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一章 ご寵愛の理由
6.皇帝宮
帝都への道のりは快適すぎた。
馬車の中なのにお茶は出してもらえるし、そのお茶がものすごく美味しいし、茶菓子まで出てきた。馬車は滑らかに走り、揺れることはほとんどない。その上クッションはふわふわでわたくしは油断すると眠ってしまいそうだった。
皇帝陛下の横に座っているのに眠るとか不敬すぎる。
皇帝陛下と話をしたのだが、わたくしはつい、刺繍のことで話しすぎてしまった。
「ハンカチなどの小物なら銅貨五枚、一反の布ならば刺繍の難易度によりますが銀貨一枚から三枚、服に仕立てればそれが金貨一枚から金貨一枚と銀貨五十枚、花嫁衣裳やヴェールになるともっと高くなるのです」
「それは素晴らしいな。レイシーは男性の服も縫えるのか?」
「これまで手掛けてきたのは女性物が中心でしたが、ご注文とあれば男性物も縫えます」
「それならば、わたしに一着ジャケットを作ってくれないか?」
「皇帝陛下のお召しになる衣装を作らせていただけるのですか!?」
ダメだ。
つい商売っ気を出してしまう。
皇帝陛下の衣装ならば豪華な布が使い放題だし、刺繍糸も絹糸を使ってどれだけでも凝って作ることができる。考えただけでわくわくしてしまうわたくしは、必死に弾む声を抑えていた。
馬車の中には皇帝陛下の側近の貴族がいらっしゃる。
わたくしよりもずっと身分の高いその方は、空気のように馬車の端で直立不動で立っていた。
わたくしは皇宮にお針子として行くのではない。
分かっているのだが、つい商売根性が顔を出してしまう。
かたんと馬車が小さく揺れて、わたくしの持っていたカップからお茶が膝の上に零れた。カップを置いてハンカチで押さえようとするより早く、皇帝陛下がハンカチを取り出した。わたくしにハンカチを渡してくださる皇帝陛下にお礼を言ってお茶を拭いてから、わたくしはそのハンカチをまじまじと見つめた。
青い蔦模様の刺繍。
これはわたくしが帝都の学園にいたときに、売りに出していたものではないだろうか。
「この刺繍……」
「やはり、レイシーのものか。ディアン子爵家の令嬢が刺繍した小物を店に卸していると聞いて、入荷したら全て皇宮に届けるように命じてあった」
「へ?」
皇帝陛下がわたくしに興味を持ったのは卒業パーティーでの婚約破棄を言い渡されたときではない?
デビュタントでわたくしが挨拶をしたときに運命を感じたと言っていたが、その言葉に嘘はなかったというのだろうか。
いやいやいや。
デビュタントで挨拶なんて一人三十秒も時間は取ってもらえなかった気がする。そんな短時間でわたくしのことが心に残ったのだろうか。
デビュタントの挨拶のときにわたくしはなにかやらかした記憶はない。そつなくこなせたと思ったのだが皇帝陛下の気を引いてしまうようなできごとがあったのだろうか。
疑問で頭がぐるぐるしてきたころに、馬車は皇宮に着いた。
皇帝陛下が先に馬車から降りて、わたくしに手を差し伸べる。その手を拒否する方が失礼なので、手に手を重ねて馬車のステップを降りていくと、皇帝陛下はわたくしの手を引いたまま長い皇宮の廊下を歩き始めた。
「この宮殿は、わたしの住居となっていて、皇帝宮と呼ばれている。レイシーにも宮殿を与えたいとも思ったのだが、別の宮殿に住むとなるとわたしが訪ねるのが難しくなってしまう。それで、皇帝宮の中にレイシーの部屋を用意させた」
簡単に皇帝陛下は言われたのだが、ディアン子爵家のお屋敷の五倍くらいはありそうなこの宮殿が全部皇帝陛下の住居だというのだ。規模が違いすぎてわたくしは呆気にとられるしかない。
手を引かれて連れて来られた部屋は、わたくしの部屋が五つくらいは入りそうな広さの場所で、それが更に三部屋に分かれていた。
「家具や内装はレイシーの好みに変えてもらって構わない。この部屋と、奥の部屋、その隣りの部屋がレイシーの部屋だ。少し狭いがバスルームもついている」
「部屋にバスルームが!?」
驚きが声に出てしまった。
