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不幸な事故だったんだ! まさかの道連れ!?

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 「あんた!ちょっとこれどういう事よ!」
 ぼんやりとした意識の中、自分が地面に倒れている事に気づいた。
目の前では、赤毛の気の強そうな女の子が俺を怒鳴っている。

 ああ、さっき俺が助けた子じゃないか。
女の子は俺の胸ぐらを掴んで、前後に揺すっている。
 いやいや、頭に怪我してたら危ないから。
そんな事を思っていたら、だんだん視界が開けてきた。女の子の顔も良く見えるようになってきた。
 うお!! ヤバい! すげー美人だ。めっちゃ可愛い。
まあ、もう少し胸はあってもいいかもな。
 でも、これは助けたから、結婚してくれるルートなんじゃね?
遂に、俺も色々卒業する時が来てしまったわけだ。

「誰が助けたですって!」
 やばい。声に出てしまっていたらしい、結婚してくれとか、卒業とか、声に出して言ってねーよな俺。
「意識あるんなら、早く起きなさいよ!」
 しかしこの女の子、助けてやったのに大概な物言いだな。
「このバカ男、早くおーきーろー!」
 もう頭に来た。命の恩人に向かってなんて奴だ。
「おいおい。助けてやったのにヒデ―言い方すんなよ。もっと優しく起こしてくれたっていいだろ?」
「誰が助けたって? 一体誰を助けたの? あんたちょっと周り見なさいよ! 
大体、あんたみたいな、ダサいスウェット姿の冴えないドーテーと、誰が結婚するってのよ。
それと、次に胸の事言ったら、今度は私があんたを殺すわよ」
 ヤバい。全部聞かれてた。超恥ずかしい。それに力入れ過ぎだ。首が閉まる!
てか、冴えないドーテーとか、初対面の人間に酷過ぎじゃね?
 でも、あれ? おかしい。この女の子の言いぶりだと。まるで助からなかったみたいだ。
それに、もう一度殺すって何?

 変な事いう女だと思いながら、周りを見る。
「何だここ?」
「それは、こっちのセリフよ!」
 うっすら光る地面に、壁にはタペストリーのようなものが、隙間なく敷き詰められている。
地面も光る石の様だが、冷たくはなく、ほんのりと温かい。
天井は……。見えないほど高い。
通路みたいだ。少し薄暗いが、困るほどではない。
「ええっと。ここ何処?」
 全く覚えのない場所、何だ、どうしたんだ。必死に記憶を掘り起こす。
「あ!」
 思い出した。いや、思い出してしまった。

 そうだった。俺はコンビニに行こうと、久々に家から出たんだった。
そしたら、コンビニ前の交差点に、信号無視したトラックが進入してきたんだ。
それで、目の前のこの子が、横断歩道を渡ってて……
 俺はその時思った。いや、声に出して叫んでた気がする。
「よっしゃ。どうせ死んで後悔もない。もしかしたらこのテンプレ展開、異世界に転生してチートで楽ちんライフが、始まるんじゃね!」
 そして俺は女の子に突進した。
突き飛ばして俺だけ死ぬ。死んで終わりなら、それで構わないし、神様からご褒美スタートがあるかも!
 けど、この子は意外と反射神経が良かったらしい、トラックの侵入に気付いた瞬間、走り始めた。
でも、俺はもう女の子のすぐ近くまで駆け寄りつつあって……躓いた。
しかも、走っていた勢いで、女の子を地面に押し倒すような感じになってしまった。
 最後に見た光景は、女の子を押し倒したまま迫るトラック……

血の気が引く、身体が震える。
「ようやく思い出したみたいね! あんた、自殺志願者か何か知らないけど。私を道連れにしたのよ!
どうせ、ドーテーを苦に自殺とか、そんなしょうもない理由なんでしょうけど。
あんたみたいなクズの自殺に巻き込まれて、こっちはとんだ迷惑よ」
 こ、怖い。美人の怒りというものは、あまり見たことがなかったが、これはすごい迫力だ。
凄い勢いで捲し立ててくる。
 てか、童貞だけど。童貞を苦に自殺ってなんだよ。借金とか病気みたいに言うなよ。
 まあ、でも、そりゃ怒るよな。俺が殺したみたいなもんだから?
「というか、ここは何処でしょうか?」
「知るわけないでしょ!分かってたらあんたなんか、起こしたりしないわよ。童貞が感染したらどうしてくれるのよ」
「ちょ、ちょ、童貞はうつんねーよ。病気じゃねーし。てか、なんで俺は童貞扱いなんだよ」
 まあ、童貞だけどね。
「ふん! じゃあ違うっていうの?」
 赤毛の美人さんは、凄く冷たい目でこちらを見ていらっしゃいました。
「すいません。違いませんです」
 チョット噛んでしまったが、これ以上は俺の精神が持たない。話を変えないと。

