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第4部 天然女子高生のための大そーかつ

第95話 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に(以下略)

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)


「マナちゃん、このクッキー1つどう?」
「ありがとう朝日さん。パンダクッキーってことは香港旅行のお土産?」

 夏休み明けの始業式当日、教室に入った私は新聞部員の朝日あさひ千春ちはるさんから大きめの缶に入ったパンダの模様のクッキーを貰った。

「ううん、香港は最近政情が不安定だから外国のお土産専門のお店で買ったの。本場のやつじゃないけどごめん」
「いやいや、すごく嬉しいよ。そのうち香港にも安心して行ける日が来るといいね」
「本当に。中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法が早く解消されるといいんだけど……」
「えっ?」
「中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法がどうかしたの?」
「あ、いや大丈夫」
「真奈さん、私はお土産はないですけど夏休みに美術館に行きましたよ。これはその時に買ったクリアファイルです」

 横から話しかけてきた漫研部員の宝来ほうらいじゅんさんはカラフルなクリアファイルを持っていて、その表面には私も見たことがある独特なタッチの絵画が印刷されていた。

「あー、これピカソの絵だよね? 流石は宝来さん、美術に興味があるんだね」
「ええ、漫画を描く者としてパブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・チプリアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソの芸術技法ぐらいは押さえておくべきと思いまして」
「えっ?」
「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・チプリアーノ」
「ごめんもういいです……」


 何となく日常に違和感を覚えつつ始業式に参加した私は、教室に帰る途中に2年生で従兄妹いとこ同士である金原かねはら真希まき先輩と裏羽田りばた由自ゆうじ先輩に出くわした。

「お久しぶりです。先輩方、その本は一体……?」
「やあ野掘さん。夏休みに真希が家族で沖縄旅行に行って、米軍基地問題に関する書籍をいくつか買ってきてくれたんだよ。この本は米軍が管理している空域について研究した書籍で、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律について深く学ぶためにとても役に立つんだよ」
「私は自分用にこの本を買ったの。沖縄の道路事情に関する研究書なんだけど、後半の章で米軍車両の扱いについての記述もあるから日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う道路運送法等の特例に関する法律のことがよく分かったわ」
「嫌あああああ勘弁してええええええええええええええ」
「うわっ、どうしたんだ野掘さん、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う道路運送法等の特例に関する法律の話でそんなにショックを受けなくてもいいじゃないか。おーい」

 私はその場で目を回して倒れ、そのまま2人に保健室へと運ばれて……


「はっ、ここは保健室!?」
「姉ちゃん、さっきからうなされてたけど大丈夫? 昼寝するなら自分の部屋にした方がいいよ」

 夏休み真っ最中のリビングのソファで寝ぼけていた私を、弟の正輝まさきは心配そうな表情で見ていた。


 (続く)
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