バスルームといえばお屋敷に一つしかなくて、両親とソフィアと順番で入っていたのを思い出す。それが部屋についているのだ。
「わたしの部屋はこちらだ。何かあればいつでも訪ねて来てくれて構わない」
少し廊下を歩いた先の大きなドアのある部屋に案内されて、ドアを開けるとその広さにわたくしは驚きを通り越して悟りが開けそうだった。
皇帝陛下のお部屋に気軽に訪ねていくなどできるはずがないが、一応場所は覚えておこう。
側妃や妾妃の大事な仕事は、子どもを産むことである。皇帝陛下のお召しがあればわたくしはこの部屋に行かなければいけないかもしれない。
どうかそんなことがありませんように。
この結婚が周囲を黙らせるだけのパフォーマンスで、白い結婚でありますように。
願うわたくしの心を知ってか知らずか、控えていた貴族が皇帝陛下に囁いた。
「皇帝陛下、そろそろお時間です」
「分かった。お前はレイシーに近付くな。レイシーに近付いていいのは教師たちと侍女とラヴァル夫人だけにせよ」
「心得ました」
深く頭を下げている側近の貴族に、わたくしは声をかけていいのか迷っていると、皇帝陛下がわたくしの手を取った。
「レイシー、すまない。ずっとそばにいたいが、そういうわけにもいかない。レイシーのことはわたしの母の侍女も務めたことのある侯爵夫人のカトリーヌ・ラヴァルに一任している。分からないことがあれば彼女を頼ればいい。要望がある場合も彼女に伝えてくれればすぐにわたしに届くようにする」
言いながら皇帝陛下がわたくしの手をそっと持ち上げて手の甲に口付けを落とした。
皇帝陛下に手の甲に口付けられてしまった!?
いや、こんなものは挨拶だと慣れなければいけないのかもしれないが、恭しく手の甲に口付けられるなど初めてだったのでわたくしは飛び上がって驚いてしまった。
「名残惜しいが、また帰ってくる。待っていてくれ、レイシー」
「行ってらっしゃいませ」
「『行ってらっしゃいませ』か。よいものだな。婚約者に送り出されるということは」
なぜか胸を押さえている皇帝陛下に、変なことを言ってしまったかと思いつつ、わたくしは頭を下げて皇帝陛下を見送った。
部屋で待っていると、派手ではないが手の込んだドレスを身に纏った四十代半ばくらいの女性がドアをノックして入ってきた。美しいストロベリーブロンドの髪を後頭部で一つに纏めている。
「初めまして、わたくしはラヴァル侯爵家のカトリーヌと申します」
「ラヴァル様、初めまして、ディアン子爵家のレイシーです」
「これより、わたくしはレイシー様の教育係とならせていただきます。わたくしのことはラヴァル夫人とお呼びください」
「はい、ラヴァル夫人」
高貴で厳しい印象だが、決してわたくしを見下したりしないラヴァル夫人の態度に、わたくしも背筋を伸ばす。
「これより、レイシー様の採寸をさせていただきます。レイシー様が皇宮で不自由なく暮らせるように、衣服を揃えるところから始めましょう」
「よろしくお願いいたします」
さすがに皇帝陛下が仮初めとはいえ寵愛しているという建前の側妃だか妾妃だか分からないが、妃がドレスを一枚しか持っていない、しかもそれがわたくし自身の手作りであることは問題なのだろう。
抵抗するつもりはなかったので、わたくしはラヴァル夫人に従った。
ラヴァル夫人が招くと、仕立て職人さんたちが部屋に入ってくる。全員女性なのでわたくしはほっとしていた。
「そのドレスの刺繍はとても珍しいものですね。伝統ある模様ではないのですか?」
「そうなのです。ディアン子爵家の領地で受け継がれている模様です」
「その模様を新しいドレスにも刺繍させましょう」
「あの、わたくしが刺繍するというようなことは……」
「そうでしたね、レイシー様は刺繍がご趣味と伺いました。皇帝陛下はレイシー様の望みを叶えるように仰いましたが、今回はドレスの数も揃えなければいけませんので、仕立て職人にお任せください。今後、レイシー様の意志に添うようにできるようにして参りますので」
「は、はい」
我が儘を言ってしまったかもしれないと反省したが、ラヴァル夫人の対応は寛容なものだった。皇帝陛下からできる限りわたくしの望みを叶えるように言われているのだろう。
