羽賀さんの輝ける大学生活

輪島ライ

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6 青春は君次第

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 ボランティア部と称して集めた学生を洗脳しNHKの集金と偽って恐喝行為を働いていた学内サークル「NHKを国民から守る会」は解散を命じられ、会長であった4回生の橘孝之は無期停学処分となった。恐喝で集めた金は橘の親が全額賠償したのと、ユーチューバーとして有名であった橘がインターネット上で何を言い出すか分からないため退学処分は避けられたらしい。

 僕と羽賀さんは大学の事情聴取を受けたが、バーベキューの当日に連れてこられただけだったこともあり悪質サークルに注意するよう指導されただけで済んだ。

 その後も羽賀さんと一緒に様々な文化系サークルを見学したが一度騒ぎに巻き込まれた後では羽賀さんにも覇気がなく、5月の終わり頃になっても僕らは入るサークルを決められなかった。


「これまでで残ってるサークルは将棋とか書道とか水彩画ぐらいね。何というか、普通過ぎて面白くないわね」
「そうですね……」

 いつものカフェテリアでコーヒーを飲みつつ、僕らはこれまでの見学を振り返っていた。


 以前より元気がなくなった羽賀さんは、また大学を自主退学して他の面白そうな大学に行ってしまうかも知れない。

 彼女はどう思ってるか分からないけどこの前の一件で僕はやはり羽賀さんが好きなのだと気づいたから、どうにか残って欲しいとは思う。

 とはいえ、僕がそのために何をできる訳でもなくて……


「そうだ、いい考えがあるわ!」
「えっ?」

 何かをひらめいた羽賀さんはアイスコーヒーをストローで一気に飲み干すと突然立ち上がって、


「面白いサークルがないなら、私が作ればいいのよ!!」

 と、目を輝かせて言った。

 それを見て僕も反射的に立ち上がり、羽賀さんの顔を直視して、

「僕も一緒に、手伝わせて下さい!」

 と叫んだ。


 会計を済ませてからカフェテリアを出て、僕と羽賀さんは最寄りの駅まで並んで歩いた。

 以前と違って、今では羽賀さんと学内を歩いていても特に周囲の反応はない。

「海江田君が協力してくれるなら楽しいサークルを作れそうね。それに、私がサークルを作るってことは……」

 言いたいことを察して、僕は無言で頷いた。

「3回生でリーダーを引退するまでは、この大学にいることになるわね」
「……もう1年、何とかなりませんか?」

 顔を向けずに呟くと、


「あなた次第、ってことで」

 彼女はそう言って、僕の手を握った。


 (完)
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