絶命必死なポリフェニズム ――Welcome to Xanaduca――

屑歯九十九

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第02章――帰着脳幹編

Phase 204:守銭奴阻止

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《ブレイブチキン》もとは一つの巨大な傭兵組織の構成員だったが、幹部たちの方向性の違いによって分離独立して生まれた集団。兄弟組織の間で勃発した第三次特許獲得闘争の末に、ショックバードに一部の特許を譲渡するに至り、経営が厳しくなるが、個々人の努力もあって細々と続けている。






 




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 ブレイブチキンの退場者は増えていった。それでも我々に撤退はないのだぁああ! と誰かが発した言葉に触発されて無謀な突撃を自警軍のほうへと繰り返す。
 その背後にいまだ健在なスロウスは、倒れる敵を投擲とうてきして、遠ざかる敵を追撃する。 
 前後を脅威に挟まれる形となったチキンたちに戦略も追加の援軍もない。
 そんな喧噪を遠巻きに見守るウェイバーがいた。背負う装甲から伸ばす独自のカメラで一部始終をつぶさに捉える。

 暗い機内にいる戦闘服を着用した人物は舌打ちした。その頭には、金属のハリネズミと形容できる電極が生えた装置を被っており、電極の隙間を埋めるように沢山のコードが接続している。

「あの馬鹿ども、信用評価『F-』だと聞いていたが。ここまで愚図で役に立たんとは。よく22年も存続したな……。兄弟部隊のショックバードの方がまだましだ」

 空間を照らす照明の役割を果たしていたタッチパネルを操作し、その人物は通信する。

「こちらR14……。敵勢力に留意機体を確認した。一旦撤退する。G34応答せよ? 援護を頼めないか?」

 しかし応答がない。

「聞こえるかG34……? どうしたんだ? まさか、通信妨害、いや、もしややられた? くそ……通信介入を恐れてクローズドにしたのがあだになったか……」

 画面の履歴を参照した。
 CONTACT|SCORE/RED|ANOMALY DETECTION|COM DELYとの表示が一瞬だけ目に留まるがそれを無視。目の前のコンソールのキーボードを叩き、途中ヘッドギアから延びるケーブルの端子を操作盤上の別の差込口に繋ぎ直す。

「やられたら最後にシグナルが受信されてるはず……」

 操作をしていると画面に現れる文字が増え。G34という欄に、LOSSの文字が踊った。
 やっぱりか、とR14はまた端子の接続を組み換え、通信する。

「こちらR14、聞こえるかD30……」

『……こちらD30、聞こえている』

「G34がロストした。繰り返す。G34がロストした」

『何? どういうことだ? いったい何が起こった? 通信はなかったのか?』

「最後の通信履歴にある地点をかんがみるに……恐らくだが、現在、役場に現れた敵Smである要留意機体Y7-08と接触したと判断される」

『留意機体が? ここに来たのか。狙いはセントエイリアンの維持。いや、純粋に援軍のつもりか?』

「あるいは別の任務を帯びているか。報告にある少女も一緒だ。留意機体が現れた道と、G34の最後の発信地点を比較して、接触していないはずがない。ちなみにオープン無線での援軍要請はなかった。敵の急襲で、通信する余裕がなかったのか。1人で対処できると思ったか」

『手柄を独占するつもりだったか……。これでいよいよ出来高制は廃止になるな』

「かもな。ちなみに通信妨害は確認できない。今からウェイバーに索敵をさせる」

『了解した。ただし、操作範囲拡大には気をつけろ。先ほどあった通信障害が相手の仕業である可能性が……』

「分かってる。だから、そっちにウェイバーの援軍はいったんけなくなる。いいか?」

『ああ、こちらはすでに敵戦力を削れた。相手の武装はクダンや、偵察を目的とする遠隔操作のSmだけだ。対人兵器でも撃破可能だ。おそらく友軍機の方も助力は必要ないだろう』