その点に関しては皇帝陛下に感謝するしかない。
下着姿になって採寸してもらって、布のサンプルを眺めて選ぶのはとても楽しかった。ドレスのデザインも選ばせてもらって、わたくしは満足してソファに座ると、ラヴァル夫人が仕立て職人さんと言葉を交わしている。
「最短で何日で仕上げられますか?」
「最初のご注文は仕立て職人総出で取り掛かります。二日もいただければ仕上げられると思います」
「それではそのように」
ラヴァル夫人に命じられて仕立て職人さんたちは深く頭を下げて部屋から退出して行った。
お茶が用意されて、ラヴァル夫人がソファのわたくしの正面に座る。
「レイシー様には妃教育を受けていただきます。語学はどの程度学んでいますか?」
「学園で習った程度は。教養と専門合わせて、この国の属国の言葉はほとんど読み書きはできると思います」
「学園を首席で卒業なさったということ聞いております。大変優秀なようですね。話す方はどうですか?」
「発音に自信のないところはあります。実際にその国の方と会話したことがないので、文法は頭に入っていても、すぐに出てこないかもしれません」
「それでは、毎日属国の会話をわたくしと致しましょう。これから昼食ですが、食事のマナーを見せていただきたいので同席してもよろしいですか?」
「何か間違っているところがあったら教えてください」
事務的ではあるがラヴァル夫人は悪いひとではなさそうだ。
わたくしのことをきちんと調べていてくださるし、評価もしてくださっている。
昼食は皇帝宮の食堂に移動したのだが、食堂も数か所あるらしい。皇帝陛下お一人のための食堂や、皇帝陛下が家族と食事をするための食堂、そして、少人数で食事をするための食堂に、大人数で食事をするための食堂。
わたくしが通されたのは少人数で食事をするための食堂だった。
馬車の中なのにお茶は出してもらえるし、そのお茶がものすごく美味しいし、茶菓子まで出てきた。馬車は滑らかに走り、揺れることはほとんどない。その上クッションはふわふわでわたくしは油断すると眠ってしまいそうだった。
皇帝陛下の横に座っているのに眠るとか不敬すぎる。
皇帝陛下と話をしたのだが、わたくしはつい、刺繍のことで話しすぎてしまった。
「ハンカチなどの小物なら銅貨五枚、一反の布ならば刺繍の難易度によりますが銀貨一枚から三枚、服に仕立てればそれが金貨一枚から金貨一枚と銀貨五十枚、花嫁衣裳やヴェールになるともっと高くなるのです」
「それは素晴らしいな。レイシーは男性の服も縫えるのか?」
「これまで手掛けてきたのは女性物が中心でしたが、ご注文とあれば男性物も縫えます」
「それならば、わたしに一着ジャケットを作ってくれないか?」
「皇帝陛下のお召しになる衣装を作らせていただけるのですか!?」
ダメだ。
つい商売っ気を出してしまう。
皇帝陛下の衣装ならば豪華な布が使い放題だし、刺繍糸も絹糸を使ってどれだけでも凝って作ることができる。考えただけでわくわくしてしまうわたくしは、必死に弾む声を抑えていた。
馬車の中には皇帝陛下の側近の貴族がいらっしゃる。
わたくしよりもずっと身分の高いその方は、空気のように馬車の端で直立不動で立っていた。
わたくしは皇宮にお針子として行くのではない。
分かっているのだが、つい商売根性が顔を出してしまう。
かたんと馬車が小さく揺れて、わたくしの持っていたカップからお茶が膝の上に零れた。カップを置いてハンカチで押さえようとするより早く、皇帝陛下がハンカチを取り出した。わたくしにハンカチを渡してくださる皇帝陛下にお礼を言ってお茶を拭いてから、わたくしはそのハンカチをまじまじと見つめた。
青い蔦模様の刺繍。
これはわたくしが帝都の学園にいたときに、売りに出していたものではないだろうか。
「この刺繍……」
「やはり、レイシーのものか。ディアン子爵家の令嬢が刺繍した小物を店に卸していると聞いて、入荷したら全て皇宮に届けるように命じてあった」
「へ?」
皇帝陛下がわたくしに興味を持ったのは卒業パーティーでの婚約破棄を言い渡されたときではない?
