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第3部 天然女子高生のための超そーかつ
第78話 忘れられる権利
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)
「あなたたちが私をこんな風に辱めたのね!? 絶対に許せないわ、この件は生徒会にも報告しますからね!!」
「ひいーごめんなさいー!」
「どうしたんですか先輩、1年生を廊下で土下座させるなんて……」
ある日の昼休み。購買部でジュースを買って教室に戻ろうとしていた私は、新聞部室の前で2年生の金原真希先輩が後輩を土下座させているのを見かけて駆け寄った。
土下座しながら謝罪している1年生は新聞部の男子部員で、場所からしても新聞部関係のトラブルらしかった。
「最近私の盗撮写真にメイド服を合成した写真が出回ってるっていうから犯人を調べたら、よりにもよって新聞部の仕業だったのよ!? 盗撮されただけでも警察案件なのに、メイド服を合成してばらまくなんて論外だわ!!」
「は、ははは……」
同じクラスの新聞部員である朝日千春さんが以前作っていた合成写真はいつの間にか学内で出回っていたらしく、これは土下座させられても仕方がない案件だと思った。
「どうしたんだ真希、いくら盗撮されてたからって後輩を人前で土下座させるのはあんまりじゃないか。君、ちゃんと謝ったんだからもうそんなことはしなくていいよ」
「何言ってるのよ由自、どれだけ謝られても侵害された私の肖像権は元に戻らないのよ!? あなた、新聞部の悪行は綱紀委員の記録に残しておくから覚悟しなさい!!」
「それだけは勘弁してください~!!」
騒ぎを聞きつけてか金原先輩の従兄である2年生の裏羽田由自先輩も走ってきて仲裁に入っていたが、盗撮と肖像権侵害の被害者である金原先輩の怒りは収まらないようだった。
「腹が立つのは分かるけど、誰にだって忘れられる権利はあるじゃないか。生徒会から新聞部を処罰して貰うのは結構だけど、必要以上の制裁を行うのはかえって再発防止にならないだろう?」
「あんたは自分が被害者じゃないからそんなことが言えるのよ! 忘れられる権利なんて知ったこっちゃないわ!!」
「ああ、そうか。君がそういうことを言うなら僕にも考えがあるぞ」
裏羽田先輩は説得を聞き入れない金原先輩を冷めた視線で見ると、ポケットからスマホを取り出した。
先輩が画面をささっと操作すると、スマホからは音声が流れ始め……
『……我は漆黒の闇の住人。かかる俗世に蔓延る悪鬼を斬り捨てる。邪剣〈宵闇〉、逝きましょうね……?』
「これは中学2年生の時の真希なんだ。一生記憶に残りそうだね」
「あああああああああ!! やめてええええええええ!!」
地面に転がってジタバタし始めた金原先輩を見て、私は忘れられる権利を自らもぜひ放棄して欲しいと思った。
(続く)
「あなたたちが私をこんな風に辱めたのね!? 絶対に許せないわ、この件は生徒会にも報告しますからね!!」
「ひいーごめんなさいー!」
「どうしたんですか先輩、1年生を廊下で土下座させるなんて……」
ある日の昼休み。購買部でジュースを買って教室に戻ろうとしていた私は、新聞部室の前で2年生の金原真希先輩が後輩を土下座させているのを見かけて駆け寄った。
土下座しながら謝罪している1年生は新聞部の男子部員で、場所からしても新聞部関係のトラブルらしかった。
「最近私の盗撮写真にメイド服を合成した写真が出回ってるっていうから犯人を調べたら、よりにもよって新聞部の仕業だったのよ!? 盗撮されただけでも警察案件なのに、メイド服を合成してばらまくなんて論外だわ!!」
「は、ははは……」
同じクラスの新聞部員である朝日千春さんが以前作っていた合成写真はいつの間にか学内で出回っていたらしく、これは土下座させられても仕方がない案件だと思った。
「どうしたんだ真希、いくら盗撮されてたからって後輩を人前で土下座させるのはあんまりじゃないか。君、ちゃんと謝ったんだからもうそんなことはしなくていいよ」
「何言ってるのよ由自、どれだけ謝られても侵害された私の肖像権は元に戻らないのよ!? あなた、新聞部の悪行は綱紀委員の記録に残しておくから覚悟しなさい!!」
「それだけは勘弁してください~!!」
騒ぎを聞きつけてか金原先輩の従兄である2年生の裏羽田由自先輩も走ってきて仲裁に入っていたが、盗撮と肖像権侵害の被害者である金原先輩の怒りは収まらないようだった。
「腹が立つのは分かるけど、誰にだって忘れられる権利はあるじゃないか。生徒会から新聞部を処罰して貰うのは結構だけど、必要以上の制裁を行うのはかえって再発防止にならないだろう?」
「あんたは自分が被害者じゃないからそんなことが言えるのよ! 忘れられる権利なんて知ったこっちゃないわ!!」
「ああ、そうか。君がそういうことを言うなら僕にも考えがあるぞ」
裏羽田先輩は説得を聞き入れない金原先輩を冷めた視線で見ると、ポケットからスマホを取り出した。
先輩が画面をささっと操作すると、スマホからは音声が流れ始め……
『……我は漆黒の闇の住人。かかる俗世に蔓延る悪鬼を斬り捨てる。邪剣〈宵闇〉、逝きましょうね……?』
「これは中学2年生の時の真希なんだ。一生記憶に残りそうだね」
「あああああああああ!! やめてええええええええ!!」
地面に転がってジタバタし始めた金原先輩を見て、私は忘れられる権利を自らもぜひ放棄して欲しいと思った。
(続く)
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