メテオサイド 断罪の巨神と宿命の宙域

輪島ライ

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第5節 裏切り者

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《只今よりティタノマキア作戦を開始する。右舷中隊・左舷中隊はそれぞれパターン3で90Sごとに発進。全機出撃完了次第、状況を見て増援部隊を出せ!》

 指揮を執るナヴィの声が無線から響いてくる。

 先ほどの取り乱した姿からは考えられないほどに、ナヴィの様子は平生へいぜいと変わらなかった。


 ここで言う増援部隊とは俺の部隊を指している。

 ウォークルの右舷・左舷から発進した部隊が敵宇宙要塞の防衛衛星を攻撃し、迎撃部隊との交戦が始まり次第、俺たちはアンノウンの出現に備えて出撃するというのが今回の作戦における最初の任務だ。


「糧食、ドリンク、医薬品などは全て〈エレクトラ〉と同じ場所に格納してあります。ただ、コクピット自体がやや広くなっておりますので、少し戸惑われるかも知れません」

 ハッチを開いたコクピットに搭乗している俺に、整備アームに乗った整備員の一人が内部の設備について説明している。

 機体が大き過ぎるため、アームに乗らないと搭乗しているパイロットと会話できないのだ。


 他の機体も同様らしく、向こうではゼネックが私的に持ち込もうとしていた車のプラモデルを没収されている。

 機体の重力制御装置が万が一異常をきたしたとき、コクピット内に固定されていない物体があれば何であろうと凶器となりうる。妥当な判断だろう。


「まあ、そう時間がかかる任務でもないさ。気にしなくていい」
「承知しました。それと、こちらをお渡しします」
「ん? ああ……」

 整備員が手渡したのは、一丁のレーザーピストルだった。

 全ての兵士が公的に所持を認められているものだが、士官と警備兵を除き、艦内での携帯は原則として禁止されている。


 携帯を許されるのは白兵戦を専門とする兵士ならば戦闘時、パイロットならば出撃時と決まっているが、俺たちは立場上、出撃時であっても所持は認められていなかった。

 それにも関わらず、今日に限っては銃を手渡された。


「しかし、これは……」
「艦長から頼まれたものです。エナジーは充填されていないとのことで、御守り代わりにと」

 エナジーを充填していないのであれば、このレーザーピストルはただの金属の塊に過ぎない。


「御不要でしたら、お預かりしておきますが……」
「いや、いい。貰っておこう」
「ありがとうございます。では、ラックにお納めください」

 その言葉を受け、俺は長い間使ったことのないガンラックにレーザーピストルを納めると、回転式の蓋を閉じた。

 ナヴィがどういうつもりなのかは分からなかったが、悪い気はしなかった。


 艦内モニターで宙域の様子を見る。

 敵要塞の周辺では大規模な戦闘が始まっており、友軍のメテオムーバーが迎撃機を2体で挟撃して討ち取れば、今度は防衛衛星が放った集束レーザーの直撃を受けて爆散していく。


