89 / 120
三章 セラフィナの婚約
29.ギマール先生とオトテール先生
ミカの家庭教師の先生は、薄茶色の目に薄茶色の髪の若い女性だった。年齢は二十代前半くらいだろう。
初めての授業の日は、わたくしもラファエルお兄様もお父様とお母様にお願いして同席させてもらった。
「ミカエル殿下、ドリアーヌ・ギマールと申します。ギマールとお呼びください」
「ギマールてんてー?」
「はい、どうぞよろしくお願いします」
ギマール先生はミカに教えるために教材やハープを持ち込んでいた。
まずは文字を教えるための絵本のような教材をミカに渡す。ミカはページを開けて読んでいた。
「こえ、あり」
「そうです。それが蟻の『あ』です」
「あ!」
「はい、『あ』です」
「あ」から始まって、「い」「う」「え」「お」と犬、牛、鉛筆、鬼などの絵が描かれた本のページをミカが捲っていく。
「こえは?」
「貝の『か』ですね」
「か!」
楽しそうに声に出してミカは読み上げていた。
文字を読む練習が終わると、ギマール先生は手持ちの小さなハープを取り出してミカのために曲を弾く。
「曲が鳴っているときには、歩いてください。曲が止まったら、しゃがんで止まってください」
「あい!」
ハープの音を聞きながら音に合わせて子ども部屋を歩くミカ。曲が止まると、はっとしてその場にしゃがみ込む。
「とても上手ですよ、ミカエル殿下」
「わたち、じょーじゅ!」
「もう一度やりましょうか」
「あい!」
ギマール先生の授業はとても易しく、ミカは楽しんで授業を受けられているようだった。
「今日の授業はこれでお終いです。ありがとうございました、ミカエル殿下」
「ありがとうごじゃまちた、ギマールてんてー」
「ご挨拶まで上手にできましたね。素晴らしいです」
「わたち、すばらちい!」
ミカはまだ小さいので、文字の練習が三十分、音楽を聞いて遊ぶ授業が十分くらいで終わった。ギマール先生が挨拶をして帰って行くと、ミカはさっそくもらった教材の本を見ながら、絵本を読んでいた。
「こえが、『あ』で、こえが『か』……にぃに、ねぇね、こえ『あか』ってかいてある!」
「そうですよ、そこには赤と書いてあります」
「『赤いリンゴ』だね。ミカエル、上手に読めているよ」
習ったことを早速復習しているミカに、わたくしもラファエルお兄様も、ミカはいい先生に出会ったのではないかと思っていた。
お茶の時間にはお父様とお母様がご一緒して、わたくしとラファエルお兄様にミカの先生について聞いてきた。
「ミカエルの先生はどうだった?」
「ギマール男爵夫人でしたが、ミカエルに合っているようでしたか?」
「ミカはとても楽しそうでした」
「先生が帰った後で、ミカエルは教材を見て自分で本を読んでいました」
ミカの先生がよい方だと分かったようでお父様もお母様も安心していた。
「ミカエル、先生の授業は楽しかったかな?」
「あい! わたち、じがよめるようになったの」
「先生は遊んでくれましたか?」
「あい! ハープをひいて、おとがとまったら、わたち、とまるの。たのちかった!」
文字を読む練習と、ハープを使っての音楽に乗せた遊びはミカの心に響いたようだった。これからもギマール先生がミカが楽しんで学べるようにしてくれればいいとわたくしは思っていた。
バロワン先生とわたくしとの授業には、新聞を読むことも入ってきていた。
新聞に載っていた記事に、わたくしの目は釘付けになる。
『セルフィナ伯爵家とルナール男爵家の繋がりが明らかになる。ルナール男爵家の手配した暗殺者に襲われたベルンハルト公爵家の馬車。ルナール男爵はセルフィナ伯爵家に命じられて暗殺者を手配したと供述していたが、ついにセルフィナ伯爵家からルナール男爵家との繋がりが発見される。その証拠を元に、セルフィナ伯爵家は断罪されて、当主は北の収容所で強制労働、子どもたちは平民に落とされ、セルフィナ伯爵家はお取り潰しとなることが決まった』
アルベルト様暗殺未遂事件の決着がついについたのだ。
調べるのに六年もかかってしまっているが、それも仕方がないだろう。貴族社会の闇の中で有耶無耶にされてきた事実が、白日の下に晒された。
