結晶樹断章――秘録

上月琴葉

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神贄の子(WOFユアリー編 レイ)

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ーー誰よりも気高く、誰よりも強く、誰よりも優しい聖剣術士…
邪神と差し違えた光の英雄レイ・フェイレーン。
だが、彼には決して暴かれたくない過去があった。

ーー
夏至の日の朝。その少年はどこからともなくその小さな島に流れ着いた。
一糸纏わぬ姿故に、その石はよく目立った。
背中に、翼のようにペリドットのカケラが生えている。髪の色はありがちな茶色。
透けるように白い肌は、まだ汚れを知らなさそうだった。
「ーーこれは美しい子どもだ。神贄の子はこの子にしよう」

眠る少年はまだ何も知らない。
その役目の意味も、穢れも。

ーー
それから2年を静かに少年は過ごした。
島のもっとも高い丘の神殿で、本と花に囲まれながら。
「神贄の儀式……」
いよいよ今夜、役目を果たす時が来る。何をするのかと尋ねたが
曖昧な答えしか返ってくることはなかった。
「島のために、神に全てを捧げる」
殺されるのだろうかと少年は思った。
「……この綺麗な景色も見納めか」
彼はながい睫毛を伏せた。風が花弁を散らす。
「……そろそろご準備を」
「はい」
少年は声に従って自室を後にした。

ーー
湯浴みを済ませ、大きな月に照らされた儀式場へ向かう。
儀式場には誰もいなかった。
「当代の神贄の子、役目を果たしに参りました」
「へえ。なるほど綺麗なやつだ。気に入った。これなら島に魔法をかけてやろう。
……お前が暴れなければ……だが」
男が指を鳴らすと儀式場の4隅から石の柱が競り上がり、中央に寝台が現れた。
「まほう……?あなたは……神様じゃ……」
「……はは!純粋な子だ。今から泣き喚かせるのが楽しみでたまらない」
【捕えろ】
「あ!」
柱から伸びた鎖が少年の体に絡みつき、柱に縛りつけた。
「……いいね。でははじめようーー」
「なに……を……」
男は迷わずに少年の長く垂らされた服の布をめくり上げ、口に噛ませた。
「んっ」
そして胸の飾りに手をかけ、こね回す。
(きもち……わるい……)
少年は嫌悪感で泣き出しそうなのを必死で堪えた。
彼は、この行為の意味すらもまだ知らない。
「ダメか。ならーー」
「んぐうっ!」
布を外され、強引に口移しで何かを流し込まれる。
その何かを飲み込んだ時、からだがおかしくなった。
「あつ……い……」
からだが異常な熱を持ち始め、その上その熱が体の中心に集まっていく。
「……効いたか、じゃあとっととーー」
「ひあっ!」
男の指が下着の上から、少年のそれを弄び始める。
もう片方の手と口は、胸の飾りをいじっていた。
「んっ…………う………!」
再び布を噛まされて声を上げることもできないまま縛られた少年は目を閉じて
はじめての感覚に怯えていた。
あんなにきもち悪かったはずの男の指が、ひどく心地よい。
そう思った瞬間、彼の中から白く濁ったものが溢れ出した。
「気持ちよさそうだな?」
「んっ……ふうっ…………!」
散々弄ばれて限界を迎えた彼は、下着を濡らす。
男は脱がそうともせずに、3箇所を弄び続ける。
「あ……ああっ!」
白く濁ったものは下着の中で耳障りな音を響かせ、溢れ出したものが太ももから足を伝っていく。ぬるついたその感触と熱さに彼は震えた。
「ああ、もうドロドロだ。いい加減気持ち悪いだろ?」
ぷつん。
音を立てて、下着の紐が切り裂かれ、べちゃりと地面に落ちる。
前を隠すのは長く薄い布だけだ。
【離せ】
不意に鎖が解かれ、少年は体を反転させられる。
「今度は布越しじゃないからもっと気持ちいいぞ?」
「っ……あー!」
後ろからそれを握られ、直接弄ばれる。下着越しとは比にならない感覚にからだが跳ねた。耳障りな音が聞こえる。男の指の間からは溢れ出したものが溢れ続けている。
(え?)
少年のどこかが開く。
「では、そろそろ食わせてもらうぞ」
「え……ひっ!」
濡れそぼった男の指が迷わず少年の秘部を穿つ。
「トロトロだな。じゃあもう一本」
「あああ!」
二本の指が少年の中をまさぐり、かき回す。
「ひあっ!」
「ここか」
「んーーっ!」
その一点に強い刺激を感じて、少年はびくびくと体を震わせる。
その様子に男は笑みを浮かべて指を増やしていく。
「っ……ああああ!」
やがて全ての指で数回かき混ぜた後、男は指を抜いた。
「ふ……」
前に垂らされている白い布はもはや濡れそぼってそこを隠すように張り付いていた。
「じゃあ捧げてもらうぜ。神贄の子」
「あ……ダメ……いや……!」
言葉では拒否してもからだは楔を打ち込まれていく。
「痛い……やめて……んぐっ!」
「大人しく受け入れろ。これがお前の役目。島の奴らも一年助かる」
「んーー。ーっ!」
布を再び噛まされて声も上げられないままに、楔は深く打ち込まれた。
「……いただきます」
ぐい、と腰を引かれて楔が中をつく。
「ひあああ!」
強すぎる刺激に少年は絶叫した。
男は容赦なく彼の中をかき回す。
「あ……んっ……はあ……っ」
甘く声を漏らしながら神贄の子は喰らわれていく。溢れ出るものは止まらずに体と布を濡らした。
やがて儀式の終わりを告げるように、最奥に熱いものが注がれてからだを満たす。
絶望と安堵と快楽の中で少年は意識を手放した。

