やんのかステップの子猫ちゃんとスパダリは運命でした

秋月真鳥

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1.ファビアンの運命の相手との出会い

 ファビアン・フーゴ・ウーレンフートが極東の島国に来たのには理由があった。
 ファビアンの両親の製薬会社が日本の製薬会社を買収して、ファビアンがその会社の社長になったのだ。
 通訳は準備していたが、ファビアンは日本語も英語も喋れるし、読み書きができる。それでも喋れないふりをして、社内での日本語での会話を聞いてファビアンは情報収集することにした。

 ファビアンの買収した製薬会社では、運命の研究もされていた。

 この世界では男性でも女性でも妊娠することも、孕ませることもできるので、恋愛に於いて大事なのは性別ではなく、運命かどうかだ。
 運命の相手とのセックスは溺れるほどに悦く、性格の相性もよくて、妊娠する確率も上がって、子どもが生まれると優秀だということで、運命の相手は特別なものとされていた。
 運命を信じるものと信じないものがいるが、そのどちらも出会ってしまえばどうしようもないという話である。

 製薬会社の研究チームは運命の研究をしていて、運命が遺伝子的なもので左右されるのではないかという仮説を立てていた。遺伝子の相性のいいものと運命として結ばれるという説である。
 その説に則って、社員は血液検査をして運命の相手との相性を調べるようなこともしているようだ。

「社長もいかがですかと聞かれていますよ」

 通訳に言われてファビアンは顎を撫でる。髭をきちんと剃ってあるファビアンの顎はつるりとして白い。金髪のファビアンは髭も濃い方ではなくて、体毛も薄い方だった。
 母国ではそれは男らしくないと考えられているが、日本に来てみれば周囲の男性はほとんどつるりとした顔をして、体毛も薄いようだ。
 背も高く顔立ちも整っているのに、男らしさが少ないと言われて恋愛に関わりのなかったファビアンも、この国の美意識ならばなんとかなるのではないかと思っていた。

「治験にはどんなひとが参加しているのかな?」
「社員と、バイトで雇った学生などと聞いています」

 社員と恋愛関係に陥る気持ちはなかったが、バイトで雇った学生などがいるのならばそこに運命の相手がいるかもしれない。
 ファビアンの両親は運命の相手同士で、ファビアンが生まれたときからずっと仲睦まじかったので、ファビアンも運命の相手に憧れていた。

「検査は難しいのか?」
「血液検査だけだそうですよ。それで遺伝子を調べるそうです」

 佐野さの菜摘なつみという名前の通訳は、背の高い女性で、いつもファビアンの問いかけに先に答えを用意しているかのように聡明に話す。彼女のことは恋愛はともかくとして、ビジネスパートナーとしてファビアンは非常に気に入っていた。

「サノも治験に参加しているのか?」
「私は、この研究で運命を見付けました」

 プライベートなことは普段は喋らない菜摘の口から零れた言葉に、ファビアンはますます研究に興味を持った。

「運命が見付かることがあるのか……。それなら研究に参加してみようか」

 そして、ファビアンは血液検査を受けた。
 結果が出るまでにしばらくの時間がかかった。
 ファビアンの遺伝子配列はすぐに出せるのだが、それと合致するものを探すのがまだシステムが確立していないので、一つ一つ重ね合わせていくことになる。
 その結果として、出たのが一つの名前だった。

阿納あの万里生まりお、十八歳の男性ですね」

 報告書を自分でも読めるのだが、日本語が話せることと読み書きできることは内緒にしているので、菜摘が読み上げるのをファビアンはじれったく感じながら聞いている。

「十八歳の男性? どこに住んでいるとか、どういう人物とか、分からないのか?」
「治験に参加した時点では高校生ですね……まだ、年度が変わっていないので高校生ですね」

 季節は秋、十一月である。
 高校生で治験に参加した万里生はまだ高校生だった。
 ドイツでは九月から新学期が始まって、七月には夏休みに入るので、ファビアンの意識は若干日本とずれているが、万里生という青年が大学受験を控えているのは間違いなさそうだ。

「会ってみたいな」
「治験に参加する条件として、運命の相手が見付かったら連絡を取るというのもありますので、会うことはできますよ」

 菜摘の言葉に、ファビアンは手配をさせた。
 運命の相手に会うのだから、最高のシチュエーションでなければいけない。
 高級な自分のために仕立てたスーツを身に纏って、ホテルの高級なレストランに予約を取る。一応菜摘も同席するが、できればファビアンは自分で万里生と話したいと思っていた。