わたくしはバロワン先生に問いかける。
「北の収容所とはどのようなところですか?」
「一年の半分以上を雪に閉ざされた場所です。とても厳しい環境で、罪人たちが鉱山に閉じ込められて、強制労働をさせられています」
「鉱山……北には鉱山があるのですか?」
「はい。この国で必要とされる鉄鉱石はほとんどがその鉱山から掘り出されています。環境は厳しいですが、北の領地は鉱山のおかげで豊かなのです」
北に鉱山があったなんてわたくしは知らなかった。
強制労働をさせられるセルフィナ伯爵家の当主は当然の罰を受けるのだろうが、鉱山では労働者が増えてありがたいのかもしれない。
「他に、そのような強制労働をさせる場所がありますか?」
「南に、岩塩が取れる山があります。非常に山が険しい上に、暑さが厳しいので、労働者がなかなかおらず、犯罪を犯した者の強制労働所となっています」
南には岩塩が取れる山があるのか。
それもわたくしは知らなかった。
「岩塩……塩ですよね。塩は生活に欠かせません。その地域で、この国の何割くらいの塩を賄っているのでしょう?」
「その地域でこの国の六割の塩を賄っている計算になりますね」
北の鉄鉱石の鉱山も大事だが、南の岩塩の取れる山も大事だ。
わたくしはしっかりと頭に刻み込んだ。
地理の勉強もしつつ、わたくしはその日の授業を終えた。
授業が終わって帰り支度をしているバロワン先生に、わたくしは聞いてみる。
「ギマール男爵夫人をご存じですか?」
「はい、存じ上げております。どうかなさいましたか?」
「ギマール男爵夫人が、弟のミカエルの家庭教師になったのです。ハープを使った珍しい遊びをしてくれて、ミカエルは楽しんでいました」
わたくしの言葉を聞いて、バロワン先生はギマール先生について教えてくれた。
「ギマール男爵夫人は、音楽がとても得意なので有名なのですよ。ハープもお上手ですが、ピアノもバイオリンもとてもお上手だと聞いています。ミカエル殿下の情操教育には最適な人材でしょう」
「ピアノも、バイオリンも!」
「この棟の中にも、ピアノが設置された音楽室があります。セラフィナ殿下もそろそろピアノの指南を受けてもいいころですね」
貴族や皇族の子息令嬢には、音楽教育も行われるのだ。
わたくしはまだ始めていなかったが、ピアノやバイオリンを弾くようになるとは聞いていた。
確か、ラファエルお兄様もピアノが弾けたのではないだろうか。
「わたくし、ピアノを弾いてみたいです」
「皇帝陛下にお伝えして、ピアノの教師を手配してもらうようにしましょう」
「バロワン先生ではいけないのですか?」
「わたくしは教えられるほどピアノを弾けるわけではありませんので」
バロワン先生は万能のような気がしていたが、音楽は教えられないようだ。
わたくしはお父様とお母様にピアノの先生を手配してもらうことになりそうだった。
わたくしのピアノの先生は、ラファエルお兄様にピアノを教えていた先生が担当してくれることになった。
「ドミニク・オトテールと申します。ラファエル殿下にもピアノを教えさせていただいておりました」
「セラフィナ・アストリアノスです。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ピアノの椅子の高さを変えるところから、オトテール先生は教えてくれた。椅子の後ろのつまみを握って、わたくしの身長に合うようにピアノの椅子を高くする。オトテール先生は自分の椅子を高さ調節していた。
「ピアノは簡単な楽器なのですよ。押せば音が出ます」
「弾くのは難しくないですか?」
「練習していけばできるようになります」
最初は簡単な運指法から教えてもらう。
わたくしの手は小さくて力が弱いのでなかなか音が出せないが、オトテール先生は根気強く教えてくれた。
「毎日三十分練習をするようにしてください」
「はい」
「それで慣れてきたら、一時間に増やしましょう」
ピアノの練習は前世ではしたことがなかったので、一から始めることになる。
わたくしはピアノが上達する日を夢見ていた。
初めての授業の日は、わたくしもラファエルお兄様もお父様とお母様にお願いして同席させてもらった。