デビュタントでわたくしが挨拶をしたときに運命を感じたと言っていたが、その言葉に嘘はなかったというのだろうか。
いやいやいや。
デビュタントで挨拶なんて一人三十秒も時間は取ってもらえなかった気がする。そんな短時間でわたくしのことが心に残ったのだろうか。
デビュタントの挨拶のときにわたくしはなにかやらかした記憶はない。そつなくこなせたと思ったのだが皇帝陛下の気を引いてしまうようなできごとがあったのだろうか。
疑問で頭がぐるぐるしてきたころに、馬車は皇宮に着いた。
皇帝陛下が先に馬車から降りて、わたくしに手を差し伸べる。その手を拒否する方が失礼なので、手に手を重ねて馬車のステップを降りていくと、皇帝陛下はわたくしの手を引いたまま長い皇宮の廊下を歩き始めた。
「この宮殿は、わたしの住居となっていて、皇帝宮と呼ばれている。レイシーにも宮殿を与えたいとも思ったのだが、別の宮殿に住むとなるとわたしが訪ねるのが難しくなってしまう。それで、皇帝宮の中にレイシーの部屋を用意させた」
簡単に皇帝陛下は言われたのだが、ディアン子爵家のお屋敷の五倍くらいはありそうなこの宮殿が全部皇帝陛下の住居だというのだ。規模が違いすぎてわたくしは呆気にとられるしかない。
手を引かれて連れて来られた部屋は、わたくしの部屋が五つくらいは入りそうな広さの場所で、それが更に三部屋に分かれていた。
「家具や内装はレイシーの好みに変えてもらって構わない。この部屋と、奥の部屋、その隣りの部屋がレイシーの部屋だ。少し狭いがバスルームもついている」
「部屋にバスルームが!?」
驚きが声に出てしまった。
バスルームといえばお屋敷に一つしかなくて、両親とソフィアと順番で入っていたのを思い出す。それが部屋についているのだ。
「わたしの部屋はこちらだ。何かあればいつでも訪ねて来てくれて構わない」
少し廊下を歩いた先の大きなドアのある部屋に案内されて、ドアを開けるとその広さにわたくしは驚きを通り越して悟りが開けそうだった。
皇帝陛下のお部屋に気軽に訪ねていくなどできるはずがないが、一応場所は覚えておこう。
側妃や妾妃の大事な仕事は、子どもを産むことである。皇帝陛下のお召しがあればわたくしはこの部屋に行かなければいけないかもしれない。
どうかそんなことがありませんように。
この結婚が周囲を黙らせるだけのパフォーマンスで、白い結婚でありますように。
願うわたくしの心を知ってか知らずか、控えていた貴族が皇帝陛下に囁いた。
「皇帝陛下、そろそろお時間です」
「分かった。お前はレイシーに近付くな。レイシーに近付いていいのは教師たちと侍女とラヴァル夫人だけにせよ」
「心得ました」
深く頭を下げている側近の貴族に、わたくしは声をかけていいのか迷っていると、皇帝陛下がわたくしの手を取った。
「レイシー、すまない。ずっとそばにいたいが、そういうわけにもいかない。レイシーのことはわたしの母の侍女も務めたことのある侯爵夫人のカトリーヌ・ラヴァルに一任している。分からないことがあれば彼女を頼ればいい。要望がある場合も彼女に伝えてくれればすぐにわたしに届くようにする」
言いながら皇帝陛下がわたくしの手をそっと持ち上げて手の甲に口付けを落とした。
皇帝陛下に手の甲に口付けられてしまった!?
