疾風の蒼鉄 Rise and fall of Blue Iron -伯爵公子、激動の時代を駆け抜ける-

有坂総一郎

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野戦演習<Ⅱ>

厳しい野戦実習-10-

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 リリーに案内されて門扉まで辿り着いた。彼女の言った通り、門扉は装甲板としての役割を果たすために嵌め殺しになってびくともしない。

「オリヴァー、待たせたね。そっちはどうだい」

「待っていたよ。聞いてるかも知れないが、俺は無傷だ。フェリクスは軽傷判定だが、実質無傷同然だ。そっちは?」

「俺とリリーが軽傷判定だが、どちらも戦闘行動は出来るが、中程度という扱いになっている。まぁ、次は当たり所が悪ければ戦死判定だな。アイザックは重傷判定。一応、自力歩行が出来、小銃は無理だが、手榴弾投擲は出来るという判定になっている。これって自決用って意味だろうか?」

「あぁ、敵に首を獲られるくらいなら自決すべしというアレ、まだ生きてるからな。実際、俺もいよいよになればそういう選択をすると思うぞ。部屋住みのスペアと言っても、一応は名門貴族だからな」

 よくわからない判定区分だが、ここは好意的に攻撃可能だという判断をしておくことにする。

「さて、そうなるとお前さんのところはフェリクスが想定していた通りに損耗していたと言うことになるな。リリーに聞いても答えてくれなくてな。箝口令でも命じたのか?」

「そんなことしていないよ。リリーは必要以上の情報を漏らさなかっただけだろう。一応、この演習においては俺たちは競争相手であるのだから」

「お堅いなぁ」

 オリヴァーは溜息を吐く。

「リリーはエドウィンの忠犬だからな」

「忠犬?」

「あぁ、気にしないでくれ。こっちのことだ」

 アイザックがぼそっとくだらないことを言ったが、火消しすることにする。リリーが変な目で見られるといけないからな。

「で、フェリクスが時限爆発するように手榴弾を改造すると聞いたが、どうなんだ?」

「あぁ、それな。今ちょうど出来上がったらしい。すまん、構造とかは俺は説明出来ないから端折らせてくれ。まぁ、その簡易時限爆弾をこの塹壕第二層にいくつか設置させる。そうだな、30分もあれば設置が終わって順に起爆するだろう。それまではその辺で待機してくれ。この辺の簡単な地図を書いておいたからアリザックとリリーも確認しておいてくれるか」

 オリヴァーは門扉のスリットから地図を差し出してきた。

「バツ印が最新の無人銃座の位置だが、もう一度リリーに探ってもらったら良い。あと、出来れば最初の爆発が起きたら、塹壕第三層の中央に向けてそっちからも手榴弾を投げ込んでくれないか。それで攪乱出来るだろう。投げ込んだ場所は地図に書き込んでおいてくれるか。あとでフェリクスが参考にするだろう」

「了解した、まだ少し時間もあることだ。こちらも把握している第二層と第三層の地図を書き込んでおく攻略の手助けになるだろう」

「しかし、エドウィン、お前さん方はどこから向かってきたんだ?」

「あぁ、地図に情報がない東部地区を走破して来たんだよ。アイザックがエレノアを危険視してな」

 オリヴァーはそれだけ聞いて納得した。

「それは正解だったと思うぞ。実際に第3分隊は結果としてだが、俺たちがこの塹壕に着く前にエレノアの警戒装置で補足して行動予測も出来ていたからな。まぁ、第3分隊と確定出来なかったが、こっちで塹壕戦が始まったのを把握してすぐにここへ向かったのだがな、やりあっている連中を後ろから刺してやろうと思ってな」

「性格悪いな」

「主導したのはエレノアとフェリクスだ。だが、意外とフェリクスは強欲で好戦的だ。お前さん方の首を獲ってやりたいと言っていたからな」

「だが、それに乗ったのは君だろう、オリヴァー?」

 俺が指摘してやると歯を見せて笑みを浮かべるだけだった。

「まぁ、それで、俺の背中を刺そうとして乗り込んだは良かったけれど、まさか自分たちも俺たちと同じで無人銃座の餌食になるとは思いもしていなかったんだな。ご愁傷様」

「そう言うなよ」

「そう言えば、アイザック、オリヴァーたちから休戦の申し込みってあったかな?」

「あぁ、そんなものはなかったな」

「このスリット通して射撃したら敵の大将首獲れるよな?」

「おぉ、大将、それいいな。そうしようぜ、なに、背中を狙ってきたんだ、やられる覚悟もあるってことだよな。よしやろうぜ」

 悪い笑みを浮かべる俺とアイザック。オリヴァーは焦った表情となる。

「待て、正式に休戦をしよう。今は級友として仲間を助けようという時じゃないか」

「わかった。応じよう」

 よし、オリヴァーの側から休戦の申し出をさせた上で受けてやったという体を作れたぞ。

「周辺警戒から戻りました。楽しそうですね。何かありましたか?」

「ああ、オリヴァーが降伏したんだ」

「そうですか、休戦の申し込みがなかったので、さっき情報をいただいた時点で始末しておこうかと思ったのですが、第3分隊からの休戦の申し込みがあったのを反故にすることになりかねないと思いましたので、アシュモア卿に判断を委ねて正解でしたね」

 戻ってきたリリーはあっさりと本音を漏らす。

「ちょっ、お前、リリー! あのとき、俺を殺るつもりだったのか」

「ええ、当然でしょう。ウィンザービル卿はあの時点ではアシュモア卿の敵なのですから、休戦していない以上は攻撃対象です」

「まぁ、いいじゃないか。あの時点でリリーがオリヴァーを始末してなかったから、こうしてオリヴァーの降伏という結果を手に入れたわけだし」

「降伏などしていない。休戦の申し込みだ」

「銃口突きつけられて言い出した休戦の申し込みというのは些か苦しいかと思いますわ。ウィンザービル卿」

 リリーはオリヴァーの訴えを切って捨てる。アイザックは隣でニヤニヤと笑みを浮かべている。

「さぁ、楽しいおしゃべりは終わりのようですね。そろそろフェリクスが設置した時限爆弾が起爆する頃合です。こちらも第三層の無人銃座がいた辺りに手榴弾を投げ込んで牽制します。アイザック、手伝ってくれるかしら?」

「おう、とは言っても、手榴弾も限りがあるから1発だけかな。俺が投げるからリリーは温存しておけ」

「設置し終わったよ、そろそろ爆発――したね」

 フェリクスが走って戻ってきたが、言い終わる前に爆発音が聞こえた。

「アイザック、思いっきり投げろ!」

「おうよ」

 そして、牽制攻撃によって無人銃座が移動し始めたことを見計らって俺たちは第2分隊と合流し、塹壕第二層、第一層をそれぞれ抜けて逃走することに成功したのであった。
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