「ミカエル殿下、ドリアーヌ・ギマールと申します。ギマールとお呼びください」
「ギマールてんてー?」
「はい、どうぞよろしくお願いします」
ギマール先生はミカに教えるために教材やハープを持ち込んでいた。
まずは文字を教えるための絵本のような教材をミカに渡す。ミカはページを開けて読んでいた。
「こえ、あり」
「そうです。それが蟻の『あ』です」
「あ!」
「はい、『あ』です」
「あ」から始まって、「い」「う」「え」「お」と犬、牛、鉛筆、鬼などの絵が描かれた本のページをミカが捲っていく。
「こえは?」
「貝の『か』ですね」
「か!」
楽しそうに声に出してミカは読み上げていた。
文字を読む練習が終わると、ギマール先生は手持ちの小さなハープを取り出してミカのために曲を弾く。
「曲が鳴っているときには、歩いてください。曲が止まったら、しゃがんで止まってください」
「あい!」
ハープの音を聞きながら音に合わせて子ども部屋を歩くミカ。曲が止まると、はっとしてその場にしゃがみ込む。
「とても上手ですよ、ミカエル殿下」
「わたち、じょーじゅ!」
「もう一度やりましょうか」
「あい!」
ギマール先生の授業はとても易しく、ミカは楽しんで授業を受けられているようだった。
「今日の授業はこれでお終いです。ありがとうございました、ミカエル殿下」
「ありがとうごじゃまちた、ギマールてんてー」
「ご挨拶まで上手にできましたね。素晴らしいです」
「わたち、すばらちい!」
ミカはまだ小さいので、文字の練習が三十分、音楽を聞いて遊ぶ授業が十分くらいで終わった。ギマール先生が挨拶をして帰って行くと、ミカはさっそくもらった教材の本を見ながら、絵本を読んでいた。
「こえが、『あ』で、こえが『か』……にぃに、ねぇね、こえ『あか』ってかいてある!」
「そうですよ、そこには赤と書いてあります」
「『赤いリンゴ』だね。ミカエル、上手に読めているよ」
習ったことを早速復習しているミカに、わたくしもラファエルお兄様も、ミカはいい先生に出会ったのではないかと思っていた。
お茶の時間にはお父様とお母様がご一緒して、わたくしとラファエルお兄様にミカの先生について聞いてきた。
「ミカエルの先生はどうだった?」
「ギマール男爵夫人でしたが、ミカエルに合っているようでしたか?」
「ミカはとても楽しそうでした」
「先生が帰った後で、ミカエルは教材を見て自分で本を読んでいました」
ミカの先生がよい方だと分かったようでお父様もお母様も安心していた。
「ミカエル、先生の授業は楽しかったかな?」
「あい! わたち、じがよめるようになったの」
「先生は遊んでくれましたか?」
「あい! ハープをひいて、おとがとまったら、わたち、とまるの。たのちかった!」
文字を読む練習と、ハープを使っての音楽に乗せた遊びはミカの心に響いたようだった。これからもギマール先生がミカが楽しんで学べるようにしてくれればいいとわたくしは思っていた。
バロワン先生とわたくしとの授業には、新聞を読むことも入ってきていた。
新聞に載っていた記事に、わたくしの目は釘付けになる。
『セルフィナ伯爵家とルナール男爵家の繋がりが明らかになる。ルナール男爵家の手配した暗殺者に襲われたベルンハルト公爵家の馬車。ルナール男爵はセルフィナ伯爵家に命じられて暗殺者を手配したと供述していたが、ついにセルフィナ伯爵家からルナール男爵家との繋がりが発見される。その証拠を元に、セルフィナ伯爵家は断罪されて、当主は北の収容所で強制労働、子どもたちは平民に落とされ、セルフィナ伯爵家はお取り潰しとなることが決まった』
アルベルト様暗殺未遂事件の決着がついについたのだ。
調べるのに六年もかかってしまっているが、それも仕方がないだろう。貴族社会の闇の中で有耶無耶にされてきた事実が、白日の下に晒された。
わたくしはバロワン先生に問いかける。
「北の収容所とはどのようなところですか?」
「一年の半分以上を雪に閉ざされた場所です。とても厳しい環境で、罪人たちが鉱山に閉じ込められて、強制労働をさせられています」
「鉱山……北には鉱山があるのですか?」
