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神楽坂……堕ちる?

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「今日はここに泊まるっす」

 定位置の俺の背中の上から、リアナが手を伸ばし、指をさす。

 目の前には、近づく事も気後れしてしまいそうな、高級感漂うホテルがそびえ立っていた。
ホテル周辺は、戦闘の激戦地から離れている為、他の建物も健在なものが多かった。

「り、リアナ。俺たち金持ってないから、こんなところには泊まれないぞ」
 そう、完全に忘れていたのだが、俺も神楽坂も一銭たりとも持っていない。

「お金っすか? こっちの世界はお金なんてないっすよ。お仕事してる人も、研究してる人も、趣味でやってるっす」
 そうか、ここは天界だった。
労働が強制されることも、飢える事もない。楽しいからするし。欲しいから貰う。

「旦那様は、当然リアナと一緒のお部屋っす。エリさんは一人でゆっくりするっす」
 波旬と遭遇後、リアナは俺の事を、旦那様と呼ぶようになった。本当につがいになる気らしい。
「な! ダメよ。そんなのダメに決まってるでしょ!」
 神楽坂は猛反対する。そりゃそうだよな。十歳くらいの女の子と。
それは、神楽坂じゃなくても怒るよな。完全に条例違反だ。
 まあ、旦那さま呼びはそのうち飽きるだろうと、放置しておくことにしたが、これはいけない。

「なあ、リアナ。リアナはまだ子供なんだ。興味があるんだろうけど。まだ早いんだよ。今日は神楽坂と一緒に寝るんだ」
「ウチは子供じゃないっす。交尾して子供も産めるっす。旦那様と一緒に寝るんっす。つがいになるんっす!」
「いやいや。リアナはまだ十歳位だろう? まだまだ早いぞ」
「ウチは死んだ時に、十六歳だったっす。こっちにも、もう二年はいるっす。もう大人っす」
「「えー!!?」」
 えっへんと。胸を張るリアナ。
一六歳というのも驚きだが、こちらの年数も入れれば一八歳。まさか合法ロリだったとは。

 唖然とする神楽坂の顔を、俺の背中の上から見下ろすリアナ。
「そう言う事っす。だから、エリさんに文句言われる筋合いはないんっす。今日は旦那様との交尾の約束があるから、邪魔しないでほしいっす。そうっすよね旦那様」
 最後の一言を俺の耳元で囁くリアナ。リアナ、俺も男なんで、そう事されると反応しちゃうから。
「と、とにかくダメよ! リアナは私と同じ部屋。純平は一人部屋!」
 顔を真っ赤にして、神楽坂の猛反対が続く。

「エリさん。何で駄目なんっすか? ウチと旦那様はもう大人っす。大人が合意の下で交尾をするのを、何でエリさんは反対するっすか? しかも、エリさんは旦那様の事、嫌ってたじゃないっすか?」
 正論だった。合法で、合意の下で行われるのだ。俺自身も、何でダメなのか分からなくなってきた。
見た目がアウト? しかし、合法ロリだ。
リアナの過保護な仲間達? いや、彼らはリアナには甘い。リアナにちょっかいをかけたのではなく、リアナが俺を選んで結婚したと言えば、半殺し位ですむと思う……多分、恐らく、だったらいいな。
 ともかく、神楽坂が強硬に反対する理由にはならない。

「と、とにかくダメなものはダメなの!」
 その時、リアナのうさ耳がピクリと反応する。
「そう言う事っすか」
 ふうっと。リアナは軽い溜息を吐く。
「ウチ、ウサギの獣人なので、耳が滅茶苦茶効くんっすよ。今のうちに正直に話した方がいいと思うっすよ」
「な、何の事よ!?」
 何の事だろうか? リアナは何か分かったという感じだ。
神楽坂も明らかに動揺している。こんなに挙動不審なのは見たことない。

「いいんっすか? ウチの口からいっても?」
 神楽坂の顔がみるみる赤くなっていく。何かわからんがリアナが挑発している。
リアナだめだって、痛い目見るの俺なんだぞ。
「リアナそれ以上はダメだ。これ以上神楽坂を怒らせると、俺が殺ら……」 
「旦那様は口を挟まないでほしいっす。これはウチとエリさんの問題なんっす」
 ぴしゃりと、リアナが俺の言葉を遮る。
 その間も、神楽坂は真っ赤な顔でプルプルと震えている。大丈夫なのかこれ?

「い、嫌」
「ウチは獣人っす。人間さんみたいな駆け引きは得意でもないし、嫌いっす。ハッキリ言って欲しいっす」
 なんだ、何が起きてるんだ? 神楽坂は何が嫌なんだ? 駆け引きってなんだ?
「わからない、分からないけど嫌なの!」
「そんな中途半端な答えじゃあ、ウチは納得しないっす。ウチは旦那様と寝るっす。旦那様、ホテルの部屋取りに行くっす」
「お。おう」

 何だか今のリアナ、ちょっと怖いぞ。
リアナの気迫に負けて、俺はリアナをおぶったまま、ホテルの玄関前に進んでいく。
「リアナが純平と一緒に寝るのは、絶対嫌なの! 止めて!」
 こらこら、神楽坂さん。絶叫するほど、俺の事信用ないですかね。
「何が嫌なんっすか?」
 リアナも、言わせんなよ恥ずかしい。性犯罪者とか言われるの結構きついんだぜ!
「……すきに」
「聞こえないっす。ウチは聞こえてるけど。旦那様には聞こえないっす」
 リアナ、どうしたんだ? 口を挟むなと言ってるけど。俺はそんなにメンタル強くないんだぜ。

「何か知らないけど! 好きになったから仕方ないでしょ!」
 うんうん。イタイイタイ。やってもない性犯罪者の烙印……? 今なんて言った?
「え? なんだって?」
 なんか、難聴系主人公みたいな事言ったしまった。聞こえはしたが、頭の理解が追い付かない。
「何か知らないけど。純平の事好きになったの!」
「な、なんだってー!!!?」
 話はすべて聞かせてもらったが、どういうことだ。何が起きてるんだ?

