。

「ひぁっ! もう、きてぇ!」
「もうちょっと……志信さんに痛い思いさせたくないんだ」
「もうっ! おねがいぃ!」

 自分で脚を抱えてくぱりと後孔を見せた志信に、由貴の喉がこくりと動いたのが分かった。切っ先を後孔に宛がって由貴が志信の中に入って来る。
 みちみちと胎を埋められる歓びに、志信の紫の目から涙が零れる。

「こんなエロい身体して、僕しか知らないなんて、志信さん、最高」
「ひぁっ! あぁぁっ!」

 腰を打ち付ける由貴の汗がぽとりと志信の褐色の胸に落ちた。
 抱き合った後は二人でシャワーを浴びて汗やその他諸々を流す。シーツを取り換えたベッドに下着だけで寝転んで、由貴は志信の胸に頭を乗せて眠るのがお気に入りだった。
 由貴の重みを感じながら眠れるのは嬉しいので、志信も特に由貴のすることに文句はない。

「赤ちゃんが出来たら、この寝方も考えないといけないのか」
「胸だから大丈夫じゃないです?」
「いや、間違ってお腹に乗ってしまったらだめだ」

 妊娠する前から真剣に考えてくれるのだから由貴は良い父親になりそうだと志信は思った。
 志信が目を覚ましたのは、外が妙に煩かったからだった。身体を起こすと胸に頭を乗せていた由貴も目を覚ます。

「ユキさん……」
「鳥……カラスの声だな」
「ちょっと気になるから見てくる」

 服を着て玄関に向かう志信に由貴もついてくる。駐車場から林の方に出ると、カラスが何かにたかっている。追い払って近寄れば、段ボール箱の中に子猫が固まっていた。食い荒らされて死んでいる子猫もいる。

「こんなところまで捨てに来たのか……」
「ユキさん、この子とこの子は生きてる!」

 突かれて出血してはいるが生きている二匹を抱き上げて、残りの死んでいる三匹は後で埋葬するとして玄関の中に段ボール箱ごと入れておいて、志信は由貴に車を出してもらった。
 動物病院で診てもらうと、生後一週間ほどの子猫だということが分かった。

「どちらも傷は酷くないので大丈夫だと思いますが」

 飼えますか?
 動物病院の医師の問いかけに志信は由貴を見ていた。

「ユキさん、ひとの勝手で捨てられて、兄弟を亡くした子を、どこかにやるなんて考えられないんですけど……俺、子猫って飼ったことなくて」
「僕も育った猫としか暮らしたことないけど、とりあえず、やってみよ」

 動物病院の医師に聞いて、哺乳瓶や猫用のミルクや猫用のトイレなど必要なものは買い揃えて、由貴と志信は家に戻った。由貴に子猫を見てもらっている間に、志信は裏庭に食い荒らされた三匹の子猫を埋めて手を合わせた。

「兄弟はここで大事に育てるから」

 結婚式の準備もある、仕事もある、赤ん坊もできるかもしれない。
 そんな状況でも即答で子猫を引き取ることを決めてくれた由貴。

「そういうところが、好きです、ユキさん」
「え? 志信さんに好きって言われた。嬉しいなぁ」

 子猫にミルクを上げながら由貴はにこにこと微笑んでいた。
 二人の生活に新しい家族ができた。
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