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第4部 天然女子高生のための大そーかつ

大最終話 勇者総括ゲバロッダー

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 ある朝目覚めた私は、月面上にいた。

「ここは一体……あれ、何か手がメカになってる?」
「何やっとんのノンポリアス、今からシホンボットの連中との決戦やで」
「なるみ先輩……って巨大ロボになってる!? いや私もロボなの!?」

 平塚ひらつか鳴海なるみ先輩と同じ声で話しかけてきたのは全高10メートルぐらいありそうな人型巨大ロボで、そのロボは私をノンポリアスと呼んだ。

「ロボっちゅうか、まあ超ロボット生命体やわな。今の状態で巨大かどうかは微妙やけど」
「ノンポリアス、フェミースクリーム、歩くのが遅いですわよ。戦場はもうすぐですわ」
「ホッチャロン、向こうから4体分の足音が聞こえてくるよ! 先鋒はこの私、レッドフラグーンの役目だよー!!」

 レッドフラグーンと名乗った超ロボット生命体はそう言うとソ連製っぽい戦闘機に変形して飛んでいき、その先からレーザー光線が飛び交う音が聞こえ始めた。

 フェミースクリームとホッチャロンに付いて走っていくとそこは月面上の巨大なクレーターで、4体の超ロボット生命体と単身で銃撃戦を繰り広げるレッドフラグーンに私たちも加勢することになった。

「私はシホンボットのリーダー、デワノーカー! 共産主義のスパークは今ここでついえるのよ!!」
「そうはさせないよ、この宇宙を支配するのは私たちゲバトロンを導く共産主義のスパークだよ!! ビッグバンそーかつウェーブ!!」

「推し活と称して人々から財産をせしめるその姿勢は許せません! シホンボットのミシュマーがあなたを裁きます!!」
「そうはさせませんわ、あなたのような綺麗事を言う超ロボット生命体はビューティー波動砲で一撃ですわ!!」

「ほらほらウツダー、逃げてばっかやと勝てへんで! フェミニウム光線最大出力連射や!!」
「ひぃー、資本主義のスパークなんてどうでもいいから命だけは助けてー!!」

「という訳でよろしくお願いします。グレーターの全力、菜食主義ソーラーレーザー!!」
「いや何がという訳でなのか全然分かんないですよ! とりあえず迎撃!?」

 周囲から聞こえてくる会話を総合するとこの宇宙では資本主義のスパークと共産主義のスパークという2つのこころが争っているらしく、私たちゲバトロンは資本主義のスパークに導かれたシホンボットと死闘を繰り広げているらしい。

 そうこうしているうちに戦いは私たちゲバトロンの優勢となり、シホンボットの4体の超ロボット生命体はクレーターの中央へと追い詰められていた。

「デワノーカー、ここは合体で道を切り開きましょう! 今ならまだエナジーが残っています!」
「分かったわ! 拝金合体、シホンジェイダー!!」

 ミシュマーに促されたデワノーカーがそう叫ぶとシホンボットの4体は突如としてバラバラになり、そのまま瞬時にして一つの超巨大ロボットへと合体した。

「あははははは、このシホンジェイダーの超火力の前には手も足も出ないでしょう! あなたたちの生命はここで尽きるのよ!!」
「これはまずいわ、何とかこのまま倒せへんかな?」
「エナジー変換効率が違いすぎますわ。ノンポリアス、あなたの出番ですわよ!」
「ええっ、私ですか!?」

 合体ロボット「シホンジェイダー」の猛攻に苦戦する私たちだが、この状況を打開するすべは私にあるらしかった。

「私が合体のコードを唱えるよ! 総括合体、ゲバロッダー!!」

 レッドフラグーンが勝手に唱えた合体コードにより私たち4体もバラバラになり、やはりと言うべきか瞬時に合体して一つの超巨大ロボットになった。

「これが私たちの力!? 勇者というよりその前のやつっぽいですけど……」
「シホンジェイダー、これで終わりだよ! グレートファイヤーゲバロッド!!」
「し、資本主義に栄光あれーっ!!」

 パーツの一つとなったレッドフラグーンは合体ロボット「ゲバロッダー」の身体を勝手に操ると巨大なゲバ棒を展開し、宇宙空間で炎をまとったゲバ棒はシホンジェイダーの身体をあっという間に切り裂いた。

 ゲバトロンとシホンボットの戦いはゲバトロンの圧勝に終わり、この宇宙は共産主義のスパークのもとに統一された。

 その時……


「ゲバトロン、シホンボット、そしてこの宇宙で戦った全ての戦士たちよ。私は創造神オモチャ・メイカー……」
「何やこの姉ちゃん、デウスエクスマキナいうやつか!?」

 虚無の空間から月面へと姿を現したのは巨大な女神の立体映像で、オモチャ・メイカーと名乗ったその女神は合体したままの私たちに話しかけ始めた。

「あなた方は4体のロボットを揃えることで1体の巨大ロボットとなり、敵と味方で合計2セットとなります。ただ、今の時代にロボットのおもちゃを8体も買える家庭はありませんし、4体でも買って貰えるか怪しいのです」
「はいっ?」
「あなた方が生まれるはずだった企画は無に帰し、そしてあなた方の戦いは新たに始まるのです。未来に希望がありますよう……」

 創造神オモチャ・メイカーがそう言った瞬間、私たちの意識は真っ暗な闇の底へと消えていった。












 ある朝目覚めた私は、月面上にいた。

「ここは一体? あれ、何か私ロボットを操縦してる?」
『その通りですわ。マナ、あなたはスーパーロボット・ゲバロッダーのパイロットとして今そこにいるのです。わたくしたちが到着するまで、どうにか持ちこたえてちょうだい』
『もうすぐハイパーメカが完成するよ! それまで負けないように頑張るんだよ!!』