「か、神楽坂さん? 一体どうされたんですか?」
 神楽坂は顔を真っ赤にして下を向いている。
「う、うるさい!」
「分かったっす。今日からウチとエリさんはライバルっす。ウチも卑怯な事はしないっす。正々堂々勝負っす」
 うん? 言葉は理解できてる。ホント色々、頭の整理がつかない。
目の前で話が進んでるのに、置いてけぼりを喰らってるような感じだ。

「え? なに? リアナ、何が起きてんの?」
「ウチは耳がとっても良いんっす。だから、強い感情がこもってる言葉だと、何となく言ってる人の気持ちが分かるっす。エリさんも、旦那様の事が好きみたいっす」
「え? いや、え!?」
 どうした、何が起きてる。何この急なモテキ。異世界ハーレム? でも俺、心の準備できてないよ?
「エリさん。ウチは今日旦那様と二人っきりで寝るのは止めるっす」
「う、うん」
 顔を真っ赤にして、頷く神楽坂。
何か、神楽坂がしおらしい、やばいカワイイ。超カワイイ

「だから、三人で寝るっす」
「うっそだろ、リアナ!」
「む、む、無理よ!」
「何が無理なんすか? ウチもエリさんも旦那様が好きっす。でも、抜け駆けはなしっす。なら、一緒に寝るのが自然っす」
 いやいや、リアナさん。何その高度な理論展開。
元非モテ引きこもりじゃあ、その答えは出ないって。

「なあリアナ。それは幾らなんでも無理があるだろう? 神楽坂だって、俺と寝るのは嫌だと思うぞ?」
「何言ってんすか? 旦那様はウチと一緒に寝るの拒否しなかったっす。エリさんも正直に話したんすから、一緒に寝るのは自然っす。それともエリさんは、ウチと旦那様が二人きりで寝てもいいんっすか?」
「い、嫌です」
 おかしい、本当にさっきから神楽坂の様子がおかしい。

「じゃあ、もう一度聞くっす。ウチが旦那様と二人で寝るのと、三人で寝るとどっちがいいっすか?」
「リアナ?」
「旦那様には聞いてないっす!」
「はい!? すいません!」
 しかし、神楽坂には究極の選択だろ!?

「わ、私も一緒に寝る」
「神楽坂、どうしたんだよ。無理すんなよ。リアナは説得するか、ちょっと待ってろ」
「いいの! 純平は黙ってなさい! これは私とリアナの戦いなの」
 私とリアナの戦いって。お、俺はどうなんだよ!?
神楽坂は振り切ったって顔してるけど、俺が全然振り切れてねえよ!?
 リアナが俺の背中から、神楽坂に腕を伸ばす。神楽坂も伸ばされた手を取り握手をしている。
「勝負よ!」
「勝負っす!」
 何か、スポーツマン同士の闘いの前の握手、みたいな事してるけど。
俺、どんな表情してこれ見てたらいいの?

「旦那様ホテルの部屋を取りに行くっす」
「おい、マジで言ってんのかお前ら?」
「当り前っす」
 神楽坂もコクコクと頷いている。
もう知らんぞ。翌日、逮捕地獄送りとか嫌だからな
 俺は大きなため息を一つ吐くと。ホテルに向かって歩いた。
今度は神楽坂も後ろからついてくる。
 本当に神楽坂は大丈夫なのだろうか、何か変な勢いに飲まれて、無理してるんじゃないのか?
さっきの波旬の恐怖で、つり橋効果的なものが出てるんじゃないのか?
 そもそも、俺の事が好きだなんて……

「無理はしてる。でも、そっちは、そういうのじゃない」
 相変わらず、俺の心が読めてるようですね。
そんな事を思ってると、神楽坂が俺の袖を引っ張て来た。
「純平。ごめんなさい。酷いことして」
「いや。大体、酷い目に遭う原因作ったの俺だしな」
「やっぱり、優しいのね」
 なんだよ、ほんと何なんだよ。惚れちまうだろ。
「そうよ、私に惚れなさい純平。リアナには負けない。それから、今から私の事はエリって呼びなさい」
 いつもの強気な喋り方だったが、神楽坂の顔は真っ赤なままだ。
しかし、JKを呼び捨てって結構勇気要るな。
「わかった。エリ」
 神楽坂は頷いて。俺の袖を離した。
その時、神楽坂は笑っていた。こいつ、こんな笑い方できたんだな。

「あ、ずるいっす。旦那様が惚れるのはウチっす」

 そんな感じで、俺たちはホテルにチェックインした。
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