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アレクサンテリ視点
27.ユリウスと母とのお茶会
ラヴァル夫人からはレイシーの妃教育について詳細な報告書が入っていた。
その中でもわたしが気を付けなければいけなかったのは、レイシーが学園で楽器演奏ではなく声楽を選択していたことで、レイシーが楽器を演奏することが得意ではないのではないかという危惧だった。
皇后ともなれば賓客の前で歌や楽器を披露することもある。そのときにレイシーが困るのがわたしの本意ではない。レイシーも皇后となるのだから自分の仕事はしっかりと勤めたいと思うだろう。
ラヴァル夫人だけでは家庭教師が足りなくなっているのは事実だった。
わたしはすぐに新しい家庭教師を手配させた。
ラヴァル夫人と同じく、レイシーの味方になってくれる相手で、レイシーが構えすぎなくて済む相手。
見つかったのは、音楽に優れているモンレイユ伯爵家のマルティダだった。伯爵家なので公爵家や侯爵家のようにレイシーを軽んじることはないだろう。なによりも、モンレイユ伯爵家は帝家に忠誠が厚く、わたしが命じればレイシーのことをラヴァル夫人と同じように誰よりも大事にしてくれるという確証があった。
わたしはモンレイユ夫人をレイシーの新たな家庭教師として迎えることに決めた。
モンレイユ夫人には手紙を書いてレイシーの家庭教師となることを命じ、それを受け入れてもらったところで、わたしはお茶の時間が近付いていることに気付いて執務を止めた。
「ユリウス、シリル、テオ、残りのことは任せる」
「申し訳ありませんが、わたしはこの後用事がありまして」
「珍しいな、ユリウス。それではシリルとテオ、任せた」
「心得ました」
「行ってらっしゃいませ、皇帝陛下」
執務がなくとも執務室には必ず控えていて、少しでもわたしの負担を減らそうとするユリウスが珍しいと思っていると、ユリウスはわたしを送り出す前に、足早に執務室を出ていった。
ユリウスにも大事な用があったのだろう。わたしはそれを咎めるつもりはなかった。
今日は皇太后である母にレイシーがお茶会に招かれているのだ。
レイシー一人で向かわせるのはまだ不安なのでわたしがついて行くことにしている。
皇帝宮に戻ったわたしを、レイシーは玄関ホールで待っていてくれた。
「おかえりなさいませ、アレクサンテリ陛下」
「ただいま、レイシー。待っていてくれたのかな?」
「はい、お待ちしておりました」
セシルとの間で大事にしていた「行ってらっしゃい」と「行ってきます」、「おかえりなさい」と「ただいま」をレイシーも大事にしてくれている。レイシーの声を聞き、顔を見るとわたしは安心する。
「レイシー、少しだけ待っていてくれるかな。着替えてくる」
「はい」
執務のときには皇帝の色である白に赤と金の縁取りの衣装を着ていなければいけないが、お茶会は別だ。薄い青のフロックコートを着て戻ってくると、レイシーをエスコートして皇太后宮まで行った。
皇帝宮と皇太后宮は近いので歩いて行けるが、皇宮内は広いから馬車で行かなければならないところもたくさんあった。
皇太后宮に行けば、庭のサンルームに通された。
ガラス張りで明るいサンルームは、秋も深まるこの季節でも暖かい。
サンルームには母の他に若い男性がいた。
ユリウスだ。
ユリウスの大事な用とは、このことだったのか。
「レイシー殿下、ユリウス・ノルデンと申します。ノルデン侯爵家の長男です。皇帝陛下の側近として共に執務にあたらせていただいております」
「お初にお目にかかります、ユリウス様。わたくしはレイシー・ディアンと申します。ディアン子爵家の長女です。よろしくお願いします」
立ち上がってレイシーに挨拶をするユリウスが何を考えているか分からずに、わたしは警戒してしまう。
「母上、ユリウスがどうしてここにいるのですか?」
「わたくしが呼んだのです。皇帝陛下はご自分の側近もレイシー殿下に紹介していない様子なので」
「お茶会でユリウスはレイシーの顔を見ているでしょう。婚約式でもそうです」
「ユリウス殿はあなたが結婚しないから、ご自分も結婚を控えているような忠義ものなのですよ。レイシー殿下と何かあるはずがないでしょう」