いや、こんなものは挨拶だと慣れなければいけないのかもしれないが、恭しく手の甲に口付けられるなど初めてだったのでわたくしは飛び上がって驚いてしまった。
「名残惜しいが、また帰ってくる。待っていてくれ、レイシー」
「行ってらっしゃいませ」
「『行ってらっしゃいませ』か。よいものだな。婚約者に送り出されるということは」
なぜか胸を押さえている皇帝陛下に、変なことを言ってしまったかと思いつつ、わたくしは頭を下げて皇帝陛下を見送った。
部屋で待っていると、派手ではないが手の込んだドレスを身に纏った四十代半ばくらいの女性がドアをノックして入ってきた。美しいストロベリーブロンドの髪を後頭部で一つに纏めている。
「初めまして、わたくしはラヴァル侯爵家のカトリーヌと申します」
「ラヴァル様、初めまして、ディアン子爵家のレイシーです」
「これより、わたくしはレイシー様の教育係とならせていただきます。わたくしのことはラヴァル夫人とお呼びください」
「はい、ラヴァル夫人」
高貴で厳しい印象だが、決してわたくしを見下したりしないラヴァル夫人の態度に、わたくしも背筋を伸ばす。
「これより、レイシー様の採寸をさせていただきます。レイシー様が皇宮で不自由なく暮らせるように、衣服を揃えるところから始めましょう」
「よろしくお願いいたします」
さすがに皇帝陛下が仮初めとはいえ寵愛しているという建前の側妃だか妾妃だか分からないが、妃がドレスを一枚しか持っていない、しかもそれがわたくし自身の手作りであることは問題なのだろう。
抵抗するつもりはなかったので、わたくしはラヴァル夫人に従った。
ラヴァル夫人が招くと、仕立て職人さんたちが部屋に入ってくる。全員女性なのでわたくしはほっとしていた。
「そのドレスの刺繍はとても珍しいものですね。伝統ある模様ではないのですか?」
「そうなのです。ディアン子爵家の領地で受け継がれている模様です」
「その模様を新しいドレスにも刺繍させましょう」
「あの、わたくしが刺繍するというようなことは……」
「そうでしたね、レイシー様は刺繍がご趣味と伺いました。皇帝陛下はレイシー様の望みを叶えるように仰いましたが、今回はドレスの数も揃えなければいけませんので、仕立て職人にお任せください。今後、レイシー様の意志に添うようにできるようにして参りますので」
「は、はい」
我が儘を言ってしまったかもしれないと反省したが、ラヴァル夫人の対応は寛容なものだった。皇帝陛下からできる限りわたくしの望みを叶えるように言われているのだろう。
その点に関しては皇帝陛下に感謝するしかない。
下着姿になって採寸してもらって、布のサンプルを眺めて選ぶのはとても楽しかった。ドレスのデザインも選ばせてもらって、わたくしは満足してソファに座ると、ラヴァル夫人が仕立て職人さんと言葉を交わしている。
「最短で何日で仕上げられますか?」
「最初のご注文は仕立て職人総出で取り掛かります。二日もいただければ仕上げられると思います」
「それではそのように」
ラヴァル夫人に命じられて仕立て職人さんたちは深く頭を下げて部屋から退出して行った。
お茶が用意されて、ラヴァル夫人がソファのわたくしの正面に座る。
「レイシー様には妃教育を受けていただきます。語学はどの程度学んでいますか?」
「学園で習った程度は。教養と専門合わせて、この国の属国の言葉はほとんど読み書きはできると思います」
「学園を首席で卒業なさったということ聞いております。大変優秀なようですね。話す方はどうですか?」
「発音に自信のないところはあります。実際にその国の方と会話したことがないので、文法は頭に入っていても、すぐに出てこないかもしれません」
「それでは、毎日属国の会話をわたくしと致しましょう。これから昼食ですが、食事のマナーを見せていただきたいので同席してもよろしいですか?」
「何か間違っているところがあったら教えてください」
事務的ではあるがラヴァル夫人は悪いひとではなさそうだ。
わたくしのことをきちんと調べていてくださるし、評価もしてくださっている。
昼食は皇帝宮の食堂に移動したのだが、食堂も数か所あるらしい。皇帝陛下お一人のための食堂や、皇帝陛下が家族と食事をするための食堂、そして、少人数で食事をするための食堂に、大人数で食事をするための食堂。
わたくしが通されたのは少人数で食事をするための食堂だった。
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