 通信画面の向こうでは硬式テニス部の3人の先輩方が飛行機のような3体のメカを建造しており、私は彼女らが到着するまでここで持ちこたえなければならないようだった。

『ゲバロッダー、ハイパーメカは決戦には間に合わなかったようね! それで私たちのスーパーシホンジェイダーに敵うかしら!?』
「うわっ、敵はもう合体してるの!? ひえー助けてーー」

 ゲバロッダーのライバル機であるらしいシホンジェイダーは既に3体の支援メカと合体しており、私はゲバロッダーを操縦してスーパーシホンジェイダーの猛攻から逃げ続けた。

 そうこうしているうちにはたこ先輩、ゆき先輩、なるみ先輩が操縦する3体のハイパーメカは月面の空を飛んで到着し、ゲバロッダーもまた3体の支援メカと合体した。

「グレートゲバロッダーの必殺奥義、グレートファイヤーゲバロッド!! これで決まりっ!!」
「し、資本主義に栄光あれーっ!!」

 グレートゲバロッダーは取り出した巨大なゲバ棒に宇宙空間で炎をまとわせるとスーパーシホンジェイダーを切り裂き、この宇宙では共産主義が勝利した。

 その時……


「ゲバロッダー、シホンジェイダー、そしてこの宇宙で戦った全ての戦士たちよ。私は創造神オモチャ・メイカー……」
『何やこの姉ちゃん、デウスエクスマキナいうやつか!?』
「それさっきも言いませんでした!?」

 虚無の空間から月面へと姿を現したのは巨大な女神の立体映像で、オモチャ・メイカーと名乗ったその女神は合体したままの私たちに話しかけ始めた。

「あなた方は1体のロボットに3体の安価な支援メカを合体させることで完成形となりますが、やはり単価が高すぎます。今の時代は大物よりも小物のおもちゃで儲けた方が合理的であることは言うまでもないでしょう」
「はいっ?」
「あなた方が生まれるはずだった企画は無に帰し、そしてあなた方の戦いは新たに始まるのです。未来に希望がありますよう……」

 創造神オモチャ・メイカーがそう言った瞬間、私たちの意識は真っ暗な闇の底へと消えていった。












 ある朝目覚めた私は、月面上にいた。

「何か変身ヒーローみたいになってる!? もはやロボットですらないし!!」
「共産ライダー、決戦の場に月面を選ぶとは考えたわね! それならこの資本チェイサーも存分に戦えるという訳ね!!」
「いきなり襲ってくるの!? 何か色々省略しすぎですよ!!」

 共産ライダーに変身した私は同じく変身ヒーローらしい資本チェイサーと死闘を繰り広げ、戦いは互角のまま推移した。

『まなちゃん、うちが開発したスペースゲバッテリーを使うんや! 3種類全部合わせてーな!!』
「なるみ先輩!? 分かりました、これのボタンを押して……」

 Aggressive Gebattery!!

 ヒーロースーツのベルトに格納されていた3本の乾電池のボタンを押すと、乾電池からは電子音声が流れ始めた。

 私の身体はスペースゲバッテリーの作用で月面の空中へと浮かび、そのまま資本チェイサー目がけて激突していく。

「ゲバストライカー、クラッシュ!!」
「し、資本主義に栄光あれーっ!!」

 全力のキックを受けた資本チェイサーは爆散し、まあ色々あって戦いは共産主義の勝利に終わった。

 その時……


「共産ライダー、資本チェイサー、そしてこの宇宙で戦った全ての戦士たちよ。私は創造神オモチャ・メイカー……」
『何やこの姉ちゃん、デウスエクスマキナいうやつか!?』
「それ言うの何度目ですか!?」

 虚無の空間から月面へと姿を現したのは巨大な女神の立体映像で、オモチャ・メイカーと名乗ったその女神は合体したままの私たちに話しかけ始めた。

「あなた方はローコストで作れるおもちゃを大量に売ることで薄利多売の利益をもたらしますが、SDGsの時代はおもちゃにも再生可能であることが求められます。プラスチックごみの削減のため、今後おもちゃは全て紙製にすることになりました」
「はいっ?」
「あなた方が生まれるはずだった企画は無に帰し、そしてあなた方の戦いは新たに始まるのです。未来に希望がありますよう……」

 創造神オモチャ・メイカーがそう言った瞬間、私たちの意識は真っ暗な闇の底へと消えていった。




「もう嫌あああああ!! こんな訳の分からない戦いを繰り返すなんてえええええええ!!」

 消えていく意識の中で私がそう叫んでも、オモチャ・メイカーの大いなる意思による戦いが終わることはない。


 ショーは続けられなければならないのだ。












「ん……あっ、私こんな所で寝ちゃってたんだ。蓮くん、毛布かけてくれたのかな?」

 目覚めた私は自宅のリビングのソファに寝転んでおり、今はお隣さんの子供である6歳児の村田むらたれんくんが遊びに来ているはずだった。

 蓮くんはちょうどトイレに行っていたらしく、戻ってきた彼は両手におもちゃを握っていた。

「どーん、ずばーん! みたかぜばろっだー、きめんらいだーのひっさつきっくにはかなわないだろー!!」
「蓮くん、そのおもちゃは……」
「ちいさいころにかってもらったろぼっとのおもちゃであそんでるの。いまはきめんらいだーのほうがすき!!」

 くたびれた変形ロボットのおもちゃを今見ている変身ヒーローのフィギュアに倒させている蓮くんを見て、私はいつか飽きられて捨てられるのだろうおもちゃたちの身の上をなぜか気の毒に思った。


 (完)
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