「わたしより、ユリウスの方がレイシーに年が近いではないですか!」
「たったの二歳でしょう? 皇帝陛下は冷静になってレイシー殿下の交友関係を広げるべきなのです。レイシー殿下に皇后になってほしいと伝えたのでしょう?」
ユリウスはわたしの幼馴染で、二歳年下だが、まだ結婚していなかった。その理由がわたしが結婚するまでは自分も結婚しないというものなのだが、ユリウスと婚約者との仲は良好だと聞いているし、心配するまでもないのかもしれない。
それでも、レイシーの視界に若い独身の男性が映ると思うと嫉妬してしまう。
「ユリウス、レイシーに余計なことは言わないように」
「分かっておりますよ、皇帝陛下。皇帝陛下が妃殿下のことをどれだけ大事に思っていらっしゃるかも」
ユリウスに釘を刺したが、ユリウスが大人しく黙っているとは思えなかった。
気を取り直して、わたしはレイシーと共に座って、軽食やお茶菓子を取り分ける。
「レイシーの好きなキッシュがあるよ。かぼちゃのプリンも好きだよね。モンブランは?」
「アレクサンテリ陛下、わたくし、自分で取れます」
「遠慮をしないで」
ユリウスに見せつけるようにレイシーに取り分けていると、ユリウスが含みのある笑顔を見せている。
何を言うつもりなのかユリウスを一瞥すると、ユリウスはわたしに話しかけた。
「『アレクサンテリ陛下』ですか。いい響きですね。わたしも呼ばせてもらいたいものです」
「遠慮する」
「皇帝陛下はレイシー殿下のことが大事で堪らないようですね。普段はお茶の時間すら休憩しないのに、レイシー殿下と婚約されてから、レイシー殿下とお茶をするために執務をものすごい勢いで終わらせて、皇帝宮に戻っていらっしゃいますからね」
「余計なことを言うな、ユリウス」
「いいえ、言わせていただきます。皇帝陛下は働きすぎなのですよ。わたしたちも仕事ができるのですから、ある程度は任せてくださっていいのに。レイシー殿下も言ってやってください。『皇帝陛下と一緒に過ごす時間がもっと欲しいので、執務を他のものに振り分けてください』と」
ユリウスは何を言っているのだ。
慇懃無礼とはこういうことを言うのではないだろうか。
レイシーの前なので声を荒げたくなくて、ユリウスを睨んだだけで、わたしはレイシーに向き直って笑顔を見せた。
「レイシー、気にしないで食べていいからね」
「アレクサンテリ陛下はそんなにお忙しいのですか?」
「全ての仕事を自分でなさろうとしてしまうのです。確かに皇帝陛下でしかできない執務もたくさんあります。ですが、他のものに振り分けていい仕事もあるのです」
「ユリウス!」
たしなめてユリウスを黙らせるつもりだったが、レイシーはユリウスの言葉を重く聞いたようだった。
「わたくしは、アレクサンテリ陛下に無理をしてほしくないと思っています」
レイシーに言われるとわたしも自分のやってきたことを振り返らざるを得ない。
全ての執務を皇帝だけがしてしまえば、属国から皇帝は独裁を考えているのではないかと不満も出てくる。わたしはこれしかわたしの価値がないと思って必死に執務にしがみ付いて、そのことで生きて来られたのだが、その認識を改めるときがきているのかもしれない。
「アレクサンテリ陛下が全ての執務をこなしていたら、アレクサンテリ陛下が御病気をなさったり、休みたいと思ったときに、皇帝宮の執務が滞ります。仕事をできるものに振り分けるのは、皇宮の執務を滞りなく行うためには、大切なことだと思います」
レイシーの言う通りだった。
「全ての執務をアレクサンテリ陛下がやってしまえば、それに関して把握しているのがアレクサンテリ陛下しかいなくなります。万が一のことは考えたくないのですが、アレクサンテリ陛下に何かあって抜けるようなことがあった場合には、誰もその執務を肩代わりできないのです。普段から執務を振り分けておけば、アレクサンテリ陛下が抜けるようなことがあっても、執務は滞りなく行われます。確かに、皇帝陛下しか判断できないことはありますが、それ以外のことの方が多いでしょう。最初は引継ぎなどで面倒かと思いますが、長期の国の経営を考えていけば、アレクサンテリ陛下に何かあったときの保険は大事です」
詳しく述べるレイシーは、学園でも領地経営を習っていたのだろう。本来ならばレイシーがディアン子爵家の当主となるはずだったのだ。領地経営についても深い考えがあった。