ーーそれから毎年。やがてレイと名付けられた青年は男に体を捧げた。
その度に島は守られた。
レイは島の平和に安堵するとともに、自分がどんどん汚されていくような気がしていた。だが逃げ出す道を彼は選べないまま、運命の日が来た。


ーー
「綺麗な島だなあ」
ダークブラウンの髪と金茶の瞳の青年は到着早々につぶやいた。
村長に頼んで、神贄の子とは会える手筈になっている。
「はじめまして。僕がレイです」
舞い散る花、柔らかな風。優しい日差し。
なのに青年にはレイが泣いているように見えた。
「俺はグラウ・イージス。せっかくだからお茶にしよっか?」
特に咎められることもなく、グラウはレイの手を引いて神殿の中庭へ向かった。
「よっと」
グラウが小さく呪文を唱えるとどこからともなく石のテーブルと椅子が現れる。
カバンから取り出した茶葉とお菓子を手早く並べて彼はレイを座らせた。
「どうぞ。季節の果物とラベンダーのお茶だよ」
「……美味しい」
「良かった。俺の手作りなんだ。あ、変なものは入れてないからね」
「手作り!?あなたはお菓子屋さんか何かだったりとか……?」
グラウはへらりと照れたように笑う。
「あはは。俺はただのエリスの宮廷護衛団のひとりだよ。ねえ……レイくん」
「え……」
グラウは急に真剣な顔になってレイを引き寄せて、ふたりだけに聞こえる声で囁く。
「この島にはきみにだけ応える剣が眠っている。この神殿のどこかに。
その声を聞いて、そして剣と交わって。そうしたら必ず俺が君を助ける」
「え……?」
「これは誰にも内緒だよ。もっともレイくんは真面目で優しいから大丈夫と思うけどね」
体を離されるとグラウはいつものようににこにこと微笑んでいるだけだった。
(……このひとは……)
本能で勝てないとレイは感じた。でもそれは決して暴力的な支配ではなく。
全て見透かされているけれど、不思議と怖くはなかった。
「ごめん、お茶が冷めちゃったね。お菓子もまだあるよ」
それからしばらくお茶会を楽しんだあと、傾いて来た陽の中でグラウはレイに別れのキスをする。レイは縋り付くように舌を絡めた。
「……大丈夫。俺は嘘はつかないよ。君自身と剣とーー俺を信じて」
ダークブラウンの髪の青年は、宵闇に紛れるように去っていった。

