やんのかステップの子猫ちゃんとスパダリは運命でした

秋月真鳥

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11.ファビアンは告白を受ける

 ドイツの両親からファビアンは万里生に会わせるようにお願いされていた。
 ファビアンの両親は強引ではないが、辛抱強く何度もお願いしてくる。
 家出して以来万里生との距離も縮まったような気がしていたので、ファビアンは万里生に申し出てみることにした。

 バイト先と万里生の通っている大学とは少し距離がある。
 そこを車で迎えに行って連れて行ってあげると伝えると万里生は素直に喜んでいた。
 車で迎えに行ったときに、さり気なく話題にしてみる。

「今度ドイツから両親が来るんだ。会ってくれる?」

 助手席で寛いでいた万里生の全身が強張ったのが分かった。

「俺は……抱かれたくない」
「マリオ?」
「俺は、嫌なんだ」

 抱かれるのが嫌だと言い続ける万里生に、ファビアンもそんなに嫌ならば無理強いをする気はないということは何度も伝えたはずだ。それでも両親が来るとなると万里生は抱かれることを意識せずにはいられないようだった。

「マリオが納得するまで、僕はマリオを抱いたりしないよ」

 真剣に伝えると万里生は黙り込んでしまう。
 いい返事はもらえないままで、ファビアンは万里生をバイト先に送ってマンションに帰って夕食の準備をした。

 夕食は万里生の好きなコロッケと千切りキャベツと味噌汁とご飯だ。炭水化物であるコロッケをご飯と一緒に食べるのは、ファビアンには慣れない。ドイツではじゃがいもは主食として食べられている。それをご飯と食べるのは信じられなかったが、万里生は山盛りのご飯と一緒にコロッケを食べるのが好きなのだ。
 ファビアンはご飯を食べないが、万里生のために白米をたっぷりと炊いておいた。

 帰って来た万里生は何も言わずに夕食を食べている。コロッケもお代わりして、ご飯もお代わりして、味噌汁も千切りキャベツも食べているから、美味しくないわけではないのだろう。
 ただ、酷く思い詰めた目をしていた。

 食後にファビアンがお茶を入れようとしても、万里生はさっさと食器を片付けて、バスルームに入ってしまった。
 不審に思いながらも鍋やフライパンを片付けてリビングでお茶を飲んでいると、万里生がバスルームから出て来る。
 バスタオルを腰に巻いただけの姿で、顔面は蒼白で、脚は震えている。

「だ、抱けよ」
「マリオ、どうしたの?」
「抱きたいんだろう? 抱けばいいじゃないか!」

 泣くようにしてソファの上のファビアンにのしかかってくる万里生を、ファビアンは抱き締めて裸の背中を撫でる。マリオの背中は痩せて骨張っているが、肌は滑らかだった。

「俺……どうすればファビアンに捨てられないのか分からない。捨てられたくないんだよ」

 ぼろぼろと涙を零す万里生の頬に手を当てて、ファビアンは万里生の涙を拭ってやる。深く胸に抱きしめて、耳元に優しく問いかけた。

「マリオは僕に抱かれたいの?」
「それは……いいから、抱けよ!」
「落ち着いて。僕はマリオの気持ちを聞いているんだよ。マリオは抱かれたいの?」

 辛抱強く繰り返す問いかけに、万里生がファビアンの胸に顔を埋める。

「ここに来て、こんなに居心地のいい場所があるって知った。俺はここを離れたくない。俺は、ファビアンが好きなんだ」
「僕のことが好き?」
「だけど、抱かれるのは怖い。妊娠するのも、子どもを生むのも、怖い。そんなこと絶対にできない」

 だから無理やりにファビアンが奪ってくれたら、それで万里生は納得できる。
 万里生の物言いにファビアンは引っかかりを感じていた。

「セックスしない夫婦だっているよ? 子どもを持たない夫婦だっている。マリオがそんなに怖いなら、僕はマリオを傷付けてまで抱こうとは思ってないよ」

 背中を撫でて宥めるファビアンに、万里生はふるふると頭を振る。涙の粒が左右に散った。

「俺は確証が欲しい。ファビアンがどこにも行かない確証が」
「それなら、僕の両親に会って。セックスが確証になるとは僕は思ってない。マリオに好きって言われて僕はすごく嬉しいよ」
「ファビアン……」
「マリオの好きなひとって、僕だったんだね」

