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第4部 天然女子高生のための大そーかつ

第101話 アニマルウェルフェア

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)


「網人君、ご実家のお寺って猫のお葬式は扱ってないですか? ちょっと欲しいものがあるんですけど」
「猫ですか? 大学の研究室で飼育されていた実験動物の慰霊祭は請け負ったことがありますが、寺院で葬儀を行ったことはあまりないですね」
「宝来さんって猫飼ってたっけ? それに欲しいものって?」

 ある日の昼休み、同じクラスの漫研部員である宝来遵さんは住職見習いの円城寺えんじょうじ網人あみと君に何やら事情がありそうな質問をしていた。

「私が今期で一番好きな深夜アニメの『ねこがみっ!』が、ゴルフ中継のせいで放送延期になったんです! 深夜のゴルフ中継なんて見る人がいるのか分からない番組のせいでアニメが犠牲になるなんて許せないのであります!! という訳でテレビ局に猫の骨を送りつけて抗議しようかと」
「気持ちは分かるけど、流石にそれはアニマルウェルフェアの観点から良くないんじゃ……」

 タイトルからして猫を題材にしたアニメのようなので猫の骨を送りつければ抗議の意思は伝わるだろうが、流石に道徳的によくないと思った。

「宝来殿、実際にご覧になれば分かりますが遺骨といっても生き物の骨格を保っている訳ではないのです。そうであれば石灰石など合法的な材料で猫の骨を模したふぃぎゅあを作り、それを抗議文書と共に送ってはいかがですか? わたくしめもご協力致しますよ」
「確かにそれならアニマルウェルフェア? に反してないですね。お礼はお寺の宣伝イラストでいいですか?」

 宝来さんはそう言うと円城寺君と放課後に落ち合う約束をして、ともかく合法的な抗議になりそうでよかったと思った。


 その翌週……

『ここで臨時ニュースです。先月よりテレビアニメ『ねこがみっ!』を放映中のテレビ局に対し、放送延期への抗議という理由で数日前に匿名で猫の骨が送りつけられましたが、成分分析の結果実際には人骨であることが明らかになりました。警視庁は殺人事件の可能性も視野に捜査を進めており……』

「これは困りました、寺院の倉庫にあった石灰石が実は無縁仏のご遺骨だったのです。父上に確認を取らなかった私の落ち度ですね」
「は、ははは……」

 始業前に慌てて話しかけてきた円城寺君と報道を見てショックで寝込んでしまった宝来さんの座席を見て、私はどこから突っ込めばいいのかと思った。


 (続く)
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