ーー
次の日からレイの剣探しが始まった。
レイが成人してから【儀式】は頻度を増し、もはや捧げられない日の方が少ないくらいになっていたが、一年に一度の方が近いので一週間は浄めの時期で自由の身だった。
書庫で文献を漁ると神殿の詳細な地図が本の隙間に挟まっていた。
それによると地下に埋められた泉があることがわかった。
自分の部屋の隠し扉から、迷うことなくレイは長い階段を降りていく。

「綺麗……」
たどり着いた地下はひまわりと黄緑色の鉱物に埋め尽くされていた。
あまりにも地下に不似合いな姿は世界から隔離された聖域だった。
聖域は簡単にレイを受け入れた。
「見つけてくれたか」
剣の前に金色の髪の男が立っていた。
「本当はお前のはじめてをもらいたかったのだが。我は聖剣デュランダル
訳あってお前と切り離され、人型にされてここで眠っていたお前の剣だ」
レイは自ら、下着を床に落とす。続いて前に垂らされている布も取り払った。
「……全てを捧げます。剣とあの人を信じて。だから……助けて。もうこれ以上ここでおもちゃみたいに生きていたくない……外の世界を……見せて……」
溢れ出した涙をデュランダルは指で拭った。
「ああ。元々我はお前の一部。魂に宿る剣だ。なあレイ。お前はからだが穢れれば、心すら穢れると思っているようだがーー」
優しくキスを落とし、デュランダルはレイの肌に触れる。
「お前は常に島のものの事を考えて来た。他者のために全てを受け入れ、捧げて来た。その魂は強く気高い。そもそも前の聖剣術士だって純潔とはほど遠かったぞ。
第一の恋人のために体を捧げ、次の恋人ともしっかり子ども作ってるし」
「な、なんですかそれ……元いた俺の里では聖剣術士は絶対に恋してはいけない、体を穢されるなんて絶対にあってはならないって何度もーー」
「お堅いなあ」
「んっ!」
デュランダルは優しくレイの胸の飾りをこね回し、舌で転がす。
「聖剣が見るのは魂の輝きだけだ。そいつの肉体の事情は関係ない。あいつだって
守りたい女のために聖剣を手に入れて振るったんだからな」
「は……あ……んっ……」
レイのからだが熱を帯び、中心のそれが頭をもたげる。
「……なあ、流石にこれははじめてじゃないのか?」
「ってな、なにして……あ!」
迷いなくデュランダルはそれをくわえ、指と舌で弄び始める。
「信じられなっ……っ……あ!」
神贄の子という性質上、レイの中から溢れ出るものは全て神聖なものとみなされていた。その建前を守るために、神もどきがそこを汚すことはなかった。
神贄の子の体液ーー聖蜜は豊穣の呪いに使われているという。
「だめです……そんなにそこばかりするとあなたの口に聖蜜がーーっあ!」
それを満足そうに飲み込んでデュランダルは笑う。
「ごちそうさま。これは絶対必要なんだよ。お前のマナを剣は絶対に吸収する必要がある。じゃないと契約が成り立たなくてな。マナリンクというらしい」
「先代の人も……こんな事を……?」
濡れたそこをぼんやり眺めながらレイは訊く。
「さあな。基本的にこうやって剣が人型まで取ることはないはずだけど、あれは精霊界との壁が薄かった頃の話だし……案外おんなじことしたのかもな」
「さてあとは、お前が剣のマナを受け入れれば契約はなる」
「んんっ!」
デュランダルは冷たくとろりとした滴をレイの秘部に垂らす。
冷たさにびくりと身を震わせる暇もなく指が突き入れられた。
「あ……んっ……!」
甘い声を漏らすレイのからだが少しずつ開かれていく。時折指先が感じやすい場所にあたり、レイは声を上げた。そこは再び力を取り戻し、ぽたりと蜜が落ちている。
「これぐらいならもう大丈夫か。レイーー」
「っ……あーー!」
指を抜かれるとすぐに楔を打ち込まれた。
これで剣と契約者の契約はなったはずーー
「これで……成立したんですよね。じゃあもう抜いてーー」
「いや、ちゃんと終わりまでしないとな。何より気に入った」
「え……っ……あ!」
デュランダルが動き出し、楔がレイの中を穿ち、かき回す。
「ああああああ!」
嬌声を上げながらレイは剣のマナが自分と溶け合い始めたのを感じていた。
 「……さて、これで契約……完了だ!」
ーー絶叫。レイの最奥に剣のマナが放たれ、契約は完了する。
ぐったりとしたレイのからだを反転させ、背中にあるペリドットのかけらを見て
デュランダルは笑った。
「これでお前は自由になれる。偽りの神を殺せ。そしてあの男とともに島を出ろ。
あの男はーーあの男の魂は。助けると誓った者を最後まで助けーー自らを犠牲にしてすら【希望】をもたらすからな」
目蓋が重くなる。
次に目が覚めたとき彼は、きちんと服を身につけて部屋のベッドに横たわっていた。隠し扉のあった場所を押してみるがなにも起こらない。
「……夢だったのかな」
鏡を見た彼は、首筋に残された赤いしるしに息を飲む。
しかしもう一度鏡を見たとき、そんなものはどこにもなかった。

