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第2章 魔術学院受験専門塾

42 来年度

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 ユキナガと他の講師たちに何度も感謝を伝えて帰っていったイクシィ一家を見送ると、ユキナガは校舎の長椅子に腰かけて一息ついた。

 中央・西部群に属する3人の生徒にはケイーオ私塾魔術学院、ジーケ会魔術学院、カッソー魔術学院の入試が残っており、亜人語科講師のアシュルアは明後日にあるカッソー魔術学院の入試に備えて既に大陸西部へと移動している。

 それ以外の9人の生徒は今日をもって全員が入試を終え、そして全員が最低でも2校への合格を勝ち取っていた。

 中央・西部群の3人も当然複数の私立魔術学院への合格を勝ち取っているから、今後の合格発表の結果に関わらず今年度の中央ヤイラム魔進館は合格率100%を達成したことになる。

 大きな業績を達成したことの感慨を噛みしめていると、校舎の雑用を終えたらしいノールズが歩いてきた。


「ようユキナガ、これでお前もようやく安心できたな。イクシィの奴があれほど成長するとは俺も驚いた」
「ええ、エデュケイオン魔術学院への合否は五分五分という所ですが、昨日までに受験した11校のうち8校に合格しているというのは驚くべき戦果です。彼には合格者への取材記事に協力して貰いたいものです」

 私立魔術学院の入試は来年度以降も変わらず行われるから、「魔進館」には既に狼人生を中心とする来年度の入塾希望者が次々に訪れている。

 イクシィの最終的な進学先が決まったらその時は彼に全寮制での受験生活や多数の魔術学院に合格した感想についての取材を行い、記事にまとめて「魔進館」の広報に活用したいと考えていた。


「まだアシュルア先生は奮戦してくれているが、他の講師には臨時の有給休暇を与えようと思う。ユキナガはいつがいい?」
「お気持ちは大変ありがたいのですが、私は休日を返上してでも働きたい気分です。今日もこれから入塾希望者の面談があるのでしょう?」
「ははは、ユキナガらしいな。それならお前の有給休暇は特別手当に振り替えておくから来年度もよろしく頼む。お前がいなければ魔進館は凡庸な受験塾で終わっていたに違いないからな」
「それは身に余るお言葉です。ノールズ先生の経営力と指導力あっての魔進館ですから、こちらこそ来年度からもよろしくお願い致します」

 塾長であるノールズに改めて頭を下げると、ユキナガは新たな入塾希望者の面談に備えて講師控室に戻っていった。

 生徒たち全員が終戦を迎える日はもう少し先だが、自分たち講師は新たな戦いに向けた準備に移る必要がある。


 去りゆく教え子たちとの別れを惜しむ間もなく、塾講師は新たな教え子たちを導いていく。
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