ラムネ色の恋

あっぷるソーダー

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バレンタイン(スパイシーチョコ味)

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年が明け、そらは実家に戻り
両親と過ごした。
母の作るお雑煮を食べて
厚めの蒲鉾をゆっくりとかじる。
プリンという噛み心地と
シコシコという歯ざわり。
幼少の頃からお節の好物は
お雑煮と蒲鉾、そしてお雑煮に
入れたあったかい伊達巻だ。

ジュワ~と出汁が染みて甘い伊達巻は
幸せの味がする。
20年以上ずっと変わらない。

好きなものは変わらずに
歳を取ると新たに好きなものが
加わることがある。

恋愛対象も一緒だ。
セクシャルマイノリティの世界で
ノンケと言われていた私が今は
バイセクシャルだ。

人に絶対はない。あるとすれば
それは固定概念から来るものかもしれない。
人はいつどこで誰を好きになるかわからない。

そらが彼氏と彼女から突きつけられた
「そらはポリアモリーだから」
という言葉は、
そらの中で否定はすれど、
結果的にそのような形になっている。
二股で不誠実という自分への
言い訳になった。

年が明けて2か月経った頃。
世の中はバレンタインデーだ。

2月14日仕事が終わり、
いつものように愛ちゃんを
アパート近くのファミマまで車で送った。
「相田さん!はい、バレンタインデー」
と赤いリボンのついた包装の
チョコブラウニーを渡してくれた。
「えっ!?マジで!?これ手作り??
私何も用意してないよっ。えっーありがとう」と、喜んでバックに入れようとしたら、
愛ちゃんが、
「今食べてください」と、言ってきた。
今って、、、と思いながら
「いただきます。」と、赤いリボンを解き、
透明の袋からチョコブラウニーを
出して一口食べた。
甘さがはじめに広がって、
その後から強烈な辛さで、
口が動かせない。
「ゴホッ!水!」水分はなかった。
これはやばいやつだ。
状況判断ができず残りの一掴みも
口に入れてしまった。
頭の中では、飲み込まないと。
これを飲み込まないと。
愛ちゃんは隣りで
大笑いしていた。
「無理しなくていいよー。
そんなに辛いんだ!大丈夫?
お茶持ってないの、、、?」
確かそんな感じで、
ずっと繰り返し言っていた気がする。
口を動かせず、脇から茶色い
液体となって垂れてきている。
最高に汚い。汁を垂らさないよう
にススッた瞬間、目がくわっと開き
「ゴボッ!ぐ、死ぬ。ゴホッゴボ」
気管に入り激しい咳と共に息が出
来ず全て口から出した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
そらは以前、
簡単に《死ぬ》という言葉を
使う愛ちゃんを叱ったことがある。
「医療従事者が簡単に死ぬと
言ってはいけないよ。
生きたくても生きれない人を
私達は見てきたでしょ」と言ったら、
愛ちゃんは
「そっすねーお母さんごめんなさい。」
と軽く謝ってきた。
その返しに対し、
「まったく最近の若いもんは、、」と
ブツブツいつまでも言っていた

その後から愛ちゃんは
死ぬという言葉を使った事は一度もない。

だがしかし、その言葉がそらから
愛ちゃんが作ったチョコブラウニーを
食べた後に出てきたのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
尋常ではないと思った愛ちゃんは、


「ひゃあーーーーー!大丈夫です
か!?ええっーー。汚い。
大丈夫ですか?挿管しますか?
水買ってきますね。」と言って
ファミマにダッシュしてひなちゃ
んは消えていった。


口の粘膜がヒリヒリしている。
むせて呼吸ができない。
死ぬかもしれないと思った。
ようやく落ち着いてティッシュで
汚れを拭き取っていると
ひなちゃんが帰ってきた。
水を差し出してくれた。
ペットボトルのキャップは
開けてある。
咳が落ち着いてから、一気に飲ん
だ。そして、ひなちゃんに話し始
める。
「辛っーーー。ゴグッ。何これ?怖い。
ゴクッ。何入れたの?」
水を合間に飲みながら続ける。
「てかっ、急患で呼吸苦しくて息
詰まってる人置いてくんだね。ゴ
クッ。せめて呼吸落ち着くの見届けて
からにしようよ。めっちゃ不安だ
ったからね。ゴクッ」
先輩ナースからのお説教みたいに
なってしまった。
その時には、ひなちゃんは笑うの
をやめていた。
しゅんとしていたから、
きっと量の加減が
出来なかったんだろうと思って。
「あ、おいしかったけど。ありがとうね。」
とフォローしたら、少し笑顔が戻った。
料理の苦手な子が作ってくれたの
が嬉しかった。
因みに使ったのはハバネロだったようだ。
しばらくお口のヒリヒリは
続いたし、愛ちゃんが買ってく
れた水はすぐなくなった。
愛ちゃんは、不器用で大雑把なタイプだ。
でも、頼れるところもある。
機械が得意だった。
PCとか、コピー機の故障の対応も
運転もうまかった。
この激辛ブラウニーの話は
私が愛ちゃんをいじるネタになる。
これを、境に二人で行動する事が
多くなって行った。
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