冷笑系魔法少女シニカル☆えみりー

輪島ライ

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第1話 目指せプロ野球選手! お悩みは魔法少女エミリーがお聞きします!!

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 東京都足立区に住む清水しみず絵美里えみりちゃんは小学4年生の女の子です。成績は中の上、顔面偏差値は58ぐらいで、クラスではそこそこ高めのスクールカーストを保っています。偏差値っていうのはある人が集団の中でどれだけ優れているかを表す数値で、50がちょうど真ん中です。気になるお友達は高校の数学でお勉強してみてね。


「今日も面白い記事探そーっと。なになに、大人気子役の10年後がママ活大学生? うわあ、えみりこういうの大好き」

 宿題は帰宅後にささっと片付け、お母さんがルーチンワーク的に作った晩ご飯を食べた絵美里ちゃんは入浴も済ませて日課のネットサーフィンです。ママ活っていう言葉の意味はまだ知らなくていいよ。

「えみりちゃん! そんなことやってる場合じゃないよ!」
「どうしたのタカミン、ボランティア団体が脱税やってたニュースでも流れてたの?」

 勉強机の上空に出現したデフォルメ体型の小さなたかは、絵美里ちゃんの使い魔にしてパートナーのタカミンです。

「近くにシニカルエナジーの発生源を感知したんだ! ちょうど一人でいるみたいだから、今からそこにワープしてエナジーを集めよう!」
「OKOK、この近くならあんまりエナジー使わないし万々歳ばんばんざい。じゃ、よろしくー」

 絵美里ちゃんはそう言うとタカミンの翼を右手で掴み、彼女の身体はタカミンと一緒に消えていきました。


 時は少し戻り、現場は足立区内の別の家庭です。

「何度言ったら分かるんだ、野球なんて進学校に行ってからやればいいだろう!」
「あの強豪校に推薦で入れるかも知れないのに、みすみすチャンスを逃す手なんてあるもんか! 推薦受けさせてくれないなら、勉強なんて死んでもやらないからな!!」

 このご家庭には野球部のエースでありながらお勉強もよくできる中学3年生の男の子がいて、お父さんは進学校の受験を勧めていたけど、本人は野球一筋で生きていきたいと考えていました。
 男の子は今日もお父さんと大喧嘩をして、2階にある自分の部屋に引きこもってしまいました。お父さんはソファに腰かけて頭を抱えていて、お母さんは心配そうな様子で夫を見ています。見ているだけなんだけどね。


「くそう、僕はこんなに野球が好きなのに、どうして父さんは分かってくれないんだ!」

 そう言って部屋で荒れていた男の子の前に、そこそこかわいい小さな女の子とデフォルメ体型の鷹が現れました。

「こんばんはー、お悩みを聞きにきました」
「お、女の子が僕の部屋に!? しかも小学生じゃないか!」

 男の子は中学3年生ですがロリコンのがあるので、パジャマ姿でベッドの上に出現した女の子を見て興奮していました。ちなみに日本の法律では18歳未満同士がいけないことをしても犯罪にはならないよ。いけないことなのに何でなんだろうね。

「それはいいんですけど、お兄さん何か悩みがあるんでしょう? 私、魔法少女のエミリーっていうの。それっぽい姿に着替えるね」
「ええっ……こ、これは!!」

 絵美里ちゃんはぺたん座りから立ち上がると、タカミンに目くばせをして変身を始めました。男の子が大きなお友達向けのアニメにありがちな変身に感動している間に、絵美里ちゃんはそれっぽいコスチュームをまとった魔法少女に変身していました。

「私は魔法少女シニカルエミリー。困っている人のお悩みを聞いて、幸せのエネルギーを貰うのがお仕事です」
「そうなの? じゃあ相談させて欲しいんだけど、僕は野球一筋で生きたいのに、父さんは強豪校の推薦入試なんて受けるな、進学校を目指せって言うんだ。どうすれば父さんを説得できると思う?」
「うーん、大変なお悩みですねー」

 真剣な表情で悩みを相談した男の子に、エミリーは考え込んでいるふりをしました。この程度のお悩みは、エミリーなら蜘蛛くもの巣に殺虫剤を吹きかけるぐらい簡単に解決できます。蜘蛛は益虫えきちゅうってよく言われるけど、気持ち悪いものはやっぱり気持ち悪いよね。


「まず聞きたいんですけど、お兄さんは将来何になりたいんですか?」
「もちろん、プロ野球選手だよ。セ・リーグの有名投手になって、日本中の野球ファンに活躍を見せたいんだ」
「それは素晴らしいですねー。でも、野球強豪校に入ることとそれがどう関係するんですか?」
「えっ?」

「出身校がどこだって、本当に才能がある高校生は球団の方が放っておかないじゃないですか。強豪校に入らないとプロになれないと思う時点で、お兄さんは自分の才能に自信がないんじゃないですか?」
「……」

 淡々と言ったエミリーに、男の子は黙ってうつむきました。


 そう、小学4年生の清水絵美里は仮の姿。エミリーはシニカルランドという異世界からやって来た魔法少女なのです。エミリーの活躍を支えるべく、お父さんとお母さんも異世界から一緒に来ています。

 彼女の目的は、地球で暮らす人々の冷笑的な気持ちから生まれるシニカルエナジーを集めること。魔法の世界であるシニカルランドは他の世界から吸い取った冷笑のエナジーで成り立っているのです。意地の悪い話ですね。


 今日も人々に夢を諦めさせ、冷笑的な気持ちにさせるために、エミリーは言葉を続けます。

「それにプロ野球選手になれたとしても、絶対に一軍のエースになれるなんて保証がどこにあるんですか? せっかくお勉強ができるんですから、今は中学生らしく真面目に勉強して、野球がしたければ進学校で野球部に入ればいいじゃないですか。大体、たかだか公立中学校のエースが一流のスポーツ選手になって食べていける確率なんて」
「そうだね、エミリーちゃん。僕は自分の人生を見誤る所だったよ」
「いやちょっと、話はまだ終わって」
「今から父さんに謝って、進学校の野球部で頑張るって約束してくる! 今日は来てくれてありがとう!!」

 男の子はそう叫ぶと部屋を飛び出していき、ベッドの上に残されたエミリーは呆然としてその姿を見送りました。


 男の子はそれから一般入試で進学校に合格し、野球部を投手として甲子園出場に導きました。その後は大学卒業の上でプロ野球選手として活躍し、絶頂期に選手を引退してからは大卒の学歴を活かして大企業の営業職として真面目に働いています。


 彼の未来を魔法の望遠鏡で見ながら、シニカルランドの女王様は両肩をわなわなと震わせました。

「エミリー、これはどういうことですか。こんな簡単な案件もこなせないとは、あなたの仕事への姿勢を疑います」
「だって最近の若い子って人の話を最後まで聞かないじゃないですか。いや私も若いですけど」
「くだらない言い訳をするんじゃありません! お仕置きとして反省文10枚と将来の夢の作文を命じます!!」
「そんなー」


 今回は上手くいきませんでしたね。魔法少女エミリーの活躍にこれからもご期待ください。

 (つづく)
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