「あいつか。なら、こっちも勝手に、いや、味方の安否を確認しに行く。念のため、本体も移動する」

『留意機体に対処しないのか?』

 R14が目にするモニターの1つに、ローアングルから接写したスロウスとソーニャが映し出される。

「留意機体にウェイバーを飛ばそうかと思ったが、味方の傭兵部隊が最早役に立たない」

『ウェイバーのグルーウェブで拘束できないのか? あれは直径1mm当たり牽引重量は100k相当だぞ?』

「拘束できるが、近づければの話だ。向こうは高い工学怪力性を持ち合わせてる上、盾も持ってる。運動性能からしてウェイバー複数、それどころか、全機を玉砕覚悟で投じないと効果が出ないと推測される。もう少し現場に俺が近づいて通信深度を増大すれば変わってくるかもしれないが」

『なら、あまり早計な行動はできないな。はっきり言って敵歩兵戦力も侮れない。連携が取れない状況となると無駄な損失しか生まないだろう。なら大型には大型をぶつけるべきだ』

「だから、いったん仲間の無事を確かめるつもりだ。無事なら合流して対処に出る」

 ああ任せた、とD30の通信はそれで途絶した。
 おっさんは無駄口が多い、とR14が軽口を叩く。
 
 建物の屋上にせっていたのは巨大な蜘蛛の親玉、というべきだろう。形状はのみ壁蝨だにに近い。卵型の機械的な胴体に巨大な蜘蛛の足が生えていた。周囲にいるのはウェイバーたちで、親玉の体表にも張り付いている。その一部が動き出し、広場の人々に動きが露見しないよう慎重に、東へと跳ねていった。
 一方で、役場の前でチキンたちが遂に敗走を始める。

「ソーニャ! あいつらを逃がさないどくれ。町中に隠れられて問題を起こされたら面倒だ!」

 シャロンの願いを聞き届けて、スロウス、とソーニャは告げる。
 歩けるチキンは動けない同胞を担ごうとする。そこをスロウスに蹴り飛ばされ、結局負傷者を増やす。そして動けず武器も奪い取られた奴から、自警軍の隊員が体当たりで追い込み、拘束した。 
 ミゲルも土嚢どのうから身を乗り出す。
 それを見送るマイラは杖頭を左手に転がしつつ、小銃のスコープで遠くを警戒するイサクに伺う。

「決着したみたいだけど。私も手伝う?」

 君の出番はまた今度だ、とイサクがいうのでマイラは微笑みを返すが、相手が敵に向ける無表情に、自然と表情を消した。
 今度がないことを祈る、マイラはそう呟きソーニャを呼びよせる。
 なんすか? と近寄ってきた小女の呑気な物言いにマイラは懸念を感じるが、短く分かり難い溜息ためいきをこぼすだけにとどめて話出す。

「それじゃマーキュリーとレントンを探そうか? ここには……」

「いないみたいだし。いたら、戦ってるよ多分」

 敗走する敵や遠ざかるウェイバーたちににらみを利かせるシャロンが話に参加する。

「あいつらなら、たぶんここから北にある整備場にいるはず……。こっちの状況からして、もしかすると敵とかち合ってるかもしれないね。このまま行くなら、案内させるよ?」

 いいの? とソーニャは目を大きくした。
 役場の前にいた敵は、おおよそスロウスの手で掃討され、自警軍が取り囲むと、おとなしく投降した。
 スロウスがソーニャを肩に担ぎ上げたところで、ミゲルのバイクが並ぶ。
 サイドカーのイサクが言う。

「工場の場所は大体わかる。案内する」

 そう言ってくれたので、シャロンは頷いた。

「なら任せる。ただし気を付けな。ほかにも敵はいるだろうからね……」






『おのれ……まさか、エナジーエッジを持っていたとはな。油断した』

 そう告げたのはアグリーフットで左前脚は断ち切られ、焦げ臭い断面から煙が薄っすら漂う。
 対峙する人物の手に握られた二振りの光の刃が下を向く。
 両者がいるのは建材に鉄部材が目立つ建物が並ぶ通り。コンクリートで舗装した道は中心線から路肩の排水溝へ緩やかに傾斜している。狭く重苦しい外観が軒を連ねるが建屋の前にある広場と開け放たれたシャッターなど開放的な入口が空間に奥行きを与える。
 すべての脚を失い、胴体に溶断を刻んだアグリーフットを背後にするマーキュリーは、まだ動ける敵機をにらむのだろうが、双眸そうぼうは包帯に隠されて感情を読ませない。

