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2019年10月 解剖学発展コース
193 当たり前の叱責
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ゲームセンター「ヴィヴァーチェ」を出た後、龍之介は剖良の手を離すと無言で夜の街を歩いていった。
龍之介は先ほどまでの明るい態度とは打って変わって不愉快そうな雰囲気で、剖良は彼の機嫌を心配しつつ後ろに付いて歩いた。
「……ちょっと、そこのファミレス寄ろうか。話したいことがあるから」
「え、ええ……」
阪急如月市駅の高架下を通り過ぎてしばらくするとそこにはファミレスのチェーン店があり、2人は夜間営業を行っているその店に並んで足を踏み入れた。
「グリーンサラダとコーンポタージュお願いします。さっちゃんは何頼む?」
「じゃあ、私はコーヒーゼリーで……」
ファミレスに入った以上は何かを頼むのがマナーなので店員を呼んでいかにも胃に優しそうなメニューを頼んだ龍之介に倣い、剖良もカロリーの低いデザートを注文した。
龍之介はそれからおいしい水をコップに注いで2人分持ってきてくれて、座席に戻ると小さな口でこくこくと水を飲んでいた。
「あの、さっきはありがとう。男の人から複数人で話しかけられるのは慣れてないから本当に助かった。ヤッ君もよく夜に来てるの?」
「普段は京都のゲーセンでしか遊ばないから、あの店に行ったのは今日が初めてだよ。研究で遅くなったから夕食ついでに寄ってみただけ」
そっけない様子で答えた龍之介はやはり不機嫌で、剖良は話の切り出し方に迷っていることを隠すためにちびちびとコップの水を飲んだ。
龍之介はヴィヴァーチェに来るのは今日が初めてだったらしく、自分は彼が初めて行くゲーセンで遊ぶ楽しみを失わせてしまったのだと剖良は理解した。
おいしい水を無表情のままぐいと飲み干し、コップをカツンという音をさせつつテーブルに置くと龍之介は静かに口を開いた。
「あのさあ、さっちゃん」
「……」
普段は絶対にしないような厳しい呼びかけ方に、剖良は黙ってうつむいた。
「ボクが女の子だったら、今頃君をひっぱたいてると思う。……それぐらい、今のさっちゃんはひどいよ」
「……」
低い声で言った龍之介に剖良は何を言い返すこともできなかった。
「助けに入る前に近くで様子を窺ってたけど、あの2人はナンパしててもちゃんとした大学生だったからまだ良かったよね。でも夜のゲーセンっていうのは若い女の子が1人で入っていい場所じゃないんだよ。ボクだって不良グループにカツアゲされそうになったことがあるし、武道の心得がある訳でもないさっちゃんが夜にゲーセンに行くなんてほとんど自殺行為だよ。……それぐらい、女の子なら理解してよ」
「……ごめん」
龍之介は友人として剖良の身を案じているからこそ厳しい言い方をしているのだと理解し、同時にこんな当たり前のことを指摘されなければならないほど自分は愚かな行動を取っていたのだと感じて、剖良はうつむいたまま小声で返事することしかできなかった。
「さっちゃんがヤミ子ちゃんに彼氏ができて傷ついたのも白神君を振り回して困らせちゃったのもボクは知ってる。好きな人に恋人ができてしかも相手は同性だから振り向かせることもできない辛さは、ボクだって経験があるから分かるよ。だけどさ、もしさっちゃんが夜のゲーセンで悪い人に絡まれて被害に遭うようなことがあったら一番辛いのはヤミ子ちゃんと白神君だよね。これ以上あの子たちを困らせてどうするの? 嫌われるどころじゃ済まないよ?」
冷めた目で見つめながら正論をぶつける龍之介に、剖良は目に涙をにじませてスカートの布地を握りしめた。
龍之介は先ほどまでの明るい態度とは打って変わって不愉快そうな雰囲気で、剖良は彼の機嫌を心配しつつ後ろに付いて歩いた。
「……ちょっと、そこのファミレス寄ろうか。話したいことがあるから」
「え、ええ……」
阪急如月市駅の高架下を通り過ぎてしばらくするとそこにはファミレスのチェーン店があり、2人は夜間営業を行っているその店に並んで足を踏み入れた。
「グリーンサラダとコーンポタージュお願いします。さっちゃんは何頼む?」
「じゃあ、私はコーヒーゼリーで……」
ファミレスに入った以上は何かを頼むのがマナーなので店員を呼んでいかにも胃に優しそうなメニューを頼んだ龍之介に倣い、剖良もカロリーの低いデザートを注文した。
龍之介はそれからおいしい水をコップに注いで2人分持ってきてくれて、座席に戻ると小さな口でこくこくと水を飲んでいた。
「あの、さっきはありがとう。男の人から複数人で話しかけられるのは慣れてないから本当に助かった。ヤッ君もよく夜に来てるの?」
「普段は京都のゲーセンでしか遊ばないから、あの店に行ったのは今日が初めてだよ。研究で遅くなったから夕食ついでに寄ってみただけ」
そっけない様子で答えた龍之介はやはり不機嫌で、剖良は話の切り出し方に迷っていることを隠すためにちびちびとコップの水を飲んだ。
龍之介はヴィヴァーチェに来るのは今日が初めてだったらしく、自分は彼が初めて行くゲーセンで遊ぶ楽しみを失わせてしまったのだと剖良は理解した。
おいしい水を無表情のままぐいと飲み干し、コップをカツンという音をさせつつテーブルに置くと龍之介は静かに口を開いた。
「あのさあ、さっちゃん」
「……」
普段は絶対にしないような厳しい呼びかけ方に、剖良は黙ってうつむいた。
「ボクが女の子だったら、今頃君をひっぱたいてると思う。……それぐらい、今のさっちゃんはひどいよ」
「……」
低い声で言った龍之介に剖良は何を言い返すこともできなかった。
「助けに入る前に近くで様子を窺ってたけど、あの2人はナンパしててもちゃんとした大学生だったからまだ良かったよね。でも夜のゲーセンっていうのは若い女の子が1人で入っていい場所じゃないんだよ。ボクだって不良グループにカツアゲされそうになったことがあるし、武道の心得がある訳でもないさっちゃんが夜にゲーセンに行くなんてほとんど自殺行為だよ。……それぐらい、女の子なら理解してよ」
「……ごめん」
龍之介は友人として剖良の身を案じているからこそ厳しい言い方をしているのだと理解し、同時にこんな当たり前のことを指摘されなければならないほど自分は愚かな行動を取っていたのだと感じて、剖良はうつむいたまま小声で返事することしかできなかった。
「さっちゃんがヤミ子ちゃんに彼氏ができて傷ついたのも白神君を振り回して困らせちゃったのもボクは知ってる。好きな人に恋人ができてしかも相手は同性だから振り向かせることもできない辛さは、ボクだって経験があるから分かるよ。だけどさ、もしさっちゃんが夜のゲーセンで悪い人に絡まれて被害に遭うようなことがあったら一番辛いのはヤミ子ちゃんと白神君だよね。これ以上あの子たちを困らせてどうするの? 嫌われるどころじゃ済まないよ?」
冷めた目で見つめながら正論をぶつける龍之介に、剖良は目に涙をにじませてスカートの布地を握りしめた。
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