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第1話 国葬クラウドファンディング
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歴代最長政権の総理大臣を務めた政治家が街頭で暗殺されたその日、日本中に衝撃が走った。
数年前に体調不良により首相の座を降りてからは一人の衆議院議員として国政に関与していた谷田部太郎元首相は以前から選挙活動において新興宗教団体の協力を受けており、当該団体からの寄付金の搾取により家庭を破壊された青年は怒りの矛先を谷田部元首相に向けた。
自らが通う大学の近くで谷田部元首相が街頭演説を行っていたその日、青年は自作して隠し持っていた固形燃料入りの火炎瓶を元首相へと投げつけ、元首相の全身は瞬時にして炎に包まれた。
青年は殺人の現行犯で逮捕され、犯行の動機となった新興宗教団体と様々な政治家、政党の癒着がマスメディアで取り沙汰される中、現首相は政府として谷田部元首相の国葬を行う旨を全国民へと発表した。
歴代最長政権の首相の突然の死は諸外国の要人を招いた国葬にて弔うべきと主張する政権与党の自由民生党に対し、野党や反政権マスメディアは谷田部元首相の生前の汚職問題を取り上げて反対を表明し、少なくとも国民の血税を国葬に使うべきではないと強硬に主張した。
東京都内の拘置所で刑務官を務める私は元々与党に対して肯定的でも否定的でもなかったが、功績に賛否両論のある有名政治家の国葬に税金を使うべきではないという主張には全面的に賛成だった。
そんな中、国葬を巡る論議に決定的な変化をもたらしたのは、他ならぬ谷田部元首相の息子である谷田部健一だった。
谷田部元首相の一人息子であり谷田部元首相が総理大臣を辞した直後の衆議院選挙で初当選を果たした彼は当選当時28歳という若さであり、自由民生党に所属しながら自らの父親も含めた自党の有名政治家を痛烈に批判する彼は若年層を中心に国民からの支持を集めていた。
谷田部健一は父親をテロで失った若き後継者であると国民からの同情を集めながらもカルト宗教と癒着していた父親の責任を国会において取り上げ、国葬に税金を使うことには葬儀の当事者として強く反対すると主張していた。
与党の誰もが彼を批判しにくく、その一方で国葬を行う方針は今更撤回できないジレンマに苦しむ中、谷田部健一は国葬の開催に関する腹案を動画配信サイトのヨーチューブで発表すると表明した。
政治家としての谷田部健一に魅力を感じていた私はリアルタイム配信の開始直前に自室のパソコンを起動し、彼が画面上に現れるのを注視していた。
『亡き父を応援してくださった国民の皆さん、亡き父を批判していた国民の皆さん、そして日本の政治に興味のない国民の皆さん。私はそれぞれの立場に関わらず、全ての国民に向けてお伝えしたいことがあります。私は政治家としての父を尊敬していますが、父に国民の血税を投じた国葬の対象となるだけの資格があるとは全く思いません。ですが、歴代最長政権を担った総理大臣の国葬を行うことは、日本という国の責務であるということも理解しています。そこで……』
谷田部健一は執務室のソファにゆったりと腰かけ、リアルタイム配信を見ている国民へと語りかけていく。
『私は父の国葬にかかる予算を、クラウドファンディングによって調達することを提案します。父の国葬が全ての国民にとって有益なものではなく、中には父の国葬で不快感を覚える国民もいることを踏まえ、今回の国葬は国葬に賛成する国民から募った資金で行うべきと私は主張します。クラウドファンディングの趣旨に従い、資金を提供された方には国葬への優先的な参列などの特典を約束しましょう。また、国民の皆さんの意見を直接お聞きするため、この場でアンケートを取りたいと思います。今から表示される項目に回答をお願いします』
谷田部健一がそこまで話すとヨーチューブの画面上にはアンケート欄が現れ、私は迷いなく「国葬クラウドファンディングに賛成」と回答した。
谷田部健一が個人として提案した国葬クラウドファンディングは国会やマスメディアにおいても大きな話題となり、与野党の意見の一致を受け谷田部元首相の国葬の予算はクラウドファンディングで調達されることになった。
クラウドファンディングは開始初日で目標金額を達成し、税金は一切使わずに済む結果となったことからそれ以降は極端な反政権派以外は国葬の開催をほとんど批判しなくなった。
私は国葬の開催自体の賛否には元々関心がなく、自らの腹案により国葬賛成派と反対派の双方が納得する結果をもたらした谷田部健一という政治家を心から尊敬するようになった。
谷田部健一はそれからも自由民生党に身を置きながら自党の批判すべき点は容赦なく批判し、野党の主張で折り合える部分は積極的に受け入れる姿勢からさらに国民の支持を集めるようになった。
国葬から3年後に行われた衆議院選挙にて自由民生党は議席を大幅に増やし、その立役者となった谷田部健一は34歳の若さにして自由民生党の総裁、すなわち内閣総理大臣に選出されていた。
