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第4部 天然女子高生のための大そーかつ

第91話 フールプルーフ

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。


「うわっ偏差値24!? どうやったらこんな点数取れるんですか!?」
「最後の数学の前にようやく近くの人に鉛筆を借りられたんだけど、その数学も200満点中12点だったんだよ……」

 ある日の練習前、私、野掘のぼり真奈まなは硬式テニス部所属の2年生である赤城あかぎ旗子はたこ先輩の模擬試験の成績表を見て驚愕していた。

「確かに初めての外部模試で緊張したかも知れませんけど、鉛筆ぐらいすぐに借りたらいいじゃないですか。英語と国語の時間は何されてたんですか?」
「それはもちろん寝てたよ! でも周りが他校の生徒ばっかりで、どうしても話しかける勇気が出なかったんだよ」

 中高一貫校であるこの高校では高校2年生の途中で初めて学外の模試を受けさせられるが、はたこ先輩は筆記用具一式を全て忘れて試験場に行ってしまい、最後の数学の試験直前になってようやく他校の生徒に鉛筆を借りたらしかった。

 英語と国語は当然ゼロ点なので総合点は600点満点中12点であり、偏差値24という超常的な数値もむべなるかなという感じだった。

「まあ気持ちは分からなくもないですけど、流石に今度からは忘れないようにしないと駄目ですよ。フールプルーフっていう言葉がありますけど、どれだけ気が抜けてても筆記用具だけは絶対に忘れないような工夫をしてみたらどうですか?」
「何かその言葉面白そうだからやってみるよ! フールプルーフ! 逆から読んでもフールプルーフ!!」

 はたこ先輩はそう叫びながら硬式テニス部の練習を放棄してどこかに走り去ってしまい、私は今回も心配だなあと思った。


 その翌日……

「皆見てみてよ、今日から新しいペットを飼い始めたんだよ!」
「ペットってそれ筆箱じゃないですか。持ち歩くなら普通にカバンに入れた方が……」

 はたこ先輩は合成皮革の筆箱を小型の台車に載せてひもで引っ張って歩いており、これは何かの冗談だろうかと思った。

「何を言ってるんだよ、フデバンは私のかわいいペットなんだよ? こうやっていつも散歩させて、一緒にお風呂に入って、寝る時も一緒にベッドに入るんだよ! これでいつ試験があっても大丈夫だよ!!」
「は、ははは……」

 一見すると無茶苦茶だし実際に無茶苦茶だが、筆記用具を忘れないという1点に限っては確かに最強のフールプルーフではあった。


 その数か月後……

「今度は偏差値23!? フールプルーフはどこ行ったんですか!?」
「ずっと一緒に過ごすうちにフデバンの鉛筆の芯が全部折れちゃってたんだよ! 今度はステンレスの筆箱にするよー!!」

 再びの模試で撃沈して泣いているはたこ先輩を見て、私はフールプルーフでもカバーできないバカーはいることを悟った。


 (続く)
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