レイシーの意見にユリウスが惜しみなく拍手をしている。
わたしもレイシーの意見を認めざるを得なかった。
レイシーの肩を抱き寄せ、わたしはため息をついた。
「わたしの妃はどうしてこんなにも聡明なのだろう。そんな風に言われてしまうと、従うしかなくなってしまうではないか」
「アレクサンテリ陛下がわたくしに従うなど恐れ多いです」
「レイシーの言っていることは正しい。わたしが一人で背負いすぎていたのだ」
ずっとわたし一人で執務を担ってきたが、それがどれだけ傲慢だったのかをレイシーに思い知らされる。わたしはもっと周囲を頼るべきだった。孤独で誰も信用できなかったわたしには、それは難しいことだったが、今では違う。レイシーが皇帝宮に来てからわたしは変わったのだ。
「差し出がましい口を聞きました」
「いや、レイシーに皇后の素質があると実感させられた。やはりレイシーは素晴らしい」
こんなところもレイシーには皇后の素質があると実感させられるし、何より、このことがディアン子爵家の功績にならないかをわたしは考え始めていた。
ディアン子爵家出身のレイシーが属国が皇帝が独裁を考えているのではないかという不安を晴らしたとなれば、高く評価される。
ディアン子爵家のためにも、わたしは働き方を変える決意をした。
「さすがはレイシー殿下ですね、わたくしたちが十年間皇帝陛下に言い続けていたことが、やっと叶えられそうです」
「妃殿下は頼りになります。皇帝陛下が妃殿下を皇后陛下に望むのも分かります」
母とユリウスが感心しているが、わたしはユリウスと母がこのことを考えてレイシーをお茶会に呼んだのではないかと思っていた。
探るように二人を試してみる。
「レイシーのことをそのように見るな。減る」
「見られたくらいでは減りません」
「レイシー、ユリウスは独身なのだ。レイシーには一番近付けたくなかった」
「わたくしはアレクサンテリ陛下以外を想うことはありません」
ユリウスに嫉妬しているふりでユリウスの考えを試せば、しれっと返事をするので、やはりわたしはユリウスと母の策略にはまったのだろうと理解していた。
その中でもわたしが気を付けなければいけなかったのは、レイシーが学園で楽器演奏ではなく声楽を選択していたことで、レイシーが楽器を演奏することが得意ではないのではないかという危惧だった。
皇后ともなれば賓客の前で歌や楽器を披露することもある。そのときにレイシーが困るのがわたしの本意ではない。レイシーも皇后となるのだから自分の仕事はしっかりと勤めたいと思うだろう。
ラヴァル夫人だけでは家庭教師が足りなくなっているのは事実だった。
わたしはすぐに新しい家庭教師を手配させた。
ラヴァル夫人と同じく、レイシーの味方になってくれる相手で、レイシーが構えすぎなくて済む相手。
見つかったのは、音楽に優れているモンレイユ伯爵家のマルティダだった。伯爵家なので公爵家や侯爵家のようにレイシーを軽んじることはないだろう。なによりも、モンレイユ伯爵家は帝家に忠誠が厚く、わたしが命じればレイシーのことをラヴァル夫人と同じように誰よりも大事にしてくれるという確証があった。
わたしはモンレイユ夫人をレイシーの新たな家庭教師として迎えることに決めた。
モンレイユ夫人には手紙を書いてレイシーの家庭教師となることを命じ、それを受け入れてもらったところで、わたしはお茶の時間が近付いていることに気付いて執務を止めた。
「ユリウス、シリル、テオ、残りのことは任せる」
「申し訳ありませんが、わたしはこの後用事がありまして」
「珍しいな、ユリウス。それではシリルとテオ、任せた」
「心得ました」
「行ってらっしゃいませ、皇帝陛下」
執務がなくとも執務室には必ず控えていて、少しでもわたしの負担を減らそうとするユリウスが珍しいと思っていると、ユリウスはわたしを送り出す前に、足早に執務室を出ていった。
ユリウスにも大事な用があったのだろう。わたしはそれを咎めるつもりはなかった。
今日は皇太后である母にレイシーがお茶会に招かれているのだ。
レイシー一人で向かわせるのはまだ不安なのでわたしがついて行くことにしている。
皇帝宮に戻ったわたしを、レイシーは玄関ホールで待っていてくれた。