「はい。この国で必要とされる鉄鉱石はほとんどがその鉱山から掘り出されています。環境は厳しいですが、北の領地は鉱山のおかげで豊かなのです」
北に鉱山があったなんてわたくしは知らなかった。
強制労働をさせられるセルフィナ伯爵家の当主は当然の罰を受けるのだろうが、鉱山では労働者が増えてありがたいのかもしれない。
「他に、そのような強制労働をさせる場所がありますか?」
「南に、岩塩が取れる山があります。非常に山が険しい上に、暑さが厳しいので、労働者がなかなかおらず、犯罪を犯した者の強制労働所となっています」
南には岩塩が取れる山があるのか。
それもわたくしは知らなかった。
「岩塩……塩ですよね。塩は生活に欠かせません。その地域で、この国の何割くらいの塩を賄っているのでしょう?」
「その地域でこの国の六割の塩を賄っている計算になりますね」
北の鉄鉱石の鉱山も大事だが、南の岩塩の取れる山も大事だ。
わたくしはしっかりと頭に刻み込んだ。
地理の勉強もしつつ、わたくしはその日の授業を終えた。
授業が終わって帰り支度をしているバロワン先生に、わたくしは聞いてみる。
「ギマール男爵夫人をご存じですか?」
「はい、存じ上げております。どうかなさいましたか?」
「ギマール男爵夫人が、弟のミカエルの家庭教師になったのです。ハープを使った珍しい遊びをしてくれて、ミカエルは楽しんでいました」
わたくしの言葉を聞いて、バロワン先生はギマール先生について教えてくれた。
「ギマール男爵夫人は、音楽がとても得意なので有名なのですよ。ハープもお上手ですが、ピアノもバイオリンもとてもお上手だと聞いています。ミカエル殿下の情操教育には最適な人材でしょう」
「ピアノも、バイオリンも!」
「この棟の中にも、ピアノが設置された音楽室があります。セラフィナ殿下もそろそろピアノの指南を受けてもいいころですね」
貴族や皇族の子息令嬢には、音楽教育も行われるのだ。
わたくしはまだ始めていなかったが、ピアノやバイオリンを弾くようになるとは聞いていた。
確か、ラファエルお兄様もピアノが弾けたのではないだろうか。
「わたくし、ピアノを弾いてみたいです」
「皇帝陛下にお伝えして、ピアノの教師を手配してもらうようにしましょう」
「バロワン先生ではいけないのですか?」
「わたくしは教えられるほどピアノを弾けるわけではありませんので」
バロワン先生は万能のような気がしていたが、音楽は教えられないようだ。
わたくしはお父様とお母様にピアノの先生を手配してもらうことになりそうだった。
わたくしのピアノの先生は、ラファエルお兄様にピアノを教えていた先生が担当してくれることになった。
「ドミニク・オトテールと申します。ラファエル殿下にもピアノを教えさせていただいておりました」
「セラフィナ・アストリアノスです。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ピアノの椅子の高さを変えるところから、オトテール先生は教えてくれた。椅子の後ろのつまみを握って、わたくしの身長に合うようにピアノの椅子を高くする。オトテール先生は自分の椅子を高さ調節していた。
「ピアノは簡単な楽器なのですよ。押せば音が出ます」
「弾くのは難しくないですか?」
「練習していけばできるようになります」
最初は簡単な運指法から教えてもらう。
わたくしの手は小さくて力が弱いのでなかなか音が出せないが、オトテール先生は根気強く教えてくれた。
「毎日三十分練習をするようにしてください」
「はい」
「それで慣れてきたら、一時間に増やしましょう」
ピアノの練習は前世ではしたことがなかったので、一から始めることになる。
わたくしはピアノが上達する日を夢見ていた。
あなたにおすすめの小説
異世界転生しました!・・・で、私は誰?
高坂ナツキ
恋愛
気づいたら、目の間には見慣れぬ天井が……オタクだったわたしはすぐに異世界転生したと気づいた。
……で? わたしは誰? 自分や両親の名前を聞いても該当の物語が思い浮かばないんだけど、主人公たちって良く「○○の世界に転生したんだ!」ってわかるよね?
