異世界無宿

ゆきねる

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第十章 気楽な一人旅

第百三十四話 黒針亭

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監視者達を撃退したイズミは、宿屋に到着してからマスタングに確認を取った。

「マスタング、最初に撃った奴は逃げたか?」

「…はい、逃走しています。魔力の追跡をしますか?」

イズミに魔力追跡だけ頼んで、まずは部屋に戻って身体を休める事にした。

「減音弾は確かに有効だが、あの威力ではキツいな」

部屋に戻ったイズミが、上着を脱いでマグナムのメンテナンスをしながらボヤいた。

「サプレッサーを装着したアサルトライフルを率先して使用すれば、先程の戦闘も円滑に進められたかと」

「それを言わないでくれ。慣れていない武器で夜戦はまだ早いと思ったんだ」

シリンダーとバレル内を拭き終えると、通常弾を込めて枕元に忍ばせた。
寝る時のマグナムの定位置である。

服を脱いで汗や汚れを落としてから、替えの服を着てベッドに入った。
明日はドンパチの無い1日になる事を祈りつつ、イズミは眠りについた。


翌日、手前の村で話をした男から聞いた黒針亭を探し始める。

先ずは広場で話を聞くついでに、昨日飲めなかった汁物を売っている店へ向かった。

昨晩の戦闘でひと騒ぎあるかと思っていたが、広場に入ってもそんな雰囲気すら感じなかった。

広場で貝の汁物を買うついでに、黒針亭の事を店の人に聞いたらあっさりと教えてくれた。

「黒針亭かい?そこから広場を出て直ぐを右に曲がって、後は真っ直ぐ進んだら右手側にあるよ。小舟が店の前にあるから、分かると思うよ」

「どうもありがとう…美味しかったよ。落ち着く味わいだ」

イズミはお礼を言ってから、黒針亭を目指して広場を後にした。

広場を出た途端、衛兵から声をかけられた。

「いたいた!グリフォンの男だ」

何故かグリフォンの男と言われているが、断じてそんな人間では無い。

「昨日捕まえた男だが、やはり何処かの貴族との繋がりがあった」

「そうかい」

衛兵の話にイズミは興味無さげに答えた。

「誰かを吐かせる前に、自ら毒を飲んでしまったが…引き続き調べる事になる」

服毒するとは思っていなかったイズミは、少し感心しつつ衛兵と別れた。

敵に情報を話すくらいならば、自らの命を捨てる。
それは自分では出来そうにない。
そう感じたからだ。

フリーになったイズミは、改めて黒針亭に向かい歩き出した。

広場から歩いて約15分、黒針亭は飯屋としては町の商店街から外れているも賑わいを見せていた。

「らっしゃい!」

「冒険者からおすすめされてね、美味しい酒の肴があると聞いて」

酒の肴と聞いたカウンターの奥にいた男の目が光る。

「オススメは店の名の通り、黒針だ。今朝取ってきたから新鮮だぞ」

男が取り出した黒針…それはイズミが予想していた、ウニにソックリだった。

針を木の棒で叩き折りナイフで中身を取り出した男が、カウンターで作業をしてからイズミへと持って来た。

「ココに来る客は皆んな物好きだ。コレも欲しいだろう?このセットで銀貨1枚だ」

ウニの一緒に魚醤と酒も付いてきた。

ウニ3匹分、小皿に魚醤、酒は流石に日本酒では無いようだが十分過ぎる内容だ。

「銅貨2枚でパンも付けるよ。俺の嫁さんが焼いた自信作だ」

「頂こう」

イズミはパンを受け取ったら、先ずはパンのみで一口食べる。

旅路で食べている黒パンに近い見た目だったが、出来立てなのか柔らかさを感じる。

「成る程…これは美味しいな!」

「だろう!このパンが好きで来てくれる客もいるくらいだ」

パン屋では無く飯屋のオリジナルとなれば、それは大きな強みとなる。
そこでしか食べられないってのは、特別感があって良い。

続いてウニだ。
こっちの世界のウニはどうなのだろうかと、期待しながら口へと運んだ。

「こんなに濃厚なのか!」

回転寿司で食べるウニとは全くの別物と言って良い。
口の中で広がる味わいを楽しみつつ、酒を飲んでみる。

酒はウォッカに近い物だった。
雑味や舌に残るアルコール感は少なくて、非常に飲みやすい。

「…海を目指して良かった」

イズミは自分の直感が正しかった事に満足感を覚えながら、目の前の食事を綺麗に平らげた。
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