「おかえりなさいませ、アレクサンテリ陛下」
「ただいま、レイシー。待っていてくれたのかな?」
「はい、お待ちしておりました」
セシルとの間で大事にしていた「行ってらっしゃい」と「行ってきます」、「おかえりなさい」と「ただいま」をレイシーも大事にしてくれている。レイシーの声を聞き、顔を見るとわたしは安心する。
「レイシー、少しだけ待っていてくれるかな。着替えてくる」
「はい」
執務のときには皇帝の色である白に赤と金の縁取りの衣装を着ていなければいけないが、お茶会は別だ。薄い青のフロックコートを着て戻ってくると、レイシーをエスコートして皇太后宮まで行った。
皇帝宮と皇太后宮は近いので歩いて行けるが、皇宮内は広いから馬車で行かなければならないところもたくさんあった。
皇太后宮に行けば、庭のサンルームに通された。
ガラス張りで明るいサンルームは、秋も深まるこの季節でも暖かい。
サンルームには母の他に若い男性がいた。
ユリウスだ。
ユリウスの大事な用とは、このことだったのか。
「レイシー殿下、ユリウス・ノルデンと申します。ノルデン侯爵家の長男です。皇帝陛下の側近として共に執務にあたらせていただいております」
「お初にお目にかかります、ユリウス様。わたくしはレイシー・ディアンと申します。ディアン子爵家の長女です。よろしくお願いします」
立ち上がってレイシーに挨拶をするユリウスが何を考えているか分からずに、わたしは警戒してしまう。
「母上、ユリウスがどうしてここにいるのですか?」
「わたくしが呼んだのです。皇帝陛下はご自分の側近もレイシー殿下に紹介していない様子なので」
「お茶会でユリウスはレイシーの顔を見ているでしょう。婚約式でもそうです」
「ユリウス殿はあなたが結婚しないから、ご自分も結婚を控えているような忠義ものなのですよ。レイシー殿下と何かあるはずがないでしょう」
「わたしより、ユリウスの方がレイシーに年が近いではないですか!」
「たったの二歳でしょう? 皇帝陛下は冷静になってレイシー殿下の交友関係を広げるべきなのです。レイシー殿下に皇后になってほしいと伝えたのでしょう?」
ユリウスはわたしの幼馴染で、二歳年下だが、まだ結婚していなかった。その理由がわたしが結婚するまでは自分も結婚しないというものなのだが、ユリウスと婚約者との仲は良好だと聞いているし、心配するまでもないのかもしれない。
それでも、レイシーの視界に若い独身の男性が映ると思うと嫉妬してしまう。
「ユリウス、レイシーに余計なことは言わないように」
「分かっておりますよ、皇帝陛下。皇帝陛下が妃殿下のことをどれだけ大事に思っていらっしゃるかも」
ユリウスに釘を刺したが、ユリウスが大人しく黙っているとは思えなかった。
気を取り直して、わたしはレイシーと共に座って、軽食やお茶菓子を取り分ける。
「レイシーの好きなキッシュがあるよ。かぼちゃのプリンも好きだよね。モンブランは?」
「アレクサンテリ陛下、わたくし、自分で取れます」
「遠慮をしないで」
ユリウスに見せつけるようにレイシーに取り分けていると、ユリウスが含みのある笑顔を見せている。
何を言うつもりなのかユリウスを一瞥すると、ユリウスはわたしに話しかけた。
「『アレクサンテリ陛下』ですか。いい響きですね。わたしも呼ばせてもらいたいものです」
「遠慮する」
「皇帝陛下はレイシー殿下のことが大事で堪らないようですね。普段はお茶の時間すら休憩しないのに、レイシー殿下と婚約されてから、レイシー殿下とお茶をするために執務をものすごい勢いで終わらせて、皇帝宮に戻っていらっしゃいますからね」
「余計なことを言うな、ユリウス」
「いいえ、言わせていただきます。皇帝陛下は働きすぎなのですよ。わたしたちも仕事ができるのですから、ある程度は任せてくださっていいのに。レイシー殿下も言ってやってください。『皇帝陛下と一緒に過ごす時間がもっと欲しいので、執務を他のものに振り分けてください』と」
ユリウスは何を言っているのだ。
慇懃無礼とはこういうことを言うのではないだろうか。
レイシーの前なので声を荒げたくなくて、ユリウスを睨んだだけで、わたしはレイシーに向き直って笑顔を見せた。
「レイシー、気にしないで食べていいからね」