ーー
満月の夜。一年に一度の大儀式。
この日だけは大祭壇が一般に公開される。
満月に照らされて白い布越しにレイのからだのシルエットが浮かび上がる。
自分を崇め奉る島の人々をレイは穏やかな瞳で見た。
ーーこの島は天災が多いんだ。
ーーだからあの【神】に頼るしかない。
ーーごめんなさい……ごめんなさい……

ちゃんとわかっている。この島にはそれしか方法がなくて。
綺麗な俺が贄に相応しかった。それだけのこと。

でもそれも今日で終わり。偽りの【神】はいらない。
俺に続く神贄の子も出さない。

レイは地下で見た。
あの聖域のそばに建てられていた墓標を。髑髏を。
きっとレイの前の神贄の子たちは女性だった。
神と名乗るものに穢され尽くして、恋も愛も知らずにただ散った花たち。
ーーごめんね。もう少し早かったら救えた人もいたかもしれないね……
それなのに君たちがきっとあの剣と聖域を守り、全てが終わったら道を閉ざしてくれたんだ。

柱が競り上がり、世界からレイを隠した。

ーー
「早いものだな。お前もすっかり大人の男になった」
「んっ……」
いつものように柱に胴と手足を繋がれ、口には声を出せないように垂れ下がる服の布を噛まされたレイの胸の飾りをこねくり回しながら男は言った。
「これからはもっと色々なことを試してみてもいいな」
「は……あ……」
今から殺す相手であっても、開発されたからだは素直に反応してしまう。
そこをいじられると、聖蜜が溢れて太腿を伝った。
「しかし、気分がいい。聖剣術士は我ら闇の者の天敵。それをこうしてひざまずかせ、散々汚すというのは。その上お前は体も心も美しい」
「んーーーーっ!」
ぼたぼたと聖蜜が床に落ちる。
男はナイフで布ごと下着の紐を切り裂いた。そして中へと指が入れられる。
ーー嫌だ……お願い……デュランダルっ……!

光とともに赤い華が咲く。
「ぐあっ!」
男の手首が切り落とされていた。
パラリと鎖も解け、レイは自由を取り戻す。その手にあるのは聖剣。
「お前ーー!」
「偽りの神は……消え去れっ!」
剣撃が偽りの神を切り裂き、それは灰になって消えた。
「……これで終わりました」
剣を振るって血を落とす。
おぼろげな意識の中で、誰かがしっかりとレイの身体を支えた。
「……よくがんばったね。レイ。俺も約束を果たすよーー」
(……グラウ……さん……)
ふわりと甘い花とお菓子の匂いがした。

