やんのかステップの子猫ちゃんとスパダリは運命でした

秋月真鳥

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21.ファビアンは万里生を助ける

 万里生との初夜の翌朝、いつも通りに起きたファビアンはキッチンで朝食を作った。
 冷凍のクロワッサンを焼いて、スクランブルエッグを作って、レタスとトマトとキュウリの簡単なサラダも作って、デザートに苺とオレンジを添える。
 結婚したら朝食は愛するひととベッドで食べるのが夢だった。

 甘い夜を過ごした次の朝、寝坊している愛するひとに朝食を持って行って、起こすのがファビアンの憧れる結婚生活だった。

「おはよう、マリオ」
「んー……ファビアン、もう起きたのか?」
「体はきつくない? 朝ご飯は食べられそう?」
「それ、俺の台詞なんだけど……」

 ちょっと不満そうにしている万里生もファビアンがトレイに乗せて来た朝食を見ると目を輝かせた。焼き立てのクロワッサンはバターのいい香りがして、スクランブルエッグもふわふわで、サラダもフルーツも瑞々しく、とても美味しそうだ。

「結婚したら、パートナーと朝食をベッドで食べるのが憧れだったんだ」

 ベッドの上に座って万里生と肩を寄せ合ってファビアンは朝食を食べる。万里生はクロワッサンを二つに割って、サラダのレタスとスクランブルエッグを挟んで、クロワッサンサンドにしてしまった。
 頬っぺたを膨らませて食べている万里生が可愛くて、口元についたパンくずを取ってやると、万里生の顔が赤くなる。

「クロワッサンをパンくずを落とさずに食べるのって、難しくない?」
「難しいよね。ベッドで食べるのにクロワッサンは失敗だった」

 崩れやすいクロワッサンは美味しいが、ベッドで食べる朝食には向いていなかったようだ。でも笑ってそんなことを言い合える今の関係が、ファビアンにはとても心地よかった。

「俺は昨日、ファビアンを抱いたんだよなぁ」

 食べながらしみじみと呟く万里生に、ファビアンはその自分よりずっと華奢な肩を抱き寄せる。

「最高の初夜だったよ」
「でも、俺、全然エスコートできなかったし、スマートにもできなかったし……」
「そんなのどうでもいいよ。マリオが僕に反応してくれて、僕に欲を持ってくれたことが嬉しい」

 スマートにできなかったことや泣いてしまったことを万里生は気にしているようだったが、ファビアンにとっては最高の夜だった。
 これまで万里生がファビアンに反応しないのではないかと心配していたので、ファビアンの体で萎えずに興奮してくれて、何度も達してくれたことは何よりも嬉しかった。

 泣き顔も可愛かったと言ったら万里生が拗ねそうなので、それは口にしなかった。

「俺の運命がファビアンでよかった。俺、幸せだよ」

 涙ぐむ万里生にティッシュの箱を渡す。

「僕もマリオが運命でよかったよ。僕も幸せだよ」

 言いかえした言葉が泣いている万里生に届いているか分からないが、万里生と気持ちは通じているとファビアンは思っていた。

 万里生には大学があって、ファビアンには会社がある。
 抱き合うのは週末だけと決めていても、一緒に寝ていると体の熱を持て余すことがある。何より、万里生は寝ながらファビアンの胸を揉むので、ファビアンはどうしても感じてしまう。

「んっ、もう、ダメだよ、マリオ」
「んー……」

 止めようとしても健やかに眠っている万里生を起こすことがファビアンにはできない。万里生のことを愛しているだけに、ファビアンにはつらい夜だった。

 それを除けば結婚生活は順調すぎるほど順調といえた。
 万里生との関係も日に日に深まっているし、万里生は泣いてしまって上手くリードできない分、ファビアンが万里生の腰に跨って搾り取っている。

 何も怖いものはないと思っていた矢先に、製薬会社の社長室に乗り込んで来たグスタフにファビアンはうんざりしてしまった。
 夏の長期休暇ならばともかく、今の時期に休暇を取ってまで日本に来るグスタフの執着が最早気持ち悪い。

「運命の研究なんて信憑性がない。遺伝子配列が合うからって、運命だとは言えない!」

 他の会社の研究データを持ち出して来たグスタフに、ファビアンは呆れていた。

「このデータを見てくれ、ファビアン。遺伝子配列は運命に全く関係ないんだ」
「そうだとしても、彼はもう僕にとってかけがえのない相手だし、運命であることには変わりはない」
「君の運命は俺だ」
「違うね。菜摘、警備員を呼んで。こいつを社内から追い出して」