 泣いている万里生の頬に瞼にキスを落として行くと、万里生の体からこわばりが解けていく気がする。唇に触れるだけのキスをすると、万里生は真っ赤な顔で目を閉じてそれを受けていた。

「ファビアン以外、好きになるわけ、ないだろ!」

 顔を真っ赤にして怒鳴られても、ファビアンは少しも不快ではない。
 バスタオル一枚の万里生を部屋に戻してパジャマを着てきてもらって、ファビアンもシャワーを浴びてパジャマを着て、脚の間に万里生を抱いてファビアンはソファに座った。

「僕の両親は女性同士のカップルなんだ」
「え!? そうなのか?」
「そうだよ。社長の座には二人でついている」

 男性同士のカップルで子どもができるように、女性同士のカップルでも子どもはできる。その場合は片方の女性の女性器の一部が男性器のようになって、それを使って妊娠させることになる。

「僕を生んだ母は、異性愛者だった。でも、もう一人の母に出会って、運命を感じて結婚した。もう一人の母は、最初から同性愛者で、女性の運命を探していた」
「そういうこともあるんだな」
「マリオは同性愛者なの? 異性愛者なの?」

 何気なく聞いたつもりなのに、万里生が固まって考えている。脚の間にいる万里生は髪の毛がファビアンの鼻先で揺れていてくすぐったい。

「考えたことがなかった。恋愛とか俺には関係ないもんだと思ってたし、結婚するつもりもなかったから」

 両親のことがあるから万里生は結婚がどれだけ儚いものか知っていた。知っているからこそ、結婚に夢など持っていなかった。

「ファビアンと出会わなければひとを愛することもなかっただろうし、ファビアンに愛されなかったら、一人でずっと暮らしてたと思う」
「こんな話がしたかったんだ」
「え?」
「マリオとはずっとこういう話がしたかった。抱く、抱かないはどうでもよかったんだよ」

 関係性ができてから性交の話をするものであって、関係性をまず築くのがファビアンの理想だった。ファビアンにとっては、恋愛関係が築かれるかどうかが一番大切なのであって、性交もその先にある妊娠や出産も、どうでもいいことだった。
 愛する相手との間に子どもが持てれば最高なのだが、そう簡単にいくものではない。

「どれだけ愛し合っても、子どもができないカップルなんていくらでもいるよ。うちの両親も運命で愛し合っているのに、生まれた子どもは一人だけ。二人目を欲しがっていたけれど、どうしても無理だった」
「ファビアンは一人っ子なんだ」
「そうだよ。マリオと体の関係を持っても赤ん坊が生まれないことなんて当然あるわけだし、どれだけ相性がいいと言っても、子どもが生まれるかどうかは分からないんだ。だから、マリオは体の関係に拘らなくていいんだよ」
「でも、ファビアンとの子どもなら、俺は欲しい……」

 子どもを生まないと自分に価値がないというようなことを、ファビアンはマリオに思って欲しくなかった。だからこそ、慎重に話を進めていく。

「子どもが生まれなければ、養子をもらえばいいだけだよ。マリオのいた施設から養子をもらってもいい。きっと可愛いよ」
「ファビアンは自分の血が残らなくてもいいのか?」
「僕は血統主義じゃないよ。血が繋がってなくても、心を通い合わせれば、繋がっていくものはあると信じている」

 ファビアンの言葉に万里生はかなり心が軽くなった様子だった。脚の間で寛ぐ万里生を撫でていると、欠伸をして眠そうにしている。
 胸に抱き寄せて撫でていると、四肢から力が抜けて来た。
 そのまま眠ってしまった万里生を、ファビアンは抱き上げて万里生の部屋に連れて行って、ベッドに寝かせた。
 布団をかけると、万里生の手がファビアンのパジャマの裾を掴んでいる。

 背を曲げてそっと額にキスをして、ファビアンは万里生の手を優しく外した。

「お休み、マリオ」

 愛しているよ。

 万里生にその言葉が聞こえたかどうかは分からない。
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