日本という衰えつつある国は谷田部健一という若き指導者を手に入れ、少しでも明るい方向に進んでいくのだと私は思った。
数年前に体調不良により首相の座を降りてからは一人の衆議院議員として国政に関与していた谷田部太郎元首相は以前から選挙活動において新興宗教団体の協力を受けており、当該団体からの寄付金の搾取により家庭を破壊された青年は怒りの矛先を谷田部元首相に向けた。
自らが通う大学の近くで谷田部元首相が街頭演説を行っていたその日、青年は自作して隠し持っていた固形燃料入りの火炎瓶を元首相へと投げつけ、元首相の全身は瞬時にして炎に包まれた。
青年は殺人の現行犯で逮捕され、犯行の動機となった新興宗教団体と様々な政治家、政党の癒着がマスメディアで取り沙汰される中、現首相は政府として谷田部元首相の国葬を行う旨を全国民へと発表した。
歴代最長政権の首相の突然の死は諸外国の要人を招いた国葬にて弔うべきと主張する政権与党の自由民生党に対し、野党や反政権マスメディアは谷田部元首相の生前の汚職問題を取り上げて反対を表明し、少なくとも国民の血税を国葬に使うべきではないと強硬に主張した。
東京都内の拘置所で刑務官を務める私は元々与党に対して肯定的でも否定的でもなかったが、功績に賛否両論のある有名政治家の国葬に税金を使うべきではないという主張には全面的に賛成だった。
そんな中、国葬を巡る論議に決定的な変化をもたらしたのは、他ならぬ谷田部元首相の息子である谷田部健一だった。
谷田部元首相の一人息子であり谷田部元首相が総理大臣を辞した直後の衆議院選挙で初当選を果たした彼は当選当時28歳という若さであり、自由民生党に所属しながら自らの父親も含めた自党の有名政治家を痛烈に批判する彼は若年層を中心に国民からの支持を集めていた。
谷田部健一は父親をテロで失った若き後継者であると国民からの同情を集めながらもカルト宗教と癒着していた父親の責任を国会において取り上げ、国葬に税金を使うことには葬儀の当事者として強く反対すると主張していた。
与党の誰もが彼を批判しにくく、その一方で国葬を行う方針は今更撤回できないジレンマに苦しむ中、谷田部健一は国葬の開催に関する腹案を動画配信サイトのヨーチューブで発表すると表明した。
政治家としての谷田部健一に魅力を感じていた私はリアルタイム配信の開始直前に自室のパソコンを起動し、彼が画面上に現れるのを注視していた。
『亡き父を応援してくださった国民の皆さん、亡き父を批判していた国民の皆さん、そして日本の政治に興味のない国民の皆さん。私はそれぞれの立場に関わらず、全ての国民に向けてお伝えしたいことがあります。私は政治家としての父を尊敬していますが、父に国民の血税を投じた国葬の対象となるだけの資格があるとは全く思いません。ですが、歴代最長政権を担った総理大臣の国葬を行うことは、日本という国の責務であるということも理解しています。そこで……』
谷田部健一は執務室のソファにゆったりと腰かけ、リアルタイム配信を見ている国民へと語りかけていく。
『私は父の国葬にかかる予算を、クラウドファンディングによって調達することを提案します。父の国葬が全ての国民にとって有益なものではなく、中には父の国葬で不快感を覚える国民もいることを踏まえ、今回の国葬は国葬に賛成する国民から募った資金で行うべきと私は主張します。クラウドファンディングの趣旨に従い、資金を提供された方には国葬への優先的な参列などの特典を約束しましょう。また、国民の皆さんの意見を直接お聞きするため、この場でアンケートを取りたいと思います。今から表示される項目に回答をお願いします』
谷田部健一がそこまで話すとヨーチューブの画面上にはアンケート欄が現れ、私は迷いなく「国葬クラウドファンディングに賛成」と回答した。
谷田部健一が個人として提案した国葬クラウドファンディングは国会やマスメディアにおいても大きな話題となり、与野党の意見の一致を受け谷田部元首相の国葬の予算はクラウドファンディングで調達されることになった。
クラウドファンディングは開始初日で目標金額を達成し、税金は一切使わずに済む結果となったことからそれ以降は極端な反政権派以外は国葬の開催をほとんど批判しなくなった。
私は国葬の開催自体の賛否には元々関心がなく、自らの腹案により国葬賛成派と反対派の双方が納得する結果をもたらした谷田部健一という政治家を心から尊敬するようになった。
谷田部健一はそれからも自由民生党に身を置きながら自党の批判すべき点は容赦なく批判し、野党の主張で折り合える部分は積極的に受け入れる姿勢からさらに国民の支持を集めるようになった。
国葬から3年後に行われた衆議院選挙にて自由民生党は議席を大幅に増やし、その立役者となった谷田部健一は34歳の若さにして自由民生党の総裁、すなわち内閣総理大臣に選出されていた。
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