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第1部 天然女子高生のためのそーかつ
第25話 ステルスマーケティング
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。
「来週のオープンスクールに向けて、何かいい案はありませんこと? マナ、あなたから何か提案してくださらない?」
「そうですねー、今でも部員は十分多いですし、例年のやり方を踏襲すればいいとは思いますけど」
来週に迫った第2回オープンスクールに向けて、硬式テニス部では予定の空いている部員が集まって会議を開いていた。
前回のオープンスクールと異なり今回は各クラブの紹介イベントや部活の見学・体験が予定されていて、来年入学してくる小学6年生を青田買いするためにどのクラブも綿密な準備を重ねていた。
今日の会議を仕切っているのは2年生の堀江有紀先輩で、ゆき先輩は1年生から唯一参加している私、野掘真奈に何かいいアイディアがないか尋ねていた。
「まなちゃんの意見にも一理あるけど、最近はいくつか新しいクラブが設立されたし、気を抜いてると新入部員を取られちゃうよ。具体的なアイディアは思いつかないけど、いつもとは一味違う勧誘をやった方がいいよ」
「確かに、この前できたゲーム研究部は小学生に人気になりそうですね。でも、私も特に思いつかないです……」
赤城旗子先輩は珍しくまともな意見を口にしていたが、具体的なアイディアは何もないという点では私と同様らしかった。
「皆、うちにええ考えがあるで。この前ネットニュースで見てんけど、最近は表立ってアピールするより目立たへんように宣伝するんが人気なんやって。俗に言うステルスマーケティングっちゅうやつや」
「オークションサイトとかで問題になりましたよね。でも、硬式テニス部のステマって?」
平塚鳴海先輩には腹案があるようだが、硬式テニス部の勧誘で具体的にどうステルスマーケティングを行うのかは想像も付かなかった。
「敵を騙すにはまず味方からいうし、具体的なやり方はうちとゆきだけの秘密にしとくわ。当日楽しみにしといてな」
「分かりました。それでは、今日の会議はここで終了と致しますわ」
ゆき先輩はそう言うとなるみ先輩を連れて部室を出ていき、私は当日先輩方をサポートできるよう頑張ろうと思った。
そしてオープンスクール当日……
「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。世界的プロゲーマーのウメハタが、今日はあの『イカラトゥーン』に挑戦するよ!」
「イカラトゥーン!? わあっ見たい見たい!!」
コンピュータゲーム研究部の活動場所となっている教室の前では部長にして現役プロゲーマーである梅畑伝治君が部活見学の宣伝をしており、中学受験生の子供たちは梅畑君の活躍を見に集まっていた。
「わあ、子供たちが一杯来てるよ。硬式テニス部も負けてられないね」
「そうですね。オタクっぽい小学生だけじゃなくて、運動部に入りそうな男の子も結構来てますし」
ゲーム研究部を遠巻きに眺めて感嘆しているはたこ先輩に、私はなるみ先輩が考えたステルスマーケティングとは一体何なのだろうと期待していた。
「おはようございます。マナと旗子も来ていたのね」
「あっ、ゆき先輩」
階段を上ってきたのはゆき先輩で、私は声がした方に振り向いた。
「ゆき先輩、その格好は……」
「いかがかしら? 鳴海が特別に作ってくれましたのよ」
現れたゆき先輩は硬式テニス部員らしくテニスウェアを身にまとっていたが、そのウェアはノースリーブの上に胸元が大きく開いており、グラマーなゆき先輩だけあって胸の谷間が見事に強調されていた。
ゆき先輩の胸元の肌には黒色のマーカーで「硬式テニス部」と大きく書かれており、これがなるみ先輩が考えたステルスマーケティングのようだった。
「さて、ここからがわたくしの出番ですわ。行って参ります」
「ええ……」
ドン引きする私にも構わずゆき先輩はゲーム研究部の教室の前まで歩き、集まっている小学生男子の1人に話しかけた。
「こんにちは。あなたはゲーム研究部に興味があるの?」
「あっ、はい……!?」
非常に露出の高いテニスウェアを着た美女に話しかけられ、小学生男子は顔を真っ赤にして視線をゆき先輩の胸元に集中させた。
「男の子らしいわね。皆さん、ゲーム研究部はとても楽しいクラブですから、ぜひ見学していってね。それでは、わたくしは硬式テニス部に戻ります」
ゆき先輩は小学生男子たちに当てつけがましくゲーム研究部の宣伝をすると、そのまま踵を返して階段を下りていった。
「そろそろ試合を始めるから、皆も教室に入ってくれ! ウメハタの実力をお見せするよ」
「すみません、僕やっぱり硬式テニス部の方に行きます!」
「俺も!!」
小学生男子たちはゆき先輩を追いかけてゲーム研究部から次々に立ち去り、梅畑君は突然の事態に絶句していた。
「すっごーい、これがステマの力なんだね!!」
「全然ステルスになってないですけどね……」
