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第2章 魔術学院受験専門塾
34 歓楽街
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ある休息日の外出時、イクシィは何の目的もなく中央ヤイラムの街路を歩いていた。
普段であれば男友達と飲食店に行くなり遊興施設に行くなりするが、この日のイクシィはどうしても一人になりたかった。
入塾時は自分よりはるかに成績が悪かった友人たちは「魔進館」での授業と自主学習で順調に学力を伸ばし、いずれは自分に追いつこうとしている。
今年度で狼人3年目となる自分よりさらに1歳や2歳年上の友人たちは、自分よりもはるかに強い重圧をかけられている。
それなのに彼らは重圧に負けじと努力していて、元より比較的成績のよかったはずの自分は伸び悩んでいる。
頭の中が渾沌とした状態で、イクシィは昼食も取らずに街路をさまよっていた。
そんなイクシィは、すぐ目の前で停車して乗客を降ろした魔動車に目を奪われた。
中央都市オイコットは大陸中で最も魔動車が普及している地域だが、中央ヤイラムは郊外に相当するため普段は魔動車を目にすることは少ない。
近年では魔動輸送と呼ばれる魔動車で人や物を輸送する業種が一般化し始めており、暗い緑色に塗装されたあの魔動車はいわゆる輸送車であるらしかった。
「お客さん、乗りますかい? 安くしときますよ」
「ああ……はい、お願いします」
運転席から声をかけてきた日焼けした肌の男性に、イクシィは反射的に返事をした。
このままどこかに行ってしまいたいという思いに囚われて、イクシィは輸送車の後部座席に乗り込んだ。
父親から秘密裏に預けられていた10万ネイ分の紙幣を懐に隠し持ったまま、イクシィはどこかの歓楽街に行きたいと運転手に告げた。
成人しているらしいイクシィの姿格好を見て、運転手は任しといてくださいと答えて魔動車を走らせた。
輸送車は20分ほど走ると日の落ち始めた歓楽街にたどり着き、そこには若い女性を商売の道具とする飲食店や性風俗店が立ち並んでいた。
イクシィは運転手に輸送料の4000ネイを支払うと魔動車から降り、ふらつきながら歓楽街を歩いていった。
「お兄さん、学生さんなんですかぁ? どこかの上級学校?」
「いや、俺は学生じゃない。今はただの無職だ。ああ、21歳にもなった無職の男なんだ!」
客引きの若い男性に連れられ、イクシィは夕方から営業を開始する接待酒場で愚痴をこぼしていた。
周囲には20代ぐらいに見える美しい女性の姿と常連客らしい中年男性の姿ばかりが見える。
若い男性の客は珍しいらしく、女性たちはイクシィを取り囲んで次々に話しかけていた。
「そう言いますけどぉ、お兄さんの指、筆だこができてるじゃないですか。何かお勉強されてるんでしょう?」
「魔術学院受験の専門塾で、普段は1日13時間勉強してる。高等学校を出てから3年も経つのに、未だに高等学校の勉強ばっかりやってるんだよ……」
「そんなにお勉強してるんですか!? しかも将来は魔術師さん!? 私ぃ、お兄さん狙っちゃおうかなー」
「なれればいいよ、なれれば。でも、俺なんてもう魔術学院に入れるかも分からないんだ……」
広々とした長椅子に腰かけて泣き始めたイクシィに対し、若い女性は彼の頭に手を置くとよしよし、と言って慰めた。
エデュケイオンの人間族は18歳になった時点から飲酒を許可されるがイクシィが酒を飲んだのはこの時が初めてで、慣れない苦みに苦痛を感じつつもイクシィは次から次へと水割りの酒を飲み干した。
普段であれば男友達と飲食店に行くなり遊興施設に行くなりするが、この日のイクシィはどうしても一人になりたかった。
入塾時は自分よりはるかに成績が悪かった友人たちは「魔進館」での授業と自主学習で順調に学力を伸ばし、いずれは自分に追いつこうとしている。
今年度で狼人3年目となる自分よりさらに1歳や2歳年上の友人たちは、自分よりもはるかに強い重圧をかけられている。
それなのに彼らは重圧に負けじと努力していて、元より比較的成績のよかったはずの自分は伸び悩んでいる。
頭の中が渾沌とした状態で、イクシィは昼食も取らずに街路をさまよっていた。
そんなイクシィは、すぐ目の前で停車して乗客を降ろした魔動車に目を奪われた。
中央都市オイコットは大陸中で最も魔動車が普及している地域だが、中央ヤイラムは郊外に相当するため普段は魔動車を目にすることは少ない。
近年では魔動輸送と呼ばれる魔動車で人や物を輸送する業種が一般化し始めており、暗い緑色に塗装されたあの魔動車はいわゆる輸送車であるらしかった。
「お客さん、乗りますかい? 安くしときますよ」
「ああ……はい、お願いします」
運転席から声をかけてきた日焼けした肌の男性に、イクシィは反射的に返事をした。
このままどこかに行ってしまいたいという思いに囚われて、イクシィは輸送車の後部座席に乗り込んだ。
父親から秘密裏に預けられていた10万ネイ分の紙幣を懐に隠し持ったまま、イクシィはどこかの歓楽街に行きたいと運転手に告げた。
成人しているらしいイクシィの姿格好を見て、運転手は任しといてくださいと答えて魔動車を走らせた。
輸送車は20分ほど走ると日の落ち始めた歓楽街にたどり着き、そこには若い女性を商売の道具とする飲食店や性風俗店が立ち並んでいた。
イクシィは運転手に輸送料の4000ネイを支払うと魔動車から降り、ふらつきながら歓楽街を歩いていった。
「お兄さん、学生さんなんですかぁ? どこかの上級学校?」
「いや、俺は学生じゃない。今はただの無職だ。ああ、21歳にもなった無職の男なんだ!」
客引きの若い男性に連れられ、イクシィは夕方から営業を開始する接待酒場で愚痴をこぼしていた。
周囲には20代ぐらいに見える美しい女性の姿と常連客らしい中年男性の姿ばかりが見える。
若い男性の客は珍しいらしく、女性たちはイクシィを取り囲んで次々に話しかけていた。
「そう言いますけどぉ、お兄さんの指、筆だこができてるじゃないですか。何かお勉強されてるんでしょう?」
「魔術学院受験の専門塾で、普段は1日13時間勉強してる。高等学校を出てから3年も経つのに、未だに高等学校の勉強ばっかりやってるんだよ……」
「そんなにお勉強してるんですか!? しかも将来は魔術師さん!? 私ぃ、お兄さん狙っちゃおうかなー」
「なれればいいよ、なれれば。でも、俺なんてもう魔術学院に入れるかも分からないんだ……」
広々とした長椅子に腰かけて泣き始めたイクシィに対し、若い女性は彼の頭に手を置くとよしよし、と言って慰めた。
エデュケイオンの人間族は18歳になった時点から飲酒を許可されるがイクシィが酒を飲んだのはこの時が初めてで、慣れない苦みに苦痛を感じつつもイクシィは次から次へと水割りの酒を飲み干した。
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