「でも、こうして喋ってんだから、生きてんじゃないの」
 赤みがかかった瞳をメラメラさせながら、女の子は睨みつけてくる。
「あんた、あの状態で助かるなんてパターン思いつくの? 私達、怪我一つないのよ」
 言われて、身体中を触ってみる。ホントだ怪我一つないどころか、痛みもない。
「じゃあここ何処?」
「だーかーらー知らないわよ! あんたが言ってたやつじゃないの! 異世界何とかって」
 おお!この子に言われてやっと、現実味が出てきた。死んだはずなのに、謎空間に飛ばされる。
遂に俺の時代が来たみたいだ。
 きっと今から、女神さまに会いに行って、素敵なチート能力か武器を選ばせてくれるに違いない。
 まあ、一緒に連れてきてしまったこの子には申し訳ないが、きっとこれからの人生の方が楽しいはず!

「あんた、何チョット嬉しそうにしてるわけ? 私、死んだっぽいのよ。超充実してたJKライフ返しなさいよ!この非モテ、引きこもり、クソ童貞!」
 女の子はまた俺の胸ぐらを掴んできた。
しかし、今の俺には余裕がある。言われたことは、残念ながらすべて事実なのだが。
 だが、これからのチートライフを、この子に体験させてあげれば、現実世界の事なんてすぐに忘れて、俺のハーレム要員の一人になってくれるさ。
「あんた、今ちょっと気持ち悪い事考えてなかったでしょうね!」
 ちょ、く、首が締め上がってます。お嬢さん。必死でタップする。何とか手を離してくれた。
危うく、本当に二度目の死に到るところだった。

「なあ、落ち着いて、取り敢えず。自分たちの状況を把握しようぜ、な?」
 女の子はハアとため息を吐いた後、顎で話を進める様促した。
こいつ、ちょっと性格悪いんじゃないか?
「あんた、今なんか私の事悪く思ったりしてなかった?」
 ヤバい、性格悪い上に鋭い。
 「そ、そんなことない。思う訳ない。と、取り敢えず。お互いの名前も知れないのも不便だし、自己紹介とか……」
 ギロリと赤い瞳がこちらを睨む。
「ホントは、童貞に名前呼ばれるなんて、ありえないんだけど。私は神楽坂エリよ。間違っても下の名前で呼んだりしないでね」
 しかし、女子高生から童貞と連呼されるのはきついな。だが、そろそろ目覚めたりするかもな。ご褒美とか思えるようになったら、一人前なのだろうか。
「ボーっとしてないで、次はあんたよ」
「お、俺は今野純平、十八歳。さっきはホント、悪かった。ただ、助けようと思って」
 本当はずっと謝りたかったが、どんどん捲し立てられて、なかなか言えなかったがやっと言えた。
俺も、悪いとは思ってるんだ。
「もういいわよ。一応助けようとしてくれたみたいだし。あんたを殺したら生き返れるっていうなら、話は別なんだけど。そんな事はないんだろうし。純平ね、覚えたわ」
 うお! 引きこもり歴五年の俺には、リアルJKから名前なんて呼んでもらったことが無い。
直前に、何やら物騒な事を言われた気もするが、気のせいだろう。
これは素晴らしい経験だ。死んでも悔いなしだ。
「純平。顔に思ったことが出やすいって言われたことない? また気持ちの悪い事でも考えてんでしょ?」
 やはりするどい。
「か、神楽坂、そんな事はないぜ。俺は今、これからの方針を考えていたところだ」
 ジト目で睨まれたが気にしない事にしておく。
「取り敢えず、先に進もう。多分ここにいても、何も変わらない」
 そうね、と言って神楽坂は立ち上がった。
「でも、どちらに行ったらいいのかしら」
「そうだな……」
 その時、俺が背にしていた方の地面の明かりが消え、神楽坂が背にしていた方の地面の明かりが強くなった。
「こっちに来いって事か」
「そうみたいね」
 俺たちは、進み出した。
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