大量集客に成功したゆき先輩の功績に目を輝かせるはたこ先輩を見て、私は梅畑君に後でお詫びしておこうと思った。
(続く)
「来週のオープンスクールに向けて、何かいい案はありませんこと? マナ、あなたから何か提案してくださらない?」
「そうですねー、今でも部員は十分多いですし、例年のやり方を踏襲すればいいとは思いますけど」
来週に迫った第2回オープンスクールに向けて、硬式テニス部では予定の空いている部員が集まって会議を開いていた。
前回のオープンスクールと異なり今回は各クラブの紹介イベントや部活の見学・体験が予定されていて、来年入学してくる小学6年生を青田買いするためにどのクラブも綿密な準備を重ねていた。
今日の会議を仕切っているのは2年生の堀江有紀先輩で、ゆき先輩は1年生から唯一参加している私、野掘真奈に何かいいアイディアがないか尋ねていた。
「まなちゃんの意見にも一理あるけど、最近はいくつか新しいクラブが設立されたし、気を抜いてると新入部員を取られちゃうよ。具体的なアイディアは思いつかないけど、いつもとは一味違う勧誘をやった方がいいよ」
「確かに、この前できたゲーム研究部は小学生に人気になりそうですね。でも、私も特に思いつかないです……」
赤城旗子先輩は珍しくまともな意見を口にしていたが、具体的なアイディアは何もないという点では私と同様らしかった。
「皆、うちにええ考えがあるで。この前ネットニュースで見てんけど、最近は表立ってアピールするより目立たへんように宣伝するんが人気なんやって。俗に言うステルスマーケティングっちゅうやつや」
「オークションサイトとかで問題になりましたよね。でも、硬式テニス部のステマって?」
平塚鳴海先輩には腹案があるようだが、硬式テニス部の勧誘で具体的にどうステルスマーケティングを行うのかは想像も付かなかった。
「敵を騙すにはまず味方からいうし、具体的なやり方はうちとゆきだけの秘密にしとくわ。当日楽しみにしといてな」
「分かりました。それでは、今日の会議はここで終了と致しますわ」
ゆき先輩はそう言うとなるみ先輩を連れて部室を出ていき、私は当日先輩方をサポートできるよう頑張ろうと思った。
そしてオープンスクール当日……
「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。世界的プロゲーマーのウメハタが、今日はあの『イカラトゥーン』に挑戦するよ!」
「イカラトゥーン!? わあっ見たい見たい!!」
コンピュータゲーム研究部の活動場所となっている教室の前では部長にして現役プロゲーマーである梅畑伝治君が部活見学の宣伝をしており、中学受験生の子供たちは梅畑君の活躍を見に集まっていた。
「わあ、子供たちが一杯来てるよ。硬式テニス部も負けてられないね」
「そうですね。オタクっぽい小学生だけじゃなくて、運動部に入りそうな男の子も結構来てますし」
ゲーム研究部を遠巻きに眺めて感嘆しているはたこ先輩に、私はなるみ先輩が考えたステルスマーケティングとは一体何なのだろうと期待していた。
「おはようございます。マナと旗子も来ていたのね」
「あっ、ゆき先輩」
階段を上ってきたのはゆき先輩で、私は声がした方に振り向いた。
「ゆき先輩、その格好は……」
「いかがかしら? 鳴海が特別に作ってくれましたのよ」
現れたゆき先輩は硬式テニス部員らしくテニスウェアを身にまとっていたが、そのウェアはノースリーブの上に胸元が大きく開いており、グラマーなゆき先輩だけあって胸の谷間が見事に強調されていた。
ゆき先輩の胸元の肌には黒色のマーカーで「硬式テニス部」と大きく書かれており、これがなるみ先輩が考えたステルスマーケティングのようだった。
「さて、ここからがわたくしの出番ですわ。行って参ります」
「ええ……」
ドン引きする私にも構わずゆき先輩はゲーム研究部の教室の前まで歩き、集まっている小学生男子の1人に話しかけた。
「こんにちは。あなたはゲーム研究部に興味があるの?」
「あっ、はい……!?」
非常に露出の高いテニスウェアを着た美女に話しかけられ、小学生男子は顔を真っ赤にして視線をゆき先輩の胸元に集中させた。
「男の子らしいわね。皆さん、ゲーム研究部はとても楽しいクラブですから、ぜひ見学していってね。それでは、わたくしは硬式テニス部に戻ります」
ゆき先輩は小学生男子たちに当てつけがましくゲーム研究部の宣伝をすると、そのまま踵を返して階段を下りていった。
「そろそろ試合を始めるから、皆も教室に入ってくれ! ウメハタの実力をお見せするよ」
「すみません、僕やっぱり硬式テニス部の方に行きます!」
「俺も!!」
小学生男子たちはゆき先輩を追いかけてゲーム研究部から次々に立ち去り、梅畑君は突然の事態に絶句していた。
「すっごーい、これがステマの力なんだね!!」
「全然ステルスになってないですけどね……」
大量集客に成功したゆき先輩の功績に目を輝かせるはたこ先輩を見て、私は梅畑君に後でお詫びしておこうと思った。
(続く)
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