 追い出されてグスタフが狙う場所は決まっている気がした。
 グスタフは並々ならぬ執着をファビアンに持っている。ファビアンのマンションも突き止められている。

「グスタフが会社に来たんだ。マリオのことも狙ってるかもしれないから、気を付けてね」

 万里生に伝えたが、ファビアンの胸に嫌な予感が生まれたのは仕方がないことだった。
 数日後、万里生を大学に送り出して、自分も車で出勤しようとしているときに、ファビアンのスマホに万里生からの通話が入った。

『ファビアン、助けて!』
「マリオ!? マリオ、どうしたんだ!?」
『うるさい!』

 通話にグスタフの声が入って切れてしまう。万里生の声の後ろでは車の走る音が聞こえていた気がする。
 ファビアンはすぐに警察に連絡した。

「僕の配偶者から助けを求める連絡が入りました。すぐに切れてしまったのですが、グスタフ・イージドール・ホイサーという僕の高校と大学の同級生の声が入っていたように聞こえました」
「警察署に同行願えますか? スマホをお借りして、配偶者さんのスマホの位置を探ってみます」
「よろしくお願いします」

 車で指定された警察署に行って、ファビアンはすぐにスマホを警察官に渡した。捜査が始まって少しして、知らせが入る。

「運送会社の男性から、隣りの車から窓を叩いて『助けて欲しい。警察に連絡して欲しい』という叫び声が聞こえたとのこと。運送会社の車はそのままその車両を追い駆けている模様」
「マリオ、無事でいてくれ……」

 祈るファビアンに、警察官が出動していくのが見える。

「運送会社の男性は自分の現在位置を通話を繋いだままで、GPSで知らせてくれています。すぐに追いつけるはずです」
「お願いします、マリオを助けてください」

 縋り付くようにするファビアンに、警察官は何度も「最善を尽くします」と言ってくれた。

 運送会社の男性の通報と、そのまま通話を繋げてくれていたおかげで位置が分かって、万里生は保護されて、グスタフは警察に捕まった。
 警察署に連れて来られた万里生が、ファビアンに抱き付いてくる。

「ファビアンが最初に通報してくれたんだって?」
「マリオ、無事でよかった」
「運送会社のひとが助けてくれて、俺、何もされずに警察に保護されたんだ……。ファビアン、怖かった」

 抱き締める万里生が泣いていて、ファビアンは何度も万里生の背中を撫でて宥めた。ファビアン自身も全身が震えて止まらなかった。

 グスタフは取り調べで「運命が」とか言っているようだが、これは運命など関係なく完全な犯罪行為だ。運命の相手を取られたからといって犯罪を犯していいわけではないし、グスタフはファビアンの運命の相手ではない。

 ファビアンは警察から万里生が解放されるとマンションに連れ帰って、それからドイツの両親に連絡をした。
 グスタフはドイツの両親の経営する会社に勤めている。今回の犯罪行為が明らかになれば、職を失うのは免れない。

「グスタフがマリオを誘拐して暴行しようとしました。まずは日本の法律で裁かれるけれど、ドイツでもしっかりと社会的制裁を受けさせてほしい」
『マリオを攫ったのですか? 信じられませんね。会社は辞めさせましょう。次の就職もできないように手を回しましょう』
『しっかりと弁護士と話し合って、社会的制裁を受けさせます』

 スピーカーで話すカルラとレオナに、ファビアンはお礼を言って通話を切った。

 ソファで震えている万里生を抱き締めると、目に涙をいっぱい溜めている。

「グスタフに抱かれたら、ファビアンはもう愛してくれないかと……」
「そんなことないよ。マリオ、あれは暴力だったんだよ。性暴力の被害者を誰が責めるだろう。マリオ、今後あんなことがあっても、僕はマリオが帰って来てくれたら、ずっと愛するよ。怖かったね」
「ファビアン、愛してる」
「僕も愛してるよ」

 泣き出した万里生はファビアンの胸に顔を埋めている。ふにふにと胸を揉まれるのも、万里生が落ち着くのならばいいだろうとファビアンは思っていた。
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