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2019年12月 生理学発展コース
244 下位互換
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2019年12月24日、時刻は夕方17時30分頃。
神戸三宮駅前のレストランで、柳沢雅人は山井理子と早めのディナーに臨んでいた。
今日は食事後そのまま近隣のイベントホールで開催される真田雅敏のクリスマスコンサートに行くことになっており、18時前という早い時間帯に食事をしているのはそのためだった。
「じゃあ乾杯。柳沢君、今日はチケット取ってこの店も予約してくれてありがとう」
「いえいえ、先輩のためですからこれぐらい当たり前ですよ」
「そう? 柳沢君のそういう所、素敵だと思う」
四角いテーブルの向かい側で、理子は笑顔で言うとワイングラスに入ったウーロン茶を飲んだ。
この店はレストランとバーの中間的な雰囲気なのでアルコールを頼んだ方がよさそうだが、これから行くコンサートに集中したいというお互いの意見が一致したため2人ともウーロン茶を注文していた。
「ヤミ子先輩も学生研究お疲れ様です。冬休み中も大学に行かれるんですか?」
「うん、動物実験がまだ残ってるから結構スケジュールは埋まってるかな。年明けに1回ぐらいデートできたらいいね」
「ありがとうございます。無理なさらなくて大丈夫ですから、空いてる日があれば教えてください」
雅人が謙虚に言うと理子はありがとう、と静かに答えた。
付き合い始めて日が浅いカップルの会話としてはよくあるやり取りだが、雅人は彼女の思いに気づき始めていた。
雅人は理子のことを一人の異性として愛しているが、理子はおそらくそう思っていない。
理子にとって雅人と会うことは「恋人」としての義務であり、彼女自身が真に求めていることではない。
「あ、料理来たみたい。どんな感じなのか楽しみだね」
「ええ、いただきましょう……」
そこまで話すと店員が料理を運んできて、理子はほっと安心した表情でいただきますと言うと料理に手を付けた。
理子は高級なレストランの料理の味に満足していたが、それよりも食事中は雅人を会話しなくて済むことに喜んでいるように見えた。
理子が自分のことを好きではなく、それどころか大した興味も持っていないと気づいた時、雅人はどうしようもない感覚に襲われた。
彼女は他の男に浮気していないはずだしそもそも浮気するような人物ではないが、少なくとも雅人には興味がないということは一緒に過ごしていれば嫌でも分かってしまった。
一番の親友である解川剖良と過ごしている時の彼女の姿と自分と過ごしている時の彼女の姿は全く違う。
自分に向けてくれる笑顔も本音も、剖良に向けられたそれらの下位互換に過ぎない。
つまり、自分は彼女にとって親しい同性の友人よりも価値がない存在なのだ。
「ご飯美味しかったね。じゃ、そろそろ行こっか」
「そうですね。グッズも色々買いたいですし」
お互い料理を食べ終わり、雅人は理子に促されて席を立った。
割り勘で代金を払うと雅人はイベントホールまで理子と肩を並べて歩いた。
左隣を歩く理子はいつものように可憐で、お気に入りらしいオフホワイトのカーディガンも相まって彼女は冬の天使のように見えた。
この天使をどうにか自分のものにしたいという思いに囚われ、雅人は理子の右手を握った。
理子は手を握り返してくれたが、その力は以前と比べて弱かった。
神戸三宮駅前のレストランで、柳沢雅人は山井理子と早めのディナーに臨んでいた。
今日は食事後そのまま近隣のイベントホールで開催される真田雅敏のクリスマスコンサートに行くことになっており、18時前という早い時間帯に食事をしているのはそのためだった。
「じゃあ乾杯。柳沢君、今日はチケット取ってこの店も予約してくれてありがとう」
「いえいえ、先輩のためですからこれぐらい当たり前ですよ」
「そう? 柳沢君のそういう所、素敵だと思う」
四角いテーブルの向かい側で、理子は笑顔で言うとワイングラスに入ったウーロン茶を飲んだ。
この店はレストランとバーの中間的な雰囲気なのでアルコールを頼んだ方がよさそうだが、これから行くコンサートに集中したいというお互いの意見が一致したため2人ともウーロン茶を注文していた。
「ヤミ子先輩も学生研究お疲れ様です。冬休み中も大学に行かれるんですか?」
「うん、動物実験がまだ残ってるから結構スケジュールは埋まってるかな。年明けに1回ぐらいデートできたらいいね」
「ありがとうございます。無理なさらなくて大丈夫ですから、空いてる日があれば教えてください」
雅人が謙虚に言うと理子はありがとう、と静かに答えた。
付き合い始めて日が浅いカップルの会話としてはよくあるやり取りだが、雅人は彼女の思いに気づき始めていた。
雅人は理子のことを一人の異性として愛しているが、理子はおそらくそう思っていない。
理子にとって雅人と会うことは「恋人」としての義務であり、彼女自身が真に求めていることではない。
「あ、料理来たみたい。どんな感じなのか楽しみだね」
「ええ、いただきましょう……」
そこまで話すと店員が料理を運んできて、理子はほっと安心した表情でいただきますと言うと料理に手を付けた。
理子は高級なレストランの料理の味に満足していたが、それよりも食事中は雅人を会話しなくて済むことに喜んでいるように見えた。
理子が自分のことを好きではなく、それどころか大した興味も持っていないと気づいた時、雅人はどうしようもない感覚に襲われた。
彼女は他の男に浮気していないはずだしそもそも浮気するような人物ではないが、少なくとも雅人には興味がないということは一緒に過ごしていれば嫌でも分かってしまった。
一番の親友である解川剖良と過ごしている時の彼女の姿と自分と過ごしている時の彼女の姿は全く違う。
自分に向けてくれる笑顔も本音も、剖良に向けられたそれらの下位互換に過ぎない。
つまり、自分は彼女にとって親しい同性の友人よりも価値がない存在なのだ。
「ご飯美味しかったね。じゃ、そろそろ行こっか」
「そうですね。グッズも色々買いたいですし」
お互い料理を食べ終わり、雅人は理子に促されて席を立った。
割り勘で代金を払うと雅人はイベントホールまで理子と肩を並べて歩いた。
左隣を歩く理子はいつものように可憐で、お気に入りらしいオフホワイトのカーディガンも相まって彼女は冬の天使のように見えた。
この天使をどうにか自分のものにしたいという思いに囚われ、雅人は理子の右手を握った。
理子は手を握り返してくれたが、その力は以前と比べて弱かった。
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