「こっちこそ、お前みたいに俺の同僚を超える不細工がいたとはな……。驚きだ」

『言ってくれる。だが、その心意気は悪くない。どうだ、今すぐボスマートに加わらないか? そうすれば、その技能に見合う報酬を約束するぞ?』

「不利になった途端、勧誘作戦か? どこまでも見下げ果てた奴だな……。ちなみに手取りで言うとどれくらいもらえる? 求められる仕事の関係上休日出勤なんてこともありそうだし、怪我した場合の補償なんかもあるんだろうな?」

 面と向かってマーキュリーは交渉に臨む。
 アグリーフットの乗り手はまじめに回答した。

「初任給で月200ザル。仕事内容は、通常時は店舗の安全確保、並びに商品輸送の警備が主で。今回のような戦略的事業拡大の場合、実力業務という特別な職務に分類される。そうなると、働きによってボーナスが支払われるのは勿論のこと、負傷した時には最大で12800ザルが労災として降りる。さらにこの保証も実績が認められればボーナスと同じように増額される。貴殿の実力ならば最初の赴任となると配属場所がここから遠くになることもあり得るが、上級警備部隊クラスの技量を持っているから、通常よりも厚遇されるだろうし、報酬も期待できる。先ほど述べた初任給に+150ザルほどが妥当だろう。実際、私の場合は操縦技術とニューロジャンクの熟練度を見込まれて、初任給は180ザル増えた」

 頷くマーキュリー。

「なるほど、ちなみに俺はこの町とは関係なく。仕事の関係上物資を輸送して、成り行きで戦うことになったんだが。貴社に就職した場合に、その過去がペナルティーになったりしますか?」

 その瞬間後方から発射された弾丸がマーキュリーの帽子のつばをかすめてアグリーフットに被弾し、空気を断つ音は鼓膜を打撃する。
 マーキュリーは振り返ると、工場前の車両の陰から小銃を突き出す人物に怒鳴った。

「おいレントン! 手前ぇ! どこ狙って撃ってやがる! それとも老眼が極まったか!? だったら銃は口にくわえてろ!」

「黙れ裏切者! お前こそ弾丸噛んで死にやがれ!」

 背後を見せつける敵に対して、最小の音で機関銃を向けるのは、勧誘者が乗るアグリーフット。
 きびすを返したマーキュリーは発射される青い弾丸の真横を駆け、機関銃を支える筋肉と骨を剥き出しにした腕めいた器官を光熱の刃で切断した。
 機内ではモニターが赤く点滅し、小さいアラートが鳴り響く。
 アグリーフットの口腔内は損傷し、機関銃が垂れ下がる。
 操縦していた勧誘者は歯噛みした。

『貴様! 我々の温情を無下にするというのかッ!』

「温情はありがたいが、背中を狙うような奴に預けられるほど信頼は安かねぇよ!」

 そう告げるマーキュリーは勢いそのまま、右前脚をもう1本切断する。続けてもう1本、と行きたかったがアグリーフットの撤退が先んじて、互いの距離が開く。跳躍とはいかないが迅速な後ろ歩きをするアグリーフットは、尻を下げ、口腔にてもう1つの機関銃に交換し、そちらで射撃を始める。
 機体が放つ正真正銘の鉛玉は、近づこうとしたマーキュリーを躊躇わせ、そのまま追い払うのに貢献した。
 もし、アグリーフットの脚が健全だったら距離的に命中させていただろう。しかし、角度調整もままならず、体を横に動かすので精一杯。
 走り続けるマーキュリーの側面を狙う弾丸はやがてトラックに激突する。











※作者の言葉※
次の投稿は11月9日の土曜日に予定変更いたします。



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