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第3部 天然女子高生のための超そーかつ

第69話 フードロス

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)


「久しぶり、灰田さん。ここの図書館使ってたんだね」
「ええ、家からすぐ近くなので。部活外で野掘さんとお会いできて嬉しいです」

 ある日曜日の朝、地元の図書館にハムスターの餌に関する本を借りに行った私はエントランスの前でケインズ女子高校硬式テニス部員の灰田はいだ菜々ななさんに出会った。

 彼女は小柄な身体に分厚い本を3冊抱えていて、背表紙を見るとどれも食品ロスに関する書籍だったので借りた理由を聞いてみた。


「実は高校の課題で環境問題への取り組みをスライド発表するように言われて、フードロス問題を取り上げてみようと思ったんです。今度親戚の結婚式に参列するので、その時に何か取り組んでみようかと」
「なるほど、灰田さんらしい着眼点だね」

 灰田さんは肉アレルギーなので以前から菜食主義で生活しており、彼女なりに環境問題を考えているようだった。

「結婚式ってどうしても料理の食べ残しが多くて、沢山の料理が捨てられているのは以前から気になってたんです。できればフードロスがない結婚式を実現させたいんですけど、私一人の力ではどうにも……」
「確かに冠婚葬祭ってそういう所あるよね。そうだ、もし灰田さんが式場に連絡を取れるなら、スタッフさんから食品ロスについて一言伝えて貰えばいいんじゃない? 式場側から食べ残しをしないように言われるだけでも効果あるかも」
「それはいいアイディアですね。では、親を通じて式場に連絡して貰おうと思います。成果が出たら野掘さんにお伝えしますね」

 灰田さんはそう言うと本を抱えて立ち去り、私はいつも通り真面目な女の子だなあと思った。


 そして結婚式当日……

「皆様、本日はご列席頂きありがとうございます。会食の前に、式場スタッフよりフードロス解消に関するお願いをさせて頂きます。結婚式の会食ではどうしても食べ残しが多くなりがちですが、環境問題への配慮のためできるだけ料理は食べきり、パンやチーズなど保存が利くものはお持ち帰り頂くようお願い致します」

「最近の結婚式は色々と大変よねえ。あっ菜々ちゃん、ちょっとこのパン食べてくれない? お肉食べられないから丁度いいでしょう?」
「全然いいですよ。はむはむ……」
「菜々ちゃん、この野菜スープはどうだい? まだ一口も飲んでないから全部あげるよ!!」
「ありがとうございます。すうー……」
「酒飲んでたら飯はあんまり入らねえんだよなあ。菜々ちゃん、確かオムレツは食べられたよな? このテーブルの全部どうだい?」
「卵料理大好きです! もぐもぐ……」
「こういう時菜々ちゃんがいてくれると助かるわあ。これでフードロス問題? も大丈夫ね!」




>野掘さん、式場のスタッフさんに頼んだおかげで結婚式でのフードロスはゼロでした! 本当にありがとうございます!!

>あはは、それは良かったね……

 実際にはスタッフさんのおかげではないのではと思いつつ、私はメッセージアプリで報告してくれた灰田さんにスタンプと返信を送ったのだった。


 (続く)
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