私はビブリオテカ ―― 終わりなき博物誌編纂の過程で泣いて足掻いて食べて笑って、生きる姿に幸あれ ――

屑歯九十九

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第壱章 ―― 不愚対天 ――

第014話 ―― 出会い

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【前回のあらすじ――。ノックは従者を獲得するため牽牛広場に赴き、そこで従者商のカルビンに招かれ、どのような従者を望むかを尋ねられた】










 聞かれてノックは。

「……そうだな。正直、ダイアウルフと2年、紋章で絆を結んで思ったのは、主の力量も重要だが従者の能力も大切ってことだった。玉石級ならとくに。あ、分類あってるか?」

「はい、西域の聖痕教会の定める等級では、人が作ったゴーレム、家畜や狼、熊、野兎、野馬、野鳥それと古代種の恐竜など通常では魔法を扱わない自然生物種は最下級の玉石級に分類されます。魔法を生態として使用するものは赤銅級以上となり、常人が普通に生活するにあたって従者に選ぶのは、おおよそ赤銅級まで。その上の白銀級になりますと種によっては免許状か特殊な許可が必要になる。あ、大学校を志しておいでなら承知でしたでしょう。差し出がましい物言い失礼いたしました」

「とんでもない。俺の知識と都の知識と齟齬そごがないのが分かって良かった。もしかすると、俺……、田舎出身だから、間違った知識を教えられた可能性もあるし……」

 入学条件のこともあるし……、と付け加えるノックは苦笑い。
 同じく苦笑いで返すカルビンは右手で胸を押さえ、叩頭し、誠実な態度で語りだす。

「聞きたいことがあれば気兼きがねなくわたくしめにお尋ねください。浅学菲才せんがくひさいな身の上ではありますが、帝都で生き恥を晒してきましたので、生きる上で必要な常識はわきまえて居るつもりでございますし。従者の扱いと知識に関しても素人より格上だという自負がございます」

 物腰柔らかく、それでいて、自分の能力に関しては言い切った。
 表での気弱な態度はともかく、天幕では商人としての気概を店主に感じたノックはうなずく。

「それじゃあ、これからも頼むよ」

 おもてを上げたカルビンは目をうるませ、再び頭を下げた。

「こちらこそ!」

 ノックは決心し、表情も居住まいも正す。

「カルビン、あんたを見込んで頼みたいんだ。俺はこれから大学校の入学試験に挑戦する。だからこそ従者は欠かせないんだ」

 顔を上げてカルビンは真剣な顔で考える。

「お客様は、ダイアウルフと紋章を結んでおいでだったのですよね? ならば、それと同等あるいはそれ以上の能力を持つ従者が欲しい、ということですね?」

「ああ、だけど正直言って、俺が預かってたダイアウルフは本当にすごい能力を持ってた。人の言葉も周囲の変化もよく理解して、人以上の洞察力を持っていた。身体能力と知性のどれを取っても生半可な従者とは比較にならない、そう言われた……」

「それは誰にですか?」

「俺が住んでた土地を統べる領主に使えていた刻紋師、それと実際に従者を持ってる俺の師匠にも。少なくとも赤銅級の中位に相当したそうだ。どちらも詰まらないお世辞なんて言わない人だから本当だと思う」

 すると自由に歩き回っていた幼い鎧竜がノックの足元にやってきた。
 しゃがんだノックは、鎧竜の頭を撫でてあげるが、本題も忘れない。

「主の力量が従者の才能を引き出すってことは重々承知してる。だから、今の俺には強い従者が必要なんだ。恥ずかしいけど、俺はまだ半人前だから……」

 カルビンは、優しく命と触れ合う少年の手つきを見守り、お互い微妙な面持ちを見せ合う。

「お客様のお気持ちも願いも分かりました。しかし、その……私の扱う従者はほぼ玉石級でして。それ以上の能力となりますと……他をあたるほうがよろしいかもしれません。時に、お客様は、推薦状をお持ちで?」

 持ってる! と即答するノック。
 それを聞いてカルビンは。

「たしか、推薦状にも格があるとか……」

「ああ、事前にもらえるのは、黒墨、赤銅、白銀、黄金……そして……」

 カルビンは頷いた。

「白銀以上の推薦状であれば、帝国内においておおよその白銀級までの従者と自由に契約を結べます。帝国外では国の法規にもよりますが、同じ扱いかと……」

「そう、なんだ……」

 ノックの表情がわずかに歪む。些細な変化だが疑念や不安を感じさせる。
 それを見逃さないカルビンは思わず、何かございましたか? と尋ねてしまう。
 ノックは努めて微笑み首を横に振る。

「いいや。何でもない。ただ、そう! お金の問題も……。生活費のことも考えて、できるだけ出費を抑えたい。勿論、優先すべきは従者の能力だけど」

「なるほど……。しかし。能力の有用性と資金を両立するなら、残る選択肢は……。暗黒級あんこくきゅうですかね?」

「暗黒級……」

 ノックは唾を飲み込んだ。
 カルビンも硬い表情のまま語り始める。

「古の時代……。人類を並べて下僕におとしめてきた大悪魔、許されざる大淫婦だいいんぷが生み出したとされる邪道の生物群……」

「それを教会はひとまとめに、暗黒級って分類した……」

 ノックの補足に頷くカルビン。

「西域聖痕教会にとっては駆逐の対象ですが、往々にして有用な能力を持っているものが多い。ただし」

「その分、癖が強いって話だよな?」

「ええ……、スライムやグレムリンなどは既に扱い方が確立されていますが。それ以外はほとんどが素人にお勧めできるものとは言えませんし。その……」

「聖痕教会の目の敵にされる」

「幸い。この帝都では正教会せいきょうかいが力を持っています。正教会はよこしまなことに使わない限りにおいては暗黒級に対して寛容です。そして、この市場にいる私達も……」