ま、主人公だろうと悪役令嬢だろうと、あるいはモブだろうと平穏無事に過ごせればいいか。
これはローズマリー・グラースという公爵令嬢に転生してしまった主人公が、クセのある人物たちに翻弄されながらも平穏無事に生きていくお話。
わかりづらいですが、
前世の自分を語るとき:わたし、転生後の自分を語るとき:私
と、1人称の表記ゆれがありますが、誤字ではありません。
5月は1~3日は7:00と17:00の2回投稿。4日以降は7:00投稿
6月以降は偶数日7:00投稿となります
赤毛の伯爵令嬢
もも野はち助
恋愛
【あらすじ】
幼少期、妹と同じ美しいプラチナブロンドだった伯爵令嬢のクレア。
しかし10歳頃から急に癖のある赤毛になってしまう。逆に美しいプラチナブロンドのまま自由奔放に育った妹ティアラは、その美貌で周囲を魅了していた。いつしかクレアの婚約者でもあるイアルでさえ、妹に好意を抱いている事を知ったクレアは、彼の為に婚約解消を考える様になる。そんな時、妹のもとに曰く付きの公爵から婚約を仄めかすような面会希望の話がやってくる。噂を鵜呑みにし嫌がる妹と、妹を公爵に面会させたくない両親から頼まれ、クレアが代理で公爵と面会する事になってしまったのだが……。
※1:本編17話+番外編4話。
※2:ざまぁは無し。ただし妹がイラッとさせる無自覚系KYキャラ。
※3:全体的にヒロインへのヘイト管理が皆無の作品なので、読まれる際は自己責任でお願い致します。
悪役令嬢の私が育てた義息子が天使すぎる~子は親の鏡というけれど~
放浪人
恋愛
社交界で高慢、冷酷、傲慢と嫌われ、“悪役令嬢”の汚名を着せられた侯爵令嬢ヴィオレッタ・アシュベリー。婚約破棄と断罪の末、彼女は厄介払い同然に北方辺境のヴァレンティス公爵家へ嫁がされることになる。夫となるのは、寡黙で苛烈な北方公爵レオンハルト。そしてその家には、亡き前妻の忘れ形見である七歳の嫡男ルカがいた。
初対面のルカは、あまりにも完璧だった。
礼儀正しく、利発で、聞き分けがよく、誰の手も煩わせない。まるで天使のような子ども――けれどヴィオレッタはすぐに気づく。この子は、“いい子”なのではない。“いい子でいなければ、捨てられると思い込んでいる”のだと。
人の本心を映す希少な鏡魔法を持ち、その力ゆえに王都で疎まれたヴィオレッタは、ルカの笑顔の奥にある不安と諦めを見抜く。最初は継母としても公爵夫人としても歓迎されず、夫には疑われ、使用人たちには警戒される。だが彼女は、ただ一つだけ決める。
――この子だけは、大人の都合で傷つけさせない。
温かな食卓。雪の日の散歩。夜更けの絵本。熱を出した夜の震える手。少しずつ、ほんの少しずつ、ルカはヴィオレッタの前でだけ“子ども”になっていく。やがてその変化は、公爵家の空気を変え、父であるレオンハルトの後悔を呼び起こし、閉ざされていた家族の時間を動かし始める。
だが、ヴィオレッタを悪役令嬢に仕立て上げた王都の陰謀はまだ終わっていなかった。北方を守る古代の大鏡、ルカに宿る特別な祝福、公爵家を操ろうとする王家の思惑。すべてが交錯するなか、ヴィオレッタはついに知る。ルカが“いい子”をやめられなかった本当の理由を。そして、自分自身もまた、誰かに正しく愛されたことがなかったのだと。
これは、悪役令嬢と呼ばれた不器用な女が、義息子の母となり、夫の家族となり、ひとつの家を、ひとりの子どもの未来を、そして自分自身の幸せを取り戻していく物語。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
学園の華たちが婚約者を奪いに来る
nanahi
恋愛
「私の方がルアージュ様に相応しいわ」
また始まった。毎日のように王立学園の華たちが私のクラスにやってきては、婚約者のルアージュ様をよこせと言う。
「どんな手段を使って王太子殿下との婚約を取り付けたのかしら?どうせ汚い手でしょ?」
はぁ。私から婚約したいと申し出たことなんて一度もないのに。見目麗しく、優雅で優しいルアージュ様は令嬢達にとても人気がある。それなのにどうして元平民の私に婚約の話が舞い込んだのか不思議で仕方がない。
「シャロン。メガネは人前では外さないように。絶対にだ」
入学式の日、ルアージュ様が私に言った。きっと、ひどい近視で丸メガネの地味な私が恥ずかしいんだ。だからそんなことを言うのだろう。勝手に私はそう思いこんでいたけど、どうやら違ったみたいで……?
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
異世界転移って?とりあえず設定を教えて下さい
ゆみ
恋愛
凛花はトラックに轢かれた記憶も階段から落ちた記憶もない。それなのに気が付いたらよくある異世界に転がっていた。
取り敢えずは言葉も通じる様だし周りの人達に助けられながら自分の立ち位置を把握しようと試みるものの、凛花を拾ってくれたイケメン騎士はどう考えてもこの異世界での攻略対象者…。しかもヒロインは凛花よりも先に既にこの世界に転生しているようだった。ヒロインを中心に回っていたこのストーリーに凛花の出番はないはずなのにイケメン騎士と王女、王太子までもが次々に目の前に現れ、記憶とだんだん噛み合わなくなってくる展開に翻弄される凛花。この先の展開は一体どうなるの?