やんのかステップの子猫ちゃんとスパダリは運命でした

秋月真鳥

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15.ファビアンのプロポーズ

 警戒心が強いせいか、万里生は眠りが浅い。ファビアンと一緒に寝たがるのもそのせいだとファビアンは思っていた。
 バスルームからシャワーを浴びて出て来たファビアンにマリオが声をかける。

「ふぁ、ファビアン!」

 立ち止まって首を傾げたファビアンが問いかけると、万里生は答える。

「どうしたの、マリオ? 眠れないの?」
「そ、そ、そそそそ、そうなんだ」
「僕と一緒に寝る?」

 それからずっと一緒に眠っているのだが、万里生は性的なことを仕掛けてはこなかった。やはりファビアンでは勃起しないのだろう。ふにふにと一心に胸を揉んでいるのも、幼い頃に親の愛情を受けられなかったせいなのかもしれない。
 甘えたいのならば存分に甘えさせてあげるし、万里生のことが好きだから抱き締めてぐっすり眠っている顔を見るのもとても可愛い。

 そうしている間に秋は過ぎて冬になっていた。
 冬には万里生のお誕生日がある。
 万里生が眠っている間に指のサイズを計っておいて、ファビアンは万里生と自分の結婚指輪を作っておいた。
 プラチナの少し平たいフォルムのシンプルな指輪。
 指輪の内側には万里生の誕生石のタンザナイトが内側に小さく埋め込まれている。ファビアンの方は誕生石のダイヤモンドが小さく埋め込まれていた。

「マリオ、お誕生日おめでとう。これ、僕からのプレゼント」

 指輪の入ったビロードの箱を開けて見せると、万里生の眼鏡の奥の黒い目が見開かれる。見る見るうちに潤んでくる黒い目に、ファビアンは愛しさを覚える。

「僕の人生にマリオがいないなんてもう考えられない。どうか、僕と結婚してください」

 ほろほろと幸福の涙を零す万里生は可憐だった。
 抱き寄せると、万里生がファビアンの首に腕を回して抱き付いてくる。

「俺も、ファビアンのいない人生なんて考えられない……愛してる」
「僕も愛してるよ、可愛い僕のマリオ」
「俺のファビアン」

 抱き締め合って口付けを交わすが、万里生はまだ十九歳で臆病だから無理にことを進めてはいけないと、鉄壁の理性でファビアンは触れるだけのキスに留めた。
 万里生が眠っている間も、万里生が起きてファビアンにくっ付いてくるときも、どれだけ万里生と抱き合いたいと思ったか知れない。それでも我慢しているのは万里生を脅かしたくないからだった。

「俺もファビアンのお誕生日を祝いたい。ファビアンのお誕生日はいつなんだ?」
「僕は春に終わっちゃった」
「それじゃ、来年は絶対に祝うからな」

 来年の誕生日にはファビアンも二十九歳になる。
 そのときには万里生が盛大に祝ってくれる。
 ファビアンの誕生日にはまだ万里生はファビアンを警戒していたし、祝ってもらえる日が来るとは思わなかった。ファビアンはそれだけで心が満たされていた。

 万里生はファビアンがバスルームに入るとそわそわしてリビングで待っていて、ファビアンが出てくるとソファから立ち上がる。
 立ち上がってももじもじとしているので、ファビアンは何を言うのか万里生をじっと辛抱強く待っていた。

「ふぁ、ファビアン」
「どうしたの?」
「だ、だ、大根と手羽先の煮物、味どうだった?」
「冬の大根は甘いって言うけど、すごく美味しかったよ」
「俺だってあれくらい作れるんだからな」

 その後で柚子胡椒を入れたらもっと美味しいとか、からし派のひともいるとか万里生は嬉しそうに語ってくれる。日本食はある程度分かっているが、万里生ほど詳しくないので、柚子胡椒をトッピングすることや、からしをつけることを知らなかったので、ファビアンは興味深く万里生の話を聞いた。

「そ、それじゃ、寝るか」
「今日も一緒に寝るよね?」
「おう!」

 力いっぱい返事をしてくれるのだが、万里生はファビアンの胸を捏ねるだけで抱きたいとか、そういうことは全く言ってくれない。
 抱きたいと言われればファビアンの方は心の準備はできているのだが、万里生の方の心の準備が整っていないようだ。

