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第4部 天然女子高生のための大そーかつ

第111話 ディープラーニング

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)


「こんにちは裏羽田先輩。その犬、この前金原先輩が買ってた愛犬ロボですか?」
「ああ、野掘さん。確かに同じ系列の機種だけど、これは廉価版なんだよ」

 ある日曜日の昼間、街頭をぶらついていた私は2年生で応援団長を務める裏羽田りばた由自ゆうじ先輩が見覚えのある姿の犬型ロボットを連れ歩いているのを目にした。

 裏羽田先輩の従妹である2年生の金原かねはら真希まき先輩は少し前に通販で愛犬ロボ「ひろ」を購入して学校に持ち込んでおり、あの時は高度なAIが搭載されている会話可能な論破ロボだった。

「これは通販で税抜4800円で買った愛犬学習ロボ『おしゃべりひろ君』で、人間を論破するほど高度なAIは搭載されていないけど自分の意思で会話が可能なんだ。特に優秀なのはディープラーニング機能で、飼い主のスマホとデータを同期するだけで自動的に飼い主の性格を学習して会話できるんだよ」
『そうそう、ぼくは由自君の友達なんだよ! 由自君みたいに自由主義という尊い思想を世界に広めていきたいんだ!』
「へえー、すごいじゃないですか。この前の愛犬論破ロボみたいに人を不快にもさせないですし」

 「おしゃべりひろ君」は面倒見がよくて自由主義を尊重する裏羽田先輩の性格を学習しただけあって親しみやすいキャラクターらしく、これなら見た人は誰でも好感を持つだろうと思われた。

「実はこれから出羽さんと久々にデートでね。この『おしゃべりひろ君』を見せようと思ってるんだ」
「裏羽田君、遅れてごめんなさい! あら、あなたはテニス部の……」
「お疲れ様です。外出中にちょうどお会いしただけなので、そろそろ向こう行きますね」

 通りの向こうからやって来たのはケインズ女子高校3年生で硬式テニス部長でもある出羽でわののかさんで、デート中の2人を邪魔しないよう私はさっさと立ち去ることにした。

「裏羽田君、これがメッセージアプリで言ってたおしゃべりひろ君? 何か質問したら答えてくれるのかしら?」
「そうなんです。AIがディープラーニングで僕の性格を学習しているので、ちょっと恥ずかしいですけど」

 出羽さんはかわいい愛犬ロボを見つけて地面にしゃがみ込み、裏羽田先輩の話を聞いて何かを質問しようとした。

「なるほどね。じゃあおしゃべりひろ君、あなたは私のどこが好きなのかしら? 正直に教えてくれる?」
『おっぱいでかいからすき!!』
「○ね!!!」
「ぐふうっ!!」

 出羽さんは嬉しそうに答えた愛犬ロボに激怒すると地面から立ち上がる勢いで裏羽田先輩にアッパーカットを食らわせ、私はそこは正直に答えてはいけない所ではと思った。


 (続く)
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