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第5部 天然女子高生のための真そーかつ

第150話 部活動の地域移行

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)


 ある日の朝、教頭の琴名ことな枯之助かれのすけ先生は中高の全生徒を集めた体育館での朝礼で今後の部活動に関する重要事項を発表していた。

「えー、近年では教員の働き方改革という観点から部活動の地域移行の動きが進んでおり、わが校でも試験的に一部の部活動の地域移行に取り組むことになりました。地域移行は一般的には運動部や休日の部活動を対象として進んでいますが、わが校では公平性の観点から全部活を対象とし、休日に限らず顧問教員が担当を希望しない場合は原則として地域移行の対象と致します。現在全ての部活動の顧問教員に今後の顧問担当の希望を聞き取っておりますので、部活に所属されている皆さんは正式な発表までしばらくお待ちください」

 要するに顧問の先生がもう部活動の顧問を担当したくないと言った場合は例外なく顧問を民間に委託するということらしく、私は硬式テニス部の現顧問である国語科の金坂かなさかえいと先生を頼りにしているので今のままになるといいなと思った。

 その後の希望調査の結果、今後は部活動の顧問を一切担当したくないと言った先生はごく一部に留まり、それ以外は現状のままか土日祝の部活動のみ民間のボランティアの方々が顧問を務めることになった。

「最初は心配したけど、結局はあんまり変わらなそうでよかったね。石北さんのカラオケ部も体制はそのまま?」
「カラオケ部の顧問にはほとんど名前を貸して貰っている状態で、事実上はボクが顧問をやっているからね。それで先生に顧問担当の手当は出ているからお互いウィンウィンという訳さ」

 カラオケ部の部長を務めている同じクラスの石北いしきた香衣かいさんと昼休みに話しながら歩いていると、新聞部の部室から年配の男性の怒鳴り声が聞こえてきた。

「君たち、一体この原稿の出来は何だ! まともに記者の視点から時事問題を斬っているのが朝日さんだけではないか!!」
「そう言われても、これは僕たちなりに必死で取材してきた結果なので……」
「そうですよ西山さん。私の取材だって皆の協力があってこそなので、あんまり厳しく言わないであげてください」
「ううむ、確かにプロの新聞記者という訳ではない君たちにいきなり何もかもを求めすぎたようだ。よし、今度の土曜日の放課後に私と一緒にフィールドワークに行こうじゃないか! 帰りに美味しい寿司でもおごるよ!」

 新聞部はこれまでの顧問の先生がいわゆるでもしか教師だったことから部活動を完全に地域移行することになり、元々全国紙の有名な新聞記者でかつては不正取材の嫌疑で投獄されたこともあるという西山にしやま太一たいちさんが顧問を務めることになったとは聞いていた。

「西山さんは厳しそうだけど、現代史に名前が残る人だけあって指導力は流石だね。あの意識の高さにはボクも憧れるよ」
「まあ実力はすごそうだよね。また何かやりすぎにならないといいけど……」

 経歴からして心配は尽きないが朝日あさひ千春ちはるさんをはじめとする新聞部員たちの目は輝いていたので、これで新聞部が高校生新聞コンテストを受賞とかになったら面白いなと私は思った。


 その翌月……

『一部の部活動について地域移行が順調に進んでいた私立マルクス中学校・高等学校ですが、本日早朝の活動中に新聞部室の窓に銃弾が撃ち込まれる事件が発生しました。犯行への関与が疑われる一般社団法人は同校の新聞部が今の時代に( 自粛 )の戦争責任を取り上げていることを公式ウェブサイトで激しく非難しており、同校はこの事件を受け部活動の地域移行を全面的に見直すと発表しています』

「暴力による言論の抑圧を許すなー!! 私たち新聞部は部活動地域移行の見直しに全面的に反対するー!!」
「あっ高1の野掘さん! 朝日さんの友達のよしみでここに署名してくれないかな?」
「嫌ですよ……」

 銃撃事件の影響で出勤自粛を要請された西山さんの代わりに校門前でデモを行っている新聞部員たちに、私は部活動は何でも地域移行すれば問題が解決する訳ではないなあと思った。


 (真最終話に続く)
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