 心の準備ができていないのならば、無理矢理に行為をするつもりはないとしても、ファビアンは熱を持て余していた。

 子猫がおっぱいを求めるように胸を揉まれるのに、どうしても感じてしまう。目を閉じて寝たふりをしても、万里生は執拗にファビアンの豊かな胸を揉んでくる。

 どうしても我慢できなくて、ファビアンはバスルームで自分の後ろに触れるようになった。

 最初はスムーズに万里生との行為をするためと理由を付けて、シャワーでそこを洗って、ローションを垂らした指を飲み込ませる。
 ぐちぐちと中を探っていると、異物感に負けそうになるが、その指が万里生のものだと想像すると、ファビアンは感じて来てしまう。
 ファビアンも男なので前の方が勃ってくるので、後ろを指で拡げながら、前も扱くことになる。

 先走りを塗り込めるように前を扱いていると、後ろの一点に触れたときに、あまりの快感にファビアンは前から白濁を吐き出し、後ろは強く食い締めてしまった。

「あぁぁぁっ! マリオ!」

 この指が万里生のものだったらいいのに。
 どれだけそう考えたことか。
 感じる後ろと前にファビアンは息を切らせてバスルームから出て来た。

 バスルームから出ると、万里生がソファで眠っている。
 ファビアンのお風呂が長かったから、待っている間に寝てしまったのだろう。

 火照った体に万里生の熱が欲しくて眠っている万里生にキスをすると止まらなくなってしまう。
 触れるだけのキスを何度も繰り返して、万里生に浅ましく求めてしまう。

「ファビアン……?」

 目を覚ました万里生にファビアンは我に返った。
 バスルームで万里生を思ってしてしまったことも、万里生に無理強いしないと決めているのにキスをたくさんしてしまったことも恥ずかしくて堪らない。

「ごめん、今日は一人で寝るよ」
「え!? ファビアン、一緒に寝てくれないのか?」
「今日だけ。ね?」

 このまま一緒に寝てしまったらファビアンは万里生を襲ってしまうかもしれない。
 それだけは避けたかった。

 拒絶されて万里生がしゅんとしながら部屋に帰っていく。
 その背中をファビアンは申し訳なく見送っていた。

 バスルームで後ろに触れて、前で抜いてからベッドに行くのは、ファビアンの習慣のようになってしまった。
 万里生に触れられたいのに触れられない苦しみ。胸を揉まれるのにそれ以上は与えられない寂しさ。
 そういうものがファビアンの胸の中を占めていた。

 万里生に抱かれたい。
 万里生が望んでくれたら、すぐにでもファビアンは応じられるのに。

 それでも全然望んでくれない万里生を胸に抱いて、胸を揉まれながら眠る日々が続く。
 悶々としているファビアンに、会社では通訳の菜摘が報告してくる。

「私、一月に結婚します。社長も結婚式に来てくださいますか?」
「マリオと一緒でいいかな?」
「もちろん、パートナーもご一緒に」

 招待状を送ると言われて、ファビアンは菜摘の結婚式をスマホのスケジュールに入れておいた。

 帰ってから万里生にその話をするとものすごく羨ましがっている。

「いいなぁ。俺も結婚式したいなぁ」
「マリオは学生結婚でも構わないの?」
「ファビアンを俺だけのものにしたいんだよ」

 顔を真っ赤にして可愛いことを言ってくれる万里生にファビアンはスケジュールを見直す。

「僕の誕生日に両親を日本に呼ぼう。両親と万里生と僕だけの小さな結婚式を開くんだ」
「いいのか!?」

 会社の役員なども呼んでしまうと千人単位の非常に大規模な結婚式になるので、できれば万里生をそんなところで気を遣わせたくなかったし、ファビアンも小規模な結婚式で構わないと思っていた。
 もうプロポーズはしているのだし、いつ結婚してもいいはずだ。ドイツの両親も万里生のことは認めている。
 来年のファビアンの誕生日には万里生とファビアンは結婚する。
 ファビアンの提案に万里生は「楽しみだ」と嬉しそうにしていた。
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