遺された日記【完】

静月 

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28〜30ページ目

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28ページ目∶
 私達は僧侶の留まっている彼女の元へ戻った
 本当は戦士の死体だけでも持ち帰って、しっかり地面に埋めてあげて供養したかったけど
 ここの魔物たちは賢くなって頭を使うようになってきている、もし帰っている最中に魔物が襲ってきて戦士を襲ってなんか来たものなら今回の二の舞いになりかねない
 いくら戦士のためとはいえ、そんなことは戦士も望んでいないでしょう
 せめてもの情として、ここを拠点していた頃の私の寝ていたベッドの上に横たわらせた
 私にはこの部屋に戻ってくる勇気も、戦士と会う権利すら無い
 もう、戻ることもないでしょう。次にここに入る人がいるなら、僧侶か狩人、彼女が御供えに来るだけでしょう
 初めて彼女の家の敷地に入ったとき、とても暖かくやわらかい印象を受けた
 全く初めて来る場所なのに、何故か昔を思い出す不思議な感覚と、実家のような安心感に包まれている
 私と彼女は初対面だから、玄関をくぐらせてくれないかもしれないなんて心配していたけど、どうやら急だったみたい
 私のことは戦士たちから聞いてたみたいで、思ったよりもすんなり玄関をくぐらせてくれた
 一緒に居るはず戦士がどこにも見当たらないからと心配そうにしてたけど、よっぽどそれを指摘された時の私達の顔が酷かったんでしょうね
 すぐに何かを察した表情になって「ご冥福を…お祈りします」と濁った声で悼んでくれた
 洞窟であったことを一通り彼女に話したのだけれど、話を続ければ続けるほど彼女の顔も暗くなっていく
 もちろん日記で破ったところの話はしていない
 でも、想像できてしまうんでしょうね、逆に想像するなという方が無理な話なのかもしれない
 戦士がいた頃には旅の話を詳しく話されてなかったのか、終始私達の話が重すぎるといった感じだった 
 時折引きつった薄笑いを浮かべては場を和ませようとしてくれていた
 こんなどうしょうもない人殺しにそんなに愛想良く接してくれる彼女の優しさに涙腺がかすかにあるんだ感覚がした
 まぁ、泣く権利もないから、勿論泣かなかったけれど
 今はお風呂に入れさせれもらって湯沸かしポットで淹れた温かいお茶を飲みながら記録している
 ここに来る前あれほど疲弊していた狩人の顔も少し晴れているような感じがした
 もしここの家に鏡があったら、私の顔も少しは優しく映っていたのでしょうか
 こんなに穢れた私でも

◇◇ ◇◇

 29ページ目∶
 今日、久しぶりに僧侶に会った
 ここの不思議な空気と、彼女の優しさのもとに長居してたからなのか
 狩人が話していた、洞窟であった頃の僧侶の精神状況とは全く違っていた
 彼女曰く、何故か私達の存在自体にひどいトラウマがあるらしく、また狂ってしまうかもって言っていた
 たけど、案外トラウマは結構祓われているみたいで私達は安心した
 僧侶は、私が日記を書いてるのを見てとても感謝してくれた
 どうやら落としたままなくしてしまったと思っていたらしい
 内容を読みたがっていたが、僧侶の情緒が測れない今、見せてまた精神崩壊が起きてしまう可能性もあった
 だから、私は大したこと書いてないからとできるだけ柔らかい笑顔で優しく断ったけど、
 その時に見せた少しさみしげな、がっかりした顔に思い出すたびに心が痛む
 これも僧侶のためなのだ
 もしこのダンジョンを脱出することができて、僧侶の覚悟か決まった時に、この日記は見せるとしようと思っている
 しかし、問題はダンジョンを脱出する方法がいまだ見つかっていないということ
 ここまで深くまで探索していても何もないなら、最下層に行って何かを見つけるしかないのかもしれない
 でも、戦士が死んで出る方法も見つかっていないんじゃ、生きて帰れるだなんて、ただの妄想とも思える
 ここで理想論を語って目を逸らしたところで、結局苦しんで散るだけ、ここまで来たら私たちに残された選択肢はそう多くないでしょう
 それに、生前の戦士が勘付いていた通りこのダンジョンは下層に行くにつれて知能がどんどん上がっているっていこと
 戦士が転移トラップに引っかかってしまったときに転移したあの死体だらけの密閉部屋
 戦士が拾った世界に存在しない国の歴史についての本
 はじめの罠の時に私が落ちたあのへや
 そして身寄りも知らない彼女
 これだけ不思議なことが揃っていてただの難易度の高いダンジョンなわけがない
 間違いなくこのダンジョンには他のところとは違う何か秘密がある
 このダンジョンの正体を明かすことが出来れば私たちも報われるのだろうか

◇◇ ◇◇

 30ぺージ目:
 僧侶がいなくなった
 今日寝て起きた時にはすでに家をいなくなっていた
 初めのほうはどこかで何かしているのかと気にも留めていなかった
 だけど、昼食の時間になって僧侶を呼ぶために家中を探したけどけど、その時には既に僧侶は居なかった
 もしかしたら勝手にダンジョンのほうへ行ってしまったのかとも思ったけれど
 このダンジョンに一人放り投げられて、死にかけながらここにたどり着いて、とても精神が壊れていたあの僧侶
 普通ならそんなのあるはずないわ
 彼女が私たちと会わせるのをあれだけ不安がっていたっほどにトラウマが植え付けられた場所に自らは行かないでしょう
 少なくとも私なら無理、それに一人なんて言語道断
 それなら僧侶はどこに行ったのか、彼女に鎌をかけてみたりして探ってみたけど何も怪しいことはなくて、本当に知らないらしい
 もしかしたらどこかに隠し部屋があるのかもしれないと一日中探したけど怪しいところすらない全くの一般住宅
 魔物による誘拐の可能性も考えてみたけど、生まれてここに住み続けている彼女でさえそんな経験はないとのこと
 それに僧侶だけを連れていく理由も見当たらないし、その線は薄いのでしょう
 あれ、そういえばこの日記って昨晩何処に置いたっけ
 リビングの机の上だ
 僧侶はいつも私たちより速く起きて朝ご飯を作ってくれていた
 日記を渋った時に見せた反応からみて、まだあきらめていなかったら
 この日記を読んで、戦士の死を知ってしまった?
 それで確かめるために外に出たっていうの?
 可能性はある、もしそうだとしたら、まずいことになった
 僧侶は回復と自営魔法しか覚えていない、ヒトリでダンジョンの中を走り抜けることはほとんど不可能だ
 こんな日記を書いてる暇はない、急いで戦士の寝かしている部屋に行かなければ
 もう一生行きたくなかった部屋にこんなに早くいく羽目になるなんて、全部私が悪いんだ、文句は言えない
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