 強襲によって既にほとんどの防衛衛星を破壊できたものの、ステーション衛星からスクランブル出撃した迎撃機との交戦は続いており、今のところはどちらが優勢とも言えない。

 頭数だけで言えばこちらが勝っているが、要塞攻略が見せかけに過ぎない以上、要塞周辺の敵機を殲滅できるほどの兵力を用意している訳でもない。


 今回の作戦において、旗艦ウォークルの役目は後方からの支援に過ぎない。

 ナヴィは総指揮官ではあるものの、艦載機の指揮は前線に出ている艦に一任しており、今のところは指示も散発的だった。


《頃合いだ。〈エレクトラ〉をポイント3に向けて射出! 距離200でオートパイロットに切り替えろ》

 ナヴィの指示が聞こえた。

 見ると、格納庫の奥に立っていた無人の〈エレクトラ〉が、艦の側面にある補助カタパルトからゆっくりと射出されていく。

 小型のシャッターを通して射出するためコストが小さく、少数の機体が出撃する際はこのカタパルトが使われていた。


 大規模な作戦に俺の部隊が出ていないとなると、敵も警戒する。

 おそらくは欺瞞工作。それが、ナヴィの言っていた「使い道」とやらだったのだろう。


『派手にやってますね、隊長』
「セルディか。準備はもういいのか」
『はい』

 セルディが無線を通じて話しかけてくる。

 出撃を前に緊張しているのか、余裕を見せているようでも、機内モニターに映った姿にはどこか焦りが伺えた。


『例の兵器を奴にぶち込むのが、今から楽しみですよ』
「それは俺も同じだが、アンノウンが出てこなければ作戦は中止になる。今は待つしかないな」
『そうですね……』

 そう言うと、セルディは何か考え事をしてから口を開いた。


『少し時間がありますね。あの、隊長』
「何だ?」
『個人的な話になりますけど、構いませんか』
「もちろんいいぞ。好きに話してくれ」
『ありがとうございます』

 それから、俺とセルディの会話が始まった。


『ご存知だと思いますが、僕がこの部隊に配属されたのは、偶然のことではありません』
「ああ、知っているとも」

 セルディの父はオリヴァー・カシロム大佐といって、それほど名の知れた軍人ではないが、軍の背広組としてはある程度の存在感を持った人物だった。

 セルディはそのコネクションを利用して、自らを俺の部隊に配属させたのだった。


『自分で言うのも何ですけど、僕はこの部隊の一員として充分な素質を持っていたと思います。事実、僕は隊長と一緒にこれまで生き残ってこられましたし、その生き方に悔いはありませんでした。もちろん、今のこの状況にもです』
「そうか。……ならいい」

 セルディの自信家ぶりはいつも通りだが、その様子に俺は安心感のようなものも覚えていた。


 しかし次の瞬間、セルディの様子は一変した。


『ここからが本題です。よく聞いておいてください。こいつは使い捨ての新型機ですから、盗聴器も設置されていないようです』
「……何だ?」

 これまで俺たちが愛機としていた〈ナベリウス〉型には、いつも盗聴器らしきものが仕掛けられていた。

 試しに解除してみても、また次の出撃時には勝手に仕掛けられているのが常だったので、俺たちはいつしか解除するのをやめていた。

 セルディはその間隙かんげきを突いて、俺に秘密を伝えようとしているのだろう。


『僕の父、オリヴァーは、既にこの世には居ません』
「どういう事だ?」
『父は祖国を裏切ってワグネルに機密を漏らし、憲兵に処刑されました。僕はエース部隊の一員であったことで忠君精神を認められ、オリヴァーの息子でありながら、処分を免れている。そういう事になっています』

 淡々と話すセルディに、俺は何も言えず頷いた。


『ですが、事実はまるで逆です。父は、ワグネルと内通していた将軍を告発しようとして、逆にその将軍に汚名を着せられ、消されたのです。その将軍の名は……』

 セルディは感情を押し殺した様子で、その名前を告げた。


「何だって!?」
『僕も最初は父を疑っていました。父とは元々仲が悪かったですし、その将軍とは親しかったですからね。戦場で敵の特務機関からのコンタクトを受けて真実を知り、僕は一つの決断をしました』
「そうか……」

 セルディが話したことの全てを理解できた訳ではなかったが、疑問はあらかた氷解していた。


「セルディ、お前が……」
『隊長とカザコ中尉に、ゼネックさん、ジャスト少尉、カティーニ少尉。そして、亡くなったナドック隊長には、本当に申し訳なかったと思っています。でも、仕方がなかったんです。僕にはこうするしかなかったんです』


 お前が。

 お前が、裏切り者だったのか。


『僕は、きっと今日の戦いで死ぬでしょう。いや、そういうことになっているんです』
「……敵からのコンタクトというのは?」
『あの事件が起こる少し前に、僕が戦場で行方不明になったことがあったでしょう。機体の一時的な不調ということで生還しましたが、実際にはワグネルの特務機関に捕まっていたんです。それから僕の体内にはデバイスが埋め込まれています』

 今のような立場になってからは艦を降りたことがないから、俺たちは長い間健康診断を受けていない。

 体内の機械が検出されるような機会もなく、セルディはスパイ行為を続けていられたのだろう。


『最後に、一つだけ隊長にお願いがあります』

 セルディはそう言うと、複雑な笑みを浮かべて続けた。

『隊長はこれからのリーザスに必要な方です。僕がチャンスを作りますから、どうか生き残ってください。それだけです』
「待て、セルディ!」

 俺が制止する間もなく、セルディは通信を切ってしまった。


《艦長! 近隣宙域において、アンノウンの出現が確認されました!》
《よし、増援部隊を出せ。もう敵に見つかろうと構わんから、順次出撃しろ! 〈エレクトラ〉は余裕があれば回収しておけ》

 アンノウン出現の報を受け、艦橋はにわかに騒がしくなった。それに続いて格納庫も出撃準備に入る。

 ハッチが自動的に閉じ、出撃に備えての管制が始まった。


(セルディ……)

 出撃前に妙な事実を知ってしまったが、こうなった以上は戦うしかない。

 セルディが死ぬつもりだというのなら、それを止める権利は俺にはない。


『〈ヘカトンケイル〉の加速は急激です! お気を付けて!』

 艦内無線から整備員の声がする。シャッターは全て開いているから、周囲は既に無重力空間だ。

 整備員も空間スーツを着込んでいるが、これによってメテオムーバー出撃時の衝撃にも耐えられるようになっていた。


 機内のランプが点灯する。出撃態勢はオールグリーン。

 ほとんど反射的にスイッチを入れ、カタパルト射出のレバーを引いた。
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