ーー
それから彼はーーレイ・フェイレーンは聖剣術士としてエリスの宮廷護衛団に入り、グラウの直属の部下になる。島は、エリス領になることで定期便が通るようになり、今では花で有名な観光地になった。
レイ・フェイレーンの過去を知るのはグラウ・イージスただひとり。
だからこそ、レイ・フェイレーンの最後の願いはーー

グラウたちが死地へ旅立つ永遠の別れを前にした2日前。
ピクニックに誘われたレイは、人気のない森の奥の泉に彼とともに向かった。
「グラウさん。本当はこんなことを願ってはいけないのだと思います。あなたには恋人も親友もいる。一部下に過ぎない俺が願っていいことではないけれどーー」
「……レイ」
優しく頭を撫でられて先を促される。
「……俺に印をください……生まれ変わっても貴方に会いたい。俺を救ってくれたあなたを、今度は俺が支えたい。一番になれなくてもいいんです。これはわがままな俺の恩返し……叶えて……くれますか?」
「……レイは真面目だね。そんなに気にしなくてもいいのに。俺のことなんて忘れていいんだよ?あれはそうだな……あの島の花に宿る者たちのお願いを聞いて俺が勝手に君を助けた俺のわがままだから」
「……そのわがままに俺は救われたんですよ。ツキネだってそうじゃないですか。あなたのわがままに救われる人はきっと生まれ変わった先でもたくさんいると思います。でも、あなたは無理しすぎだから……止める人が多い方がいい」
レイはそういうとグラウにキスをする。
「……レイ……」
「グラウ……先輩……」
静かな森の奥。ふたりは人知れず再会の約束を刻んで。

ーー数日後に戦争は終わった。

ーー
「な、なんかものすごい夢を見たな……」
リア・クロスの宿舎で悠はゆっくりと目を覚ます。
自らの前世の過去と、そして何より鎮めに参加していないのに時狂いになった理由。
(……グラウさんのマナが魂に混ざっているからだったんだ。先輩たちの時が止まったから、俺もーー)
今の悠にはレイの行動も、グラウの行動も理解できない。
ただ、同じように手を差し伸べてくれたのも友希だった。
レイのそばにいたいという強い思いは叶い、悠自身も友希を信じていた。
「まあ、また会えてよかったです。……先輩」

一方その頃、友希は「すごい夢を見た」と人気のない食堂で突っ伏していた。
「……とりあえずすごい夢ってどんな?」
圭は慣れた様子で頭を撫でる。
「前世……レイの……ねえ、グラウさんってわりとその……あれなの?」
「あー……うん歩く天然フラグ立てではあったけど……あの時代では特に問題行動でもないし、実際救われて自然に、のパターンが多かったというかそもそもウィンドがそうだったというか」
「……グラウさんがめちゃくちゃに手が早いとか」
「それだけはないな……むしろそういう方面の線引きは宮廷護衛団でレイを除けば一番しっかりしてたと思う。何度も言うけど別にユアリーでは同性同士のあれこれって禁忌でもなんでもなかったし」
「ゆるすぎるよ古代世界‼︎」
友希はその方面にはあまり耐性がないので、顔はもはやゆでだこである。
「悠に今後どう接したらいいんだろう……」
「あー今絶対悠も同じこと思ってるから安心しろ。そしてウィンドはいいのか」
この言葉にぴた、と友希の動きが止まる。
「……ニエルドの頃からどれだけ一緒にいると思ってるの……いちいち考えてたらキリがなさ過ぎて諦めたよ。というか俺の心がもたない……タイムノイズですら人工呼吸しちゃってるし……」
「……な、なんか俺も恥ずかしくなってきた。いや、前世と今は別……別なんだ」
「圭まで何言ってるの!そろそろ就業時間だからね!」
朝食が運ばれてきて、この話題は終わった。

ーー
任務を終えて帰ってきた悠の部屋のテーブルにラベンダーティーとお菓子がひとつ置かれている。
(これはーー)
口にして、レイのもうひとつのお願いのことを思い出した。
「……あんなささやかな願いまで覚えてるなんて本当……叶わないなあ」
口の中に広がる味と香りは、彼と出会った日の景色を浮かび上がらせ、すぐにほどけて溶けていった。
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