「アレクサンテリ陛下はそんなにお忙しいのですか?」
「全ての仕事を自分でなさろうとしてしまうのです。確かに皇帝陛下でしかできない執務もたくさんあります。ですが、他のものに振り分けていい仕事もあるのです」
「ユリウス!」
たしなめてユリウスを黙らせるつもりだったが、レイシーはユリウスの言葉を重く聞いたようだった。
「わたくしは、アレクサンテリ陛下に無理をしてほしくないと思っています」
レイシーに言われるとわたしも自分のやってきたことを振り返らざるを得ない。
全ての執務を皇帝だけがしてしまえば、属国から皇帝は独裁を考えているのではないかと不満も出てくる。わたしはこれしかわたしの価値がないと思って必死に執務にしがみ付いて、そのことで生きて来られたのだが、その認識を改めるときがきているのかもしれない。
「アレクサンテリ陛下が全ての執務をこなしていたら、アレクサンテリ陛下が御病気をなさったり、休みたいと思ったときに、皇帝宮の執務が滞ります。仕事をできるものに振り分けるのは、皇宮の執務を滞りなく行うためには、大切なことだと思います」
レイシーの言う通りだった。
「全ての執務をアレクサンテリ陛下がやってしまえば、それに関して把握しているのがアレクサンテリ陛下しかいなくなります。万が一のことは考えたくないのですが、アレクサンテリ陛下に何かあって抜けるようなことがあった場合には、誰もその執務を肩代わりできないのです。普段から執務を振り分けておけば、アレクサンテリ陛下が抜けるようなことがあっても、執務は滞りなく行われます。確かに、皇帝陛下しか判断できないことはありますが、それ以外のことの方が多いでしょう。最初は引継ぎなどで面倒かと思いますが、長期の国の経営を考えていけば、アレクサンテリ陛下に何かあったときの保険は大事です」
詳しく述べるレイシーは、学園でも領地経営を習っていたのだろう。本来ならばレイシーがディアン子爵家の当主となるはずだったのだ。領地経営についても深い考えがあった。
レイシーの意見にユリウスが惜しみなく拍手をしている。
わたしもレイシーの意見を認めざるを得なかった。
レイシーの肩を抱き寄せ、わたしはため息をついた。
「わたしの妃はどうしてこんなにも聡明なのだろう。そんな風に言われてしまうと、従うしかなくなってしまうではないか」
「アレクサンテリ陛下がわたくしに従うなど恐れ多いです」
「レイシーの言っていることは正しい。わたしが一人で背負いすぎていたのだ」
ずっとわたし一人で執務を担ってきたが、それがどれだけ傲慢だったのかをレイシーに思い知らされる。わたしはもっと周囲を頼るべきだった。孤独で誰も信用できなかったわたしには、それは難しいことだったが、今では違う。レイシーが皇帝宮に来てからわたしは変わったのだ。
「差し出がましい口を聞きました」
「いや、レイシーに皇后の素質があると実感させられた。やはりレイシーは素晴らしい」
こんなところもレイシーには皇后の素質があると実感させられるし、何より、このことがディアン子爵家の功績にならないかをわたしは考え始めていた。
ディアン子爵家出身のレイシーが属国が皇帝が独裁を考えているのではないかという不安を晴らしたとなれば、高く評価される。
ディアン子爵家のためにも、わたしは働き方を変える決意をした。
「さすがはレイシー殿下ですね、わたくしたちが十年間皇帝陛下に言い続けていたことが、やっと叶えられそうです」
「妃殿下は頼りになります。皇帝陛下が妃殿下を皇后陛下に望むのも分かります」
母とユリウスが感心しているが、わたしはユリウスと母がこのことを考えてレイシーをお茶会に呼んだのではないかと思っていた。
探るように二人を試してみる。
「レイシーのことをそのように見るな。減る」
「見られたくらいでは減りません」
「レイシー、ユリウスは独身なのだ。レイシーには一番近付けたくなかった」
「わたくしはアレクサンテリ陛下以外を想うことはありません」
ユリウスに嫉妬しているふりでユリウスの考えを試せば、しれっと返事をするので、やはりわたしはユリウスと母の策略にはまったのだろうと理解していた。
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