「でもなぁ……。はっきり言って……俺の力量は素人と違いがないというか……」

 その時、懊悩おうのうを隠すように視線を泳がせていたノックは振り向く。

 足元の檻の上に小箱がある。人の頭を横にした程の大きさ、というのは例えとして物騒だが本当にそれくらいの大きさで。両手に乗せると底の四隅から生える猫足の金細工が手からはみ出る程度の横幅だ。凝った装飾が施され、猫や蛇、トカゲやカエルの意匠や特殊な錠前が目を惹きつける。

「これは、木目からして胡桃くるみの木か? 丹念な作りだけど。この黒い色は何だろう……乾留液かんりゅうえきにしては匂いもないし、素晴らしい艶で木目を際立たせて、手触りを鹿の角のように仕上げてる」

 猫足の1本には、30マナと書かれた薄い木札が引っ掛かっていた。周りを見ると檻などにも似た札が紐付けされている。
 値札なのだ。
 一方で、カルビンは檻を覗き込み、これもあれもなぁ……、と言いつつ懐から台帳を取り出し記述を指で辿る。
 ノックはつぶやく。

「30マナと100ソリド……。30マナというとほぼ1ゲンマくらいで、アルロさんの言葉が正しければ羊1頭分の値段……。でも、この造形がか? 総木材ならまだしも、金具一つで、それ以上の価値があるはずだぞ? それに香りもまるで今さっき削ったような、いや、香料をめたのか?」

 徹底的に愛撫し、さらには鼻を近づけた瞬間、ノックは手を襲う振動に首を引っ込めた。
 見ると何もしてないはずなのに手の上で小箱が震え、蓋の金具を留めていた扁平なびょうが、棘になる。
 ノックはひきつった声を上げ、硬直した。
 どうしましたか? と積み重ねた檻を迂回して近づいてきたカルビンは白目をき、あああ! と叫んだ。
 ノックは店主の反応に肩をすくめる。
 次の瞬間、ノックの手から小箱が飛び上がった。

 え……ッ!? と驚きの声を上げる少年を無視して。
 目を見開くカルビンは、逃がしませんよ! と突き出した右腕のそでをたくし上げた。
 小箱はよく動く猫足で床を蹴って出口へ急ぐ。
 青年の腕には無数の紋章が刻まれており、その中で手首を一周する図像が光を放つ。

「樫、ノコギリソウ、落石、霜、泥濘……我は汝の主なり!」

 青年の手首に巻きつくいばらと心臓の図像が赤い光に縁取られる。

頸木くびきの三列を直上に! 汝は伏して主に首を垂よ! 《アンキロ》」

 外の光に浴せる直前で、小箱は表面を琥珀色の薄膜に覆われ、前のめりで凍り付いて転がり。
 ぶぎゅふ! と愛らしくも聞こえるうめきが響く。
 その場で踏み留まるカルビンは、左手で右手首を掴み、ノックに告げた。

「お客様! どうかその箱を捕まえてください!」

 えあえ? と戸惑うノックなのだが。早く! と迫られ行動に移ることを余儀なくされた。
 カルビンの右手はまるで見えざる頭を抑え込むように力んでおり、よく見ると金色の線が何度も旋回して構築する小さな塊を掌握している。

「横にある金輪……カエルの彫刻が咥える蛇の飾りをどうぞ掴んでください! 直接箱を掴みますと指が……いえ、金輪をどうか掴んで!」

 これだな! とノックはおっかなびっくり指示通り掴むべき場所を指で引っ掛け持ち上げた。

「むうううきぃぃいいい!」

 甲高い叫び声を上げる箱にノックは打ち震える。

「こ、これは何だよ! カルビン!」

「そちら……当店で唯一の暗黒級生物、にございます!」

「ミミック! ミミックって確か……。大淫婦の眷属であり装飾品として生まれたって」

「その通り! 通称、虚栄虫、あるいは虚飾蛞蝓きょしょくなめくじなどと呼ばれています。物の価値を知らない大淫婦が見せかけだけの宝の山を築くために生み出した生物。その生得魔法せいとくまほうは《メタモルフォーシス》……あらゆるものに変化できる」

「それって……」

 左右に引っ張られる金輪を引き千切らんばかりに暴れるミミック。
 店主いわく。

「実に厄介……ではなく生きがいいミミックでして。まれに脱走しようとするのです。本当に生命力がたくましく……。檻の錠前を何度も看破してその都度、錠前の交換を余儀なくされ……」

「カルビン……これをくれないか?」

「ええ、すぐに檻に入れて差し上げます……へ?」

 真剣な眼差しから一転、茫然とした顔になる店主は、聞き間違いがあってはならぬと思い、今なんて? と尋ねた。









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