 約束の日に、万里生は指定された場所にやって来た。
 擦り切れてほつれたコートとセーター、ジーンズに素足に穴の開きそうなスニーカーという姿で、痩せて震えている黒髪に黒い目の整った顔立ちの青年に、ファビアンは電撃に撃たれたように立ち尽くした。
 一目見て彼に心奪われてしまった。

 俯きがちの万里生をレストランの席に案内してテーブルにつかせると、万里生は暗い瞳でファビアンを見た。

「それで、幾らくれるの?」
「え?」
「俺に子どもを生ませたいんだろ! それが目的なんだろ? 俺は大学に行きたい。金が欲しい。条件は飲むから、それだけの対価は払って欲しい」

 そういうことではない。
 万里生が大学に行きたいというのならば、ファビアンは当然援助するつもりはあったが、子どもだけ産ませて捨てるようなことをするつもりはなかった。

「マリオ、僕は……」
「名前で呼ばないで欲しい。その名前は嫌いなんだ」
「なんで? いい名前じゃないか」
「ゲームのキャラだと散々馬鹿にされて苛められて来た。この名前は嫌いなんだ」

 マリオというのはファビアンにとっては普通の名前だが、日本では捉えられ方が全く違うようだ。仕方がないのでファビアンは言い直す。

「アノ、君を援助することは当然考えている。その見返りに体を要求しようとは思っていないよ」
「運命なんだろう? それを狙って来たとしか思えないんだけど」
「運命の相手とは結ばれたいと思っている。でも、君はまだ十八歳だ。僕は君がもっと大人になるまで待つつもりだし、君と関係を築いていきたい」
「関係を……それじゃ、あんたの部屋に住ませてくれる? 俺、十八になったから、施設を出なきゃいけないんだ」

 大学受験もお金がなくて諦めかけていた万里生にとっては、住む場所もなく、これからの生活をどうするかは死活問題のようだ。

「いいよ。僕のマンションにおいで。部屋は余っている」
「体の関係を持つときには、ちゃんと金を払ってもらうからな?」
「そんなに警戒しなくていいよ」

 どこか嚙み合わないままで、ファビアンは万里生と暮らすことになった。

 ファビアンは三十階建てのマンションの最上階をワンフロア丸ごと使って暮らしている。広いリビングからは海が見える窓があって、部屋数も多く、使っていない部屋もある。

 大学の資金を全て援助して、生活費も一緒に暮らすことによって援助すると決めたファビアンは、マンションの近くの国立大学に合格した万里生を三月に受け入れた。

 万里生は両親が離婚して、どちらも再婚して居場所がなく、施設に引き取られて育った子どもだった。施設も十八歳までしか受け入れてくれないので、高校を卒業後はどこか違う場所で暮らさないといけないところを、ちょうどファビアンからの申し入れがあった形だった。

 ボストンバッグ一つ持ってやって来た万里生のために、ファビアンは家具や衣服を買い揃えた。
 ファビアンの行きつけの家具屋で買ったベッドや机や椅子の値段を見て、万里生は怯えているようだったがファビアンは気にしなかった。ファビアンは万里生に確かに運命を感じていたし、そうでなくても、行く場所のない万里生を放り出すことなどできなかった。

「シャツが一枚八千円!? コートが三万円!?」
「このシャツ、君によく似合ってるよ。コートも暖かいものを買わないとね」

 ショップで服を次々と試着させて買っていくファビアンに、最終的には万里生はどこか諦めた目をしていた。
 ファビアンが買いたかったのはそれだけではない。

「君、もしかして、目が悪いんじゃない?」
「え……誰にも気付かれたことなかったのに……」

 万里生が遠くを見るときに目を細める仕草や、ちょっと斜めに物を見る動作で、ファビアンは万里生の視力がよくないことに気付いていた。
 眼科で視力を計ると、乱視の入った近視で、眼鏡で矯正した方がいいということだった。

 眼鏡屋に行って眼鏡も買うと万里生が金額に慄いている。

「レンズが六万!? フレームが二万!?」
「ちゃんとしたものじゃないと、目によくないからね」
「お、俺を抱くのか!?」
「そういう対価は求めてないよ」

 ずっと万里生が怯えているのは、自分よりもずっと体の大きなファビアンが万里生をどうにかしようと思えばどうにでもできてしまうからだろう。
 高いものを買ったつもりはないのだが、万里生にとってはそれは信じられない金額だったようだ。

「いいものを買えば何年も使えるんだ。君が大事に使ってくれたら、それだけの価値のあるものになるんだよ」

 言い聞かせるファビアンの言葉が万里生に届いているのか分からない。
 ただ、眼鏡をかけた万里生は知的でとても格好よかった。
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