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2019年11月 生化学発展コース
213 お姉様の心づかい
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2019年11月16日、土曜日。時刻は昼12時頃。
立志社女子大学囲碁サークルの定例対局会を欠席して畿内医科大学の大学祭を訪れた上白石真琴は、待ち合わせをしている交際相手を探して第二キャンパスの周囲を歩き回っていた。
(地図によると第二キャンパスは今見えてるあれで……入り口どこなのかな?)
大学祭の会場である畿内医大の第二キャンパスは鉄製の柵で囲まれており入場門以外からは出入りできないため、初めての来訪となる真琴は目の前にある会場に入れず困っていた。
こういう時の鉄則として第二キャンパスを囲む柵を右手でつたうように歩いていくと入場門はようやく見つかり、真琴は若干緊張しながらグラウンドへと歩いていった。
総合大学である立志社女子大学の大学祭と比べればずっと小規模だが様々な部活の学生たちがグラウンドで出店を開いている様子にはやはり活気があり、真琴は後で何か買い物をしてみたいと思った。
といっても交際相手との待ち合わせ場所はグラウンドに併設された競技場の前であり、今来るべき所はここではないと離れようとした所で、
「あれ? もしかして真琴?」
「その声は……お姉様!?」
とても聞き覚えのある声が耳に届き、振り向いた先には畿内医大医学部2回生にして立志社女子高校囲碁部の先輩である壬生川恵理の姿があった。
真琴はこの場で知人と出くわす可能性を全く考慮していなかったが競技場に最も近いグラウンドの隅では女子バスケットボール部がペットボトル販売の出店を開いており、グラウンドを通り抜けて競技場に行こうとした彼女が恵理に見つかったのは不自然なことではなかった。
「何よ、来てくれるんなら教えてくれればいいのに」
「ごめんなさい、まさかお姉……じゃなくて壬生川先輩も出店やってるとは思わなくて」
本当は大学祭を訪れると事前に伝えたらここに来た真の目的を知られかねないからだが、真琴は焦りながら弁明した。
流石に恵理の部活仲間の前で「お姉様」を連呼するのはよくないと考え、慌てて呼び方を変える。
「えっ、恵理先輩のお知り合いなんですか? すっごく美人ー!」
「そんな、美人だなんて。私、壬生川先輩の高校の後輩で立志社女子大社会学部3回生の上白石真琴っていいます。部活の後輩さんですか?」
「はい、医学部1回生の滝藤です。えーと、恵理先輩の後輩だけど3回生で……」
「滝ちゃん、そこは今は置いときましょ?」
現役で畿内医大に入学しているためか「二浪以上した大学生が高校の後輩に学年を追い越される」現象を理解できていない滝藤に、女子バスケ部主将の金森は冷たい笑顔でその話題を打ち切るよう促した。
「実はこの大学に趣味で知り合った友達がいて、その子から来て欲しいって誘われたんです。今は競技場? の前で待ち合わせしてて……」
「そういうことね。だったら早く行ってあげたら? ついでに1本買ってってちょうだい」
「分かりました。ありがとうございます」
恵理は「趣味で知り合った」という台詞と真琴の性的指向から言わんとする所を察したらしく、ペットボトルを買わせつつ真琴がこの場から早く立ち去れるよう話題を誘導した。
100円玉を渡してお茶のペットボトルを買い女子バスケ部員たちに別れの挨拶をすると、真琴は恵理に手を振りつつ競技場へと歩いていった。
立志社女子大学囲碁サークルの定例対局会を欠席して畿内医科大学の大学祭を訪れた上白石真琴は、待ち合わせをしている交際相手を探して第二キャンパスの周囲を歩き回っていた。
(地図によると第二キャンパスは今見えてるあれで……入り口どこなのかな?)
大学祭の会場である畿内医大の第二キャンパスは鉄製の柵で囲まれており入場門以外からは出入りできないため、初めての来訪となる真琴は目の前にある会場に入れず困っていた。
こういう時の鉄則として第二キャンパスを囲む柵を右手でつたうように歩いていくと入場門はようやく見つかり、真琴は若干緊張しながらグラウンドへと歩いていった。
総合大学である立志社女子大学の大学祭と比べればずっと小規模だが様々な部活の学生たちがグラウンドで出店を開いている様子にはやはり活気があり、真琴は後で何か買い物をしてみたいと思った。
といっても交際相手との待ち合わせ場所はグラウンドに併設された競技場の前であり、今来るべき所はここではないと離れようとした所で、
「あれ? もしかして真琴?」
「その声は……お姉様!?」
とても聞き覚えのある声が耳に届き、振り向いた先には畿内医大医学部2回生にして立志社女子高校囲碁部の先輩である壬生川恵理の姿があった。
真琴はこの場で知人と出くわす可能性を全く考慮していなかったが競技場に最も近いグラウンドの隅では女子バスケットボール部がペットボトル販売の出店を開いており、グラウンドを通り抜けて競技場に行こうとした彼女が恵理に見つかったのは不自然なことではなかった。
「何よ、来てくれるんなら教えてくれればいいのに」
「ごめんなさい、まさかお姉……じゃなくて壬生川先輩も出店やってるとは思わなくて」
本当は大学祭を訪れると事前に伝えたらここに来た真の目的を知られかねないからだが、真琴は焦りながら弁明した。
流石に恵理の部活仲間の前で「お姉様」を連呼するのはよくないと考え、慌てて呼び方を変える。
「えっ、恵理先輩のお知り合いなんですか? すっごく美人ー!」
「そんな、美人だなんて。私、壬生川先輩の高校の後輩で立志社女子大社会学部3回生の上白石真琴っていいます。部活の後輩さんですか?」
「はい、医学部1回生の滝藤です。えーと、恵理先輩の後輩だけど3回生で……」
「滝ちゃん、そこは今は置いときましょ?」
現役で畿内医大に入学しているためか「二浪以上した大学生が高校の後輩に学年を追い越される」現象を理解できていない滝藤に、女子バスケ部主将の金森は冷たい笑顔でその話題を打ち切るよう促した。
「実はこの大学に趣味で知り合った友達がいて、その子から来て欲しいって誘われたんです。今は競技場? の前で待ち合わせしてて……」
「そういうことね。だったら早く行ってあげたら? ついでに1本買ってってちょうだい」
「分かりました。ありがとうございます」
恵理は「趣味で知り合った」という台詞と真琴の性的指向から言わんとする所を察したらしく、ペットボトルを買わせつつ真琴がこの場から早く立ち去れるよう話題を誘導した。
100円玉を渡してお茶のペットボトルを買い女子バスケ部員たちに別れの挨拶をすると、真琴は恵理に手を振りつつ競技場へと歩いていった。
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